山城まつり
2025-02-20 21:30:19
13790文字
Public 【馬子軸スーリニ】レヴリの紅玉
 

【馬子軸スーリニ】レヴリの紅玉#02

Ep.2です~~~~!!!!
Ep.2だけどもうなんだか終わりが見えてきました
あとひとっ走りで完結するかも……!ここからの展開、どうにかしたいですね…最後までミステリーで頑張りたいです

(追記:2025.2.21 修正しました)


レヴリの紅玉 シリーズ▼
https://privatter.me/user/YamashiroMatsuri?category=66492

前回#01▼
https://privatter.me/page/67b5d34ff14a6


アスナショウコ様宅【レゾン・デートル】から四宮椿さん、市ノ瀬咲良さん、大河カレンさんをお借りしております。お貸しくださって本当にありがとうございます。

本作は自創作【suicidal/leniency(スーサイダルリニアンスィ)】を「馬子軸」(現代ファンタジー)に落とし込んだ作品です。何度でも言いますが、作者自身、馬子軸に関してど素人中のど素人ですので、間違った解釈などあるかもしれません。本当にすみません。
また、本シリーズは【suicidal/leniency】本編のネタバレを含みますので、「ネタバレNG!」という方は閲覧をお控えください。作者的にはスーリニはネタバレありきの方が面白いと思っております……。

スーリニ原作が気になってくださった方におかれましては、以下に本編リンクを載せておきますのでよろしければご覧ください。現在Prologue~Karte03まで読めます。

▼suicidal/leniency本編
https://novel.daysneo.com/works/3870c9c909042fb07a363f371caeee59.html


それでは、皆様にとって良い時間になりますように。


イリュソリア・クリニック。
正式名称を、『パリ特定医療・研究機構 イリュソリア・クリニック・エニグマ医学会』というそこは、シメリス中央病院より小さな医院だった。ライムストーンで統一されたアイボリーの壁。南向きは一面が硝子窓で、日当たりがよく、灼熱の太陽が照り付けている────最も、フランスの夏は日本ほど凶悪ではないのだが。
その窓にはグリーンカーテンが掛けられ、病院の周りはぐるりと庭木が植えられていた。椿が「コニファーだな」と種類を明かす。針のような細い葉が密集したそれ……そしてその足元に植えられた花々。レトロ、というのは日本の言い方だろうか。ヴィンテージ……というのが正しいか。兎も角、知識のない俺から見ても「お洒落」という言葉が脳裏を占めるような外観だった。
院内に入ると、背中に浮いた汗の玉が徐々に冷やされて姿を消す。シメリス中央病院ほどの規模こそないものの、そこは多くの外来患者で混雑していた。大河が「涼しィ~~~~~!!天国ですねェ~~~~~~!!」とばっと手を広げて空調を満喫する。やめろ、恥ずかしいやろうが、と俺は彼女を小突いた。椿は迷う素振りを見せずに受付に足を進め、「四宮。フランス神秘管理局の要請で来た者だ────そう言えば通じるか?」と此処を訪れた理由をフランス語で仄めかしていた。
大河を引き連れて彼女のもとへ歩みを進める。


「神秘管理局……『例の疾患』研究の、関係者ですか」

「そうだ」

「分かりました……院長先生にお話してきます」


受付をしていた女性が、一礼して引っ込んだ。
人間、手持無沙汰になると周囲を観察したくなるものだ。俺は目新しいその病院を見回す。入口の自動ドアを潜って目の前にあるのは広々としたエントランス。そこにワインレッドの長椅子が8列設えられており、外来患者が腰掛けている。その椅子の正面にあるのが受付。受付の右には大きなコルクボードが壁に掛けられ、病院の広告やスケジュール、予防接種の案内などが所狭しと貼ってある。受付の左はもう一つのカウンターがあり、奥には白衣の人間が棚に囲まれてキーボードを叩いていた。……院内薬局か。そのカウンターを掲示板側、つまり右側に進むと────その先にあるのは診察室だ。目を凝らせば、その奥にはもう一つの自動ドアがあり、先は恐らく入院病棟だ。非常にシンプルで、理想的。必要最低限の、完成された空間だった。


「えと、シノミヤ……さん。今から30分で良ければ、院長先生が開けられる、と……


受付に再び戻ってきた女性がおずおずとそう告げる。カウンターの前で待っていた椿は「十分だ、感謝する」と答えた。そのフランス語は非常に流暢で、彼女の叡智を物語っている。


「ありがとうございます。それでは、1番診察室へどうぞ」

「あぁ。咲良、カレン、行くぞ」

「アイアイサー!!」


とてとてと椿の後を追った大河から少し距離を置いて、俺も診察室のドアを潜る。その先はやはりシンプルな白い空間で、外観のヴィンテージ感からは想像がつかないようなモダンな雰囲気を覚えさせた。脚から作業スペースまでがひとつの曲線を描いた白いデスクに、ワインレッドのチェア。背もたれは化学繊維で構成されているが、安っぽい印象は感じない。机の上には大きなデスクトップパソコンが稼働しており、此処もまた、フランスの医療の最先端であると確かに物語っていた。


……ようこそフランスへ、日本の医療を担う皆さん」


そこに座る男のダークブラウンの髪がはらりと肩にかかった。グレーの瞳は、若干の憂いを浮かべており、頬はやや痩けていた。医者なのに患者みたいな男や、と失礼ながら思う。
捲られた白衣から細く骨ばった腕が覗いている。血管が浮き出ているのは決して年齢のせいだけではないだろう。……彼は俺達を見上げ、日本語を紡ぐ。若干の訛りがあるものの、それは綺麗な色をしていた。


「イリュソリア・クリニックの院長をしています、イアサント・マルシャンです……お見知りおきを」

「イアサント?それも何処かで────あァァッ!!思い出したァ!!スアサイダル医療の医薬品の論文の人ですよォ!!助さん格さんの!!!」

「やめろや!!!本人やぞ!!!!」


大河が彼を指さして大声を上げるので、俺は彼女の腕をひっ捕まえて叱り飛ばす。すみません、すみませんと二度謝っておく。頭を下げたのは4回だ。この莫迦が。……マルシャン院長はいえいえ、と眉を下げた。


「イアさんとさん?マルしゃんさん?いやァ~~~~、日本に生まれなくてマジで幸運でしたねェ」

「ちょっと黙っとれ!!!……いや、本当にすみません。悪気はないんです、多分」

「はは、大丈夫ですよ。此処最近暗い話しか聞いてこなかったものですから……笑い声を聞くのは心地がいい」

「すみません……


隣でまだ笑いを堪えて震えている大河を睨みつけ、もう一度頭を下げる。
それを横目で見た椿は、「お前がスアサイダル症候群の治療薬を研究しているというイアサントか」と彼を見定めるように見つめた。マルシャン院長はその視線に恐縮したように小さく頷く。


「研究、というよりもう臨床まで進んでいます。ただ、外科手術が第一選択であるためにあまりこの薬の存在が他国まで回っていないのです……実際には、もうスアサイダル症候群は手術でしか治せない病ではありません。きちんと服用を続ける事は必要ですが、薬で完治させる事も出来るのですよ」

「椿、聞いてた話と違うじゃないですかァ」

……外科手術に重きを置きすぎて内科治療の情報が回ってこなかったか。その医療品について詳しく」

「『レヴリカ』という薬です。主成分は遺伝子改良を加えたアデノウィルスにその働きを補佐する───すみません、特許の申請中ですので詳しくは言えないのですが、要するに……腫瘍溶解作用のある成分、それを補佐する成分と、ケタミンなど精神状態を安定させるもの。『レヴリカ』は腫瘍摘出による根治ではなく、腫瘍を溶かして破壊、分解する事で患者を治療するお薬です」

「溶かして、分解……


それは、全く新しいスアサイダル症候群の治療方法。
風邪の原因とも言えるアデノウィルスは腫瘍溶解ウィルスとして、癌治療でも治験が進んでいると耳にしたことがある。腫瘍細胞でのみ増殖させ、破壊する。それを、スアサイダル医療でも使おうという話らしい。
身体を開く事なく腫瘍を取り除けるそれは、医療の革命と言っても差し支えない。特にこの病を秘匿しているフランスにとっては、初期症状が出た時点でさりげなく治療を開始し完治させる事が出来るのだから。病を隠しながら、的確に治療が出来る。外科医療の適応がない患者でも、この薬があれば救える。……天才や。俺は素直に彼を、そう思った。
隣の椿も「面白いな」と笑っている。


「その薬を用いて、お前は実際に臨床を?」

「ええ。現時点で完治率は100%です。いえ、自慢ではありませんが」

「素晴らしい。ならば、そんなお前にならこの症例も治せるか?」

……どういう意味ですか」


マルシャン院長は椿の発言に眉を顰める。そんな彼に、笑みを崩さないまま資料を手渡す椿────それは、シメリス中央病院でコピーを取らせてもらった症例だった。ガスパール・ボネとカミーユ・ゴーディエ。そこに東医で診たヴァンサン・ジラール……全て、故人のものだ。
彼らは、と院長は凝視する。灰色の瞳がぎょろぎょろと動いてカルテを舐め回していた。次いで自らのデスクトップに目を落とす。カチカチ、と素早いクリック音が反響した。
間違いない。彼は何か知っとる。俺は確信した。


……全員、当院に通院歴があります」


院長は厳かに、そう告げた。
その額に、汗が滲んでいる。


……ならばこちらの症例は?クロエ・シモン……此処の看護師なのだろう」

「此処の看護師、でお察しかと思いますが……彼女の初診をしたのは私です。しかし当院には適切な心理治療を出来る専門医がいません。それで、シメリス中央病院の精神科を紹介したのですが────彼女、その後再発しまして。こちらの治療では確実に腫瘍を溶かしました。それは検査結果が物語っています。それなのに……!」

……シメリス中央病院の精神科を、疑っているのか」

「はい、と言えば確執を感じてしまうかもしれませんが……正直。心理治療の過程で何か精神に負荷をかけ、再発したとしか。ヴィーヴィルは幻想種。神秘に都合の良い土壌を好みます。一度神秘に侵され、その世界から逃れられない患者が再び精神を病むような事があれば、それはスアサイダルの恰好の的。それに……


院長はそこで一度言葉を区切った。そこには、確信とまではいかないがそれに近しい感情があった。そして、強い憤りと嫌悪があった。
……それに?俺はそう繰り返す。急かすつもりはなかったが、その先が気になって仕方がなかった。


「────クレマリー・ルーヴィルを知っていますか」


彼はそう、思わぬ名前を出した。
……クレマリー・ルーヴィル?
それは、俺たちの知る────あのクレマリー先生だと言うのか?


「クレマリーさんですかァ?シメリス中央病院の先生の、なら知ってますよ」

「クレマリー先生が、何を、」

……私は仕事柄、彼女と顔を合わせた事があります。それが……一致するんですよ」


彼は、真実を告げようとしていた。
フランスに秘匿された、神秘に隠蔽された、真実を。
俺は息をするのも忘れて続きを乞う。
残酷に、冷静に、それは語られた。


「────一致するんです。私のもとを訪れたスアサイダル症候群の患者が、最後に会話した人物の容姿と」