かいえ
2025-01-28 01:31:27
11615文字
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【マイ武】そのアイドルは恋をする ②

トップアイドル「東京卍會」リーダーのマイキーと、研究生の花垣武道のラブコメ
他のメンバーとは頻繁にご飯を食べたりしているのに、マイキーとは何故か行かない武道に、マイキーがぶち切れて主にドラケンが振り回されるお話
タケミチ愛されのアイドルパロ
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「なんで、こんな日にインタビューなんて入れるんだよ」
 東京ドーム3DAYS公演の最終日、ライブ直後に突然インタビューの仕事を入れられたマイキーは、何とか取材中は我慢していたのだけれど、終わった今は盛大にぶち切れていた。
「仕方がないだろ? いつも世話になっているライターさんのたってのお願いだったんだから」
 東京卍會の所属する芸能事務所黒龍のCEO佐野真一郎は、弟であり東京卍會のリーダーを務めるマイキーにやんわりと言い聞かせた。
少しは大人になったかと思っていたのだけれど、まだまだ子供なのだと真一郎は呆れたが、同時に可愛いとも思っていたから弟バカだった。というか、真一郎にとってマイキーは、弟というより子供というか、下手したら孫の位置づけになっているようで、傍から見てもかなり甘やかしていたりする。
 早くに両親を無くした関係で、親のポジションでマイキーを慈しみ育てて来たという事情が、真一郎とマイキーという兄弟のおかしな距離感と、一種独特の関係性を作り上げている要因と言えた。
 マイキーが真一郎の作った初代黒龍というグループに憧れて、自分と同じ道に進みたいと言ってきた時の真一郎の喜びは、他人からは計り知れない、歓喜が大爆発したような狂気じみたものだった。マイキーを愛するあまり、過保護になっていた真一郎は、自分と同じ道を辿れば安全だという、世の中の一部の親のような視野の狭い考え方をしていたのだ。もちろん、真一郎は良かれと思ってのことで、自分の考えがマイキーの成長の妨げになるとは、露とも思っていない。
 いつかマイキーが加入してくれたらと、解散した黒龍というグループを復活させ、メンバーを入れ替えながら存続してきた。そうしていくうちに、黒龍というグループは九代目になっていた。
 そういう流れで、次の十代目黒龍TOPはマイキーが継いでくれるのかと、真一郎は当然期待した。自分が初代のTOPで、弟のマイキーが十代目TOPになるのなら、ストーリー性もあってバッチリだと思ったし、そういう何か特別なものを引き寄せる才能がマイキーにあるのだと悦に浸った。「兄から弟へ受け継がれる想い」という、雑誌の特集記事のタイトルまで浮かんでくる始末だった。
 けれども、そんな喜びは直ぐに消え去った。
 マイキーは初代黒龍に憧れたものの、自分で集めたメンバーで音楽活動をすると宣言したのだ。
 真一郎はひっそりと落胆して、元初代黒龍メンバーのワカとベンケイに慰めて事となった。そんな真一郎の想いなど、マイキーは全く知らなかったのだけれど。
ワカとベンケイは、しくしくと飲みながら泣く真一郎に呆れつつも、真一郎に心酔していたので、一生懸命励ましたし、心の中ではマイキーの気持ちも理解できると思っていた。他人の作ったレールなど走りたくないというマイキーの考え方は、まさに真一郎そのものだったからだ。やはり血の繋がった兄弟だと思った。ただ、ショックを受けた真一郎は、その事に全く気づいていなかった。
 そういう訳で、マイキーは初代黒龍解散後、芸能事務所を立ち上げた真一郎の元で、アイドル街道まっしぐらな日々を送ることになった。
 そして、今では初代黒龍をとうに超えた存在に成長し、国民的アイドルと称されるまでになったのだ。
 東京ドームの無機質な通路を歩いていても、きらきらとトップアイドル特有のオーラを出しているマイキーを真一郎は目を細めて愛おしそうに見ていた。真一郎にとってマイキーは、本当に目の中に入れても痛くない存在だったのだ。
「だって、もう打ち上げ始まっちゃってんじゃん」
 唇を尖らせて怒っているマイキーは、真一郎から見るといつまで経っても小学生の時と変わらなかった。
「珍しいな、万次郎が打ち上げにそんなに出たがるなんて」
「うっさいな。今夜は特別なの」
 マイキーの言葉に、真一郎は「へぇ」と意外そうに呟き、妙にイライラしているマイキーをまじまじと観察してしまった。
 そう言えば、この打ち上げは、いつもなら開かない部類のものだったと真一郎は思い出した。マイキーの親友であるドラケンが、急に東京公演の後に事務所のパーティールームで軽い打ち上げをしたいと申請してきたのだ。東京卍會の初期メンバーは、仕事に対して非常にストイックであるので、公演期間は外食にも行かず、体調管理に重きを置いている者ばかりなのだ。だから、ドラケンが一番始めのドームツアーの最終日に、珍しい事を言い出したものだとは思っていたのだ。他のグループは、公演毎に打ち上げをしていたから、別に良いけどと軽く許可を出したのだけれど、これは、自分が思っているより何か深い事情があるのかもと、真一郎は俄然その打ち上げに興味を持ってしまった。
「その打ち上げ、オレも参加しても良い?」
「はぁ? 真一郎は駄目に決まってんだろ?」
 しかし、真一郎のお願いは、マイキーに即答で却下されてしまった。後からドラケンにでも探りを入れるかと真一郎は思い、ステージ衣装を着替える時間ももったいないとイラつくマイキーを事務所のパーティールーム迄送り届けたのだった。
 マイキーがパーティールームの扉を開けると、会場はドラケンの指示により着席式で整えられていた。入口から窓際に向かって置かれた細長いテーブルの一番奥、誕生日席のようになっている場所に椅子が二つ用意されていて、向かって右側は空いており、その横の席にはマイキーのお気に入りである武道が、相変わらずダサいTシャツを着て座っているのが目に入った。
 その瞬間、アドレナリンが大量に分泌され、マイキーの心臓の鼓動は一層高鳴り、瞳孔がカッと開いていた。この日、この時間の為だけに、マイキーは生きてきたのだ。
マイキーの座る席の斜向かいに座るドラケンが、一早くマイキーに気が付き「こっちだ」と手を挙げた。
「お疲れ~」とあちらこちらから掛けられる言葉を無視して、マイキーは一直線に自分の席に向かって突き進んだ。その姿には鬼気迫るものがあり、飢えた獣が獲物に向かって突進しているようにしか見えなかった。
 武道の斜向かいに座る三ツ谷と話をしていた武道は、こちらへ向かって来るマイキーに気が付くと、秒で顔を真っ赤にさせた。
「ママイマイキーお、お、おつかれさまでしゅた」
 武道があわあわして話しかけて来る姿に、マイキーは少しの違和感を覚えていた。
「おまえ、何、嚙んでんだよ?」
 マイキーが席に座りながら武道に笑いかけると、武道の様子がいつもと違う事にマイキーは気が付いた。マイキーと会話する時、武道が顔を赤らめるのはいつもの事だったが、今夜の武道は茹で上がったタコのように真っ赤だったし、マイキーを見つめる瞳は、憧れの推しを見るファンのようで、しかも、感極まって泣きそうになって身体を小刻みに震わせているのだ。自分のファンサを見たファンのようだなと、マイキーは思った。
「はぁマイキー君格好良すぎです
 それを裏付けるように、武道が息も絶え息に呟いた。
「大丈夫?」
 顔を近づけると、武道は椅子から転げ落ちそうになるくらい後ろに仰け反ったから、傍にいた三ツ谷は、武道が椅子から落ちないように慌てて背中を支えた。
「マイキー、着替えてきたら? そのステージ衣装のせいだって」
 三ツ谷がそう指摘して、マイキーの着ているステージ衣装を指さした。
「これ?」
 通常のライブでは、東京卍會と金糸の刺繍が入った黒色の特攻服を身に纏っているのだが、今回は六大ドームツアーという事で、いつもより豪華なステージ衣装が用意されていた。軍服をモチーフとしたデザインで、黒い生地に朱と金で花や葉が描かれた華やかなものだ。襟は立ち襟で、黒に金の縁取りのボタンが二つずつ左右に縫い付けられ、エポレットはベージュのベルベットに朱糸で十字架をモチーフにした刺繍が入れられ、袖の細部にまでかなり凝った作りだった。ジャケットの裾は長く膝裏まであるのでコートのようにも見え、前面のトッグルは紐では無く布で作ってあった。もちろんボタンで閉じて着る事も出来るが、マイキーは止めずに、素肌に直接着ていたので、鍛えられた胸筋と背筋がちらちらと見えているセクシー仕様だ。
 他のメンバーはシャワーも浴び普段着でいるのに、マイキーは正に今日のステージ上の姿のままだったから、パーティールームでも異彩を放っていた。黒い東京卍會の特攻服姿のマイキーも素敵だったが、今夜のマイキーの衣装はまだ見慣れていないのもあり、今までになく豪奢で煌びや かで、まるで別の星から来た王子様のように武道の目に映っていた。麗しさも極まりすぎて目の毒になるくらいに。
「そうそう。タケミっちはマイキー最推しなんだから、そのキラキラした格好で横に座ったら、タケミっちだって落ち着けないよな?」
 三ツ谷が、もう何も言葉を発する事ができない、ただのマイキーファンに成り下がった武道の気持ちを代弁した。すると武道は、三ツ谷の言葉に同意してうんうんと頷く。
三ツ谷の言葉と、武道の歓喜で震えている様子を見て、マイキーは「これだ」と閃いていた。今まで、ずっと他のメンバーに比べて蚊帳の外な扱いで、武道との関係で全く主導権が握れず、武道に振り回される事しか無かったのだけれど、もしかしたら、この姿だったら武道を落とせるかもしれないと希望を見出したのだ。
「そうなんだ。この姿が好きなの、タケミっち?」
 先程迄ステージの上で、きらきら全開でアイドルしているマイキーを見ていた武道にとって、今、至近距離にいるマイキーは同様のもので、日常的に目にするものでは無かった。
 そういう次第で、トップアイドル然としたマイキーは、眩しくて、とても直視できるものではなかった。しかも、ステージ衣装よりキラキラした黒い瞳に、輝くような白い歯を零して、歯磨き粉の宣伝みたいに笑いかけて来るのだから、もうどうにも堪らない。三ツ谷の背後の支えが無かったら、武道はとうに床に転げ落ちているのは間違い無かった。
「逃げるなよ」
 最推しにそんな事を言われて、武道の心臓が止まるかと思ったその瞬間、マイキーは武道の両脇に手を入れ、座ったまま腕の力だけで軽々持ち上げると、自分の膝の上に抱き上げてしまった。メンバーの中で一番小柄なマイキーが、実は一番パワーがあるのは周知の事実だが、武道は知らなかったので、びっくりして固まったままだった。
 その様子を見たドラケンは、即座に窓のブラインドをリモコンで下げたのは言うまでもない。事務所のパーティールームではあるが、パパラッチというのは、どこから激写してくるか分からないのだ。用心したことに越したことはなかった。
「今夜のおまえの席はここな?」
「は
 刺激が強すぎて武道は壊れた。多分、もう何でも「はい」としか言わないに違い無かった。
「何が食べたい? オレ?」
 そう言いながら、視線は武道から外すことなくマイキーは小首を傾げた。マイキーの肩まであるストロベリーブロンドがふわりと揺れて、あざとさで見る者の心を奪い蕩かしていく。マイキーが今まで培ってきたアイドルとしての技を出し惜しみする事なく炸裂させていた。それを食らった武道の脳内が、パンと爆ぜる音がその場にいた全員に聞こえたくらいに。
「嘘だって。本気にしたんだ、タケミっち? 可愛い。本当にオレの事が好きなんだね。もちろん、タケミっちならオレを全部食べても良いけどとりあえず腹ごしらえしよっか。タケミっちは、オレには恥ずかしくて隠しているみたいだけど、本当はすごく食いしん坊なんだろ? 今夜は素のタケミっちをオレに見せて♡」
 武道の脳内が再びキャパオーバーでパンと爆ぜた。相手のウィークポイントを見つけた時のマイキーの攻撃が、容赦無いのは昔からだった。主にケンカでだったけれど、恋愛関係でもそうなんだなと、初期メンバーはそっと認識を深めていた。
 マイキーは目の前に置かれた大皿から、ローストビーフをフォークで刺すと、グレービーソースを絡めてから、武道の口元に運び「あーん」と言いながら差し出した。武道も流れで「あーん」と口を開けたから、マイキーは武道の口の中にローストビーフを入れてやった。
 武道はどんな時でも武道なので、意識が無くなりそうでも、食べ物が口の中に入ってきたら、自動的にもぐもぐと食べ始めた。
 自分が手ずから食べさせたものを咀嚼する武道の可愛さに、マイキーの心は歓喜に震えた。もっとその姿を見たくて、次から次へと武道の口の中に料理を運ぶが、武道はやっぱり自動的にもぐもぐと食べていく。
 武道の口の周りは、はみ出した肉汁付きのグレービーソースが付いていた。それに気がついた三ツ谷が、おてふきを持ってマイキーに手渡そうとしたのだが、マイキーは手でそれを制止して受け取らなかった。そして、どうするのだろうかと見守る周囲の視線の前で、武道の汚れた口元に自分の顔を寄せて舐め取った。
武道は完全に死に耐え、周囲も「やっちまった!」と心の中で悲鳴を上げた。
 そんな空気をものともせず「可愛いやば」と呟くマイキーが、どんどん調子に乗っていくのを周囲はハラハラと見守るしかなく、ドラケンに至っては胃が痛くなり唸り出す始末だった。
 その斜向かいの誕生日席で、マイキーだけがご満悦ではしゃいでいた。そんな打ち上げというか、マイキー慰労会は、武道の腹がぱんぱんに膨れて限界に達する深夜にまで及んだのだった。