かいえ
2025-01-31 00:01:04
2864文字
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【蘭武】南の島に行ってくる♡【モデ蘭ちゃん番外編】

モデ蘭ちゃんシリーズ5作目「海と俺とどっちが好き?」(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18753421) の直後の話
別ジャンルの友人が、ずっとココ君が生きているか心配していたので、ちゃんと生存しているから安心しなという気持ちで書いたお話
モデルの蘭ちゃん番外編でイヌピー視点
2,857文字

 梵天本部ビルの前は遠巻きに人垣が出来ていた。何か良くない事が起こったのかもと、乾は不吉な予感に慄き麗しい顔を蒼ざめさせた。
 乾は九井の指示通りの場所で、バイクにまたがり待機していた。その場でずっと武道を待っていたのだが、予定時刻を過ぎても武道が姿を現さなかったことに不信を抱いて、様子を見に来たら梵天本部ビルが、尋常じゃない緊張感に包まれていたのだ。

 予定通り進まなかった計画。
 姿を見せなかった武道。

 乾の想像は絶望的に悪い展開になり、早歩きしながら過呼吸になりそうだった。もしも武道に何かあったら、自分は生きていられないだろうと乾は思った。人垣をかき分け梵天本部ビルの階段を駆け上り、ロビー部分の惨状が目に飛び込んで息が止まる。
 細かく割れた玄関のガラス扉の成れの果てが、白い大理石の床を埋め尽くすように大量に転がっていた。床の上にはバイクの黒いタイヤ跡が二つ間隔を置いて奥に向かって続き、その向こうに横倒しになったバイクが二台見えた。
 何が起こったのだろうと、乾は武道の姿を探したが、梵天の幹部が数人と、その部下が数十人いるだけだった。その片隅に座り込んで頭を抱えている九井を見つけて、乾は慌てて駆け寄った。怪我でもしたのだろうかと、血の気が引く。
「ココ?」
「イヌピーか
 返事をするも、九井は虚ろな目をしている。さっと見た限りケガはないようで、乾はひとまずほっと胸を撫で下ろした。
「何があった? 花垣はどうした?」
「見たとおりだ。ロビーは無茶苦茶で、花垣は灰谷兄弟が連れ去った」
 そう言われて、改めて横倒しになったバイクを見ると、確かに見覚えがあって、灰谷兄弟が乗っているものに間違いなかった。灰谷兄弟とは同じチームに属していなかったが、総長クラスのバイクは、別のチームだとしても、誰だって覚えているものだった。バイクがここにあるという事は、灰谷兄弟は花垣を連れて徒歩で逃げたのだろうかと、乾は不思議に思った。灰谷兄弟の事だから兵隊に車でも待機させていたのかもしれないが。
 ともかく、予定とは違った展開にはなったが、花垣も九井も無事で、花垣は希望通り蘭に会えたのなら、この計画は成功したのと同じだった。乾が連れてく手間が省けたというだけだろう。
 それなのに、目の前の九井は憔悴し浮かない顔をしている。乾は、九井に何の不満があるのか理解できなかった。
「何か問題でもあるのか?」
「あるさ。あるに決まってんだろ? 見ろよ、この惨状を! SATが来たって大丈夫だって言っていたのに、灰谷兄弟がバイクで突っ込んだだけで、ビルが機能不全なっちまったんだぞ? これが問題じゃないなら、何が問題なんだ? 次は絶対強化ガラスにしてやるね。バイクで突っ込んできても跳ね返すくらい丈夫なやつな!」
 九井の話を聞いて、ようやく合点がいった。これはバイクが玄関のガラス製の自動扉に突っ込んできた結果なのだと。だからロビーの奥にバイクが倒れているのだ。灰谷兄弟がスタントマン張りのバイクアクションをした結果なのだ。反社の本拠地ビルに、バイクで突っ込んでくるなんて、灰谷兄弟は噂より数倍ぶっ飛んでいると、乾は感心してしまった。
 タイヤ痕はエレベーターホールに向かいまっすぐ伸びていたが、ブレーキをかけた辺りから横滑りしたのだろう、タイヤ痕は大きく円を描くように二手に分かれていた。その跡を見ているだけで、その時の情景が乾の脳内にまざまざと浮かび上がってくるようだった。バイクに跨った二人が、ガラス扉に突っ込んできて、同じタイミングで横滑りしながら左右対称に回転していく。それは、アクション映画のようで相当格好良かっただろうと思った。
「やるじゃん」
 乾の素直な感想に、九井が細く整えられた眉をピンと跳ね上げる。
「何が? この後始末は誰がやると思ってんだ? しかも、そこのタイヤ痕! もう最悪だって。大理石なんだぞ? この床にどれだけ金をかけたと思ってる?」
 九井は頭の中で電卓を叩きまくっているみたいだった。九井が金の事を考えているなら、通常運行だと不謹慎かもしれないが、乾はクスリと笑ってしまった。正直、花垣ロスで九井がどうにかなってしまうのではないかと、乾は密かに心配していたのだ。
「何笑ってんだ?」
 乾の笑みにイラついた九井が、乾に掴みかかろうとした瞬間、九井のスマホが振動した。事が無事に終わるまでと消音にしていたのを思い出した。
 九井は乾のつなぎの胸元を掴んだ手を渋々外し、上着のポケットに入れたままのスマホを取り出した。そこには、 新しいメッセージが一件入っていて、差出人は灰谷蘭だった。

 ハナガキから話は聞いた。ありがとな。バイクは二台とも乾にやる。オマエには別の礼をする。
 俺たちは南の島に行ってくる♡

 言いたいことだけ打ったメッセージに、九井は怒る気力もなく、はぁと、長いため息をついた。また海外逃亡かよと、ぽつりと呟けば「へぇ」といつの間にか乾と九井の背後にイザナが立っていた。
「うわっ!」
 驚いた九井が驚いて飛びのく。
「雇い主にそこまで怯えんなよ。それとも、疚しいことでもあんのかよ?」
 イザナの言葉に、乾と九井は内心ギクリとする。
「さっきは灰谷兄弟と通じてんのかと思ったけど、そうでもないみたいだな」
 九井はイザナの言葉に、表情を蒼ざめさせている。
「まぁ、今回は不問にしてやるよ。だが、次はない。分かってんだろうな? あと、あいつらが帰国したら、万次郎が武道に会えるように手配しろ。それで、ちゃらにしてやる」
 イザナは言いたいことだけ言って去っていった。面倒な条件だったが、蘭は乾に感謝する気持ちは持っているようだったから、達成はそんなに難しくないだろうと九井は思った。九井は、乾と自分がお咎めなしだったことにホッとして、盛大に脱力していた。
「なんか、疲れたな」と、九井が呟くように言った。
「そうだな」と、乾が答える。
「なんか、うまいもんでも食いに行くか」
「そいつはいいな」
「そうだ、ドラケンにこのバイクを引き取りに来るように言ってくれ」
「分かった」
「後は乗るなり売るなり好きにしろ」
 九井はそう言うと、ようやく座り込んでいた床から立ち上がり、尻の部分をぱんぱんと両手で払った。
 乾はドラケンに電話をして、店の軽トラで梵天本部ビルまで来るように依頼した。ドラケンは有休を取っている乾から仕事の電話がかかってきて、不可解な反応をしていたが、ともかくバイクは引き取りに来てくれることになった。
 電話を終えた乾は、そういえば、東卍のみんなにも、ある程度今回の事を説明しなくてはいけないことに気が付いた。みんながどんな反応をするか分からなかったが、花垣が幸せなら、それが正解なのだと乾は思っていた。
 それから、九井と連れ立って美味い中華を食べに行った。親友の愚痴を思う存分聞いてやるのは、自分の役目だと乾は自負していた。