mishiadd
2025-01-26 16:24:37
23262文字
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汝の神は嫉妬深い神である

【鵠と月夜展示品】FGO軸、剣伊。至上命令を失ってもはや「ごく普通のお隣の善良なお兄さん」でしかないカルデアの宮本伊織くんを神霊ヤマトタケルが恐ろしい日本の神様仕草丸出しで寵愛するのでそんなん耐えられるわけがない悲惨な話(藤丸立香一人称)

一、

――宮本伊織には『宮本伊織』としての記憶がほとんどない。

らしい、というのは自室で彼と個人的な対話を重ねていくうちに、こちらとしても否が応でも理解せざるを得ない事情として、目の前に開示された動かしがたい事実だった。
彼について、彼自身から聞くよりも彼の元サーヴァントや彼のかつての敵――と言い切るべきなのかわからないが――から話を聞いて得る情報の方が余程多かったし、彼に質問を重ねれば重ねるほど、その場を取り繕うための適当な言葉を探すかのようにどこか戸惑ったように上擦る彼の声と、そして「ああ、俺はこれもまた覚えていないのだ」と――尋ねられて初めてそのことに気付いたかのように、ほんの一瞬だけ垣間見せるひどく傷ついたような彼の表情が――こちらの胸まで切なく痛むほどに、その喪失を物語っていた。

だから、伊織に生前のことを尋ねるのはやめた。いつだったか、伊織とシミュレーターの中でたまたまふたりきりになって、その時見上げた夜空に鋭いような三日月が浮かんでいて――それを見た伊織がぽつりと、「なんだか、遥か昔にあのような月をどこかで見たような気がする」、とだけ漏らしたのを聞いたのを最後に、やめた。

伊織は、とても付き合いやすい人だと思う。

善良で、裏がなくて――いつも人道的であろうとする。良識的だし、無茶や理不尽を口にすることはまずない。頼りになるお隣のお兄さんというか――何か困ったことがあったらとりあえず彼の長屋じしつを訪ねてみれば、淹れたての温かいお茶と共にまずこちらの気持ちを落ち着かせてくれて、それから適切なアドバイスをしてくれる――そういう人だった。

話しているうちにだんだんこちらの常識が狂っていくような感覚すらあるクセの強いサーヴァント達の跋扈する中で、そういった「常識的な普通の人」枠は貴重だった。それに、彼には居心地のいい個室も与えられている。気が付けば、何かにつけて彼の長屋に駆け込む癖がついていた。

彼が淹れてくれたお茶を啜りながら、彼が食堂から取ってきてくれた団子を齧り、「ふう」と一息ついたあたりで伊織に言った。

「助かったよ。……いつものことだけれど、複数人に伴侶扱いされて追いかけ回されてて困ってたんだ。マシュを巻き込むわけにもいかないし――伊織がここに匿ってくれて本当に助かった」
「マスターはモテるのだな」

フフ、と微笑ましげに笑われたので、「笑い事じゃないよ」と思わず唇を軽く突き出した。

「そうやって伊織は揶揄うけど、伊織の方がよっぽどモテてたんじゃないの。浅草にいた頃は――あ」

ほんの軽口のつもりがうっかり触れるべきでないことに触れてしまい、慌てて口を噤む。ちらり、と上目遣いに伊織を見ると、大きな手で殆ど隠れてしまっている湯呑から上品にお茶を啜った彼が、「気にするな」と微笑んだ。

「俺は覚えていないが――
……ごめん」
「気にしなくていい。――そうだな、別にそんなことはなかったんじゃないか? 俺など、なんの変哲もないただの一般人の未熟者だよ。特に誰の目にも留まることなく、凪いだ――平穏な日々でも呑気に送っていたのだろう」
「またまたご謙遜を」

おどけて言うと、フフ、と伊織が穏やかに笑った。ぴん、と痛くない程度に長い中指でデコピンされる。「イテテ」と大袈裟に額を押さえてみせると、伊織が声を上げて笑った。――それから、はた、と伊織が表情を変える。

……伊織?」
「マスター。――敢えて訊くが、連れというわけではないな?」

その問いと同時に、「ああまたかぁ」とさすがにピンとくる。大勢に追い回されていたので、気配に気付けなかったのだろう。あの中に、自分のことふじまるりつかが目的ではなく、他の誰かみやもといおりが目的でずっと尾行してきていたサーヴァントがいたことに。
伊織が立ち上がり、周囲を見回す。やがて懐から貴石を取り出して――イシュタルが見たら発狂しそうなことに――無造作に宙に向かって投げつけた。こつん、という軽い音と共に「あだっ」と間抜けな声がして、土間に予想通りの人物が立ち顕れる。タケルだった。

……セイバー。何度言ったらわかるんだ。長屋ここに入りたいなら姿を隠さずにそう言え。不必要にコソコソするな」
「だ――だって」

もごもごと口篭もるタケルに向かってこれ見よがしに肩を竦めてみせた伊織が、こちらに向き直る。

「すまん、マスター。セイバーは……昔からそうだったのかは知らんが、どうも不器用でな。どうやらおまえのことが心配でここまで入ってきてしまったようだ」
「ん!? 自分のことが心配で!? ――それは、どうかな!?」

思わず声が裏返ってしまったが、伊織には通じないしタケルには否定する勇気がないようだった。伊織が火を見るよりも明らかな勘違いをしたまま、再び畳の上に腰を下ろして話を続ける。

「セイバーには悪気はないのだ、不躾だが許してやってほしい。……セイバーも、心配なら心配だと口に出して言うように。俺だって鬼ではない、おまえがマスターの身を案じているのであれば締め出したりなどしない」
「ん……

しゅん、と大人しくなってしまったタケルに思わず「……言うべきことは言っといた方がいいんじゃない?」とひそひそ助言しかけたが、その前にタケルが口を開いた。

「でも――イオリが、嫌がるではないか」
「俺が?」
「いつも。――リツカが来た時も、他の日ノ本のサーヴァントが遊びに来た時も、私が一緒に入ろうとしたら私の目の前で引き戸を閉めただろう」
「それはおまえがあまりにも当たり前の顔をして中に入ろうとするからだろう。人には内緒の話というものがあるのだ。なんでもかんでもおまえが同席していいというわけにはいかない」
「『内緒の話』?」

ちら、とタケルの大きな瞳が光ったような気がしたが、伊織は気付かないようだった。

「内緒の話とはなんだ、イオリ? 私に言えないことか?」
「おまえに言えないわけじゃなくて、おまえには無関係だということだよ。マスターもだが――俺に相談事を持ち込んでくるサーヴァントもそこそこいるのだ。俺はただ、彼らの話を聞いて率直にどう思うか意見を述べるだけだが――そういった話の内容は、『秘密』なのだ。彼らが秘密を吐露すると決めた相手は俺だけだ。おまえはそこに含まれていない。彼らが俺を信用して開示すると決めた以上、その秘密が守られることに万全を期するのは俺の義務だ」

あまりにもまともな物言いに舌を巻く。だからこそ、この長屋には来訪者が絶えないのだろうな――などと思っていたが、タケルの顔色を見てぎょっとする。元々白い頬が更に蒼褪めて、まるで幽霊のようだった。

「『無関係』……? 私には関係ないと言うのか。またきみはそんなことを言うのか、イオリ」
「それはそうだ。おまえにはおまえの人間関係があって、俺には俺の人間関係がある。俺に信を置いた者が無条件でおまえにも信を置くということにはならない」
「きみの人間関係」

ちり、と夕陽色をしたタケルの大きな瞳が再び光ったように見えた。否――燃えたように見えた。

「私とは関わりのない、きみの人間関係

ぶつぶつと呪詛のように繰り返しながら、ふらふらとタケルがおぼつかない足取りでこちらへと近づいてくる。やがて戸惑いながらもタケルのその姿を注視し続けている伊織の目前で立ち止まった。その三つ編みに結わえられた長い髪が、ぶわりと解ける。ちりちりと――不安定な神気を漏電する電線のように零しながら、再臨しかけた姿でタケルが縋るように言った。

「きみの――サーヴァントは私だな? イオリ。きみのサーヴァントはただひとり、この私だけ。きみは――節操なしに、誰彼構わず逸れと縁を結んでいたが――それでも、きみのサーヴァントは――きみのセイバーは、この私。この私だけ。そうだろう? イオリ」
「タ、タケル、あの」

恐る恐るこちらが言いさしたのを遮って、至極あっさりと――当たり前のことのように、伊織が言った。

「おまえは藤丸立香マスターのサーヴァントだよ。そして俺自身もまたマスターのサーヴァントだ。俺にサーヴァントはいない。おまえは、俺のサーヴァントではないよ、セイバー」
「い、伊織」

正論だ。――あまりにも正しくて、あまりにも論理的で――あまりにも無慈悲な。

びり、とひときわ大きな神気の漏洩を感じる。タケルに目を遣ると、もはや完全に再臨を果たして日ノ本の大神霊の姿となった彼が、伊織の前に立っていた。

「そう。そう――イオリ。私は――きみのサーヴァントではない。私はきみのセイバーではない。きみはそう言うのだな、イオリ」
「あ、ああ――そうだ。ただの事実だ」
「そう。――そう」

ぶわりと神気があたりに満ちて、まるで水中に沈められているかのように息が苦しくなる。深海でかかる水圧のような重圧を全身に感じて目が開けていられなくなる。歪む視界の中でなんとか目をうっすらとこじ開けてタケルと伊織を見る。――タケルの細い指が、伊織の顎にかかるのを見る。

「なら――きみの神は誰だ? イオリ」
――何?」
「汝の神は誰だ、答えよ」

畳の上に座した伊織の顎を、上から覆いかぶさって彼の顔を覗き込むようにしたタケルの指が高く高く持ち上げる。ぴんと無理やり伸ばされて剥き出しにされた伊織の白い首筋が、そこに浮かぶくっきりとした喉仏が、伊織が苦しげに唾液を嚥下して喉を鳴らすと同時に上下する。「……ァ」と窒息しかけて殆ど声にならない声を漏らした伊織の返答を待たずに、タケルが言った。

「ここに掃いて捨てるほどいる異郷の神々か? この日ノ本の神話に名を連ねる神々か? あの御山の大御霊か? ――違うだろう、イオリ。違うだろう? ずっとずっと――ずっときみを、きみだけを、きみという矮小な一匹の人間風情を庇護し、言祝ことほぎ、寵愛し、きみの望むままにさせてきてやったのは一体どの神だ?」
……わ、わから」
「恩知らずだな、イオリ。なら教えてやろう。この私に限らず――日ノ本の神とは大抵が嫉妬深いのだ」

タケルが故意に――衝撃波のような神気をその身から放ったのを、鼓膜に響く鈍い轟音と自分の全身に受けた強大な重圧で悟る。深海の中で目をこじ開けたように光が屈折して歪む視界の中で、ぴんと硬直した伊織の体が小刻みに痙攣するのを見る。
苦しげに喘ぎながら微動だにできずにいる伊織の、顎を持ち上げられて無防備に晒された白い喉元を、まるで猫にするように、タケルがもう片方の手の指先で擽る。
急所に触れられる感覚に身じろぎして反射的に顔を背けようとした伊織の顎を改めて掴み直し、威圧するようにタケルがその端正な顔を覗き込んで――満足げに目を細める。タケルの大きな双眸が、古い神社の境内に潜む何かを思わせるような、禍々しい三日月のかたちにたわんだ。

「ああ、愛いな、イオリ。そんなに不安げに怯えて。――まったく、素直でよい反応だ。思えば、以前のきみは本当に可愛げがなかったな。この私の真名を看破してすら、やれ殺すな暴れるなと臆面もなく命じおって」
……ぁ、う」
「イオリ、きちんと口に出して言ってみよ。この私にちゃんと聞こえるように。きみの神は誰だ?」



――伊織は、善良で常識的でなんら裏のない、「お隣に住んでいる」、「優しくてかっこいい」、『頼りになるお兄さん』枠で。

――逆に言えば、きっとどこにでもいる、なんの変哲もない、ごく普通の『お兄さん』に過ぎなくて。

勿論、彼もまた英霊でありサーヴァントである以上、卓越した存在であることに間違いはない筈なのだけれど、それでも――



果たして、この日ノ本の血の流れる、日ノ本の名を持つ、日ノ本の神話をこの身に刻み込まれた者のひとりとして――






一体どれだけの人間が、神霊『ヤマトタケル』に歯向かえるとでもいうのだろう。






「お、まえ、」
「ん?」
「おまえ、だ、ヤマトタケ――
「きみに私の名を呼ぶことを許した覚えはないぞ」

く、と伊織の白い喉元にかかったタケルの親指がほんの少しだけ沈むのが見える。「ぁッ」と息が詰まったような苦しげな声が伊織の喉から絞り出されたが、タケルには聞こえていないようだった。なにやら上機嫌に――口元に無邪気な笑みを浮かべてタケルが言った。

「フフフ、それに私はとても気に入っているのだ、きみが私を『セイバー』と呼ぶ響きは。――なんだか、唯一無二、みたいだろう」
――――
「それなのにきみはそこらの逸れのことまで『セイバー』と呼んでいたな。この浮気者の節操なしめ。おかげでこの私がわざわざ直々に教えてやらねばならなかったのだぞ、『今イオリが呼んだのはきみのことではない、この私のことなのだぞ』って」

タケルの親指がようやく弛む。けほけほと咳き込む伊織に、タケルがゆったりとした口調で再び迫る。

「さ、イオリ。申してみよ。――きみの神は誰だ? きみを庇護し、言祝ぎ、寵愛する、きみの唯一の神は」
――セ」



きっと、何もかもが――狂っている



「『セイバー』。――セイバー、おまえだ。おまえだけだ。俺の神はおまえだけだよ、セイバー」
「ほう? きみは本当に気が多いからな。隙あらば私以外にもたくさんの神霊に気を許しているだろう。その言の葉、果たしてどれだけ信用できたものか」
「そんな――そんなことはない、セイバー。俺は本当に――おまえだけ――

生殺与奪を握られた状態で、必死に伊織がタケルに媚び、その慈悲を乞うている。その姿をみっともないとか情けないとか思える程、自分は命知らずではなかった。
巨大な猛獣に――喉元に鋭く長い牙を当てられた状態で、なおも相手の喉元に噛みつこうなどと思えるのは――きっと人として何かが壊れている――』、だけだ。

「ふうん」と口元に弧を描きながら、タケルが面白そうに伊織の目を覗き込む。怯えて思わず目を逸らした伊織に「ん?」とタケルが声を掛けると、察した伊織がおずおずと――従順にタケルの目を見た。
タケルが感嘆したように声を上げた。

「きみ、本当に愛いな。そんなだっただろうか」

「よいよい」と満足げに頷いて、ようやくタケルが伊織を解放する。
とさりとその場に軽く倒れ込んだ伊織が、けほけほと咳き込みながら白い喉を何度もさすっている。

慌てて駆け寄ろうと腰を浮かした自分を、タケルが見た。三日月のような――作り物めいた、明らかに人ではない笑みを浮かべた細い双眸に、思わず怯んでその場にぺたりと座り込む。

ふわりとタケルの髪がなびいて、目の前で見る間に三つ編みに編み上げられる。気付けばいつもの白妙姿に戻った彼が、畳の上に両手をついている伊織の傍に腰掛けた。ぷらぷらと子供のように両脚を揺らしながら、伊織を見て幼い無邪気な声で言った。

「イオリ、腹が減ったぞ。私への『お供え物』はまだか? フフ」
――ぁ、それ、なら――すぐに」

掠れた声で言いさした伊織を遮るように、殊更に弾んだ声でタケルが言った。

「食堂ではなく、私はきみの手料理が食べたいのだ。ここで、ふたりで食べよう、イオリ。昔みたいに」
「『昔』――

伊織が戸惑った顔でこちらを見る。どうすべきかわからないまま黙って見返していると、やがて伊織の視線が自分ではない誰かに向けられていることに気付いたタケルが伊織の頬に手を触れた。その手に怯えてびくりと大きく伊織が体を震わせたことに、満足そうにタケルがほくそ笑む。――それから、ちょん、と伊織の色素の薄い唇を人差し指で軽く弾いた。

「イオリ。――やはりきみはダメだな。気が多すぎる。まるでわかっていない。神に愛されるということがどういうことか
――あッ」

こともなげにタケルに軽く肩を押された伊織の体が、畳の上に仰向けに倒される。
そのままタケルが彼の上に圧し掛かったのが視界に見えて、伊織がこちらに向かって必死に手を伸ばしながら「待って――」と悲鳴をあげるのが聞こえて、――次の瞬間、自分は長屋の外にいた



タケルに弾き出されたのだと、悟る。



「伊織ッ――タケル! タケル!!」

声を荒らげながら引き戸を叩いたがびくともせず、引き戸に耳を当てるとかすかに伊織の声が――必死に許しを乞うすすり泣きのような声が聞こえるようだった。ダンダンと叩いたがびくともしない。――それから妙なことに気づく。

これだけ自分が騒いでいるのに、誰も通りかからない。

恐らくは、タケルの力が長屋の外まで及んでいて、結界を形成しているのかもしれなかった。ダン、と両の拳で引き戸を叩き、その場にずるずると座り込む。













そのままなすすべもなく、一体何時間くらいそこにいたのだろうか。
かたん、と軽い音を立てて引き戸が開いて、中からタケルのみが姿を現した。――自分が引き戸の脇に座り込んでいるのを見つけて、「リツカ、まだいたのか!?」とタケルが素っ頓狂な声を上げる。――その、あまりにもいつもと変わらない声と表情に――ぞくり、と背筋が寒くなるのを感じた。

「タ、ケル。――伊織は、どうしたの?」
「イオリ? 中にいるぞ」

顎をしゃくって長屋を示し、それから自分に向き直る。夕陽色の瞳が、煌々と底光りするようだった。

「でも、きみは中に入ったらだめだぞ。誰も入ってはダメだ。あれは私のものだ。――ここにいる他のサーヴァントだってこのくらいの当たり前の礼儀は守るだろう? あれは私の贄なのだから――他人の贄を横取りするような神はいない」

「常識的に考えて」、と極めて常識的でない前段と組み合わせて嘯いたタケルに、それでも――震える手を握り込んで、マスターとして主張する。

「タケル。――タケルも伊織も、自分にとっては大切な仲間だよ。……タケルが伊織を傷つけるなら、こちらにもとらなきゃならない措置がある」
「『傷つける』? なぜそんな話になるのだ? 私はイオリを傷つけてなどいないぞ。あれは私の大切なイオリだぞ」

無邪気な仕草で小さく首を傾げてみせたタケルが、まるで己の言葉に一切の疑問を抱いていない様子で言った。

「私ほどイオリを寵愛している神は他にいないぞ。他の誰がイオリに手を伸ばそうとも――あれは絶対に私のものだ。わかっていないようだったから、ただそれを明確に示してやっただけだ。イオリにも、きみにも、皆にも」
――なに、したの」

震える声で尋ねた問いに、――タケルは答えなかった。ただ、フ、と――その可憐な顔に似つかわしくない、恐ろしい笑みを浮かべただけだった。