sousakuyamamusume
2025-03-09 21:31:52
3552文字
Public 一次創作
 

悪役令息

悪役令嬢(男):アトラス・フォン・ノックス(アトラス=耐える者。ノックス=夜)
親友くん:ザイン・メンシス(ザイン=存在する。メンシス=月)


楽園追放

「アトラス・フォン・ノックス!この映像がお前の不貞を示す証拠だ!!」
 卒業式後のパーティーで、アトラスの婚約者さんの親父さんがそんな事を言った。会場がざわめいている。だから、こういうの嫌いなんだってば……。そう思いつつ、5個目のパンを頬張る。うまい。
「街で随分と仲睦まじげにしていたな!この相手の女性が辺境伯の娘だということもわかっているのだぞ!?」
 さめざめと泣いて「わたくしが悪うございます」と言う辺境伯の娘さんを尻目に、パンを飲み込んでから手を挙げた。
「あの、その『辺境伯の娘』ってされてる人、多分俺なんですが。」
 嘘とか茶番とか全部嫌いだし、アトラスの隣にいるロングコートの奴は間違いなく俺だし。

……ザイン?」
「アトラスもさー、嘘だってわかってるならちゃんと言わなきゃダメだぞ。いくらアトラスが嫌われがちだからって身に覚えのない罪まで被ることないんだから。」
 つかつかとこちらに歩み寄るのは、初対面からなれなれしかった平民。不敬にも私の友になりたいと宣い、まず手始めにと『隣で昼飯を食べる権利』を要求した命知らず。
「それで、これいつまでやる気なんです?辺境伯の娘さんって人もグルなんでしょ?」
「口を慎め、平民。」
「ヤですー。俺家族とかいないんで脅しようもないですよ、先に言っときますけど。」
 駄目だ、それ以上何も言うな。
 私が黙っていたのは、お前を巻きこみたくなかったからだ。だというのに、何故、お前は、そうやって……
「アトラス・フォン・ノックス、お前は勘当だ!!」
「そうよ!平民に庇われるようなことをするからいけないのよ!!」
 膠着した場を切り裂いたのは、両親だった。
 両親を悲しませたのだ、勘当は妥当だろう。今すぐ首をはねられなかっただけ穏便とすら言える。
……アトラス?」
「口を利くな。たかが平民に案じられるほど落ちぶれてない。」
 聡いお前にならこの意味がわかるだろう、ザイン・メンシス。

 ひでー。俺に庇わせてくれないでやんの。
「アトラス・フォン・ノックス。不貞を疑われただけでも婚約破棄の理由になり得る。今すぐ、ここを立ち去りなさい。」
……はい。」
 なんだよ、反論しろって言ったのに……。これが『貴族社会』ってやつ?ヤだなー……。って、あいつ出て行っちゃった。
「下がりなさい、平民。」
「俺ヘイミンって名前じゃありません。あと、これは俺のカンなんですけど。」
「口を慎みなさい。」
「じゃあひと言だけ――裏で手ェ引いてたの、アトラスの親父さんだろ。」
 俺のカン、よくあたるんだよ。
「な、何を」
「じゃ、首はねられるまえに帰りまーす。さよなら!」
 うわ、外すごい雨。あいつこんな中一人で歩いてったのか。……いや、足跡が薔薇園に続いてる。かくれんぼか。かくれんぼ得意なんだよな。

 全身を濡らしていた雨が、不意に止んだ。
……なんのつもりだ、貴様。」
「しんどいときほど支え合うもんだろ、友達ってのは。」
 食堂で話していたときと同じ調子で言われる。やめろ、調子が狂う。
「貴様と、私が、いつ、友達になった。」
「最初に会ったときから俺は友達だって思ってたよ。それともあれか?『隣で昼飯を食う権利』を手放したつもりはない、とか言えば良い?」
……何故」
「ん?」
「貴様を、巻きこまないようにしたのに」
「つらそうな友達ほっとけないって。あ、1個だけごめん。アトラスの親父さんに思いっきり喧嘩売った。」
「だろうな。貴様ならそうすると思った。」
 わかっていた。
 今日起こること全て、私は既に知っていた。父が辺境伯の夫人と不倫していることも、母がその不倫の理由を私に押しつけていることも。……今日、私が冤罪で追放されることも。
「そっか。じゃ、行こうぜ。」
「どこに。」
「この時期だと霧の森でうまい魚が釣れるんだよ。あの辺なら追っ手撒ける場所もあるし。」
 一つだけ不明確だったのが、こいつがどう動くか。まさかここまで愚直とは思わなかったが、なるべくしてなったという気もする。

「逃げるなら今のうちだ。」
 青い瞳が揺れている。
「逃げるってどこに逃げるのさ。」
「私の手を取れば最後、地獄の底まで付き合ってもらう。」
 地獄かー。ぼんやり地獄のイメージを考えつつ、アトラスと握手した。
「あんまり暑いのは苦手だけど。」
「っはははは!!!そうか、そうくるか、ザイン!」
 なんか今笑うところあったか?てか今までに見たことないレベルの大爆笑じゃん。ちょっと嬉しい。
「ならば偽名を考えねば。冒険者ギルドにでも登録すれば食い扶持にも困ることはあるまい。」
「監視とかつかないの?」
 くつくつと笑いながらされた提案に、ものすごく今更な質問で返す。てかなんか大事になってきた、胃が痛い。
「適当な場所で死を偽装する。そうすれば晴れて自由の身だ。」
「それまで俺が誘拐罪で逮捕されなきゃ良いけど。あー、胃が痛い。」
「私の手を取ったからには、もう二度と逃がしはしない。」
「逃げないって。ただ冷静に考えたら俺ヤバくない?って思っただけで。」
「今更だ。そも、国王陛下の許可なしに発言した時点で死罪だぞ。」
「うへぇ、俺10回ぐらい死ぬじゃん。」