かいえ
2025-02-02 11:15:16
4035文字
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【蘭武】プライベートビーチまであとちょっと【モデ蘭ちゃん番外編】

無配本「マジでクソカワなんだけど!」に書き下ろして掲載したもの
竜胆視点
4,033文字
時系列的には「海と俺とどっちが好き?」(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18753421) 「南の島に行ってくる」(https://privatter.me/page/679b943008457) の後で「六本木の怖い夜」(https://privatter.me/page/679ce5c32ca0b) の前です



「おかえり。随分楽しそうじゃん?」
 ホテルに戻った二人を待ち受けていたのは寝起きの蘭だった。ホテルのドアの内側で仁王立ちに立っている蘭は不機嫌を露わにした悪鬼のようで、見る者の心臓を凍らせるような恐ろしさがあった。そして、その言葉には「オレ抜きで」という嫉妬心が色濃く滲んで聞こえてきて、竜胆は瞬間的に危険を察知していた。
 そういう次第で「はい、兄貴、水着買って来たよ」と、蘭が切れ散らかす前に、竜胆はサッと武道を蘭の前に素早く差し出していた。まさに生贄である。蘭は上から下まで布で隠れている水着姿の武道を見て満足したみたいで、あっという間に眉間の皴を消し、不機嫌オーラは霧散してしまった。
「蘭君、これ見て! すげぇかっけぇでしょ? 蘭君の分も買って来たから一緒に海に行きましょう!」
 そして、武道がにこにこしてそう言うと、あっという間に機嫌を直してしまった。
「本当だ、すげぇ格好イイじゃん。竜胆の見立てかよ?」
「そうっス! そういう訳で、蘭君も早く水着を見て下さい! あ、その前に日焼け止めクリームを塗りましょう! スーパーモデルが日焼けしたら怒られちゃいますもんね」
「ハナガキが塗ってくれんの?」
 蘭が目じりを下げて蕩けそうな笑みを浮かべたから、傍で見ていた竜胆は、蘭のデレ振りに赤面して、思わず目を逸らした。そして「オレも着替えてくるわ」と、その場から逃げ出した。
 竜胆が水着に着替えて戻って来ると、武道がリビングで蘭にせっせと日焼け止めを塗っている最中だった。蘭は終始上機嫌で、ちょこまかと自分の世話をする武道をにこにこして眺めていた。
 今までだって女とイチャつく蘭を見て来ていたのに、それとは全く次元が違う蘭の態度に、恋ってどこまで人を変えてしまうのだろかと思うしかない。
「準備OKです! さぁ、行きましょう!」
 武道が元気いっぱいに立ち上がっても、蘭は椅子に座ったままだった。
「蘭君、どうかしましたか? 塗り忘れがあります?」
「ねぇよ」
「じゃあ、行きましょう!」
「忘れ物」
「忘れ物?」
「行ってらっしゃいのキス」
「へ? 一緒に出掛ける時にも『行ってらっしゃいのキス』っているんですか?」
「いるに決まってんだろ? だって、この後何時間もキスしたらダメになるんだろ? それとも、ビーチでもキスしてもイイのかよ?」
「ダメ! それはダメっス! スキャンダル厳禁ですから! だって、蘭君はスーパーモデルなんですよ?」
「だよな? だったら『行ってらっしゃいのキス』も必要なの分かるよな?」
「そうっスね! 要りますね!」
 竜胆は二人の会話を聞きながら、意識は異世界に漂って行きそうになっていた。蘭の強引な理由作りにも呆れたのだが、そんなどうでも良い理由で丸め込まれている武道がチョロいと思った。
「じゃあ、ハイ」
 蘭が目を閉じて唇を差し出すと「あの、ちゅっとするだけですよ?」と、武道が恐る恐る確認する。
「分かってるって。焦らすなよ」
「だって、蘭君いつも」 
「オレ、外で待ってるわ」
 竜胆は慌てて席を外した。蘭が誰とキスしようが、どうとも思わなかったのに、今回ばかりはどうにも落ち着かない気分にさせられたのだ。
「あ、はい。直ぐに行くのでちょっと待っててくださいね」 
 武道はそう言ったが、この中でちょっとで済むと思っているのは武道だけだった。そのちょっと長めの「行ってらっしゃいのキス」が終わるまで、竜胆はホテルの廊下で待つ事にした。