留守田
2024-12-25 11:13:45
3306文字
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贈り物のはなし

ちらのーとへノートした話のちょっぴり加筆修正したバージョンです。
1ページ目がアセアス(モブ視点)、2ページ目がアスTavです。またもや自Tav(ヴァリス)とか名前付きのスポーンとか脳内設定モリモリの仕上がりとなっています。


 昼前の宮殿の執務室。アスタリオンの目の前には、己の首元を蝶々結びしたリボンで飾るヴァリスが居た。
「良い子のアスタリオンへ、私からもプレゼントを贈ろうと思って」
私から”も“と言うのは、俺が子供スポーン達から様々な贈り物を既に受け取っているからだろう。
 執務室に生けられていた毒を持つ花(ヘレボルスと言う花らしい)から始まり、手作りだと言う素朴なクッキー(意外と悪くなかった)、地下牢に増えていた新しい獲物(我が家好みの極悪人だ)、蛇革細工の小物入れ(手触りが面白い)、木彫りの熊(モデルは高城のハルシン像か?)、香油の入った小瓶(甘い香りがする)など、俺が欲しがるかどうかも分からない癖に贈り物を用意していた。
「まさか、あの子達が突然こぞって贈り物を寄越して来たのは……
「助言は求められたが、アレはあの子達が考えたものだ」
 アスタリオンにとってはある意味、そこが一番問題だった。
 俺の可愛い恋人が嗾けたということもなく、別にあの子達が俺に逆らった訳でもないのだから、どれだけ今俺がむず痒い思いをしていても誰にも怒るに怒れない。罰は熾烈であるべきだが、それらしい根拠も無く罰を与えるほど俺は腐っていない。
 だが、命令一つでどれだけ望まない事でもさせてやれる主人に対して贈り物だと? 甘やかし過ぎて危機感がないのか、或いは忠誠を束ねる俺の配偶者の手管が優れているのか……律儀に全部受け取る俺も俺だが。
「全く、あいつらは俺が恐ろしくないのか?」
「地味だ地味だと文句を言いながら手渡されたクッキーを全部平らげる君主ロードは、恐ろしいというより面白いだろうな」
「実際地味だっただろう。見た目も味も地味なバタークッキーだった。腹が減ってなければ捨てている」
 ……本当に捨てただろうか。いや、多分一枚ぐらいは物の試しに食べていたかもしれない。
 バターとバニラの豊かな風味に、たっぷり使われただろう砂糖の甘さにもう一枚ぐらい手に取って……無くなるのが後になるか先になるかの違いだけのようだ。
「まあそんな事はいい。それで、お前が俺に捧げる贈り物とは何だ?」
「私だ」
 やや食い気味に、躊躇なく俺の配偶者は言い放つ。
「この私だ、アスタリオン。私が差し出せる最も価値あるものでもある」
 自ら跪き、当たり前のように差し出される首筋には、御誂え向きにリボンの結び目があった。結び目から垂れるリボンのどちらか片方を引っ張れば容易に解け、噛み跡が現れるのだろう事はすぐに分かる。
 反応を伺う赤い瞳の中には期待と奉仕への悦び、そして僅かではあるが明らかな嫉妬が燻っていた。贈り物を抱え何とも間抜けな顔で鏡に映っていた俺を微笑ましそうに見守っていた割には、普段なら些細な事だと笑い飛ばしそうな出来事で悋気を起こしているのはなんとも可愛らしいが。
「ふむ。久々にお前が書いた愛の詩が読みたいな、ダーリン」
 今はもう少し困らせてやりたい気分だった。
……は? 詩!? 私が詩を書くのは苦手だと知ってるだろう、アスタリオン!?」
 ヴァリスは立ち上がり、渋々といった様子で紙とペンを探しながら呻く。
 詩は苦手だと常々言いながら、旅の道中では何本か完成させて真っ赤な顔で俺に一人で読めと手渡してきたものだ。今となっては遥か昔のように感じる思い出だが、昇天して目紛しく時が過ぎるようになった今でも昨日のことのように思い出せる。
 普段の自信に満ちた態度とは違う、詩を書き付けた紙を両手で皺が付くまで握り締めた、笑ってしまうほどしおらしくて、耳の先まで真っ赤に染まった俺の宝物の姿を。
「ああ、お前のアヴェルヌスまで届く特技リストに作詩が載っていないのは知っているが。自分がプレゼント、とは何とも捻りがないとは思わなかったのか、ダーリン?」
「う……す、少しは思った……
 死んでも芸人は芸人らしい。ネタの弱さを指摘すれば弱った植物のように項垂れる。
「それに、昼間からお前を貪るのは子供達の教育に悪い」
「〜ッ! 馬鹿、あ、うおっ……!?」
 分かりやすく動揺したヴァリスが探し当てたインク瓶を取り落としそうになって、即席のジャグリングを始めた。二、三度左右の手で瓶をやり取りした後に、なんとか割れる事なくコーヒーテーブルの上へ着地する。
……そんな、夜ならいいみたいな事を言ってくれるな! 気が散る!」
 書き上がる前から顔を真っ赤にした配偶者から絆魂の繋がりライフリンクを通してグニャグニャとした思念が届き始めるが、アスタリオンはその中身までは覗かないことにした。