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豆炭々炬燵
5310文字
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モアナと伝説の海シリーズ
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【マウモア】悴む夏
モア海2の世界観で半神半人の英雄と無垢な勇者、果たして余裕がないのはどちらなのかの話。映画ネタバレ独自解釈捏造要素有。
前の話→
https://privatter.me/page/678654b43d7aa
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新築特有の真新しい香り。そこに住んでいる者の癖をまだ覚えられていない敷布の感触を背中に受け目を瞑った。
両手を広げても余裕でぶつからない距離を置き忘れないうちに「おやすみ」とモアナが言えば、欠伸を噛み殺した眠たげな声音で「ああ、おやすみ」とマウイが返す新しい日課にはにかみ遠くで聞こえる波音を子守唄に眠り。
そして、星たちのお喋りが最高潮の時間帯、稀に目を覚ますモアナは寝たふりを続ける事になる。
丸太並みに太く鍛え抜かれた筋肉腕枕。普通に頭を乗せれば首が窮屈に曲がってしまい気道が狭まるため、二度寝すべく寝易い場所を求めもぞもぞ動き最終的にタトゥーの刻まれていない脇の窪み付近に緩く収まる形で毎度頭を置き直した。
寝苦しさがささやかに緩和された人肌の温もりに溢れる峡谷。その密着した体勢に未だ慣れないモアナは毎夜こっそり抜け出すのを試みては悉く阻止された。気恥ずかしさで火照る頬の熱を逃がしたくても眼前に聳える逞しい胸に憚れてしまい後退しようにも重たくて丈夫な蔦が体に巻き付いている所為で動けず仕舞い。
「(でも、明日の朝になったら
……
)」
何事も無かったようにマウイは振舞う。
なにせモアナが目覚める頃には疾うにマウイは眠る前の場所に戻っていて、昨晩の事を彼女がしたり顔で指摘しようものなら「俺はここから動いてないぞ」「寝惚けてたんだろ」「にしても、お姫様は随分情熱的な夢を見るんだな?」と照れさせる筈が逆に揶揄われ赤らめた顔を背けなければいけない事態に陥って以来訊いていない。
「(
…
特に初めて彼の腕に抱かれ目覚めた翌日は大変だった
……
)」
まさにその一言に尽きる。
あれは自分が無意識に彼にして欲しい事を夢で見てしまったのかもしれない、なんてモアナが悶々とした気持ちでその日一日過ごす羽目に終わらずそんな日に限って仕事が山のように押し寄せてきた。
ケレから畑の拡張に伴い新しい用水路制作に関しての相談。
祖母タラのも含めた先祖達から受け継ぎ現在に至るまでのタパの劣化を遅らせる方法をモニと共に試す約束。
他の海の民と繋がった事でロト筆頭に異文化交流を積極的に図りたい者達への窓口役。
伝統航海術の指導、突発的な来客対応、催事日程の微調整等々。
合間に小休憩を挟んで曲がりなりに捌ききったものの疲労困憊の割にやり切った感なぞこれっぽっちも無かった。
何をしようにもマウイを変に意識してしまい気が漫ろで島内の仕事に身が全く入らない。仕事をしている間だけでも忘れたいのに剥き出しの肩や足に絡みつく彼の熱を忘れたくても忘れられないもどかしさを隠すため変にぎこちない顔をしていた自覚が大いにあった。
モアナは小休憩中頻りに二の腕を擦って掴んだり、熱を冷ますため頭まで海に浸かったりと如何にかやり過ごすべくあれやこれや試した。だが、マウイの熱を冷ますのに躍起になればなるほど彩り豊かに息を吹き返す。
「逆効果じゃない」
山のようにあった仕事を一通り終えたモアナが仕事中散々言いたかった愚痴を砂浜に零した。波打ち際で一人膝を抱え顔を揃えた膝に埋めた序でに特大の溜息も吐いた。
胸の内に溜め込んだ複雑な想いが太陽に愛された瞳を揺らめかせ熱を宿らせる。
「──私ばっか意識してる」
マウイに抱いていた友情や尊敬の念、親愛他
…
、彼が自分にだけ向ける視線の意味を知って芽生えた新たな感情は想像以上に厄介極まりなかった。それは日に日に勢力を拡大させていき情け容赦なくモアナを戸惑わせ狼狽えさせた。
彼の声はおろか微かな吐息でさえ備に耳が拾い、視線を感じようものなら髪に隠れたうなじがこそばゆくなって、ちょっと大きな指先が掠っただけで心臓が跳ね上がる。
「口付けだってまだなのに
……
」
滝の裏側にある洞窟でするものだと思っていたのを今の今までしていない。手持ち無沙汰で火照った耳を揉めば蕩ける熱さが指の腹に伝播した。
いっそ強気に攻めれば万事解決という短絡的な発想が脳裏を高速で横切っていくのをモアナは横目で流す。
「
…
そんなの出来れば苦労してない
……
」
相手からされた事をそっくりそのまま返したくても都度緊張で二の足を踏み意気込みだけを見送るのが関の山。
以前それでもなけなしの勇気を振り絞ってするも待ち構えていたマウイにまんまと意趣返しされ心拍数と体温を悪戯に上昇させた。
モアナに抱き着かれた所でびくともしない彼がわざと後方に倒れ込み屈強な体の上に彼女を乗せ、あろうことか咄嗟に胸の上に着いた細い手を掴むなり。
「積極的じゃないか巻き毛ちゃん」
耳元に顔を寄せ囁くのだ。低く耳触りの良い声が呼吸の仕方を忘却の彼方へ旅立たせ、泳ぐのもままならない目をゆるゆる焦点が合うまで離れた愛おしげに見上げるやわい目とかち合う。
あからさまに自ら押し倒された状況を作り楽しむマウイの空いている手がモアナのくびれた腰を捉え引き寄せた。相手の上を取っている優位な体勢を難なく覆す余裕に満ち溢れたマウイの態度がモアナを酷く動揺させ茹蛸になる直前大きく優しい枷が外された。
「そら、もうすぐ飯の時間だ」
普段の明るい調子で身を起こした彼が腰をトントンと擦って下りるタイミングを促してくれたお陰でモアナは下りそびれずに済み、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで気分を落ち着かせる事が出来た。
地面に落ちていたモアナの視線が先に歩いていくマウイの背中を追う。悠然と歩いていた彼がやおら立ち止まり駆け寄ってくるのを待つ姿に速度を落とし始めていた鼓動が速まった。
「置いてくぞ」
極力平然を装い釣り針を担いでいる彼の隣へ駆け寄りそのまま何事も無く家路についた。
そう何事も無く、夕餉を二人で食べ、床に就いた。
モアナが今日こそあるであろうとドギマギしているのを余所に、マウイはあろうことか大欠伸をひとつして横になったのだ。
そして、夜更けに彼に抱き締められた緊張から碌に眠れなかったモアナが満更でもない気持ちでマウイに問い掛ければ──、後はお察しである。
「(彼の真意がまったく分からない)」
見栄を張り嘯いているとは思えない。だが、距離を縮める割に近付けばその分距離を取るのが分かり兼ねる。蝶よ花よ愛で慈しむマウイの優しさは嬉しい、嬉しいが寂しさを覚えるのもまた事実。
長い夜にモアナが眠気を手招きしていれば初めて屈強な枷が何の前触れもなく緩みだした。
「(熱冷ましに外、歩いてこよ)」
熟睡している英雄を起こさぬよう細心の注意を払い腕から抜け出したモアナは一旦動きを止め彼の寝息に耳を澄ませた。両手を寝ているマウイに翳し「起きなくて大丈夫寝てて平気よ」オーラを放てば口元がもにょり動き寝息を立てはじめたのでホッと胸を撫で下ろした。
星たちのお喋りに仲間入りすべくモアナは静かにタパを捲り夜のモトゥヌイに繰り出した。
夜番担当の家以外明かりの落ちた家々の間を抜き足差し足忍び足。見回りに見つかった所で如何という事は無い。ただ松明を持たないで島の天辺まで誰の目にも触れずに行けたら楽しいかもしれない、そんな思いで物音ひとつ立てずに駆けて行く。
「あっさり来れたわね」
山頂から見下ろせば兎角普段と変わらない平穏無事な夜を皆過ごしている。濃く深い土と湿った緑の香りを海風が運ぶ。
もう高くなる事は無い先祖代々積み上げられてきた石塔の隣に腰を下ろし、水平線を眺めている内にモアナは徐に瞬く星々に手を翳して距離を測り一拍置いて自分の行為に噴き出した。
「うん
…
また広い海を旅できるなら別に焦らなくても
……
」
浮かんでいた最後の言葉を口に出せない己自身に苦笑しては「でも、口付けぐらい良いじゃない」と不貞腐れた。頬杖をつき一人愚痴大会を開こうとした矢先、モアナの頭上から鷹の鳴き声が舞い降りたかと思えば後方に重低音を響かせマウイが着地を決めていた。
「あら、マウイあなたもっ!!?」
モアナの言葉を遮る勢いで彼女に抱き着いたマウイの表情は怯えに怯え、その巨体を丸めてしがみ付く様は普段の余裕に溢れ頼り甲斐のある彼から余りにもかけ離れすぎていた。
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