サンタクロースは傍に

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

2024年クリスマスネタ。
ウ教が急遽任務のためイブの日は里に不在。今年は一人でサンタ任務を頑張るハ♀だったが……



………………あれ……?」

いつの間にか目を開けられるようになっていたことに気付き、娘が 、ゆっくりと瞼を上げていく。

夜闇に沈んでいた景色が浮かび上がってくる、薄明はくめいの屋内。

自分は温もりに満ちた布団の中だと再認識した娘の視界は、次第に少しずつ、雫が落ちて揺れ滲んでいた水面が静寂を取り戻し始めるように、くっきりと輪郭を帯びてくる。

……!?」

何とか、声を殺せた娘。
だが、飛び上がってしまいそうなほど驚いて、睡魔など吹き飛んで、大きく目を見開いてしまった。

声も体の震えも止められたのは、奇跡と言っても過言ではない。

自分の布団の中には、いつの間にか、もう一人いた。しかも自分はその人物に抱きついていたようで、更には、先に目覚めていて。

……お、おはよう……愛弟子……

申し訳なさそうに眉を下げながらバツが悪そうに呟くのは、紛れもなく、娘が聖夜を共に過ごしたかった最愛の人であるウツシ。

任務で帰れないと言っていた彼がどうしてここに、しかも布団の中にいるのか、娘の中ではとにかく驚愕と歓喜が複雑に混じり合い、声も思考もまともに働かない。

「ご……ごめん、ね……? その……無理に抜け出して、起こしても、悪いかなって思って……それで結局、こんなことに……
「え…………!? …………!」

ウツシに言われてようやく、娘が自分の手に意識を向ける。

夢の中でそりの手綱だと思って握りしめていたものは、彼の装備品の一部。
襟元を多い、背中から二本、長く流し靡かせている鈍色のスカーフのような部分だった。

(待……って……!私、しかも、多分……!)

娘が必死に、夢現ゆめうつつの記憶を辿る。

そこでようやく、自分は今まで布団の中で彼に抱きついていたのだと理解して、たちまち顔が沸騰しそうなほどの熱を帯びた。

そうでなければあの温もりは、愛しい匂いは、感じ得ないもの。

「あ…………!ご、ごめん、なさい……!」
「んん、謝らないで。俺も、ごめんね?」

恋人同士なのだから、一つの布団で寄り添い合う状況も不自然なことではない。
ないのだが、お互いにしっかりと意識が覚醒していない状態でのやり取り。

恐ろしく不誠実なことをしてしまった気がして、震え声で恐る恐る「すみません……!」と再び謝罪を口にした娘に、ウツシは「俺の方こそだから、気にしないで」と首を横に振る。

だが、不意に、彼は「……でも」と、動揺以上に歓喜が宿る無垢な満月の瞳で、真っ直ぐ娘を見つめて、頬を染めながら照れくさそうに口角を上げた。

……嬉し、かったよ。俺の、こと……離さないでいてくれて……! ごめんね、サンタさんの仕事には間に合わなかったけど……頑張って帰って来て、良かった……!」
「!」

呼吸と同じように零れ落ちた、本音そのもののウツシの言葉に、どきん、と大きく胸を高鳴らせながら、娘がきゅっと口を一文字に結ぶ。


──だって……特別な夜だったんですよ?

──本当は、一緒に過ごしたかった……


ウツシが『頑張って帰って来てくれた』こと。

娘はそれが素直に嬉しかった。
心臓が激しく高鳴り、脈打って、全身の血流が早まりそうなほど。

それ故に照れの力も凄まじく、どうしても素直な想いが伝えられない。
言葉が想いと共に、喉の奥で、熱く張り付いてしまっていた。

けれど、このまま何も言わないのもウツシに対して申し訳なくて。

何か返事をしなくてはと、正面の彼を真っ直ぐ見つめ直した娘は、ふと、『今日』のことを思い出した。

……今日が……クリスマス当日、でしたね……ウツシ教官」

クリスマス『当日』。
娘のその言葉に、ウツシも「あっ」と気付いたように言葉を漏らした。

どちらからともなく見つめ合って「ふふっ!」と声を調和させ、穏やかに笑い合う。

胸の中に、穏やかな幸せの温もりの訪れを感じながら、娘が真っ直ぐウツシを見つめる。

目が覚めた時、会いたくて止まなかった、赤い服を着ていない最愛の人が目の前に居てくれて。

夢の中でも、現実でも、気が付いたら一緒に居てくれた。

……ありがとうございます、ウツシ教官。……愛して、います……!」
「俺の方こそ、ありがとう。……俺も、愛してるよ……!今日こそ……ゆっくり一緒に過ごそうね?」

ゆっくり、一緒に。
娘にとっても願ってもない提案に、彼女は破顔して「はい!」と大きく頷きながら微笑んだ。

昨日は、クリスマス前夜、クリスマスイブ。
今日が本番、クリスマス当日。

愛する人と一緒の、幸せな聖なる日。
愛する人の存在が、愛する人からの想いが、何よりかけがえのない贈り物。

そっと、優しく、今日を共に過ごすことを、これからもずっと愛していること誓い示すように、ウツシと唇を重ね合った娘。

彼女が枕元の、天の川を切り取ったような白銀のリボンがかけられた小さな真紅色の小箱の存在に気付くのは、もう少ししてから。

お互いへの感謝と、愛する想いを形に込めた、聖夜の贈り物。
気が付けば、お互いがお互いのサンタクロース。

格子窓から射し込んでいた柔らかな薄明が、次第に眩い朝暉へと変わり始める。

一日の始まりを告げる清光は、布団の中で幸せそうに寄り添う、サンタクロースから恋人同士に戻った2人を柔らかに、優しく包み込んだ。



@acadine