麻さばカン
2025-01-18 07:55:36
2515文字
Public 贈り物
 

ときわ色に映す火は赤く燃える

単三さん宅の不死『エフェメラ』さんとラレンティウスの、現パロ短編小説を書かせていただきました。
単三さん宅はこちら→ Twitterぷらいべったー

放課後の終わりに夕暮れが迫るお話。
【陽だまりの舞台は、いずれ幕を閉じて】の後、ラレンティウス視点。
※2ページ目はあとがきとなっております。

 放課後の終わりを告げる夕暮れ、太陽はひときわ輝き家路につく影を色濃く映す。冬は日が傾くのが早い。故にラレンティウスは、今日の部活動を切り上げてエフェメラを帰すことにした。……のだけれども、彼女は気が進まないらしく、堂々と椅子に張り付いていた。
 困り果てたラレンティウスに、しかしエフェメラはひとつ“取引”を持ち掛ける。一体“取引”など何処で覚えたのかは知らないが、その内容はいたってシンプルで……これから投げかける質問に答えれば素直に帰る、というものだった。

 ――先生にとって、嬉しいプレゼントは?

 確かにシンプルだが、意外と難しい質問に思わず唸るラレンティウス。そして彼女の真剣な眼差しから、これはきっと彼女にとって大事な質問なのだろうと察する。
 それならばとエフェメラのため幼少期から過去を振り返ってみたものの、答えを導き出すにはそれなりに時間が掛かりそうだ。思えば最近、プレゼントを贈られる機会などほとんど無い。そういえば、写真の友人からは樽工場で買ったという『ミニ樽キーホルダー』を貰ったものだが。
 悩み抜いた末、ラレンティウスは自身が今最も望むものを答えとして差し出した。

「プレゼントというか、その、暗くなる前に下校してくれると助かるんだが」

 その返答にブーイングを飛ばすエフェメラ。それは至極当然だと受け止めつつ、ラレンティウスは続けた。

「いや決して方便だとかではなくてだな……ただ、心配なんだ」

 ラレンティウスは不安を滲ませた表情で、エフェメラを自身の瞳に映す。彼女の身にもしも何かあったならと想像すると、胸がぎゅっと締めつけられてしまう。しかしこの感情は、ひとりの生徒に対してなのか、それとも――これは容易に表へ出すものではないと自制し、心に留める。
 葛藤からふと我に返れば、エフェメラの事をじっと見つめている己に気づいた。彼女の瞳と交わる視線を慌てて外し、ラレンティウスは窓に目を向ける。夕暮れと夜闇が溶け合い、太陽はもうすぐ沈もうとしていた。

「すまない。大事な質問なのに、うまく答えられなくて」

 再びエフェメラへ向き合うラレンティウスだったが、彼女はというと、いつの間にか俯いて頬に両手を添えていた。もしかすると怒っているのだろうか、或いは情けない先生に対して失望してしまっただろうか。
 しかしエフェメラは添えていた両手を左右に離し、今度は勢いよくパチリと頬を叩いて顔を上げた。

「駄々こねちゃって、ごめんね先生。私、ちゃんと帰るよ」

 突然の行動にラレンティウスは呆気に取られつつ彼女の様子を窺うと、その頬はうっすら紅潮しているように見受けられる。結構な勢いだったが、痛くないだろうか。
 しかし彼女なりに自分の中で、ひとつの結論に辿り着いたのだろう。その目はきらりと輝いているようだった。

 そうしてエフェメラは手早く帰り支度を済ませ、準備室を後にしようと扉へ手を掛ける。ラレンティウスは時間が掛かったお詫びとして、せめて校門前まで送ろうかと提案したが、普段とは違い珍しく彼女から却下されてしまう。
 思えば、彼女が部活動に参加してから幾らかの月日が経つ。エフェメラもまた年頃の若者、自立心の芽生えなのかもしれない。
 エフェメラはラレンティウスに向けて微笑み、手を開いて軽く振る。

「先生、また明日」
「ああ、また明日。気をつけて」

 ラレンティウスはエフェメラの後に続いて廊下へ出ると、彼女の姿が見えなくなるまで見送る。見えなくなった後もしばらく立ち続け、足音の消えた廊下の向こう側から誰も来ないかを入念に確かめてから、彼は準備室へ戻る。
 迅速に足早に自らの席へ着き、彼は大きく息を吐きながら全身全霊で机へ突っ伏した。

 ――危なかった、思わず期待してしまう自分が恥ずかしい……

 ラレンティウスも、そこまで鈍いわけではない。今月は一月で、来月は二月なのだ。“時”というものが変わらず流れるならば、つまりそういう事だろう。
 今日の部活動開始近くにあった最初の質問は、明らかに“バレンタイン”という単語を含んでいた。思い返すだけで心は悶え、のたうち回ってしまいそうだ。
 しかしバレンタインというと、思い当たるものは本当に友人の写真くらいで……けれどもエフェメラからの質問をはぐらかすため、利用する形になってしまったかもしれない。彼女にも失礼を働いたことだろう。葛藤に罪悪感と続けざまに湧いてきて、ラレンティウスは誰ともなく頭を下げる。
 身体を起こし椅子の背もたれへ寄りかかって天を仰ぎ、そして目を閉じる。エフェメラと瞳が合ったあの瞬間が、焼きついて離れそうもない。いまだに身体は熱く、特に顔は鏡を見なくても真っ赤である事は明白。今なら顔から火を出す呪術が編み出せそうなくらいだ。

 この鼓動も熱さも収まりそうにないと、ラレンティウスは思わず胸に手を当てる。
 内なる火の有り様は、自身が答えを見つけなければならないだろう。それは教師という立場、そして、ひとりの人間として。――嗚呼、きっと二月は大変だ。

 外はすっかり暗くなり、準備室の明かりはしばらく夜に留まる。
 一緒にいるストーブは準備室の主など無関心に、変わらず静かに火を燃やし続け、時間は過ぎていった。

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