サンタクロースは傍に

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

2024年クリスマスネタ。
ウ教が急遽任務のためイブの日は里に不在。今年は一人でサンタ任務を頑張るハ♀だったが……



すっかり夜が深まった影響で、空気は鋭く冷え込んでいる。

サンタクロース任務を遂行している時よりも、はっきりと湯気立つような白息を吐きながら、眠りに落ちている里の中を、翔蟲を駆使しながら娘が懸命に、恋人の家を目指して駆け抜けていた。

今や、すっかり慣れた道。

よく考えればこんな時間に向かうことは初めてのような気がして、ますます彼女の胸は高鳴った。

着地して、大事な贈り物の桜色の風呂敷手提げを、いつの間にか胸に抱くように持って。

(おかしいな、こんな、遠かったっけ……!)

一刻も早く届けたいと、気持ちばかりが先走る。
愛しい人、ウツシには会えないけれど、できることを見つけた後の、想いの強さに比例して燃え上がる衝動。

普段の倍は時間がかかったような錯覚に陥りつつ、娘はようやく目的地に辿り着いた。

家主が普段賑やかなことが嘘のように、今は聖夜の暗闇の中に溶け込むようにひっそりと、静かに佇むウツシの家。

彼のオトモたちが屋内にいる小さな気配を感じた娘だったが、どうやら眠っているらしい。

人の気配はないことも察知し、やはりまだウツシは帰宅していないようだ。

(忙しいんだな……ウツシ教官……)

ほっとしたような、残念なような、複雑な心情と共に娘は白息を吐き出すも、彼女の目はすぐにきょろりと忙しそうに動いた。

持って来たものは大切な贈り物で、おにぎりという食品まで入っている。

地面に置きたくないと言うのが本音だが、手提げを引っ掛けておけそうなところはなく。

……あ」

ふと、娘の目に止まったのは、彼の家の玄関近くに置かれていた、ひのきの縁台。

それを見た途端、彼女の口角は嬉しそうに上がって、思わずまた白息が漏れる。

その縁台は少し小さいのだが、恋人同士が二人並んで、適当な理由をつけて密着したり、寄り添い合って過ごすにはちょうど良い大きさだった。

夏に二人で座って星空を見て過ごしたことを思い出しながら、娘がその縁台の前に駆け寄る。

(玄関からも近いし、ここなら……! まあ、教官ならどこに置いても気付いてくれそうだけど)

玄関に近い方の縁台の端に、大切に持って来た桜色の風呂敷手提げをそっと置いて。

今は開くことのない玄関引戸を一瞥して、娘は「ふふっ」と満足そうに微笑む。

……メリー、クリスマス……! ウツシ教官……また、明日……!」

笑顔の中に、ほんの少しだけ、微かな影を再来させつつ。

そして、彼の家から去ることに不思議な名残惜しさを感じながら、娘は踵を返して帰路についた。

きゅん、と締め付けられる胸の痛みはどこか甘く、心地良くて、静かに走りながら娘は苦笑する。

(…………ウツシ教官と、こんなに……一緒に、過ごしたかったんだな……)

行きが嘘のように、悶々と思考を巡らせながらの帰宅はあっという間だった。

土間に入って、玄関引戸をそっと閉めて。

オトモが眠っていることを良いことに、娘はアイテムボックスの前で堂々と脱いだ赤い衣装を、ボックスに適当に突っ込んでいく。

着替えを始めた彼女は、寒さが遠くなるほど想いをくゆらせ、ぐるぐると思考を巡らせていた。

今日は、特別な聖夜。

毎年いつも傍に居てくれる愛する人は、里長の懐刀ふところがたなであり里を支える柱のような強者ツワモノ

任務という里のためにも重要な仕事で不在なことには、娘も納得している。

むしろ、忙しそうで、できることが少ない自分の無力がやるせなく、悔恨の思いさえあった。

そんな気持ちの狭間に、恋人として彼を想い、彼と共に今年の聖夜を過ごせなかったことを寂しく思う心が、強い存在感を示す。

それへの救いを求めるように、娘は先ほどウツシの家に、彼にサンタクロース任務を実行できたことを懸命に思い出した。

(……喜んで、くれるといいな)

上がり框から畳の間に向かい、敷かれた自分の布団の上で、瑠璃色の寝間着の浴衣を着込み、もぞもぞと布団の中に入る。

規則的で心地良さそうなオトモたちの寝息を入眠音楽代わりにしつつ、天井を見つめながら、娘が今までで最も明らかに、寂しげに微笑んだ。


──ありがとう、愛弟子……

──とっても素敵な贈り物、嬉しいよ……


ゆっくりと目を閉じた娘は、そんな声が聞こえて来ないかと淡い期待を抱きつつ、蜜のような睡魔に意識を委ねた。

聖夜の月は、ひやりと澄んだ白銀の星彩に満ちた夜空の中の、まだ高い位置に鎮座している。


──愛弟子、ありがとう……

──大好きだよ、愛弟子……


娘の意識は、愛しいウツシの笑顔で溢れる夢の中。

現実は布団の中で、すう、すう、すう、と、彼女と彼女のオトモたちの寝息が仲良く重なり合っている。

火鉢の中の墨が、音もなく、炭の形を保ったままの化石のように燃え尽き始めていた。

@acadine