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氷紀
2025-03-12 18:29:06
10415文字
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迷い込んだ彼らの話 番外
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留守番とないしょ話
時間軸は本編その後。みんなが出かけて、留守番をしている沢くんとちいさいののお話。高沢です。
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それから夜になるまで、僕とちいさいのはたくさん、話をした。
今までちいさいのの心の中にだけあった、ないしょ話。
話を聞く限り、ちいさいのは、ゲタ吉が本当に大好きだ。同時に、ゲタ吉がちいさいのを愛してるってことも、全く疑ってない。
……
確かに端から見ていても、疑いを差し挟む余地はない。
ただ、お互いにどれだけ好きで大事でも、いつか理不尽な理由でいなくなってしまうのではないか、という恐怖は、ずっとちいさいのの心に巣くっているみたいだった。だから、ゲタ吉に必死にしがみつこうとする。
……
これはもう、仕方ないことだろう。父さんと水木さんを同時に失ったことは、ちいさいのにとって、生きるべき世界そのものに背を向けるほどの絶望だったんだから。
夜、寝る準備を整えて、僕はゲタ吉とちいさいのの部屋にいた。ちいさいのは最近、子供用の布団で寝るのがお気に入りらしく、今日もそっちで寝たいらしい。僕はちいさな布団の隣に座って、ちいさいのが眠くなるまで、一緒にいることにした。
「
……
いま、ごろ。ゲタ吉にいさん、たち、
……
どうして、る、かな?」
「そうだなあ
……
ご飯を食べ終わって、のんびりしてるんじゃないかな」
壁の古ぼけた時計を眺めて、だいたいそれくらいの時刻、と思う。墓の曰く、かなり大勢が呼ばれる会食らしいから、もしかすると、墓のとゲタ吉は酒の席に巻き込まれてるかもしれない。
……
この世界の法律がどうなってるか知らないけど、あの外見の先輩に、酒を勧める奴はいるんだろうか。妖怪だけの席なら別段問題にもならないけど、と考えて、いや別の問題があるぞと僕は思い直した。
……
酒の席にはきれいな女性が付き物だ。先輩は頑なに否定するけど、先輩は美人に弱い。それはもう、てきめんに弱い。人間も妖怪も問わずで。
僕だって、綺麗なものには目を引かれるから、気持ちだけは分からなくもない。でも、先輩が他の誰かによそ見をするのは、正直、面白くなかった。
あんまり良い感情じゃないのは分かってる。
……
僕はこんなに心の狭いやつだったか、と思ってみても、気持ちはどうしても波立ってしまう。
「
……
沢、にい、さん?」
「ああごめん、何でもないよ
……
」
布団にくるまったちいさいのの横に、僕もころんと転がってみる。古い畳の匂いが微かに漂ってきた。もうそんなに寒い時期じゃない。
「高にいさん、のこと、考え、てた?」
「
……
わかる?」
「うん」
僕にちいさいのの気持ちが勝手に分かることがあるのと同じように、ちいさいのが僕の気持ちを感じ取ることも、よくある。だから僕は素直にうなずいた。否定しても無駄だ。
「だいじょうぶ、だよ。高にいさん、かえって、くる
……
よ」
「そうだよね、それは
……
僕も、分かってる」
「じゃあ、
……
なに、が、こわい、の?」
「うーん
……
難しい、なあ」
複数の意味で難しかった。
恋情絡みの嫉妬も、怖いという気持ちとの微妙な違いも、一番底にある不安の正体も、
……
ちいさいのに通じる言葉で、表せる気がしない。
しばらく考え込んでいると、ちいさいのがぽつりとつぶやいた。
「高にいさん、あった、かくて、ぽかぽか、やさしい
……
ぼく、にも、やさしい。
……
ゲタ吉にいさん、にも、墓にいさん、にも。
……
でも、沢にいさん、には、
……
ときどき、あつい、かんじ」
「熱い? 何が
……
」
「わかん、ない。でも
……
にわ、で、いっしょ、あそん、でた、とき。沢にいさん、とおく、から
……
よんで。そのとき、高にいさん、ぶわって、
……
あつい、かぜ
……
みたいに、なった、ことある」
まさか本当に風になってしまった、ということではないだろう。ちいさいのは、一体何を感じ取っているのか
――
今更ながら気になってきた。多分、感情の気配をそう受け止めているのだとは思うんだけど。
「あと、ないしょ、だけど。
……
墓にいさん、も、たまに、ゲタ吉にいさん、に、ぶわって、あつい、こと、ある」
「
………………
え?」
そのまま固まる僕の態度をどう受け取ったのか、ちいさいのはあわてたような声音で付け加えてきた。
「ないしょ、だよ。
……
いや、じゃない、けど、ないしょ。
……
ぼく、びっくり、した。ぶわって、わかる、の
……
ぼくだけ、みたい、だから」
「そ、そう、なん
……
だ?」
「ぶわって、あつい。
……
すごくすき、ってかんじ。
……
でも、ぼく、と、ゲタ吉にいさん、の、すき、
……
と、ちょっと、ちがう、かも、って」
ちいさいのの声は、半分眠りに飲まれ掛かっている。あまり詰問したら目が冴えてしまうだろう。でも僕はどうしても気になって、問いかけてしまった。
「じゃあ、
……
僕がその、ぶわって、なってることもあるの?」
「ある、よ、ある
……
高にいさん、のこと、だいすき
……
?」
「
……
うん」
「すきって、
……
いっぱい、ある
……
ぶわって、わかる、の
……
ないしょ、だよ」
――
ちいさいのはそのまま、眠りの世界に吸い込まれてしまった。
その言葉の意味するところを悟って、呆然とする僕を、置き去りにして。
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