みたむら
2025-03-01 14:21:02
14649文字
Public 呪術夢:短編まとめ
 
1205247

バレンタインチョコを食べて処理しようとしたら止められた話

すごく遅れたけど、一応バレンタインネタです。
別サイトの某企画で投稿していたやつです。

沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈藤森沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈沙奈 今年もバレンタインの季節がやってきた。
 私は毎年、みんなにバレンタインチョコを手作りをしてはプレゼントしていた。みんな美味しいと喜んでくれて来年も頑張ろうって気持ちになる。
 高専時代のバレンタインの日。
 私はラッピングしたバレンタインチョコを持って、とある人を探していた。少し前に彼と一緒に向かっていた補助監督さんとばったり会って、彼――五条君はどこにいるのか尋ねると、さっき解散したばかりだから補助監督室か校舎内にまだいるかもしれない、と聞いて彼を探す。
 しばらくして、私は中庭を通っていると視界に人影が見えた。
 そっと壁に隠れて覗き込むと、探していた五条君がこちらに背を向けたままで一人立っていたのを見えた。

「ごじょ――
……もうバレンタインは懲り懲りだ」

 声をかけようとしたところ、無意識だったのだろう。彼がポロリとしかしはっきりと低い声でそう言った。
 普段の明るい声で話す彼とは違って、どこか怒りを含んでいるような……いや誰かを憎んでいるかのような声音。そんな声を呪霊相手以外で聞いたことがなかった。だから、彼の名前を最後まで言えず、黙ってしまった。その声は彼には気づかれていないようでよかった。

……もう、チョコはいらねぇ」

 そう彼は言った。その言葉に私はズキンと胸が痛む。
 何故なら、これから彼にそのバレンタインチョコを渡そうとしていたからだ。ちなみに入学時も去年も普通に渡して「サンキュー」と言っては食べてくれていた。

(どうしてそんなことを?)

 甘い物が好きな彼がそんな言葉を吐くとは思えない。しかし、現実にそう彼がチョコはいらないと言ったのだ。

 彼は性格はともかく見た目はいい。任務先の女性や女の子には言い寄られるほどに。道ばたにいれば逆ナンされるほどの整った容姿。惚れない人はいないだろう。硝子ちゃんみたいに惚れなくはなくとも、一度見たら忘れられないだろう美しい容姿。特に青空のような六眼に惹かれるだろう。私もその中の一人であり、密かに恋心を持っている。
 世話になっている人たちにも男女関係なく渡しているけれど、それはお世話になっているからだったり友達だったり。五条君に対してだけは表向き友チョコ、本当は本命チョコだったりする。しかし、告白するほどの勇気は持てない私は未だに気持ちを伝えられないでいる。ずっと彼の同級生で、友達というポジションを維持していた。今はそれでいいと私は思っている。
 このチョコレート、どうしようか。
 胸元に大事に抱かれた彼へのバレンタインチョコの包み。
 思わずギュッと抱きしめてしまったのだろう。包みを覆う紙袋のぐしゃ、という音が聞こえてしまったらしい。
 それに気づいた五条君が「! 誰だ!」とこちらに振り返る。
 私は壁から隠れて、裏から逃げるように走って行った。

(今は逃げなきゃ。チョコレートは受け取りたくないのに渡しに来たって分かったら嫌われちゃう……!)

 ただ無我夢中に、一秒でも一メートルでも早く彼から離れなければ、という気持ちのままに女子寮へひたすら走った。女子寮に着くまで、五条君が追いかけてくることはなかった。

「はぁ……はぁ……どうしよう、これ」

 あんなに激しく走ってしまったからきっと中のチョコレートはぐちゃぐちゃになっているだろう。しかし、もう彼に渡してはいけないと分かってしまった今、この本命チョコの行方は消えてしまったのだ。

「食べるしかないか」

 捨てるなんて簡単かもしれないけど、それは私が五条君への気持ちを捨てるような気がしてそれも嫌だった。単純に食べ物を粗末にしてしまいたくない気持ちもあったが。
 私は紙袋からラッピングされたチョコの包みを開けていく。
 彼のためにと一生懸命包んだものが、私が走ったせいでさっきまで綺麗だったのにバレンタインには不細工な姿で私の前にチョコレートが現れた。

……ごめん。作って」

 それは五条君に対してなのか、このチョコに対してなのか。あるいは両方だろうか。
 私は告白したわけでもなく、振られたわけでもないのに当事者のように胸が痛い。そして、チョコレートを一口ぱくりと口に運ぶ。

……あまっ……っ!」

 私よりも甘党な彼だけに作った甘いチョコレート。その甘みがさらに涙腺を崩壊させる。鼻にツンとくる。

(五条君に予め約束してなくてよかった……何も知らずにチョコを渡すところだった)

 一口。また一口。
 口の中には甘みが広がる。しかし、現実はそんな甘いストーリーはない。そしてこれからも。
 臆病な私が気持ちを伝えられたバレンタインという記念日と本命チョコという方法は消えてしまった今、私はこの気持ちを封印するしかなかった。

 それ以来、私は五条君にはバレンタインチョコを渡すことを止めた。
 他の人には義理・友チョコとして大人になった今も五条君には知られないように渡していた。
 もちろん、硝子ちゃんや七海君たちには事情を話して五条君には内緒に、という約束でバレンタインを過ごしていた。
 あの日、後日五条君から補助監督さんから聞いたらしく「補助監督から沙奈が俺を探してたって聞いたけど」と聞いてきたけれど、私は「ううん、何でもないの! 硝子ちゃんに相談したら解決したから大丈夫!」とごまかした。五条君は納得していないせいか少し首をかしげつつ「あっそ」と素っ気ない返事で席に戻っていった。
 硝子ちゃんはとっさとはいえ私に話を合わせてくれて、二人きりになった時に五条君が一人呟いていたことを話したら「……あのクズめ」と私のために怒ってくれた。その気持ちだけでも嬉しかった。
 それからというもの、硝子ちゃんを初め七海君などお世話になってる人には五条君には内緒で、五条君が近くにいない頃合いを狙ってはチョコレートを渡していた。彼に知らないところでこんなことをやっていることにも罪悪感はあるが、仕方ない。自分はくれないのに他の人に渡しているのを見ているのは彼にとってもよくないだろう。私なりのできる配慮だと思う。