urifuji
2022-01-11 15:40:56
19113文字
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鬼哭村、料理に関する津々浦々② ~春:真心の八杯豆腐~

双子の料理珍道中その2です。今回は御神槌さん。
時期的には「理想のマリア」の後ぐらいの話ですが、これ単体でも全然問題ありません。
キリシタンなら隠れる為山間で暮らしていたのではないかとの思いがあり、御神槌は今までずっと山間に住んでいたというオリジナル?設定があります。





 鈴菜の料理があらかた済んでからみんなで手分けして椀に乗せ、お膳に揃える。

  <本日のお品書き>
   主食:ご飯 副菜:なすのみそしる
    二菜:八杯豆腐とおからの煮物、湯葉
    漬物:瓜ときゅうりのぬか漬け(金色)

 となっており、夕ご飯としては二菜が付いているあたり普段より豪華である。互いに向かい合い、手を合わせた。

「では、いただきます」
「おう、頂け頂け。……いただきます」

 鷹揚な言葉とは裏腹に綺麗な所作をしている龍斗は、背筋を伸ばして茶碗大盛りによそわれたご飯を放り込んだ。彼が噛み締める程もきゅもきゅと音が鳴り、時々ぬか漬け食べ触感の違いを楽しんでいる。
 御神槌も彼の様子を見守ってから箸を動かした。
 まずは彼等が作ってくれた豆腐。箸で摘まもうとするも思った以上に柔らかく容易に滑りおちてしまう事から仕方なしに一緒に準備していた匙で啜った。濃い味の出汁と豆腐の優しい味は口の中で広がり、蒸し暑さが続く時期につるりと入る喉ごしの良さも爽やかで食べやすい。隣にあるおからの煮物もほろほろとした感触と噛み締める度煮汁の風味口いっぱいに広がり、時々人参や油揚げの甘味や触感もちょうどいい締めになっている。
 ゆっくりと何度も噛み締めてからごくんと飲みこみ、目の前で黙々と食べている彼に微笑んだ。

「とても美味しいです」
「だとよ、良かったな。……お世辞でも嬉しい、だってよ。」
「お世辞ではありませんよ。本心です。本当に美味しいのですから」

 普段自分で料理を作っているが、人が作ってくれる料理は温かくとても美味しく感じる。特に今日は彼等、主に彼女が作ってくれた事もあるのかことさら美味しく感じる様な気がした。
 食べきるのがもったいない気持ちが箸に現れるのかゆっくり食事をすすめる御神槌とは対照的に勢いよく食事を勧める龍斗。全ての食事を半分程度食べたところで徐に目を閉じると、再度目を開けた彼は小さく手を合わせて食事を再開した。
 途中で変わる、との言葉通り今鈴菜に変わった様だ。
 ご飯やおからを口に含んでは「うん、大丈夫ですね。良かった」と満面の笑みを浮かべ楽しそうに食べている。黙々と食事を食べる龍斗とは違いにこにこおいしそうに食事を食べる姿をみて、同じ双子でも個性が出るのだなと御神槌は片隅でぼんやりと思った。彼と旅をしていた時はきっとこんな風に交代し、食事を楽しんでいたのだろう。美味しそうに食べていた龍斗(中身は鈴菜)であったが、御神槌の方に視線を移すと何故か落ち着きがないように視線をうろうろさせる。

「あの……、そんなにみられるとちょっと恥ずかしいです……

 頬を赤らめ照れたように話す鈴菜の言葉に御神槌は食事を忘れて彼女を見ていた事に気がつき顔を赤らめる。無意識下の自分の行動に恥ずかしくなり素直に彼女に謝罪する。

「不躾でしたね、すいません」
「いえ!こちらこそがっついて食事を食べていましたよね。……恥ずかしい。御神槌さんの周りはおしとやかな女性ばかりだったと思いますし、自分のガサツさは自負していますので」
「いえ、あの私は別に貴方を珍獣の様に見ていたわけでは。美味しそうに食べるのでとてもかわ、っ……
「かわ?」

 思わず可愛いと思って、と言いそうになって口の中で言葉をとどめたが、彼女はその言葉聞き逃してくれなかった。不思議そうに首をかしげる姿を目に捉えながら、冷汗が出る頭を必死で働かせ言い訳を考える。

「か、かわ、カワウソを思い出します」

【二ホンカワウソ:河川や砂浜などの沿岸部に住んでいる夜行性のイタチ科の動物。江戸時代では本州から島々にかけて広く生息している。因みに料理物語という本にカワウソの名前が載っており食用として食べられていたらしい】

「えっ?カワウソ?どっちにしろ珍獣では?」

 獣の様にガサツに食べているって事かな……と唸っている彼女に、もっとうまい言い分けを思いつかなかったのかと御神槌は心の中で激しく自分を罵倒した。
 しゅんと落ち込み、先ほどの楽しそうな雰囲気とは一変してのろのろと食事を行っている彼女に慌てて声を上げ、これ以上墓穴を掘らない様に無理やり話題を変える。

「あのっ!鈴菜さんは本当に料理が上手ですね。先程も龍斗さんに伝えましたが、お世辞では無くて本当に美味しいです。煮物も味がしっかり染みていますし、大豆の風味とお出しがよく合った八杯豆腐も美味しかったです。豆腐はこんなに柔らかくて美味しいのですね。作ってくださり有難うございます」

 頭を下げてお礼を述べる御神槌に対し暫く瞬きを繰り返していた鈴菜だったが、彼の感謝の気持ちが通じると頬を赤らめ照れたように笑った。

「えへへ、ありがとうございます。出来立ての豆腐って美味しいですよね。でも本当の豆腐はもう少し硬いんです。こんなに柔らかい筈ではなかったのですが。もしかしたらにがりが少なかったかもしれませんね。
 御神槌さん、次回はきちんとした豆腐を作りますからっ!泥船に乗った気持ちで待っててくださいね!」

 両手を握り気合を入れている彼女の言葉を聞いて、彼女の言葉を反復した。次回、という事はもう一度自分に料理を振る舞ってくれる気持ちがあるのだろう。
 そうか、彼女はまたこんな風に一緒に料理を作り、共に食事を食べようとしてくれるのか。それを望んでくれるのか。
 不安になる事を自信満々で話す彼女に頬が緩んでいく。

「いえ、とても楽しみにしています。……私も、頑張りますね」
「?はい。何かよく分かりませんが、頑張ってください!……おう。俺も分からんが、頑張れよ」

 小さな決意を込めて彼女に伝えると、不思議そうにしながらも破顔して応援してくれた。彼女と変わった龍斗もきっと、自分が何を言っているのか分かっていないのだろう。

「はい」

 それでも自分の努力を応援してくれる彼等に御神槌はまっすぐ見つめ、誠意を込めて頷いた。



「しかしずっと気になっていたのですが。この金色に輝いているものは、一体?」
『やっぱり気になりますよね、これ』
「鈴菜がつけたぬか漬けなんだが、こいつが漬けるといつも光るんだよ。なんでか知らんけど。前からずっと疑問に思っていたが、やっぱり糠漬けは光らないものだよな?」
……私の知る限り、野菜は光輝かないですねぇ」