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さの
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一次創作BL
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第一回BLかるたssチャレンジ 001「オーブントースター」002「窓」03「階段」
2024年末開催 #lplp第一回BLかるたssチャレンジ
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003 階段
クリスマスはもうすぐそこ、という日の夜も更けた、夜気にキィンと音が立っているように寒さが極まった時刻だった。冷えきった、一瞬白く残る、息もするのも苦しいと感じられる、バイト帰りの道のりをようやく終えて、アパートのそこだけ電灯が明るい階段を上って、踊り場を折れたら、人が座っていたので、驚いて俺はおもわず身体を硬直させた。
俺の住んでいるアパートは片仮名のコの字が四つ集まったような、変わった構造でコの字の集まったその真ん中にエレベーターと階段がある。せっかちな性格で最上階あたりまでいってしまっているエレベーターを待っていられなかったから、俺は幅広の階段をせっせと駆け上がっていったのだが、ちょうど目指す四階の手前に、つまり三階と四階のあいだの踊り場から見上げて、行く手を阻むように人が座っていた。若い男だった。大学四年の俺から見て二つか三つ歳上に見えた。スーツに近い服装に羽織った丈の短いコートが寒そうな、細身で、ウェーブの癖っ毛が電灯を浴びて白く輪をかぶっていた。小顔の、整った造作の、きっと笑ったらすごく綺麗だろうと思ったが、今はこちらをなんとも面倒そうに、元気の無い、憂いを帯びた表情で見下ろしてくる。こんな外の階段にどれだけの時間、座っているのか、顔は血の気が失せて青白かった。
膝に肘をついた格好をやめてスマホを握った手を下げ、男は俺をじっと見下ろしていたが、動かなかった。行く手を阻まれたように感じたけど、男はちゃんと段の中央じゃなく片方によって座っていて人が行き来するスペースはあった。そこで何をしているのだと思ったが、俺は黙って男の横を駆け上がる。
四階の自分の部屋のドアの鍵を開け、はーやれやれと入ってから、ダウンを脱いだ。買ってきた、夕飯の袋をローテーブルに放って、スマホの画面を見ながら、ひんやりとした室内に暖房が効くのを待つ。
夕飯のひとつの容器を取って、電子レンジのなかへ置いて「温め」を押す。同時にコンロで小さいヤカンで湯を沸かしながら、俺はなんとなく、さっき階段にいた男がまだいるか、気になってきた。掴んだスマホの時刻表示を見る。
夕飯の準備もでき、暖房も効いて、ドアを少し開けて階段のほうを様子見する。
俺は何も防寒具を着ないで、部屋を出て、通路を歩き、階段へ顔を出した。座っている男の後ろ頭が見えた。
「
……
あのー」
なぜ、声をかけたのか、自分でもわからない。
後ろからでも、寒々とした階段に座っている姿がほうっておけないくらい凍えていそうに見えたからかもしれない。
鈍い動きで男は振り返って、顔を上げて、重たいような目で俺をにらんだ。
部屋に、招くというより、男が同じ四階に住んでいるらしい彼女を待っている、もう時間の感覚もないと言うので、それならこの寒さだしとりあえずいったん屋内で休んだらどうかと提案した。
しばし考えるような間があり、長時間座っていたせいなのか、ぎくしゃく、と動きにくそうに立ち上がった男は、こちらに近寄ってきた。
言葉に甘える、というように静かにうなづいた。
部屋で、男は脱いだコートを肩にかけて、小さくちぢこまるように膝をかかえて座った。スマホは手から床へ滑り落ちていた。俺は沸かした湯でインスタントスープを溶かしたマグカップを男にすすめた。
落ち着いた調子で、ありがとうと言ってローテーブルに置かれたマグカップを男は見つめていた。そのうち、手を出して、指がマグカップの持ち手をゆるく握った。
持ち上げ、マグカップから立ち昇る湯気が男の顔にふわっとかかった。
あち、と聞こえた。
四階に住んでいる人間がどんな人物か、両隣はわかるが、他の部屋はわからなかった。帰っているかなんてまったくわからない。だからこの男の、彼女というのは何号室の住人か、尋ねるか、迷った。
俺は自分で招いた事態なのに、なんと言ったらいいか言葉が出てこず、せっかく温めた夕飯に目を落として、手をつけないで黙って、男のそばに座っていた。そして手持ち無沙汰に自分のスマホを手のひらに返しては、何もすることなく伏せた。
そんな俺の姿が、憐れに見えたのか、男は目の前の年下の何をしたらいいかわからないような振る舞いにくすりと微笑むような、歳上っぽい表情を浮かべた。その表情が、なんとも、変に色っぽくて、俺は二度見、というか三度見して、呆気に取られたような間抜けなかんじで男を眺めた。
マグカップが置かれる。コトと音がした。男は微笑んだ表情のまま、少し俯いた。
「
……
彼女、今週、帰ってくるって予定だったんだけど飛行機が、雪で続けて欠航になって
……
」
スマホを覆うように落ちていたコートの袖口を摘まみ、ゆるく引っ張って指を離した。それからスーツの袖口をいじいじと指がさわる。
「クリスマスには会えるって思ってた、信じてたから」
話しながらスマホを拾い、顔の高さに上げて表情はすぐ曇った。ため息をつきそうな顔でスマホを下ろしたあと、ゆっくりこちらに顔を向けて、ローテーブルに並ぶ夕飯を、食べなよというふうに目で示した。
俺は温めた容器のふたをパカとずらし、箸をつけた。
「
……
今日はいつまでも、待っているって言っちゃって」
男の声には自嘲の響きがあった。
もくもくと食べる俺を、見つつ、男は疲れはてたような息をついて
「
……
わかってるんだ。帰ってこないの。会わないようにして、引っ越そうとしているのも」
もう以前から他に相手がいるのを知っているという修羅場の話をされて、俺はなんとも対応に困って慰めも励ましも何も言えなかった。
「予定を空けているのが馬鹿みたい。クリスマスの」
ほとほと呆れるね、というように男はつぶやいた。
それから、初めて、何かに気づいたみたいに、男はまっすぐこちらを見るように目を開いて、俺をじろじろ見た。
「学生さん?」
俺は最後のひとくちを口に含んで、首を縦に振った。
どこの大学かとか年とかの会話の後に、なんともいえない沈黙がおりた。髪を少し指で疏いて、男はふう、とひと呼吸した。
なにもかも言ってしまえば、教えられたこの住所、このマンションに住んでいるかどうかもわからない、待っていても、帰ってくることはないとしても、あきらめられなかったというより、自分でいつまでも待つって言ってしまったから待っていたのだと男は悲しそうに笑った。俺は、その笑い顔にも、見惚れて、なかば唖然として男を眺めていた。
終電が、と男は気づいたように帰っていった。
「突然、ごめんなさい。こんな時間に」
最後に神妙な顔で謝って、インスタントスープの礼を言った。
コートを着込む男に、俺は何か声をかけたくて考えて
「
……
帰り、この時間になるけどクリスマス、空いてるなら、来てもいいっすよ」
一言、あたりさわりない挨拶で送るつもりだったのに、よくわからない誘い文句を口にしてしまった。普段使わない、「っすよ」なんて語尾で。
玄関のドアを背に、男は妙なことを言われたというように訝しげな目で俺を見つめ、首をかしげた。
黙ったまま、ふっと表情が急激に陰って、とてもおもしろくないことがあったみたいに険しい顔になって、何かそこだけ違う生き物のように口元だけが笑った。
男はスマホをあらためて、取り出した。事務的な手つきで、でもどこか優しいようなかんじで男は俺と連絡先を交換した。
吉留
よしとめ
と彼は名乗った。
それじゃあ、と出ていくのを、俺はドアを開けて身を乗り出し、肌を刺すように冷え冷えとした通路を、エレベーターの前を素通りして曲がって階段を下りていく横顔を見送った。
クリスマス・イヴもクリスマス当日も、バイトはあった。目が回る忙しさ、とはこのこととだと思うくらい、バイト先は盛況で、閉店後はスタッフ全員ぐったりとしていた。帰り支度を済ませる横で、急遽この後クリスマス・パーティーのような飲み食いでも行くかと誘われたが、断った。
俺は人の多い道を早足で、急いで帰宅した。
「
鵜飼
うかい
くん」
吉留は俺を見て、安心したように笑った。いろいろ手に提げて、部屋の前で待っていた。頼りない短い丈のコートとスーツではなく、もふとマフラーに暖かそうな厚い生地のオーバーサイズのコート姿で、脱ぐとなかはハイネックのケーブルニットに見えるセーターに、コーデュロイのパンツというコーディネートで、ずいぶん印象が変わって見えた。
「けっこうクリスマスっぽいこと、好きなんだよね」
と言う通り、ケーキの箱と持参されたクリスマスっぽい料理がローテーブルいっぱいに並んだ。美味しかった。
酒は持ちこまれなかった。俺は部屋の冷蔵庫に買ってあった缶チューハイを飲んでいた。
あまり飲めない、と言って、俺の飲む様を見つめていた吉留はいきなり、ちょっとちょうだい、と缶チューハイを奪って口をつけた。そして、美味しそうな顔はしなかった。
室内で、血の気の感じられる頬がほんのりと輝いて見えた。
両方、手の甲まで引っ張り上げたセーターの袖を指でさわりいじって、うん、ところで、と言うみたいに
「明日も来てもいい?」
どうにも、さびしいから、と距離近く囁くような声で告げられると、なんだか妙な気分になった。
二日連続で、吉留は来て、下の名前は
爽仕
そうし
なのだと教えてくれた。
奇妙な出会いではあったが、交流は続いて、季節のイベントをいっしょに過ごし、案外、甘えてくる魔性なかんじの彼に俺は日々、翻弄されることになる。
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