のま
2025-01-11 01:15:08
3264文字
Public 冬駿
 

新春ドキドキ★冬駿おみくじ(全3種)

2025/1/12超熱血ストラグル2025冬の無配&WEB公開の冬駿おみくじSSです。
「スーパー大吉」「大吉」「めっちゃハッピー」の3種があります。
すべて15年後軸で、ふたりが遠距離恋愛中という設定の話です。


大吉-インドに住む山田のもとを訪ねる冬居の話-

 ほら、そろそろ空港行く時間だろ、と腕を引っ張られたが、僕は頑として立ち上がる気はなかった。
 立ち上がらなければいけないと分かっている。でも、ここで立ちあがったら、このひとと向こう半年は会えなくなることが確定してしまう。僕は暫く日本でのスケジュールが詰まっているし、山田さんの今シーズンもじきに始まる。
 あともう少し、せめてあと数分――刻一刻と迫る帰国の時間を先送りにしながらソファーに張り付いていると、最初は「なんだよトーイ、帰りたくないの」なんて余裕ぶってニヤニヤしていた恋人も、次第に痺れを切らし始めた。
「なあ、いい加減にしろよ」
「やだ、帰りたくない……
「三十超えてそんなん言っても全然かわいくねーぞ。だいたい飛行機乗り遅れたらどうすんだ」
「いいです、このままインドに骨を埋めるから……
 そう言って、山田さんの胸に頭を預ける。ふわりと香る洗剤、とくとくと聞こえる心臓の音――この一週間、味わいつくしたその温もりからは、どうしたって離れがたかった。
「ばーか、んなこと言って絶対しねーじゃん」
呆れたようにデコピンをひとつ食らう。痛いよ。恨みをこめて見上げると、山田さんは「しゃあねえなあ」と立ちあがる。
 そして僕の両脇に腕を差し込むと「よいしょっと」と言ってぐいっと抱き上げた。
 かなり軽々と持ち上げられてしまったので、僕より低いところにある頭をただ呆然と見下ろした。
「冬居、前より体重落としたろ? そんくらいなら俺でもヨユーで持ち上げられるって。もっと重いヤツらとカバディやってんだ、ずっと」
 そう言って、山田さんは得意げに笑った。その目尻に寄せられた皺の数はずいぶん増えたけど、その分だけ逞しく、老獪さすらが漂いはじめていた。その姿にうっかり見惚れている隙に、山田さんは僕のスーツケースとボストンバッグを掻っ攫い、日本から持ってきたコートをひらりと肩に引っかける。
「さっきタクシー呼んどいてやったから、空港までいくぞ」
 玄関まで颯爽と歩く幼馴染の足取りは、この地で根を下ろし、カバディで生きていくことを叶えた男の足取りだったから、ふと「好き……」と呟きが零れてしまう。しかし、幸いにも当人には聞こえていなかったようで「早く来いよトーイ!」と玄関先から呼ばれるだけだった。あわててその背中を追いかける。
 タクシーに乗り込み山田さんはヒンディ語で二言、三言、運転手と何やらやり取りを始めた。その横顔をじっと見つめていると、ふいに視線を向けられた。
「なあ、さっきなんか言ってただろ?」
 もっかい聞かせてくれよ、と続けた口元には、しっかりとからかうような笑みが浮かんでいた。
……なんにも言ってない!」
 頬がじわじわと熱くなって、そっぽを向く。
 車窓からは、デリーの景色がゆっくりと過ぎ去る。