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かいえ
2025-02-23 17:53:15
19827文字
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【灰武】派遣先のものすごく怖いのに格好良くて綺麗な兄弟に迫られて困っています! ①
ハウスキーパー見習いの武道が、派遣先の灰谷兄弟に迫られる話
19,815文字
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次に武道が仕事の為灰谷邸を訪れた時、竜胆は玄関で嬉しそうに武道を出迎えた。今までに無かった出来事に、武道は心底驚いた。何で居るんだろうと思いながら、そういえば、下僕にされたんだっけと血の気が引いた。具体的に何をするのか分からないけれど、下僕と言うからには、何かさせられに違いない。とりあえず、今のところはソファに座っているだけだけれど、そのうち無理難題を言われるのかもしれない。犯罪に手を貸せとか言われたらどうしようと、怖い想像をしてしまい、おどおどしながら武道は掃除を開始した。
竜胆はリビングのソファに座って、武道のする事を興味津々という表情で眺めている。そして、武道がリビングから移動すれば竜胆もついて回った。何が楽しいのか、武道が掃除をしている様子を、近くでじっと観察しているのだ。竜胆はにこにことして、機嫌が良さそうだったが、自分がちゃんと仕事をしているのか確認しているのかもしれないと思い、武道は監視されているようで、落ち着かない気分になった。
そして、武道が仕事を終えると「ゲーム一緒にやろうぜ」と、まるで友人のように武道を遊びに誘った。
「ムリですよ」
即答で断ると「なんでだよ」と、途端に竜胆はムッとした。
「派遣先の顧客とゲームなんかできる訳ないじゃないですか」
至極当たり前の話だ。
「じゃあ、追加で発注すれば良いのか?」
「そんな追加発注ないですよ」
一緒にゲームするってどんな発注だよと、武道は半ば呆れながら答えた。
「生意気だな。下僕のくせに口答えするのかよ?」
竜胆の眉間に皴が寄り、あっという間に怖いお兄さんになってしまった。そして、そう言われると武道は何も言えなくなる。竜胆から滲み出ている黒いオーラにビビッて「後に仕事が入ってなければ
…
」と、武道はつい口走っていた。会社にバレたら怒られるに決まっているが、竜胆に弱みを握られているので、きっぱりと断ることも出来ない自分の立場がもどかしい。
「今日は?」
「
…
入ってないです
…
」
というか、この家以外に担当している物件は持っていない。という事は、毎回こうなる事が決定したのだが、武道はバカなので、まだ気が付いていなかった。
「じゃあ一緒にやろーぜ」
竜胆は再びにこにこと笑みを浮かべた。
それからというもの、武道が灰谷家に仕事で訪れると必ず竜胆がいるようになった。
「なぁ、早く終わらせろよ」
竜胆にとって、武道はハウスキーパーではなく、ゲーム友達みたいになっているようで、仕事の最中から一緒に遊ぼうという催促が激しい。
「はいはい分かりました。終わる迄大人しくしてて下さいよ」
「分かった~」
そう言いながら、全然分かっていない竜胆が、背後から武道の背中にのしっと乗っかってくる。そうなると、自分より十センチくらい背が高い相手を引きずるようにモップをかけるしかなくなる。はっきり言って仕事の邪魔だし、余計に時間がかかるし、竜胆の重みが腰にきてヤバかったが、下僕の身分としては黙って働くしかなかった。
こんな風に、竜胆は散々武道の仕事の邪魔をしては、終わるとゲームで遊ぼうと毎回誘った。断れない武道は竜胆と遊ぶところまでが仕事の一環と思う事にした。そして気が付いたら、遊び終わったら夕飯を一緒に食べるという流れになっていた。どんどん竜胆と過ごす時間が長くなっていたが、鈍い武道は気が付いていなかった。
下僕になれと言われた時は、どうなる事かと武道は思ったが、竜胆は遊びの誘いを断らなければ武道に優しく接してくれていた。遊んだ後は夕飯をご馳走してくれ、自宅前迄車で送ってくれる。夕食代も帰りの交通費も浮くので、武道の貯金も増えて、デメリットは感じていなかった。どちらかというと、遊んで楽しんだ上に、美味しいものを食べさせて貰えてと、良い思いしかしていない。それに、竜胆は思ったより付き合いやすかった。派遣先の依頼主の弟という立場なのだけれど、まるで中学校のダチのように感じる時もあるくらいに気楽だった。もちろん竜胆の方が年上で、同級生のあっちゃん達とは違う感覚なのだけれど。
この若さで、こんな豪華なマンションに暮らしている灰谷兄弟が、何か悪い事をして金を稼いでいるのは分かっていた。だから、あまりお近づきにならない方が良いのだろうと思っていた。でも、竜胆は武道に優しく接してくれるせいで、竜胆の誘いを断る事も出来ず、ずるずると仕事終わりに遊ぶ事を繰り返していた。
「そいつ誰?」
武道が声の方に目を向けると、前髪を真ん中分けし長い髪を三つ編みにした綺麗な人が立っていた。竜胆よりも更に背が高く、リビングの床に胡坐をかいてゲームをしていた武道は、思いっきり見上げる羽目になった。すらりとした体形に、小さな顔を彩る黒髪と金髪のカラーリングされた髪。一度見たら目が離せない魅惑的なアメジストの瞳は宝石みたいだ。顔だけ見たら一瞬女性かと思ったけれど、体形は男性の骨格で間違いなく、モデルのようにスタイルが良かった。モデルのようにではなくモデルか、そうじゃなければ芸能人に違いなかった。キラキラとしたオーラが半端ないのだ。
そんな美しい顔立ちの男性が、ゴミでも見るような視線を武道に投げかけていた。
なんでそんな目で? と、武道は不思議に思いつつ、背筋がゾクッとするくらい、めちゃくちゃ怖かった。黒髪と金髪が交互のカラーリングが、あの日拾った髪の毛の答えだと気が付いた時、武道は竜胆の兄としっかり視線を交わしてしまった後だった。
「兄ちゃん」
横にいた竜胆が、マズイという声色で呟いた。やっぱり「絶対目を合わせていけないお兄さんの方の灰谷蘭」なのだと、武道の心臓は止まりそうだった。
「竜胆、知らない人間を家に入れたら駄目だって、兄ちゃん何度も言ったよな?」
蘭は怒鳴らなかったが、醸し出す雰囲気で、かなり怒っているのが分かった。静かな言い方が、怖さを増幅させ寒気がする恐ろしさだ。それは、機嫌を損ねた竜胆の出す怒りオーラを十倍にした感じだった。
「こいつはハウスキーパーだって」
「ハウスキーパー?」
なにそれ? と、蘭が小首を傾げる。その姿すら絵になるので、武道は怯えながらも、美形って恐ろしいと目が離せなかった。
「そうだよ。兄ちゃんが依頼してるだろ?」
竜胆の言葉に、蘭はああという表情を浮かべた。
「じゃあ、なんでハウスキーパーが、おまえと一緒に遊んでるんだ?」
思い出したが、目の前の状況に、蘭は納得がいかないようだった。そりゃそうだと武道も思うので、雇い主の蘭にしてみれば、もっとそう思うだろう。
「俺が頼んだんだよ。タケミチは渋ってたんだけど。俺が一緒にゲームしたくてさ。独りでやってもつまんねぇーじゃん? 兄ちゃんはゲームやらねぇし
…
」
あの竜胆がビビっている。竜胆が蘭に媚びるさまを見て、武道はこの家の上下関係をしっかりと把握した。主導権は圧倒的に蘭にあるのだと。竜胆のヤバさなど、蘭に比べたら赤子同然だった。その蘭にじっと見つめられて、武道は生きた心地がしなかった。蛇に睨まれるカエルの気分だ。
「うちでやるな。そいつは帰しとけ」
暫く無言で武道を見据えていた蘭は、簡潔にそれだけ言うと、リビングから出て行った。廊下の向こうで扉が閉まる音がしたので、蘭は自室に行ったようだ。武道だけではなく、隣にいた竜胆もハァと止めていた息を吐いた。
武道はこの契約を切られたらどうしようと、心細くなっていた。自分にしては珍しくちゃんと働けていたのに、また家賃が払えない生活に逆戻りになるのかもと思うと悲しくなった。まだ、毎月の生活をするのがやっとで、貯金までは出来ていなかったから、収入が途絶えるのは死活問題なのだ。この仕事をクビになり収入が無くなれば、来月にはアパートを追い出されて、今度こそ路上生活者になるかもしれない未来が見えた。
「ごめんな」
竜胆に謝られて武道は驚いた。声色で本当に竜胆が悪い事をしたと思っているのが伝わってくる。
「絶対タケミチがクビにならないようにするから」
しかも、優しい言葉までかけてくれる。武道はぶわっと感情が湧き上がるのを感じた。目の奥が熱くてじわじわと涙が滲む。
「あ
…
ありがとうございます」
蘭のあの怒り具合だと望みが薄い気がしたけれど、竜胆が本心で言ってくれているのが分かったので、武道はお礼を言ってぺこりと頭を下げた。それから、仕事道具の入ったリュックを担いで「俺、帰りますね」と立ち上がった。
蘭が自室から出て来るまでに退散しないと、今度こそ殺されるかもしれない。いつも意地でも自宅まで送ってくれる竜胆は、玄関まで見送るのみだった。それくらい竜胆が蘭を恐れているのだと伝わってきて、余計に絶望感が襲ってきた。武道は涙をこらえながら、そそくさと灰谷邸を後にした。
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