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平和を壊す械たち
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1話✧乱械
✧執筆協力
まめこ様
✧スチル協力
秋楽みのる様
✧
米2ろう様
✧
つきしろ様
1
2
3
4
「それでは出発しましょうか」
玄関ホールに全員が集まると、ナーデルは鍵を開ける。大きな玄関の扉を開くと眩しい光が差し込んできた。その日を受けて、ナーデルが一歩踏み出すと、それに次々と続いていく。
館の外は木々が生い茂る森になっており、時代の変化はさして感じられない。強いて言うならば、樹木の種類が少し昔と異なっているだろうか?見渡した限りでは整備された人工的な道や建物がある訳でもなく、この館自体が森に隠されているのだと分かる。さらに、館そのものの大きさを実感した。そして、中で過ごしていた時にはさほど感じられなかったが、館にもかなり歴史があるように見える。
ナーデルはゆったりとした足運びで優雅に一歩ずつ歩を進めていく。その後ろを歩きながら、ルフレは彼女のドレスが汚れてしまわないか気が気でなかった。
「ナーデルさん、それだと裾汚れちゃいません?せっかく綺麗なドレスのに
…
」
「ふふ、ご心配ありがとうございます。お気になさらずとも、汚れにく丈夫な素材ですから滅多に汚れる事はありませんの」
彼の優しい気遣いに、ナーデルは振り向いて答えた。
その後ろに続くのは、上を見上げながら歩いてる車輪刑の男。
「あぁ、やはり、太陽の光は良い
……
けれど光を遮っている木々が邪魔だ
…
早く開けた場所に出ないだろうか
…
」
どうやら久しぶりの日光浴で気分が良さそうだ。その足も次第にゆっくりとなり、やがてピタリと歩を止めた。するとその後ろをついてきていたフィリップが彼の背中にぶつかってしまった。
「っとと
…
どうして止まってるんです?後ろ詰まっちゃいますよ。」
フィリップもあちこち見ながら歩いていたせいで、予期せぬ壁に割と勢いよくぶち当たり鼻先が赤くなっていた。
「うるさい、俺は今忙しいんだ。」
「えぇ、そんな理不尽な
…
光合成でもしてるんですか?」
何に忙しいんだ、と言いたげなフィリップの後ろを、ガスマスク姿の男がゆたゆたとどこか頼りなげに歩いてくる。
随分先を歩いていたグラディエーターは、いつの間にかその足を緩め、いつの間にか後方まで下がってきていた。そして、ガスマスクの彼の隣に並ぶと、先の自己紹介で気になっていたことを口にした。
「なぁ、君は先程自分のことを"がすちぇんばー"だとしか名乗らなかったな?俺を含めほとんどの者は自分自身に人間の姿としての名前をつけた
…
が、君はそうはしなかったのか?」
隣に突如現れたグラディエーターに若干戸惑いつつも、彼は問いかけにしっかりと答えた。
「
…
ただの処刑法が人の姿を手にしただけなので
…
名前なんていりませんよ。呼び方に困るならガスとでも呼んでくださ
…
」
その言葉が言い終わらぬうちに、「コラ!」とグラディエーターが遮った。彼は突然叱責されたことに驚き思わず目を見開く。
「名前を軽んずるのは感心しないな!
…
確かに俺達は人の姿形を得ただけの存在で名実共に人間ではないし、人間である必要もない。
しかしだ!俺達はこうして錬成され、自らの意思を持ち、今まさに会話までしている。奇跡とさえ言えるこれをそう簡単に流してはならない」
そう熱弁するグラディエーターに、ガスチェンバーの男はたじろぐ。なんというか、彼は色々と圧がすごい。
「俺が思うに名前とは、いわば存在証明なのさ。自らがここに存在していたという、証だよ。
……
忘れられるのは、誰だって虚しいものだろう?
…
まあ、そんなわけだ!君がここにいるという証を、俺は雑に扱って欲しくない」
一歩引いたガスチェンバーの男をものともせず続けられる熱弁。名前というものに対しての重要性を切々と語るその顔は熱意に溢れていた。その表情は、どこか父親のような包容力を感じさせる。
あまりに眩い熱意に、ガスチェンバーの男は敗北を認めるかのようにため息を零した。
「
…
一気に話しすぎですよ。
…
まぁ確かに奇跡って言えば奇跡ですね。それに、ここにいる械は忘れられたのが嫌でこうなってるようなもんですし
…
」
グラディエーターの言葉にそれも一理あると納得したようだ。
「はは、その通りだ!!
…
嗚呼、そうだ!君が良ければだが、俺が名前を付けてもいいか?」
そう提案すると、ガスチェンバーの男は少しだけ考え、答えた。
「
…
名前を、ですか?
…
別に構いませんけど
……
」
「なら俺に任せてくれ!!そうだ!そこの君もだ!!」
快諾(?)を得たグラディエーターは胸を張って得意満面だ。さらには、その前をゆっくり日光浴をしながら歩く車輪刑の男の肩をトントンと叩く。突然呼び止められた車輪刑の男は、少しぶっきらぼうな顔で振り向いた。
「なんだいきなり
…
」
「名前だ!君も車輪刑としか名乗らなかっただろう?この姿を手に入れたんだ、やはり名前はあった方が良いだろう!」
グラディエーターは爛々と目を輝かせて力説するが、車輪刑の男はあまり興味無さそうでどうでもいい、と顔に書いてあった。
「
…
はぁ、勝手にしろ」
「っははは!!任せておけ!!そうだな!まずは君たちのことが知りたい。君たちはどんな械なのか教えてくれ!」
グラディエーターは、二人の肩をがっちりとホールドしてすっかり打ち解けている(一方的に、ではあるが)ようだ。
そんな三人の様子を、カラベラフィルムは見ていた。
自分たちのような、拷問や刑罰という負の感情の煮凝りのような存在でも、こんな暖かいやり取りができるのかと、不思議な気持ちでいっぱいになった。
感慨深い思いに浸っていた彼の背中を樊凌がちょんちょん、と叩く。
「喂、キミのその帽子、どうなっとるん?溶けとるん?」
ずっと気になっていた。湿っているわけでもなさそうなのに、やたらと水を連想させる気になる帽子を被っているな、と。
「ん?私の帽子か?これは体の一部だ。成分は水と変わらないが、私の望む形状に変えることができる。」
カラベラフィルムはそう言って帽子のしずくを動かして見せた。まるで手足を動かすように。それを見た樊凌は、細い目をめいっぱい見開いて興味津々だ。
「什么?!那很有意思!他にはどんなことが出来るん!?」
「そうだな
…
貴殿が楽しめる、一芸になり得るものとすればこれなどはどうだろうか」
そう言って彼は手のひらに水の花を作って見せた。樊凌はさらに興味を惹かれ食い入るようにその手のひらに生まれた水の花を覗き込む。
「そんなことまでできるん〜!?あっ!蓮の花も作れる?」
「あぁ、可能だ」
すると、まるで手品のように手のひらの花があっという間に透明な蓮の花に変わる。樊凌は目を輝かせながらその蓮の花を見つめ、ちょっとだけ触れてみた。大きな雫に触れたような感触だが不思議なことに手が濡れることはない。それに凹んでしまった部分はすぐに元通りの形に戻る。
そんな一連の流れを少し遠くから興味深そうに見ていたのは白浪。蓮の花が手のひらに生み出され、崩れた形がすぐに元通りになるのを見てと思わず「おお!」と声を漏らしてしまった。その声にカラベラフィルムと樊凌が気付き、視線を白浪へと向ける。白浪は、声を上げてしまったこととそれに気づかれてしまったことで、少しばつ悪そうな顔をして謝った。
「す、すみません!覗き見するつもりはなかったのですが
…
つい、興味を引かれてしまい
……
!」
誤魔化すことなくすぐに謝罪する白浪からは、根が真っ直ぐな青年なのだと感じられた。
「気にしなくていい。みなが喜んでくれるのであれば何よりだ」
カラベラフィルムは白浪の謝罪に対して気にしなくていいと優しく言った。
「カラちゃんもこう言うとるし、もっとこっちおいでや〜♡」
樊凌は細い目で笑いながら、てててっ、と走って白浪の背後に回り、その背中をグイグイと押していく。白浪は戸惑いながらも気になっていた手のひらに咲く水の花が間近で見られて、満更でもないようだ。
カラベラフィルムの手のひらの花を観察しながら、転けることがないようゆっくりと進んでいた3人。
「そういや械のみんなってなんかしら叶えたい願いがあるんやろ?二人の願いって
…
」
ふと、樊凌は気になったことを二人に尋ねた。
「樊凌様」
するといきなりナーデルは樊凌の言葉を遮った。突然名前を呼ばれた樊凌ははて、と細い目を丸くしている。ほかの械達もどうしたのだろうか、と不思議そうな面持ちだ。
「お伝えし忘れていましたね。私たちの体を作っているのは人々や私たち自身の思い。その中でも一番強い思想、そうですね。皆様方の願いがそれにあたるのでしょうか
…
その思いを他人に伝えてはなりません。」
「え、えぇ、それってどういうコト
…
?」
「端的に申すと、願いは自分の胸の中に秘めておけ、ということです。」
「
…
あー
……
秘密の共有はNG
…
ってことですか
……
」
「それから、私たちが体を成したように、強い思いは結晶となり皆様方の体の1部となっています。その結晶こそが核心と呼ばれる私たち械の弱点です。」
そう説明するとナーデルは自身の胸元のバラの装飾に触れた。キラリと輝くそれは金属でも宝石でもない、不思議な輝きを放っている。
「なるほど
…
これは核心というのか
…
一部だけ形を変えることが出来ないものがあり疑問に思っていたが
…
」
カラベラフィルムはブローチに触れ、自分の体の違和感の理由を理解した。
話を聞いていたガスチェンバーの男は胸の辺りを撫でていた。恐らく、無意識に『核心』と呼ばれるものの場所に手をやっているようだ。ほかのメンバーもそれぞれが同じような行動をしている。
「ふーん、僕たちにも弱点があるんですね」
ルフレが言うと、ナーデルはさらに続けた。
「この核心を壊された際には私たちは消えてしまいます。それと
…
額を合わせ強く念じることで自身が持っている全ての記憶を相手に託すことができる力、伝承
…
こちらをした際も私たちは消えてしまいます。」
「
…
また新しい言葉に能力ですか
…
核心と伝承、ねぇ
……
」
ガスチェンバーの男は、グラディエーターに肩をホールドされながら呟く。
「思いを元に体ができているのなら、それを失えば消えてしまうというのはまぁ理にかなってますね。それよりも僕は思いを具現化する過程が気になるんですけど。一体どんな方法を使ったんですか。」
フィリップはナーデルに詰め寄って質問攻めにする。
「ふふ、それは秘密ですよ。それに方法が分からないといえばここにいる皆様方の能力も説明がつかないでしょう?それと同じですよ。」
少しも動じることなくそう言うと、フィリップは口ごもる。
何かと言いたいことはあるが、確かに自分の持つ能力も有罪判決を告げるだけでその者の足元が燃えるという、科学的には証明の出来ない行為だ。それ以上何も言えずフィリップは不完全燃焼のまま一歩下がった。
「他に質問もないようですし先を急ぎましょう。もう少しで街へ出ますよ」
ナーデルが先を促すと、一行は再び歩き始めた。
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