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みたむら
2025-03-01 14:21:02
14649文字
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呪術夢:短編まとめ
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バレンタインチョコを食べて処理しようとしたら止められた話
すごく遅れたけど、一応バレンタインネタです。
別サイトの某企画で投稿していたやつです。
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それから私たちは高専を卒業した。
五条君は高専の教師、硝子ちゃんは高専の医者、私は東京校を拠点にフリーの呪術師で働いていた。バレンタインは五条君には内緒で仲間に渡しているのはまだ続いている。
二月に入った医務室。
私は硝子ちゃんにバレンタインチョコを渡すために訪れると、硝子ちゃんに「コーヒー淹れるから休憩しよう」と私の分も淹れてくれた。私は言葉に甘えて一休みすることにする。
硝子ちゃんはラッピングされた箱を開けて、チョコレートを一口ぱくり食べる。
「ん
……
やっぱ
沙奈
が作ったチョコは格別だな。疲れが取れるよ」
「そんな大げさな」
「そんなことないさ。七海や伊地知も言ってたよ。毎年ありがとね」
「そうやって食べて感想言ってくれるから十分嬉しいよ。こっちこそコーヒー淹れてくれてありがとう」
そう言って熱いコーヒーを飲むと硝子ちゃんも「どういたしまして」と同じようにコーヒーを飲む。
コーヒーカップを机上に置くと硝子ちゃんが尋ねる。
「
沙奈
、今年も五条には渡さないのか?」
「うん
……
渡したら迷惑かかっちゃうし」
「バレンタインって言わなければ
……
」
「バレンタインの日にチョコって嫌でもバレンタインチョコだって分かっちゃうじゃん」
「
……
けどさぁ」
もごもごと硝子ちゃんは何かを呟いている。表情は何か言いたいけど言えない、みたいな表情。硝子ちゃんが言い淀むのも無理はない。
五条君が言った言葉が本当だったのか、と疑うくらいに毎年のバレンタインチョコをたくさんもらっているのを見ているからだ。
彼は見た目がいいので、五条家の女性たちや任務先の女性や女の子から毎年たくさん送られてくるようだ。彼の机上にはラッピングされたチョコが山積みで横を通り過ぎる人が面倒くさいと思いながら踏まないように気をつけるほどに。
その姿は私も何度も目撃している。それだけじゃなく、渡り廊下などで女性が五条君にチョコを渡している姿、あるいは女子生徒から五条君に渡している姿も見ている。
その度に「うわー、嬉しいなーありがとう!」と嬉しそうに受け取っているのだ。
(あのつぶやきは夢だったんだろうか。チョコはいらないとか、バレンタインは懲り懲りだとか)
彼が嬉しそうに女性や女の子からチョコを受け取っているのを見るたびに、私にとってはあの冷たい声で言った言葉がこびりついて離れない。
彼に嫌われたくなくて、本当は渡したいけど渡すのを諦めたのに。
あれはもしかして、私に対してそう思っているだけなのかもしれない。硝子から市販の適当に買ってきたチョコを渡しても「サンキュー、硝子」と受け取っているくらいだ。お徳用の一口チョコでさえもだ。
バレンタインが嫌だという態度ではない。むしろ楽しみにしているように見える。
だけど、五条君は私に「バレンタインチョコは?」と尋ねることはない。「今年はくれないの?」と聞いてくれればいいのだけど、そんな様子は一切ない。だから私以外のチョコが欲しいんだろうと私は結論づけた。
「でもさ、毎年五条の分も作ってるんだろう?」
「
…………
うん」
「んで、いつも自分で食べてると」
「だって、捨てるなんて勿体ないよ」
結局渡さず自分で食べるくらいなら作らなきゃいいじゃないか。それはごもっともだ、私もそう思う。だけど、癖なのか私が五条君が好きという気持ちが諦めてくれないせいか、毎年彼の分も密かに作ってはバレンタインが終わると自分で食べる。それを何回か続いている。
……
気がついたら五年? 六年? くらいにはなるのか。
そんなにやってて五条君にばれないのか、と思うかもしれないが、意外とばれていないようなのだ。私たちは呪術師であり、特に五条君は五条家の当主であり高専の教師でもある。そんでもって特級呪術師なので特級レベルやたまに一級レベルの討祓に出張は日常茶飯事。高専に来ても生徒の面倒を見てすぐ任務に向かうことも多い。つまり、私と顔を合わすことも極端に少ないのだ。数ヶ月会っていなかったなんてこともざらだ。彼に時間があっても私が長期出張で留守にしてることもある。
それくらい、この呪術界は誰もが忙しい業界なのだ。
「今年はさ、試しに渡してみたらどうだ? 意外と受け取ってくれるかもしれない」
「毎年言うね」
「だったら、そんな後悔してるみたいな顔をするのを止めたら?」
「!」
思わず頬に手を伸ばす。そんな顔をしているだろうか。硝子ちゃんは「自覚はしてんだ?」と小さく笑う。
「その時何かあったのかもしれない。今はそれもアイツは何か吹っ切れたのかもしれない。私も適当に買ってきたチョコをひょいひょい食べていくぞ」
机上に置いているらしいお菓子入れから「またチョコ食ったな五条
……
」と空のお菓子入れを見てため息をついている。
「チョコじゃなくて他のもので渡してみるとかさ」
「
……
そんなのできないよ」
「
……
どっちもどっちだな」
小さく何かを呟いてはコーヒーを飲む。
だけど、私の中で密かに思っていることもある。
硝子ちゃんの言うとおり、今は何でも受け止めるくらい吹っ切れたのかもしれない。もしかしたら任務か五条家の間で何かがあって怒って愚痴っていただけなのかもしれない。
(今年は、少しだけ
……
頑張ってみてもいい?)
受け取ってくれるだろうか。ありがとうと言って食べてくれるだろうか。それともいらない、と返されてしまうだろうか。期待と不安が私の中で交差する。
「ま、私たちはあの頃のガキじゃなくてもう大人だ。あのクズでさえも大人だし、ちゃんと言えば受け取ると思う」
「受け取ってくれなかったら?」
「私が食べる。ちょうど五条のせいで補充していたチョコが切れてたんだよね」
買い出しに行かなくて済むわー、と何かを企むような笑みを私に向ける。
私は彼女につられて笑うくらいしかできなかった。
医務室を出ると、硝子ちゃんと話していたことがずっと脳裏に浮かんでいた。
今年、五条君にバレンタインチョコを渡す。
あの頃の記憶が蘇ってくるけれど、ずっとこのままでいいのかというとよくはないことは分かっていた。告白もしてないのに、渡してないのに隠れて彼へのチョコを作っては私が処理をしているのはどう考えてもおかしいだろう。このおかしなバレンタインを何かしら終止符を打たなきゃいけないなとは思っていた。
いっそのこと、彼からチョコいらないから作らなくていい、と突っぱねてくれた方が未練がましく本命チョコを作るのを止めるかもしれない。
私はポケットから携帯を取り出し、彼に連絡を入れる。
彼は今任務中だったと思うが、ダメ元で電話をかけてみた。
少ししてから繋がった。
『もしもし?
沙奈
』
「あっ、五条君今いい?」
『うん、任務終わったところだから。どうかした? 救援?』
「違うの。あの
……
」
好きな人を誘うってこんなに緊張するものなのか。たった「十四日に時間空いてる? 空いてたら時間がほしい」って言うだけなのに、喉がカラカラになって口が開かない。
私が次の言葉が出てこないので不安になったのか彼が『
沙奈
? 大丈夫ー?』と励ますように明るい声で応える。
「えっと、十四日って時間空いてる?」
『十四日?
――
うん、今のところ任務入ってないから大丈夫』
「その日、会えるかな?」
『珍しいね、
沙奈
から誘ってくるなんて』
そう、いつも彼から誘ってくれる。だから彼に甘えていた。だからこそ緊張して口を開くたびに心臓が出てくるんじゃないかってくらい口がパクパクと動く。声もはっきりしてないと思う。
『いいよ。じゃあこれからトンネル入るから、詳細はまた決まったら連絡ちょうだい』
「うん、ありがとう五条君」
『どういたしまして』
そう言って電話を切った。
はぁ~、とこれまでにないため息をついた。走ってないのに走ってきたみたいだ。
それよりも、誘いにオーケーが出るとは思っていなかった。
というのも、バレンタインのことだけであり普段私と五条君の仲は学生時代と変わらない。喧嘩してるわけでもライバルみたいな関係でもない。会えば普通に挨拶を交わすし、世間話もする同級生だ。
ただ、私が彼に片思いしているだけ。
携帯を握っていた手をガタガタと少し震えている。少しだけ勇気を持った。たった誘っただけだけど、私の中では大きな一歩だ。
「
……
後はチョコレートを作って受け取ってくれるかどうか、だよね」
いつも硝子ちゃんや七海君たちからは美味しいって食べてくれるため、不味くはないはず。
ただ、彼に合う甘みは今では自信がない。私が作っている彼への本命チョコは学生時代のままだからだ。大人になった彼はもしかしたら少し甘さ控えめがベストになっているかもしれない。もしかしたら、学生時代と変わっていないか、むしろもっと甘みが必要かもしれない。
だけど確かなのは、今年のバレンタインは少し楽しみなところだ。
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