サンタクロースは傍に

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

2024年クリスマスネタ。
ウ教が急遽任務のためイブの日は里に不在。今年は一人でサンタ任務を頑張るハ♀だったが……



娘が、ぼんやりと、暗闇の中で目を開く。

まるで海のように果てが見えない、どこまでも続く、きらきらと煌めく紺碧色こんぺきいろの夜空。

いつの間にか満点の星空の中を、蒲公英色たんぽぽいろをした大きな満月が浮かび上がる絵本の中のような世界を、ふわふわと漂っていた。

『わあぁ……! 夢みたいに、きれい……!』

重力というかせはなく、翔蟲がいなくても、自在に星空を泳ぎ回れることが嬉しくて、娘はくるくると旋回しながら自由に星空を飛び回った。

『わああぁっ、すごい! 飛べるー!』

自分が空を飛んだ軌跡に、きらきらと小さな星屑が煌めく。

飛ぶことはもちろん、目に飛び込んでくる星座や天の川、景色の全てに語りかけたくなるほど楽しくて、美しくて。

幼い頃の、鐘が鳴るような胸の高鳴りを久しぶりに感じ始めた頃。

星空の彼方、満月の方から、シャンシャンシャン、と鈴の音が、聞こえてきた。

……? 何だろう?』

飛び回ることを止め、娘がそちらを見やると、ガルクが引っ張る赤いそりが、先ほど娘の飛んだ軌跡のように、きらきらと星屑を大地に降らしながら滑り飛んで来る。

娘がよくよく見ると、そりに乗っていたのは見間違えるはずもない、会いたくて止まなかった人物。

『あっ! わああ、ウツシ教官ーっ!』

娘が大きく手を振ると、よく見ればサンタクロースのような赤い衣装を纏ったウツシも、そりに乗りながら、笑顔で手を振り返してくれた。

シャンシャンシャン、と軽やかな鈴の音と共に、そりは娘の前でゆっくりと停車する。

『メリークリスマス、愛弟子! キミのサンタさんは、ずーっと俺だからね!』

娘に向けてにっこりと微笑むウツシに『わぁい!』と無邪気に、嬉しそうに娘も笑いかける。
目の前にいるのは、聖夜を一緒に過ごしたかった大好きな、大切な人。

『ウツシ教官サンタさん! えへへ、もしかして、プレゼントですか? 嬉しい!』

そこまで告げて、娘が何かを思い出したように小さく目を見開く。

『ウツシ教官、私……! 私も……教官に、プレゼント……!』

金色のリボンがかかった、深碧色の紙袋のことを思い出しながら呟く娘に『あぁ!』とウツシは嬉しそうに笑って。

『とっても素敵なマフラーだったよ! どうもありがとう、里の可愛いサンタさん! 大切に使うよ!』

金色の瞳を蕩けさせながら優しく答えてくれる赤いサンタクロース衣装のウツシの笑顔は、満点の星と満月さえかすむほど、あまりにも眩しい。

心の底から安堵して『良かった!』と娘が思わずそりのふちに手を添えると、ウツシは『おいで』とその手を引き、娘を自分の膝の上に乗せてやる。
そのまま、彼女を後ろから包み込むように抱きしめて。

『ふふふっ、キミだけの特等席だ。今日はお互い忙しかったし、もう少しだけ一緒に星空散歩をしようか?』
『ホントですか! わあい、やったぁ!』
『そうだ、これ握ってみる? そりの操縦に使うんだ』
『えっ?』

ウツシに背を預ける形で彼の膝に座る娘の前に、彼が差し出したのは純白の手綱。

ガルクの方に繋がっているようだが、特別身体に装着されている様子はなく、彼らの足元で鮮やかに輝く星雲のようなものに繋がっているようだった。

『さあ、それを引いてごらん。キミならきっとできるよ、可愛い里のサンタさん……俺の愛しい人よ』
『えへへ、はい! 教官とお空のお散歩したいので、やってみます!』

不思議なほど、何の疑問も抱くことなく、娘が両手に手綱を握り、ぐいと引き寄せる。

そりを引いているガルク、よく見ればウツシのオトモであるライゴウが『ワウッ!』と軽快に一鳴きして機敏に星空を駆け出し、それに伴って、緩やかにそりが動き始める。

『わあぁっ!すごい、動いた! 動きました、教官!』
『ふふふっ、いいぞぉ! さすが愛弟子、とっても上手だ! さあ、星空散歩に出発しよう!』

膝に乗せた娘を後ろから抱きしめたまま、ウツシの手が手綱を握る彼女の手に添えられる。

その手の温もりに、娘が反射的に顔だけで振り返ると、ウツシはとても幸せそうに笑ってくれていた。

鈴の音を背景音に流れ行く、紺碧色の幻想の景色。

普段見ている月や星の光とは思えないほど華やかに煌々こうこうと金色に、そして白銀に煌めき、恋人たちの時間を鮮やかに彩る。

……きれい……! 夢……夢、みたい………………ゆめ?』

娘が、ぽつりと言葉を零した刹那、彼女を後ろから抱きしめるウツシが『ふふ』と愛しげに、甘い吐息を春風のように吹かせて。

『俺の、可愛い恋人……愛しい人よ。愛してるよ……愛弟子』

緩やかに星空を駆けるそりの中、傍に居てくれるウツシの愛の囁きに、娘の全身がぞくぞくと震える。

念願が叶ったような、溢れんばかりの歓喜の力。

彼が傍に居てくれるだけで娘の心は満たされて、例えここがどんな場所でも、絶対的な安全が確保されたように思える。

『私も、大好きです……! 愛してます、ウツシ教官!』
『嬉しいな……ありがとう。一緒に過ごせて、良かった……

穏やかに、落ち着いた様子で呟きながら、ゆっくりと更に彼の顔が近付いて来て、娘はどこかそわそわしながら、期待するように目を閉じる。

最愛の人の体温に包まれながら、ふにゅん、と優しく触れ合うだけの、聖夜にふさわしい静かで優しい口付け。

例えほんの一瞬でも、足元から蕩けてしまいそうなほど甘さと熱を帯びたそれに、目を閉じたままの娘の心は、心臓は、ますます甘く忙しく跳ね上がる。

目を開こうとした彼女が、妙に瞼が重いなと感じた時、不意に、ウツシの唇が耳元に寄って。

『おにぎり……とっても美味しかったよ。本当に、ありがとう……! また明日ね……!』

娘は不思議と目を開けられないまま、少しずつ遠のいていく、シャンシャンシャン、という鈴の音に一瞬だけ、血の気が引く勢いで不安になった。

けれど、自分を包み込んでくれる愛しい人の温もりは確かに、在り続けてくれていて。

『教官……。ウツシ、教官……大好き……!』

鈴の音が、すっかり聞こえなくなった頃。

変わらず目を開けられないまま、娘が向きを変えて、ぎゅっと温もりに抱きつく。
慣れ親しんだ温もりと、一緒に感じる、大好きな人の匂い。


──匂い……

@acadine