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ろころころ
2024-12-31 03:51:04
8785文字
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正義と鉄槌
うちよそ軸のアムリタから彼の正義を解釈しているので、よその子、うちよそ要素が出てきますがあまり気にしなくても読めます。
1
2
3
4
「少し良いですか?ウェン─────いえ、アムリタ」
「
………………
」
氷のような瞳が、凍てつく視線を此方へと向けている。それはいつもの友人達へ向けるヘラヘラとした態度とは異なる、"敵"と見なしたものへと向ける鋭いものであった。
とはいえ、そんなもので怯むようならば不死者なぞやっていけない。大方、
この間
の文句でも言いにきたのだろう。
レオン・クローヴィス。つい先日、世界を滅ぼしそして復活させた男。滅亡と復活の詳細は省くが、とにかくこの男が気まぐれな神のような行いで世界を弄んだのは事実だ。
そして、彼には協力者となる人物がいた。別世界からの侵略者─────アムリタはそのように考えていたが、この男曰く"愛する人"だと言う。アムリタは世界を滅亡へ導いた張本人のレオンだけで無く侵略者もまとめて排除しようとしたが──────彼らはなんと、自分達ならば世界を復活させられるのだと。言いたいことは様々だが、根本部分は常に冷静なアムリタは、世界の復活に賭けて仕方なしに彼らを殺すことをその場では諦めた。まぁ何時でも殺せる為、その可能性を見届けから
…
という理由も勿論あるのだが。
さて、そんなアムリタの内情など知らずに、男は着いてこいと言わんばかりに、無愛想に背を向けて歩き出した。離れていく銀髪を、アムリタは渋々追った。話すことなど何も無いのだが。何せわかりきっている。守るために戦う彼は、殺すために戦うアムリタと異なる世界で生きている存在。故に、何処まで行っても平行線であり、そもそも戦う目的が違うのだから干渉する必要すらないと。
しかし、この男はそれでは納得がいかなかったらしい。それとも愛する恋人が危険に晒された文句か。何方にせよ、世界の滅びの引き金を引いたのは其方なのだから、それらの不満も必然であることは理解して欲しいものだが。
やがて、彼が足を止めたのは、救助隊本部のバルコニーであった。
足の下に広がる柔らかい人工芝に月明かりが差し込んでいる。窓に沿うようにベンチが並べられており、男はそこに腰を掛けると、アムリタにも隣に座るように訴える。
「──────貴方に、伝えておこうと思いまして」
勿体ぶるな、早くしろ。時間が無駄だ。と喉元まで出かかった言葉を寸前のところで呑み込む。これを発言すればろくな事にならない、というのはアムリタの経験談である。
「まず最初に。確かに私は世界を滅ぼしました。復活させる方法があり、それを実現させたとはいえ私個人の感情に世界を巻き込んだことは反省しているんです。
……
ですが一つだけ。悪いのは私です。彼は────ラララさんは、私に付き合ってくださっただけなので。確かに私に協力してくださった罪というのは問われるかもしれませんが、それは商人である彼を私が買収して」
「話が長い。簡潔にまとめろ」
「
…………
こ、この野郎
…
」
抑えていたものが出てしまったが、これは仕方ないだろう。何せこんな寒いところにこんな深夜に呼び出され、長々と話されたらたまったものでは無い。俺は早く帰って寝たい。アムリタは切実にそう思っていた。
「
………
はぁ
…
ほんっとに貴方はこう
…
趣というものが通じませんよね
…
」
ブツブツと文句を言いながらも、男は続ける。
「つまり
……
反省はしてます。全ての責任は私にあるので。裁きの覚悟は、出来ていますよ」
男は真っ直ぐに、アムリタの瞳を見る。
何やら覚悟を決めてきたようだが
…………
アムリタにはそれがなんの事かはよくわからなかった。
「
……
何故?」
「
…
はぁ?
………
あのねぇ、馬鹿なんですか?私は世界を滅ぼしました。貴方の大嫌いな咎人ですよ。だから裁くなら裁きなさいと言っているんです。その代わり、巻き込まれた彼には手を出すなと──」
「
…
?
…
お前は死にたいのか?」
「どう解釈したらそうなるんですか?」
会話が通じない
…
と悲壮な顔をされたが、それは此方の台詞だとアムリタは顔を顰めた。
「殺せと言ったのはお前だろう」
「こ、殺せとは言って無いでしょう!?私は、世界を滅ぼした罪への裁きを受けると言っただけで!」
「
…
裁き?そんなに裁かれたいのなら大好きな裁判所にでも提訴すれば良いだろう」
「はぁぁぁぁぁ!?!?な、何なんですか貴方は!貴方が滅びた世界で執拗に私とラララさんを殺そうとして来たから、貴方に言ってるんでしょう!?今更無関係面しないでいただけますか!?」
胸ぐらを掴まれた衝撃でぐえっ、とアムリタは声を上げる。物騒なのはやめて欲しい。戦うことしか出来ない自分が言えることでは無いが。
「無関係も何も、俺だって出来ることなら関わりたくは無かったが」
「関わりたく無かった?人の事散々殺そうとしておいてよくほざきますね
…
」
「悪事を働いたお前が悪い。ただし、俺は咎人を償わせるために殺しているわけではない。単純に、悪事という歴史を繰り返す諸悪の根源を断ち切っているだけだ。そもそも俺は咎人を責めることが出来るような人間では無い」
「
……
なら、尚更意味不明ですが。私が今後、同じような罪を繰り返さないという保証が何処に?
…
いえ、勿論しませんよ。ですが、貴方は証拠も保証も無しに後先考えず動くような浅はかな人間では無いでしょう。私を見逃すつもりだったというのなら、それなりの理由があるはずです」
それを、知りたいと。
男の瞳はそう物語っていた。
アムリタとしては、この理由は述べたくなかった。実に自分らしくない上に、恐らく母親の望んだ道とは外れた選択肢であるから。それでも、
「──────信じてみるべきだと、思った」
「
……
私が、今後同じ罪を繰り返さない、と?」
「所謂、身内贔屓という奴だ。証拠にしては確実性は無いが、お前は一度犯した過ちをもう一度犯すような愚人共とは違うと、俺がそう判断した」
「
……
そう、ですか
………
」
男が黙り込んだ。これでやっとこの寒くて暗い空間から帰れる、アムリタはそう思った。
「おい、気が済んだのなら俺は」
「
……
ウェン。信じてくれたこと、感謝します。それと貴方を巻き込み、貴方の手を煩わせたことには謝罪を。世界が元通りになったとはいえ、犯した罪は消えたわけではない。私はその罪を一生を持って償うつもりです。勿論、貴方に対しても」
すみませんでした、と頭を下げる彼のこういうところは、なんとも真面目だなと思う。アムリタとしては自分自身が迷惑を被ったという感情は無い。しかし、彼が今後世界のために生きるというのなら、それは彼の母が望む、永遠の世界平和への大きな貢献となるだろう。
「
……
俺に対して、と言うのなら一つだけ頼みを聞いて欲しい」
「なんですか?」
「もしも世界が平和を掴んだとしたら、その後の平和の歩みを、お前に託しても良いか?」
平和を───母の願いを願う兵器は、自分という存在が平和と共存出来ないことを、身をもって知っているのだ。
「何処に行く気で?」
「やらなければならないことがある。聞いてくれるな?」
「
………
ええ、わかりましたよ。約束ですからね」
「そうか。ありがとう」
立ち上がり、そそくさと自室への足を進める途中で、アムリタは足止める。
彼は友人であり、仲間でもあるのだ。それこそ孤児院時代からの長い付き合いで、様々な苦労を共に乗り越えた人間でもある。そして──────これを機に、大きな罪を抱えながらも"救助隊"として世界のために戦い続けるという共通点を持つ関係ともなった。それならば。
「クローヴィス。形はどうあれ、お前が幸せを掴めたようで何よりだよ。祝福しよう」
彼が思い悩んでいることは、全く気づいていないわけでは無かった。アムリタは人間関係の些細な問題に目を向けることはあまり得意では無かったが────それでも長年の付き合いの相手であれば多少は勘づく。とはいえ、自分にはそんな彼を救えるような言葉は思いつかないし、むしろ物事を悪化させた経験も多々あった。だから、何も言わないというのが彼にとっては最善の策だったのだ。
身近な存在ですら救えないのなら、救助隊とすら言えないと笑われても仕方がないと思う。だからこそ、そのような友人を救ってくれた異界の商人には、感謝しているのだ。
アムリタからの予想外の祝福に驚きを隠せなかったレオンだが、直ぐに笑みを浮かべる。
それは、何処か悲しさを含ませた穏やかな笑みであった。
「ええ、ありがとうございます。
…
その、貴方が何処へ行き何をするかを咎める権利は私にはありませんが
……
一つだけ。どうか、何処に行っても幸せでいてください。貴方にとっての今が幸せか否かはわかりませんが────貴方の幸せを願っている人は、貴方が幸せにならなければ幸せになれない人か、貴方の想像よりも多くいることを、どうか忘れないでください」
今度はアムリタが驚く番であった。
何せそれを聞いて思い出すのは──────母の言葉であったから。
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