たかせ
2024-12-25 23:39:11
8996文字
Public 二次創作絵・漫画
 

年末アライズ

一年を締めくくる時期のそれぞれのペアの話

2ページ…キサラとテュオハリム
3ページ…シオンとアルフェン
4ページ…リンウェルとロウ




◆シオンとアルフェン






「あらシオンちゃん!今日も旦那さんとお買い物?」
「ええ」

いつも以上の人出で賑わう市場。
元気のいい声でそう呼びかけられたシオンは、隣を歩くアルフェンと連れ立って露店へと足を向けた。
「今日もとってもいい匂いね」
「そうでしょう、そうでしょう」
「あら、これは新しいの?」
「さすがシオンちゃん、すぐ気づいてくれるんだから!これはね、お肉たっぷりの餡を皮で包んだものを、油で揚げてあるのよ。ひとつ食べていくかい?」
「いただくわ」
一切の迷いなくこくりと頷くシオン。美味しそうなものを目の前にしてきらきらと輝くその横顔を、アルフェンは微笑ましく見守った。



肉汁たっぷりでお野菜が甘くて、とても美味しかったわ!と味見の感想を述べつつ、焼かれる前のものを20個ほど購入したシオンは、足取り軽く再び大通りを歩く。
「ロウが好きそうな味だったわね」「確かに好きそうだな。今度来た時には一緒に食べに行くか」「ええ、ぜひ」と弟分を話題にしていると、すぐにまた声を掛けられた。

「お~い、お嬢ちゃん!それに旦那も!」

次に声をかけてきたのはこの辺りでは珍しい鮮魚を扱う店の主だった。威勢のいい男の声にシオンとアルフェンは微笑み合って、誘われるがまま店先を覗き込む。
「こんにちは」
「おう!今日も見ていってくれるかい?」
「そうね。今日のお勧めはどれかしら?」
星霊術で冷やされた箱の中には、様々な色形をした魚たちがきれいに並べられていた。いくつかはあの旅の途中でキサラが釣り上げた魚に似ているような気もする。
「そうだなあ……今日はシスロディア産のサーモンなんてどうだ?最近街道の整備が進んで新鮮なまま届けてもらえるようになったからな。生きがいいし脂ものっててうまいぞ!」
店主が指さす店の奥には確かに立派なサーモンがどん、とその存在を主張していた。
切り身の状態になったものを差し出され、一瞥したシオンはこくりと頷く。
「最高ね。いただくわ」



最近流通し始めた断熱材を用いた箱に10切れほどのサーモンを詰めてもらい、アルフェンがそれを担ぐ。
「サーモンならこの時期ロヒケイットなんてよさそうだな」「キサラのロヒケイットは絶品だったわね」「あのとろみが絶妙なんだよなあ……」などとキサラの料理についてあれこれ花を咲かせていると、今度はかわいらしい声が二人を呼び止めた。

「お姉ちゃん、こんにちは!」

ヴィスキントではよく見かける花売りワゴンの隣で、リンウェルより少し年下の少女が笑顔で手を振っている。
「こんにちは。今日のお花も元気そうね」
「うん!今日もきれいでしょう?」
手入れが行き届いているのが一目でわかる色とりどりの花。シオンは眩しいものを見つめるように目を細め、ええ、とやさしく頷いた。
「よかったら、おひとつどうぞ」
「いいの?」
「うん。いろんな人に配ってるの。今ってみんな忙しいでしょう?だから、お花を見てほっとしてくれたらいいなって」
「素敵な考えね。ありがとう。大切にするわ」
小さな白い花を一輪受け取ったシオンと少女が笑顔を交わす傍らで、アルフェンはワゴンを隅々まで見渡し、うん、とひとつ頷いた。
「じゃあ、俺は花束を買おうかな。いいか?」
「!うん、もちろん!」
「じゃあ、そこの淡い桃色の花と、そこの赤い花。あと、あっちの青い花を挿し色で!」



少女にもらった一輪と、片手に抱えられるよう小さくまとめてもらったアルフェンからのブーケを手に、シオンはアルフェンに続く形で大通りからひとつ入った路地に足を進めた。
特別な日でも何でもないのに……という多少の気後れが伝わったのか、出来上がったブーケを少女から受け取ったアルフェンは、小さな声で「日頃の感謝を込めて」と一言添えてシオンに手渡してくれた。その心遣いも、優しい香りも嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
思わず顔を寄せたブーケの中で、アルフェンが最後に選んだ小さな青色の花が軽やかに揺れる。その色味と可憐な姿は、どことなく年下の友人を思い起こさせた。
「シオンってアルフェンのこと考えてる時はすぐ顔に出ちゃうよね」と悪戯っぽく笑ってそう言った彼女の顔を思い出して、シオンは慌てて表情を引き締めた。


ふと顔を上げると、馴染みの店がすぐそこだ。アルフェンがよく訪れるその店は、以前テュオハリムに教えてもらった異国の食材も揃う一風変わった店だった。

「あら、いらっしゃい」

様々な棚が立ち並ぶ店内は少し薄暗い。奥から顔をのぞかせた店主は、艶やかに微笑んでアルフェンとシオンを出迎えた。
「こんにちは」
「いつもご夫婦そろってありがとう」
ごゆっくりどうぞ、の言葉に軽く頷いて、アルフェンは迷うことなくずらりと瓶が立ち並ぶ棚へと足を進める。アルフェンのお目当てはこの瓶の中身――乾燥させた葉や、炒った木の実などの香辛料だった。
シオンもその隣に並んで、瓶を順に目で辿り始める。キサラに調味料の奥深さを教わってからというもの、シオンもすっかりハマってしまっていたのだ。
「これは?」
「お姉さんお目が高いわね。そのペッパーは今日ニズから届いたばかりよ」
「いい香りね。粒の形も整っていて良い品だと思うわ」
「こっちのサフランでライスを炊いて、カレーと合わせるのもいいのよ」
「カレーか!」
カレーの言葉に、隣で唐辛子をあれこれ比べていたアルフェンがぱっと顔を明るくする。その喜色に満ちた声にシオンは一瞬店主と顔を見合わせて――思わずふふ、と微笑んでしまった。
さっきはあんなに素敵だったのに、今は何だかちょっとかわいらしい。
「じゃあ、そちらも一緒にいただくわ」
思わず笑顔がこぼれてしまう、そんな満ち足りた気持ちのまま、シオンは愛しい人のために財布のひもを緩めた。




その後も野菜や果物、日用品などを買い足して、気づけば二人とも両手いっぱいの荷物を抱えることになっていた。
「大丈夫か、シオン」
「ええ。このくらい平気よ」
ヴィスキントの街を出てトラスリーダ街道を道なりに歩く。その道すがら尋ねたアルフェンに、シオンは笑顔を浮かべてそう答えた。確かにその足取りは軽く、桃色の髪がさらさらと揺れる様もどこか楽しそうだ。
「何だか機嫌が良さそうだな」
「そうね」
思わずこぼしたアルフェンに、シオンは荷物の一番上に乗せたブーケを見下ろして頷いた。
「旅の頃にも話したことがあったでしょう、みんなで持ち歩いていた荷物のこと」
……ああ!そんなこともあったっけ」
あの時は私の言葉が足らなかったわね、と懐かしそうに続ける。

「それと同じで――ここに今抱えているものすべてにも貴方との思い出があるのだと思ったら、何だか嬉しくて」
だからちっとも重さなんて感じないわ。

ふふ、と心から幸せそうに笑ってそう口にしたシオンの横顔に、アルフェンは今日もまた撃ち抜かれたのだった。