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かいえ
2025-02-23 17:53:15
19827文字
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【灰武】派遣先のものすごく怖いのに格好良くて綺麗な兄弟に迫られて困っています! ①
ハウスキーパー見習いの武道が、派遣先の灰谷兄弟に迫られる話
19,815文字
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その日、いつもと同じように武道は灰谷邸の仕事に入った。慣れてきたせいか、今回もすこぶる順調で、調子に乗って鼻歌交じりで掃除をしていた。あの武道が同じ会社で二ケ月も仕事が続いていて、尚且つ、三ツ谷や千冬からも褒められて、気分が良くならない訳が無かった。給料もしっかり貰えたおかげで、ホームレスの危機は去り、社長は「このまま灰谷邸は花垣君に任せても良いかもね」と嬉しい事を言ってくれたから、武道は有頂天になっていたのかもしれない。
灰谷邸には週二回しか入っていないが、見習い価格だとしても、他の顧客より給料が格段に良いので、それだけでも、切り詰めればぎりぎり生活出来るくらいの稼ぎになった。後は、灰谷邸以外の新しい派遣先を紹介して貰えれば、給料も増え、もっと綺麗なマンションに引っ越しとかもできるかもしれないと、武道は密かに希望を持ち始めていた。それには、掃除以外に料理も出来るようにならないと無理という事で、武道は空いた時間は、地道に料理の練習をしていた。ただ才能が無いのか、どれだけ頑張っても料理の腕は上達する兆しは見えなかった。それでも、受け持っている仕事が順調だという事実は、武道に自信をつけさせるには十分だった。
バスルームの掃除をしていて、洗面台の下にきらりと光る髪の毛が落ちている事に武道は気が付いた。拾って捨てないとと、しゃがんで落ちている長い髪の毛を親指と人差し指で摘まんで拾う。短い金髪だと思ったのに、蛍光灯の下で見れば、髪は光る部分と、光らない部分が交互にある長髪だった。じっくり観察すると、黒髪と金髪が交互になっている変わったカラーリングになっている事が分かった。そして下の方の2/3は波打っている。一体どんな髪型なのだろうと武道は興味を覚えた。今度、あっちゃんに話してみようと、その髪の毛をポケットに入れようとしたところで「おまえ誰?」と、剣呑な声を掛けられて、武道は固まり、口から心臓が飛び出そうなくらいびっくりした。
いつのまにか住人が帰宅していたのだと青くなる。住人と顔を合わさないというのが、ここでの最低条件だったのに、自分の真後ろにいる気配を背中に感じて、どうしようと、武道は気が遠くなった。その時になって、自分が少し浮かれていたのだと武道は思い知っていた。この仕事は、もっと緊張感を持ってしなくてはいけない仕事だったのだと後悔したが、今となってはどうにもならない。折角仕事に慣れたのに、クビになるかもしれないという現実に、武道は下唇を噛んだ。背後にいる住人は武道と同じようにしゃがんでいるようだ。武道はひとまず振り返らないでいようと心に決めた。
「兄ちゃんの髪の毛をどうする気?」
武道が何も言わないせいか、住人の声は低く苛立っている。武道といえば、住人に言われて初めて、自分のした事の重大さに気が付き、ハッとさせられていた。
軽い気持ちで持って帰ろうとしてしまったけれど、顧客の家のものを持ち帰る事はご法度だった。例えそれがゴミだとしても窃盗になるのだと、研修の時に散々言われていたのを思い出して青ざめるしかない。緊張で喉がからからになっていた。住人と顔を合わせないとか、そういう次元の問題では無くなっていて、もう、どうして良いのか武道には分からなくなっていた。
「か
…
か
…
変わった
…
カラーリングだったから
…
びっ
…
び
…
美容師の
…
友達に
…
見せてあげようかと思って
…
盗むつもりじゃなかったんです! すみませんでしたっ!」
どうしようかと一瞬逡巡して、武道は振り向きざま土下座した。ダークブラウンのレザー製スリッパの先が目に入って、慌てて額を床に擦り付ける。これなら顔を合わせた事にはならない筈だ。どうしても、この仕事を辞めたくなくて、武道は必死だった。この先、これ以上武道に合う職場は無い気がしていたのだ。
「なんで?」
「あ
…
あの
…
すげぇ綺麗だなと思って
…
」
もう何もかも素直に話すしかないと、武道は腹を括った。
「ふーん。美容師の友達って彼女?」
「彼女じゃないっス! あ、ないです
…
あの
…
ダチです
…
男の
…
」
「おまえの髪質じゃ兄ちゃんのマネは無理じゃね? どうせマネするなら、俺のにしたら?」
「え?」
「ほら、見てみろよ、俺の髪型の方が、絶対、おまえに似合うと思うけど?」
どうやら、ここの住人は、武道がヘアスタイルを真似る為に、美容師の友人に髪の毛を見せるのだと勘違いしているようだった。しかし、いくら見てみろと言われても、武道は顔を上げる勇気が無かった。絶対顔を合わせてはいけないという鉄則が、武道を縛っていた。
「なぁって」
苛立った言葉と共に、目の前の住人に前髪を掴まれて、ぐいっと顔を上に引っ張り上げられる。武道はヤバいと思い、思わずギュッと目を閉じた。
折角生活が安定してきたのに、こんなところでチェンジされるのは嫌だった。掃除しかできない武道が訪問できる派遣先はまだ一軒も無い。それに、まだ武道の代わりの人材は見つかっていなので、チェンジされたら、このお得意様との契約が無くなってしまう。そうなったら、絶対クビになる自信が武道にはあった。だから、それだけはどうにか回避したいと切に思っていた。
「どうして、そんなに俺を見ようとしないワケ? 俺の事メデューサだとでも思ってんの?」
住人の声は、とても苛ついていた。
「その
…
絶対見てはいけないと、会社からに言われておりまして
…
」
武道は掴まれた髪の毛の痛みに耐えながら、しどろもどろ説明した。すると住人は「ああ
…
そういう事か。それはさ、兄ちゃんだけだよ。俺は大丈夫」と武道に言ってきた。 「そうなんですか?」と言いながら、武道はその言葉を信じていなかった。けれども「だから早く目を開けろって」と、更に高圧的になった物言いに負け、武道は恐る恐る目を開ける事にした。
思ったより至近距離に、丸い金縁の丸眼鏡を掛けた若い男の顔が見えた。金髪に水色のメッシュを入れて、真ん中分けした髪をサイドに流している。想像より若くてびっくりした。
こんな高級物件の住人だというのに、武道とあまり年が違わないのだ。それから、驚くほど美形だった。金縁の丸眼鏡の向こうは垂れ目の優しい感じ。でも、自分の前髪をこんな風に平然と掴んでいる時点で、きっと堅気の人じゃないと、武道は即座に思い直した。
「結構かわいい顔してんじゃん。名前なんて言うの?」
まるでナンパのように話しかけてくる。
「は
…
花垣武道です
…
」
「俺は灰谷竜胆。竜胆で良いよ」
思ったよりフレンドリーな住人で良かったけれど、いい加減髪の毛から手を放して欲しいと、武道は健気にも痛みに耐えていた。
「じゃあ、タケミチは今日から俺の下僕な」
「えええ? 下僕ってどういう事ですか?」 やっぱり堅気の人じゃなかった! と、武道は青ざめて叫んだ。
「俺んちのもの、たとえ髪の毛一本でも持ち帰ったら、タケミチは窃盗罪で、クビになるんじゃねぇの?」
「うう
…
」
痛いところを突かれて、武道はぐうの音も出ない。
「俺の言う事を聞くんだったら、この件は不問にして派遣元には内緒にしてやるよ」
武道が逆らえない事を、竜胆は知って言っているのが、ありありと武道に伝わって来る。脅迫する事に慣れ過ぎていて恐ろしい。そして、ニヤニヤと笑みを浮かべる竜胆の、 会って数分で分かるサディスト気質に、武道は身震いするしかなかった。
詰んだと武道は観念した。武道は成す術もなく竜胆の言葉に全面降伏したのだった。
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