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みたむら
2025-01-21 01:30:00
10389文字
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呪術夢:短編まとめ
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雪降る夜に
大人五×女夢主(同級生&恋人)
浮気の噂に絶えられない中「彼女」を継続する夢主。続けられた理由は自分の目で見ていなかったから。
そんなある日、夢主は一日オフで街を歩いていると五条と見知らぬ女性が歩いているのを見かけてしまい――。
完璧な彼女になるために我慢強い夢主と、たまには甘えて欲しいと思って夢主に仕掛ける五条の話。
少しだけモブ(補助監督)が出ます。
1
2
3
◇ ◇ ◇
数分前のことを遡っていたら、周囲の住宅街が完全に光が灯す。そして夕ご飯を作っているのか、鼻に美味しそうな匂いがささる。
地面は完全に雪景色になっていた。ジャンパーの帽子で頭を守っていたけど、少し風が吹いて今では落ちて髪が晒されて少し雪が被っていた。
「
……
そろそろ帰らないと」
そして、別れを切り出そう。やっぱり、私じゃ彼の彼女は務まらない。彼が連れている彼女の方が綺麗だし、みんなに自慢できるだろう。それに、こんな辛い気持ちを持ちながら何もないように彼の彼女として振る舞うのなんて無理だった。
(もっと早く、名前を呼べたらよかったな)
別れたら、普段の〝五条君〟に戻る。いや、その方が私には馴染みがあるし、安心感がある。だけど、彼女なんだから名前を呼ばないのはどうなのか、というのは私も同意見だ。しかし、これもタイムリミットだったんだろう。だから、こんなにも苦しい。
もう別れた方がいいよ、と言われているようで。別れてもいいんだよと雪が告げているようにも思えた。
何か雪を踏みしめる音が聞こえた。
音がした方へ視線を向けると、さっきまで知らない女性と歩いていた彼だった。何となく、走ったのか息を整えているのが見える。
「
沙奈
」
「
……
悟、君。どうしたの?」
「お前こそ、こんな所で何してんの?」
落ち着いてくると、悟君は私に近づいてくる。私は彼に体を向けて見届ける。
私よりも長身で、少し首を上げないと顔が見えない。
普段のアイマスクではなく、サングラスだった。サングラスは潜入調査くらいでしか身につけず、大抵はプライベートで付けることが多いらしい。彼は夜から任務だった気がするので、やはり先ほどの場面はプライベートの時間だったようだ。
――
切り出すなら今だ。
明日以降に回せばまた、〝お人好し〟な私がズルズルと
彼女依存
・・・・
してしまう。そういうわけにはいかない。これは私にも彼にとっても必要なことだ。
私は、この辛い気持ちから解放されたい。
彼は、私という恋人を解消して望む彼女を探すために。
私は、震える唇で告げる。
「別れよう、悟君」
「
……
何で?」
「さっき、見たの。後を付けたわけじゃなくて、たまたま街を歩いてたら女性と歩いてるのを見た。それだけじゃない、補助監督さんたちも何度もそういう場面を見てるって噂になってる。七海君も見たって言ってた。私よりも相応しい彼女はいるはずだよ?」
私はあくまで冷静に、感情的にならずに言う。彼はというと少し驚きの顔をしつつも〝まずは話を聞いてやる〟精神なのか、黙って聞いている。
「
……
だから、別れたいって?」
「うん」
「じゃあどうしたら別れないでくれる?」
「え?」
自然と視線が下に向いていたらしい。私は意外な返答に驚いて顔を上げた。すると、少しだけ笑みを零していた。そしてほっと胸をなで下ろすように言う。
「もっと聞かせて。お前の本音」
「
……
どういうこと?」
「
沙奈
は
いい子
・・・
なんだろうね。だから何でも受け身だ。けど、彼氏の僕の前までしなくていい。不満も不安も良いことも悪いこと何でも僕に言ってほしいんだよね。勿論そういう所も好きだけどさ」
彼は今何を言ってるんだろうか。まるで、わざと嫌なことをして吐き出させようとしているように、そんな都合のいいように聞こえてくる。
「だから、少しだけ意地悪をしたんだよね。
沙奈
は僕に甘えさせてくれるけど、
沙奈
は僕に甘えることしないじゃん。だから、不満や不安をわざと煽らせて、本音を吐かせてやろうってね。噂を流したのも実は僕が彼らにお願いしたからなんだよね」
「
――
え?」
私は一瞬意識が飛んだような気がした。夢でも見てるのでは、と。
全部、私を甘えさせるためにわざとそうしたと? こんな苦しい気持ちにさせたのも、全部?
「だって、女性と一緒にいるのは私のことが嫌いになって、別れたいからじゃ? それにメールで送っても急用だからって断ってばかりだったし」
私も私なりに努力はしていた。
メールやメッセージで今度の休みにどこか出かけないかとか、今ここにいるけど土産は何がいいか、とか。一応彼女らしいことを試みていた。最初は既読が付いてすぐに返事がきてはお礼のスタンプや喜ぶ言葉があった。
だが、噂が大きくなった辺りから付き合いが悪くなっていたのだ。それこそ多忙だから仕方ないのだと言い聞かせていた。それも意図的に断っていたと?
「それについてはメンゴ! 本当は嬉しくていい返事をしたかったんだけどさ。僕は僕で必死だったんだよ。ここで曲げたら『
沙奈
に本音を吐かせてたくさん甘えさせる彼氏』作戦が失敗するじゃん」
(ん? 今、何か変なものが聞こえたような気がする)
『
沙奈
に本音を吐かせてたくさん甘えさせる彼氏』作戦? しかもネーミングセンスは申し訳ないがないなと思いつつ、変な顔になりそうなのを必死に耐える。
「いやー、
沙奈
も結構な忍耐持ってるよね。それは祓う時だけでいいのに、プライベートでも完璧だもんね。七海も見てたっていうのも、実は協力してくれたんだよね。本人は『私を巻き込まないでくれますか?』と嫌な顔で言われたけど」
「そりゃあ、いつも七海君に無理難題押しつけるし愛想も尽くよ」
「
……
む。そんな感じでさ、もっと
沙奈
と本音でたくさん話がしたいんだよね。たまには彼氏らしくさせてよ」
少し気に食わなかったのか、七海君の話題を出したら嫌そうな表情をしつつもすぐにいつもの表情に戻してそう言った。
(そういえば、ずっと装ってたような気がする。完璧な彼女にならないとって)
彼は呪術師の中でも特別だ。出生も私のような一般家庭出身ではないし、多分神に天才を与えた人物がいるとしたら、間違いなく彼がその一人というくらい何でもできる。
そんな彼に少しでも相応しくなろうと彼の我が儘もできる限り我慢してきた。それが彼女の条件だと勝手に固定概念に囚われて。
「僕は僕に似合う彼女になってほしくて告白したわけじゃないよ。
沙奈
だから好きになったし、これからもそのままでいてくれればいいんだよ」
それとも最強の僕に勝とうとか思ってないよね? なんて言いながら、さらに近づいてきては、ぎゅっと抱きしめられた。突然のことで寒かったのが途端に顔から熱くなるのが分かる。
「あ、あの
……
!」
「その間の抜けた表情と声も可愛くて好き。そういう所をもっと出して欲しいし、僕に対する不満も吐いて欲しい」
「
……
でも、醜いよ。幻滅するかもしれない」
「それはそれで楽しみだなぁ。僕を幻滅させるほど自信があるんだ? 僕は結構懐広い方だと思うけど」
呪霊祓う時はずっと怖いよ? と突っ込めば「そりゃあ呪霊相手だし。何、お前意外と僕が怒ってる姿好きだったりするの?」なんて言う。勿論そんなことない、と弁解すると笑って冗談だよと言う。
「
……
ずっと辛かった。恋人が出来る前までは、浮気って誰にでもあると思ってた。物だってすぐ飽きて次の好きを探して愛でるものじゃない? 物はよくて人は何で駄目なんだろうって小さい頃からずっと思ってた」
「うん」
「でも、当事者になってみると初めて分かった。浮気されるってこんなにも胸が痛いことなんだって。
……
その、女の人と歩いてるのを見て『そこは私の居場所なのに』って思ってしまった。たまたま任務で一緒になったかもしれないし、知り合いだっただけかもしれないのに、勝手に私の中でモヤモヤして、黒い気持ちがどんどんあふれ出して」
本音を言って欲しい、そう言われたから吐き出していた。一度出ると不思議なもので、今まで自制していた感情や言葉がスラスラと出てくる。まるでこれが私の本性のように。
抱きしめてる間にこんなこと聞かされる彼はきっと苦痛だろう。でも、そうだとしても最後まで話を聞いてくれた。時々うんうん、と相槌を打ちながら。
「硝子ちゃんと医務室で話してたときに、怪我した女性の呪術師を抱いて来たとき、少し羨ましかった。今までそういうことしてくれたことないし
――
いや、して欲しいと言ってるわけではなくて! これが彼氏彼女の形なのかな、と思ったら
……
」
「え、お姫様抱っこ憧れてたんだ? なぁ~んだ。言ってくれればいつでもしてあげるよ」
「えっ」
「でもさ、これだけは聞かせて、本当に憧れだけ? 本当にそれだけ思った?」
こういう時の悟君は結構鋭い。しかし、全部吐き出せという彼氏の要望を断る訳にはいかず、渋々答える。
「
……
もし、私が倒れた時は悟君はあの怪我した人のように抱っこしてくれるのかな、なんて怪我人がいる中で思っ
……
思ってしまいました」
我ながらなんて酷い思いだろう。まるでその人が死んじゃえばいい
――
死んで、その場所が私と入れ替わってくれればいいのにと、悪い心の私が思ってしまったこと。その女性にも申し訳なくなって、語尾には聞こえるか聞こえないかくらいの小声だったと思う。
彼の小さな息を吐いたのが分かった。さすがに呆れたか嫌われたかもしれない。
「はぁ
……
沙奈
は変なところで真面目だよね~。職業柄なのかもしれないけどさ、縁起でもないことを簡単に思わないでよ。ま、僕が守るから死なせないけどさ」
「あの
――
」
「けどずっと思ってたけどさ。真面目な奴ってそういう負の感情は案外特級レベルなのかもよ? 例えば七海。アイツは一般企業に行っただろ? そのせいかいつも『労働はクソです! 呪術師もクソです! 残業もクソです!』って文句いうでしょ? 僕は高専卒からずっと呪術界にいたし、そういうのは分からないからこういうものだって思いながら生きてるけどさ」
「う、うん」
「そういうお前の負の感情は、ある意味僕と同等かもしれないって話。別れたところでお前の不満を受けきれる男なんて、僕くらいしかいないと思うよ。
……
何だって僕は毎日毎時間お前のことばかり考えてるし、変な虫が付かないように監視
――
観察してたんだから」
「え? 今何か怖い発言が聞こえた気がしたんだけど
……
?」
「気のせいじゃない? 僕の愛情と、お前のその負の感情がある意味バランス取れて僕たちいい恋人同士だと思うんだよね
……
だからさ、今度は僕に愛されてよ」
そう言うと、頭を私の肩に乗せてさらに密着した。寒いはずなのに彼に触れたところが不思議と暖かい気がする。後頭部から彼の手が触れて、少し乗っていたらしい雪をはらってくれる。
「こんなに冷たくなったら、温めてあげたいじゃん。まずは別れ話を無かったことにして。つーか、しろ」
「え?
……
え?」
急に語尾が命令形になって驚いた。
怒りがあふれると普段フレンドリーな彼は素の言動に変わる。その頻度は上層部と話をした後か、特級呪霊を相手にしているときくらいだ。
「少し訂正。負の感情はやっぱり俺が最強だわ。俺だってお前と男の呪術師や補助監督と話してる時どんな気持ちで見てたと思う? 正直ぶん殴りたい気分だったよ。俺の
沙奈
と親しく話すなって。けど、あの頃とは違って大人になったから、何とか自制を保ったけど」
そう言って悟君が顔を上げると、学生時代の彼を彷彿とさせる無邪気で何か悪戯を企んでいるような悪い笑みが零れていた。
「どう? この姿見せてるの、
沙奈
にだけだよ? 僕だって人間だからね、嫉妬だってするしいつだって
沙奈
を独占したいし、甘えさせたいんだよ」
「
……
ごめん、中々素直に、なれなくて」
「
沙奈
が頑張って『悟君』って慣れようと部屋で練習してるの知ってるけどね。本当、可愛いよ。お前以外の彼女なんてあり得ないね」
「っ
……
?!」
私たちは同棲をしているわけではないが、お互いの家に合鍵を渡して、自由に出入りすることが出来るようになっていた。本当は彼の要望で同棲したいらしいけど、まだそこまでの勇気は私にはない。ならばと、お互いの家の鍵を交換していつでも入れるようにしようという彼の提案で手を打ったのだ。勿論無断ではなく、家に行くときも来るときもメールや電話で断りを入れてからする。
そんな状況で、人が寝ているときにこっそり家に入って、朝起きたら一緒に寝てたり、どっちかが朝食を作って朝を迎える
――
なんてこともある。
寝る前に、私は『悟君』という言葉を気軽に呼べるように秘密の特訓をしていた。
ネットとかで見ているとやっぱり恋人同士で名前を呼ばないというのはあり得ないようだ。いや、私から見てもあり得ないと思う。だから、恥ずかしくないように自然と名前を言えるように練習していたのだ。これは彼にも硝子ちゃんにも、他の仲間にも内緒だ。
それが、いつだったか悟君が夜の任務帰りに私の家に寄ったらしい。たまにはいきなりやってくることもあるのだが、その時に私が名前を呼ぶのを練習していた風景を見てしまったらしい。
その光景を思い出しているのか、嬉しそうに笑い出す。私は恥ずかしくなって、胸板を押して離れようとするが、予測していたのかぎゅーっと離さないというようにくっつく。
「いやぁ
……
あの時は胸がキュンってなったよ。中々呼んでくれないなって思ってたら、僕の名前呼べるように練習してる彼女の姿を見てたらさ、もう一回『僕の名前を呼んでよ』って言いづらいよね。それくらい、僕のこと想ってくれてるんだって嬉しかった」
「~~!! し、しばらく五条君って呼びますっ!」
「えっそんな! 止めないで! 黙って見てたのは謝るから! このとーり!」
「
――
ぅえぇ?!」
急に身体が浮いて驚きの声を上げる。気がついたら私は悟君にお姫様抱っこをされていた。
「ほーら、お望みのお姫様抱っこですよー。これで許してくれる?」
何か半分子ども扱いされてるような気がしたけど、正直いうと、嬉しかった。
これは女の子なら誰でも憧れるわけだ。けど、落ちそうって思うと少し怖い。
「ま、結婚式送ったらまたしてあげなくもないけどね」
よくドラマとかでやってるじゃん? と重たいだろうにケラケラと笑う彼氏に私も自然と笑いを零した。
「あっ、今日やっと笑ったね。そうだ、これから
沙奈
の家にお邪魔していい?」
「何で?」
「そりゃあご機嫌斜めな彼女さんを慰めて甘やかしたいからね。そのために明日いっぱい任務ないし」
「えっ、もしかしてまた伊地知君に
――
」
「勘違いしないでよ。先にちゃっちゃと終わらせて来ただけ。ちなみに、さっきの女は任務の依頼人だった人だよ。見かけて呪霊払った後のことを聞いてたんだ。だからこれにて任務終わったワケ
――
じゃあ
沙奈
の家にしゅっぱーっつ!」
「えっ? このままで行くの?」
「恥ずかしい? いいじゃん、この人が私の彼氏ですーって住民に見せつけちゃえば?」
「駄目! ゼッタイ!」
「えー、残念」
そう言って私を下ろしてくれる。でも、私の家に行くことは確定事項らしく、私は受け入れるしかなかった。でも、これから一緒にいられるのはすごく嬉しい。
私たちは私の家に向かった。家でご飯を食べたり、録り溜めしていたドラマを一緒に見たり、他愛のない世間話や恋人としてのあれこれなど久しぶりに二人で楽しんだ。
とある日、私と悟君は恋人を継続することになり、私たちは補助監督さんたちの間で噂になっていることを知らなかった。
「
藤森
さんと五条さん、仲直り出来たみたいですね。お互いすごくいい顔してますよ」
そう、悟君の噂を教えてくれた女性の補助監督さんが楽しそうに呟いていたらしい。
【終】
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