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みたむら
2025-03-01 14:21:02
14649文字
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呪術夢:短編まとめ
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バレンタインチョコを食べて処理しようとしたら止められた話
すごく遅れたけど、一応バレンタインネタです。
別サイトの某企画で投稿していたやつです。
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2
3
4
このまま私の口にチョコが入って、甘い味が広がるはずだった。
急に、手首を急につかまれてぐいっと上に持っていかれる。
敵? 呪霊の気配はないはずだと思っていると、頭上から声が聞こえた。
「ん~! うまぁ~!」
「
……
へ? ご、五条君?」
「やっほー、急いで帰ってきたよ。間に合ってよかったよかった!」
そう言ってはまたもう一口チョコレートを彼が頬張る。手首をつかんだままで。
まるで、私が彼に食べさせているようなポーズで、驚きと恥ずかしさが混じり合って冷静になれなかった。
「え、だって明日戻るって
……
!」
「そうだよ。けど、超特急で帰ってきたの。
沙奈
のチョコを食べるためにね」
「え? どういうこと??」
(私、時間空けといてって言っただけだよね? 勢いでバレンタインチョコをあげたいからって言ってた?)
誘ったときのことを振り返ってみるけれど、そんなことを言っていない。しかし、彼はチョコを食べるために帰ってきたと言った。
ならば硝子ちゃんとか周囲から知られたということ?
握っていた手首を離して、ズボンのポケットに手を突っ込んで答える。
「きっかけは伊地知。けど、僕が無理矢理吐かせただけだから、アイツには恨まないであげて
……
ってかさぁ」
「あ、はい」
「はい、じゃないよ。何で僕にもチョコくれないの?! ずぅ~~っと待ってたのに!」
「え?」
「しかも今年も伊地知には渡して、僕にはなし? マジありえないんだけど」
彼はそう言ってはぁ、とこれでもかというため息をつきつつ私の隣に腰を落とした。
彼の体重がかかったのが振動で分かり、少しだけびくりと体が震えた。
「で、何で僕だけチョコ渡さなかったの? ちゃんと理由あるでしょ?」
そろそろ聞いてもいいよね、と黒のアイマスクをずらして蒼い眼をチラリ私を見つめながらそう言った。久しぶりに見る蒼い眼にドキッとしながらも平常心を装う。
「
……
だって、言ったもの」
「何を?」
「高専時代、中庭で『チョコはいらねぇ』『バレンタインは懲り懲りだ』って」
私は白状してあの頃のことを思い出しながら言う。彼は静かに話を聞いてくれる。
心当たりはあったようで、少し表情が固まったような気がした。
事情を話し終えると、そういうことかー、と今度は顔を上空に上げている。
「じゃあやっぱりあの呪力は
沙奈
だったわけだ」
「え?」
「まさか、この僕が
沙奈
だと気づいてなかったと思った? 呪力で辿れば大体分かる」
「えっ?!」
衝撃的事実だった。バレてないと思っていたけど、相手は呪術師最強の五条悟だ。呪力を辿るなど六眼があれば朝飯前だ。当時の私はそれさえも頭からすっ飛んで、彼の独り言がショック過ぎて頭から抜け落ちていた。
「そっかー、あれ聞こえてなきゃよかったって思ったんだけど、あの頃からだよね? 僕にチョコをくれなくなったの
……
まさか僕の独り言が原因だったとは」
もう過去の僕馬鹿だ! と今度は頭を左右に振っている。後悔しているのだろう。
「その誤解を解けたら、そのチョコ全部食べていい?」
「え
……
う、うん」
誤解を解く? 私からのチョコをもらうのが嫌だったんじゃないのか。とにかく彼の話を聞くことにした。
「ちょうどあの頃にさ、僕五条家の嫡男なわけじゃん? だから分家筋から他の御三家の女からもチョコを送ってくるわけ。だけど、ある分家筋の女が
――
」
分家筋の女性。その女性は五条君の妻になりたいがために何でもやる人だったらしい。ある日に勝手に家に来るわ部屋の中に入るわ、親に気に入られようとらしくもないアレやコレやとしたりして。
高専に入学してからはそういったことは無くなっていたし、女性からのチョコも送ってくるだけに留まった。だが、
沙奈
が独り言を聞いてしまったその日の数日前。その女性からのチョコが届き、箱を開けるとチョコレートが入っていた。ちょうど任務帰りのついでに本家に戻っていたので、休憩がてらにそのチョコを口にした。すると、何か苦いものが口の中に広がって、次第に視界がぼやけてきて気がついたら気を失っていた。
目を覚ました時に、目の前にいるはずのないその女性が五条をまたがって見下ろしていた。何度告白しても断ってきた五条に痺れを切らし、強硬手段に来たようだ。チョコに酒をふんだんに使い、酔わせている間に手に入れようと。まさしく、一秒目覚めるのが遅ければ
……
想像したくない未来が待っていただろう。
五条が家来や両親を呼び、その女性を追放してその一族と本家との縁を切ることで仲違いすることになった。
沙奈
が探していた時は、ちょうど五条はその女性の父から謝罪の電話が入っていた時だった。電話を切った後に、誰もいないと思ってそう呟いたのが、
沙奈
が聞いてしまった言葉だ。
この時、成長するたびに身内であろうと外部の人間であろうとこういうことをする輩が出てくることは分かっていた。だが、根本的には分かっていなかったのだと知った。高専に来て楽しい学校生活を送っていたせいか、五条家当主としての心積もりが疎かになっていた。そうだ、傑や硝子、
沙奈
、夜蛾先生
……
さすがに彼らには何もしてこないと思うが、そういう近くにいる人間がそういう行為を一切しない保証なんてない。
今回は偶々酒で済んだが、これが猛毒やら即死するような薬品でも盛られていたらと思うとゾッとした。その恐怖に襲われそうになって、怖い自分を認めたくなくて自分を奮い起こすためにもバレンタインなんか懲り懲りだ、チョコなんかいらねぇ、と口を零したのだ。
私はそんな事情があったのだと知って、何も言えなかった。そんな恐怖を受けていたのにも関わらず何も知らなかったとはいえ私はバレンタインに浮かれていた。
(そんなことがあったら、バレンタインが嫌になってしまうよね)
「だから、そこに
沙奈
がいたとは思わなかったんだ。けど、
沙奈
からすればお前に向かってそう言っていたように聞こえていたよね? ごめん」
「ううん、私の方こそ何も知らずに勝手にチョコを渡さなくてごめんなさい」
「何で
沙奈
が謝るの?
沙奈
は普通の行動をしただけでしょ? 僕がちゃんと話さなかったのがいけなかっただけだし、だから去年までもらえなかったわけだしさ」
沙奈
は
沙奈
なりに僕を気遣ってその行動をしたんでしょ、と少し笑って言う。彼にとってはもう清算は済んでいるのだろう。だから誰からでもチョコは受け取っている。
「
……
実はさ、僕ずっと気づいてた。僕に隠れて硝子や七海たちにチョコ渡してるの」
「えっ」
「あんなにコソコソしてたら怪しいに決まってんでしょ。けど、問い詰めたら逃げるかもって思ったらここまで様子を見てた。だけど意外だよねー、
沙奈
から十四日に時間を空けてくれって熱烈なお願いをされたらさー」
「そ、そんな必死に頼んでないよ?!」
あの時のことを思い出してかぁ、と顔が熱くなっていくのが分かる。あの後やっぱり誘うんじゃ無かったって何度も後悔した。私らしくないって、もうちょっとマシな言い方とかあったんじゃないか、と何度もぐるぐる考えていた。
「そんなことないよ。可愛い誘いでドキッとしたもん」
「ど、どきっ
……
?!」
これでもかというくらい可愛い声で言う彼に、私はますます恥ずかしくなってパクパクと口を開いたり閉じたりしている。
「んで、休憩してるときに伊地知が一人で
沙奈
からもらったチョコを食べようとしててさー。羨ましくてちょっといらついて、伊地知に無理言って今日高専に着くように車を回してもらったんだよね」
「何で
……
」
「んー、そりゃ
沙奈
と硝子が、僕の本命チョコを作ってるくせに渡さずに自分で食べてるなんて会話聞いたら、放っておけるわけないじゃん。しかも好きな子からの本命チョコだよ?! それを受け取らない男なんていないと思うけど」
「
……
って何でそんなこと知って」
「この間医務室にベッド借りてサボろうと来たらさ、二人とも面白いこと話してるのを聞いちゃったから。ま、女子会の中に入らないであげた僕の優しさに感謝しなよ」
それを聞いて「今年こそは絶対チョコもらう!」とあれやこれやと計画立てていた頃に、電話が来たのだ。そして十四日の件があってすぐに思い浮かんだのは本命チョコだった。
……
しかし、上層部のおかげで出張が決まり、ちゃっちゃと済ませて帰ろうとした所で、伊地知が
沙奈
からのチョコを食べようとしてるのを見てたらやっぱり諦めたくない、と思いある程度は車で、最終的には無下限でここまで飛んできたということらしい。
「あんな山奥マジ勘弁だわ
……
都会せめて郊外だったならもっと早く着いてたと思うけど
……
って
沙奈
? おーい」
私はぼーっとしてしまい、五条君の手がひらひらと振られて気がついた。
さっきから聞いていると、まるで私の本命チョコをもらう為だけに早く帰ってきてくれたように聞こえる。そう、自惚れてしまっていた。そんなことないはずなのに。ただ可哀相な同級生のために、だと思うのに心は私のために帰ってきてくれたのだと都合のいい解釈をしてしまう。
「そのチョコはまだ有効? 捨てる?」
「ゆ、有効
……
捨てるって」
「いや、捨てても僕が拾えば僕のものだよね」
「結局私の作ったチョコを食べるの諦めないんだ」
「うん、諦めない。だってこんな美味しいチョコ超久々なんだもん~」
そう言って口を開けている。首を傾げていると「チョコ、僕に食べさせてよ」と強請っている。私は驚いて強張ってしまう。
「えっ! 私が食べさせるの?」
「あったりまえでしょー。この五条悟君に食べさせる権利は
沙奈
だけだよ? それにもっと食べたい。食べられなかった分もね」
だから早く早く~、と私を急かす。私は恥ずかしくなりつつもそっと彼の口にチョコを入れる。もぐもぐと美味しく食べている。
(こ、こんなのまるでっ
……
!)
恋人同士みたいじゃない!
私たちは付き合ってない、はず。でも、私は本命チョコを作ってそれを食べている彼。断ってもおかしくないのに、嬉しそうに食べている。
じーっと見つめているのが気になったのか、考えていることが分かっていたのか、彼は言う。
「え? まだ分かんない? 僕も高専時代からずっと
沙奈
のこと好きだよ。だからこれで両想いね」
好きじゃなかったら、わざわざ超特急で帰って来てまで食べないよ、と彼は無邪気な笑顔で言った。
それにつられて私も笑ってしまう。
彼からは来年もずっとバレンタインチョコ作って、と五条君から強請ってくるので私はもう自信持って作っていいのだと思い、こくりと頷いた。
【終】
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