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豆炭々炬燵
9827文字
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モアナと伝説の海シリーズ
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【マウモア】終わらない夢【タマモア】
モア海2の世界観で煌めく大蟹が無垢な勇者を特等席に招待する話~動揺する半神半人英雄を添えて~
映画ネタバレ独自解釈捏造要素有。
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何処まで落ちたか。どの程度落ちてしまったか。朦朧する頭を振るい霧を払う。四肢の末端から体の中心に向かう形で意識を巡らせ致命的な外傷を負っていないか確かめた。幸い節々の痛みはあるが問題なく動ける。
右手に掴んでいたオールの柄を握り締め、やおら身を起こしたモアナが周囲を見渡す。
先程のおどろおどろしい場所とは打って変わって、仄暗く水色に発光する水面の光が洞窟の壁に揺らめく光景は目を奪われるくらい神秘的だというのに──。
「なに、此処
……
」
骸たちが犇きあう場所とは比べ物にならないくらい死の香りが漂っていた。
咄嗟にモアナは自分自身を掻き抱き、勿体ぶるように背後から忍び寄る気配に振り返った。
「おやおやおや? 俺が見ない間に随分綺麗になったなベイビー?」
「そういうあなたこそ、随分
……
?」
忘れようのない海の底から這い上がる嘲笑にオールを構え、頭の中で思い描いていた姿と大分様変わりした魔物の国ラロタイに塒のある伝説の蟹こと──タマトアのゴージャスとは対極に位置するみすぼらしい姿に怪訝な目線を投げかける。しかも、律儀に彼の左目にだ。
「OH! 忘れなかったいいコちゃんには褒美としてとっておきを教えてやろう」
キンッと固く澄んだ音が巨大な鋏から放物線を描くように飛び、それは程なくしてモアナの手の中に収まった。
「これ、あなたの背中にあったキラキラのピカピカじゃない」
嘗て巨大な軍事力と豊富な資源から栄華を極め一晩で海の底に沈んでしまった名も無き国。その国で貨幣として使用されていた精錬された純金のコイン。モトゥヌイの文化レベルでは再現不能の金貨が持つ価値を知らないモアナはただただ物理的に目が眩む輝きに目を細め金貨越しにタマトアを眺めた。
「ご名答。俺がダサガニだった頃から搔き集めた煌めくゴージャスのひとつだ」
「
……
他のは?」
「それ聞いちゃう? この俺の姿を見てなんとも思わない?」
あらやだ信じられない。突出した双眸を愛嬌たっぷりにきゅるきゅる動かしていたタマトアが人間より多い脚で華麗なステップを刻み、繊細な力加減もお手の物な巨大な鋏を打ち鳴らす。
「それもこれも全部お前のために捨てて来たのさッ!!」
怒りや憎しみのない、ただひたすら何故そうなったかを述べるタマトアの顔が嗜虐的に歪み、鉄脚に踏み潰されぬよう駆け回るモアナを追い掛ける。圧倒的アドバンテージである巨体と脚の数に物を言わせ、岩壁を砂の山を崩すが如く巨鋏で削り岩石の雨を降らせ逃げ道を制限し、わざと凹凸の多い場所に追いたて数の少ない足を縺れさせた。
「デミゴッドになったんだって?! ヌハハハッ!! 三年前と変わらないただ逃げ回るだけの小娘がか!?」
「うぐっ」
「おっと失礼。ついじゃれ合うノリで吹き飛ばしちまった」
巨鋏に纏わり付いた海藻を軽く払う勢いで軽すぎるモアナの体を巨鋏で払い、剝き出しの岩壁に背中を強かに打ち呻き声を上げ蹲る華奢で小さな体を鋏で摘まみ上げた。苦悶に満ちた表情を浮かべるモアナに「ふむ」と頷き、タマトアの突出した目玉が淡く光を放つ水面とモアナを交互に眺め焦らすように鋏を動かした。
知恵で出し抜かれない限り後れを取らない”タダ飯”であるモアナの嫋やか髪を仄かに発光し続けている酸の海に少しばかり浸からせ焼き焦げ蒸発する音が毛先から産まれた瞬間、鋏から抜け出そうとしていた両手で必死にこれ以上酸に溶かされぬようモアナは髪を引き寄せる行為にはタマトアは確信を得た。
この小娘は自分より無力で一方的に嬲れる存在だという事を、酸の海から自分の下に引き寄せれば懸命に脱出を再び試みる健気さに嘲笑が止まらない。
そして、タマトアは目と鋏を随分寂しくなってしまった甲羅に向け心底困ったような声色で。
「シャイニーが足りなくて困ってんだ。そこで頼みがある。名誉あるオレの甲羅のシャイニー第一号になってくれ」
と、フジツボ塗れの不衛生な歯を見せ凶悪な顔でモアナにとって嬉しくないお願いを宣い。
「それは無理なお願いね。他を当たって頂戴」
「ツレないな」
即振られてしまったのだった。
さりとて、振られた所で到底逃げられようのないアナを挟んでいる逆の鋏で頬杖をつき、今後どのように甲羅を彩らせるか思案に耽っているタマトアの双眸がじわり輝きを放つ彼女の左腕のタトゥーと右手に握っているオールを捉えた。
それはそれはタマトアが長年集め甲羅を輝かせていたどの金色よりも眩く輝き彼の目と心を奪う。
「あんたは何処まで俺を驚かせば気が済むんだ」
「ん~っ、なんの、こ~とぉぉぉ~っっっ」
精々力持ち自慢の人間に毛が生えたくらいの力でモアナが懸命に鋏を押す滑稽極まりない光景にタマトアの口角がつり上がる。決して諦めないのもそうだが、眩暈が起きそうなほど強い光を放つ緻密な金の糸で刺繍された太陽に愛された肌を熱の籠った吐息で舐めあげた。
「嬢ちゃんの左腕を捥いで背中に飾っても?」
「そんなの嫌に決まってるじゃない!!」
聞き流すには邪悪過ぎる申し出に間髪置かずにNOを突き付けるモアナだったが、タマトアは気にせず我関せず生臭い唇で愛おしい金色に口付けを落とし、上機嫌に溶け爛れていた毛先を整える程度に切り揃えた。
「え、なになに。ちょっとタマトア、やめて
…
っ」
ねっぷりとした分厚い舌が左腕とオールを余すことなく舐り舌に広がる味をタマトアは味わい飲み込んだ。無駄だというのに舌を手で押し返す小さな手の感触も悪くない。捕食衝動を限界まで抑え込まなければ、フジツボ塗れの歯を躊躇わずにモアナの左肩に喰い込ませていただろう。
そんな事とはつゆ知らずモアナは自分を弄び嬲る舌と格闘していた。
うっとり恍惚の表情を浮かべいたタマトアが軋み呻く天井の悲鳴にぐるんと双眸を向け、深い深い嘆息を吐き唾液で溺れかけていたモアナから舌を離し頭上を見上げた。
「ナロの忠告通りだな。あの蝙蝠め足止めした実績を作るだけ作って逃げやがる」
大小様々な岩石と共に落ちてくる半神半人の英雄の憤怒に彩られた姿に大蟹の魔物は興奮で身震いしその身を妖しく蒼白と紫電に発光させ巨大な鋏を待ち構えるように甲高く一度打ち鳴らしたのだった。
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