たかせ
2024-12-25 23:39:11
8996文字
Public 二次創作絵・漫画
 

年末アライズ

一年を締めくくる時期のそれぞれのペアの話

2ページ…キサラとテュオハリム
3ページ…シオンとアルフェン
4ページ…リンウェルとロウ




◆キサラとテュオハリム





キサラは悩んでいた。

右手には、いささか小ぶりだが使い勝手が良さそうな逸品。
左手には、少々重量があるが面が広く手になじむ逸品。

(どちらも捨てがたい……っ!)
握りしめる両手に思わずぐぐ、と力が入る。
ああもう、この際両方買ってしまおうか。
いやしかしここで贅沢をしていいものか?新たな年を迎えるにあたって、きっと他にも入用なものはあるはずだ。無駄な出費は避けなければ――


心の内で葛藤を繰り広げるキサラの眉間に、ぐぐ、と力が入る。
その時。
「どちらか君のお眼鏡にかないそうかね?」
突然背後から声を掛けられて、キサラは勢い良く振り返った。
「テュ、テュオハリム!?」
一瞬声が裏返ってしまったのを気にする余裕もない。キサラは大きく目を見開いたまま、背後で笑みを湛えるテュオハリムの顔をまじまじと見上げた。
――だって、居るはずがないのだ。
「貴方、月末まではペレギオンで会議だと――
「予定より少しばかり早く終わったのでね。ヴィスキントへの視察も兼ねてしばしの暇をもらったのだよ」
……と、呆然と呟くキサラに、テュオハリムはそっと目を細める。
「そうして街に繰り出したところ、運よく君の姿を見つけたというわけだ」
その視線はそのままゆっくりとキサラの手元に落とされた。正確には、その手に握られているものに。
――すまない、君の貴重な時間を邪魔するつもりはなかったのだが……決めあぐねているように見えてね。微力ながら力になれればと声をかけた次第だ」
「あ」
続けられたその言葉に、キサラははっと我に返った。
テュオハリムの視線を追うように目を伏せれば、両手には形の異なる2つのフライパン。
――そう、フライパンを選んでいる途中だったのだ。

「そう……ですね。確かに悩んでいました」
両手を見下ろしたまま、キサラはもう一度重みを確かめるようにその持ち手を軽く握り返した。
「こちらは少し小ぶりなのですが、深さがあって焼きに限らず下茹でや煮物などにも幅広く使えそうなところに魅力を感じています。こちらは少し重量がありますが面が広くしっかりとしたつくりで、火の通りも早そうなので炒め物によさそうだな、と思いまして……どちらにするか決めかねていたんです」
「なるほど」
先程まで悩んでいたことをとつとつと並べるキサラ。ちらりと視線を上げてテュオハリムを見上げれば、彼はふむ、と顎に手を当てて大きく頷いた。
その瞳が、一瞬きらりと煌く。
「では、両方いただくとしよう」
「は……え?」
「すまない店主、こちら両方でいくらかね」
いつの間にか自分を通り越し、財布を片手に露店の店主に声をかけ始めたテュオハリムに、キサラはフライパンを両手に携えたまま慌てて詰め寄った。
「ちょ、ま、待ってくださいテュオハリム!力になるというのは相談に乗るという意味では!?」
「生憎私には調理器具の良し悪しは測りかねる。それに君がそこまで悩むということは、どちらも優れた品なのだろう。であれば、どちらで調理した料理もぜひ食してみたいと思ってね」
奥から顔を出した店主がテュオハリム様!?と驚くのを受け止めつつ、テュオハリムは胸を張った。
「なに、安心したまえ。心配せずともこれは私個人の金だ」
ついでにぱちんと鮮やかなウインクをひとつ。得意げにそう言われ、一瞬「ついにこの人にも金銭感覚が……!?」と感動しかけたキサラは、慌ててぶんぶんと頭を振った。違う、そうじゃない。
「そ、それは結構なことですが、そういう問題ではありません!でしたら私が、自分で、買いますから!」
自分で、と強調するように声を張り、財布を取り出そうとしたキサラは、自分の両手がふさがっていることに気づいて一瞬出遅れる。
珍しく狼狽えて幼い表情を見せるキサラに、テュオハリムはそっと身をかがめて顔を寄せた。少し乱れた金糸から覗くその耳元に囁く。
「いい品に相応の対価を支払うことは物流を潤すという面でも大切なことだ。私もこの国のために微力ながら協力したいのだよ。――駄目かね?」
……っ!」
ぱっと距離をとったキサラは、それぞれの手にフライパンを握りしめるが故に己の表情を隠すこともできないまま、絞り出すように答えた。
……っその言い方は、ずるい、です」
ほんのりと赤く染まった彼女の耳に満足げに微笑んで、テュオハリムは優雅に自らの財布を開いたのだった。



「テュオハリム」
露店を後にして幾何か。言葉を交わさずとも同じ道をたどっていたテュオハリムは、その呼びかけに振り返った。
色を変えていく空を背に、丁寧にくるまれた二つのフライパンを抱えるキサラ。その腕が大切そうにもう一度包みを抱え直した。
「ありがとうございました」
丁寧にそう口にした彼女に、テュオハリムは口元に笑みを履いてゆるくかぶりを振った。
「なに、礼には及ばない。私がしたくてしたことだ」
――それでも、ありがとうございます」
夕日に金糸を染めやわらかくそう言ったキサラは、ふわりと微笑んで力強く宣言した。

「ご期待に沿えるよう、使いこなしてみせますから!」