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amarey
2024-12-14 01:34:24
12484文字
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one day
ムリナール叔父さん、誕生日おめでとう。
遅刻してごめんね。
たくさんの人にお祝いされても素直に喜べない話。
1
2
3
4
+++
訓練室は静かになった。
ただひとり、ムリナールを残して。
先ほどまで併設の演算室でムリナールの様子を窺っていた医療オペレーターとアーツを用いないキャプリニーも居なくなっていた。
静かになったそこへ、聞き慣れた足音が響く。
「お相手がいなくて不満って言うなら、俺が相手してやるよ」
やはりお前か。
口にはせずムリナールが視線をむけると、サルカズの男は口元に笑みを浮かべながら背中の双剣に手を伸ばす。
しかしムリナールはそれを見ても剣を構えることなく、ただ立ち尽くしていた。
「何をしに来た」
「
……
俺達の騎士様の誕生祭が開かれるって噂に耳にしてな。こりゃあ、駆けつけないワケいかねぇっ! て、参上したまでよ」
くだらない。そんな言葉に悪態を返す気にもなれず、ムリナールは力なくただ自身への嘲笑を浮かべる。
トーランドはそれを見て、双剣へ伸ばした腕を戻し、そして複雑そうに表情を崩すも頬を掻いた。
「俺はともかくよ、可愛い姪っ子達の祝福の言葉を受け取る気には未だにならないって?」
さっきの一連にもやはり噛んでいたらしい発言。
揶揄う口調でもなく、トーランドの純粋な指摘にムリナールは目を細め、肯定の代わりに無言を返した。
烏滸がましい。
彼女達の成長を尊ぶことも、愛情を傾けることも返されることも、本来はムリナールにとっては片鱗を見掛けるだけのはずだった。それだけで充分だった。
それがいまではどうだろうか。
叶わない。叶うどころか、姪達の両親は行方すら不明であり、見つける手段すら何もわからない。
忘れられて良い存在ではない
両親
兄と義姉
を差し置いて、何を喜べるだろうか。
「そんなもの、私が受け取って良い訳がない」
腕を組んだまま言葉を待っていたトーランドがムリナールの真正面まで近寄る。
そしてトーランドは握り締めた拳をムリナールの胸元へ強く当てた。
「受け取るのが嫌だって言うんならよ、せめて預かってやれよ。お前さんの胸の中にひとまず間借りさせて、溜め込んでおこうぜ」
諭すようで宥めるような口調。
ムリナールが簡単に納得するとは思っていない、わかってると言いたげな顔をしてトーランドは頷いた。
普段ならば煩わしさを感じるそれが、いまのムリナールには少し、跳ね除けるには申し訳なさを感じるものだった。
そしてトーランドはムリナールが反論しないことも是と捉え、ニヤリと唇を引く。
「いつか気が付いてくれることを期待するぜ。その溜め込んだものが全部、とんでもなく綺麗で価値のある、お前さんにとっての宝なんだってことによ」
「部外者はここ、利用不可だよ」
訓練室の入り口から響く声。そちらに視線を向けるとドクターと、いつの間にか消えていたキャプリニーもその後ろに居た。
「おいおい部外者とはヒデェな、ちゃんと協力者だろ。それにただの見学だ。
……
ちなみにバーは利用できんのか?」
「できるよ。でもその前にちゃんと滞在申請書書いてね。泊まる場所もなく深夜に艦内を彷徨かれたら今度は不審者として扱わなきゃいけない」
トーランドは近寄るドクターに馴れ馴れしい距離感で話し掛け、しかしどちらも慣れたことのように応対する。
そしてドクターの側に立ち、腰に
鐧
デーゲンブレヒャー
を下げたキャプリニーは無言のままムリナールを一瞥した。
「最後の相手はお前か?」
「いいえ。興味はあったけどやめておくわ。訓練室の利用可能時間も迫っているし。秘書さんにも叱られたし、ドクターにも叱られそう」
軽く去なされた。そんな感覚を抱き、しかしムリナールもそれ以上は追求しなかった。
そしてこの中で一番小柄で脆弱であろうそのひとに声を掛けた。
「ごきげんよう、ドクター」
「こんばんは、ムリナール」
早朝に会った時と同じように、ドクターは短く和やかに挨拶を返した。
「訓練室の利用許可、ありがとうございます」
「いやいや」
「おかげさまでまるで教官ごっこをする羽目になり、得難い経験となりました」
「いやいや
……
いや、怒ってる?」
「おかしな輩も乗艦させ、必要のない映像通信までご準備いただき、そのためにわざわざロドス本艦に何やら無茶をさせたとか」
自然と口から"正直な感想"がこぼれる。しかし早朝と異なりドクターは困ったような反応を見せ、そしてムリナール自身も何処かそれが小気味良く思えた。
「問題はないよ。価値もあった」
そしてムリナールの苦言に焦りを見せていたドクターは、しかしそれらを引っ込め、澄んだ声ではっきりと返した。
「価値、ですか」
「そう。君が得難い経験と言った行為、それはロドスのオペレーター達にとっても同じく貴重な経験だよ。バイタルにもメンタルにも、充分にね。ありがとう。あ、但しゾフィアには絶対きちんと謝っ
……
」
「ドクタァァァ〜〜
……
」
酷く情けなく、そして疲労困憊であることがわかる声が訓練室に響き渡り、緑髪のクランタがドクターへ体当たりしてきた。
「こんな時間まで勘弁してください徹夜覚悟要求してますか明日も引き続き私が秘書担当なんですか今日だけでもうここ一週間くらいのやる気を使い果たしましたよ引き継ぎしたらこのまま明日明後日は有休もぎ取りますからね?」
そして周りも見ずにドクターの襟首を掴むとぐらぐらと揺さぶる。「わ」とか「待っ」とか何かを言って制止しようとするドクターの声も虚しく、揺さぶりは止まることない。
その手を柔くすっと握り締め、動きを止めさせたのはデーゲンブレヒャーだった。
「良いわよ。私に頂戴」
「えっ、デーゲンブレヒャーさ
……
」
そのときやっと周りに誰がいるかを認識できたらしく、デーシュットは呆れ顔で見ているムリナールにも気が付いた。
「はっ、氷のおと、
……
ムリナール氏! お疲れ様です。なにやらお誕生日だったようで、おめでとうございます!」
ぺたりと寝かせていた頭上の耳をぴんとさせ、丸い眼鏡の向こうでにこにこと笑顔を向けるデーシュットにムリナールはあまり良くない予感を覚えた。
それはドクターも同じだったのか慌てて何かを言おうとしてしかし掴まれたままの襟首に阻まれた。
「いやぁ〜、意外なものですね。ムリナール氏がまさか誕生日に姪主催のパーティに参加できず不機嫌拗らせるだなんて! そんな可愛らしい一面をお持ちだなんて!」
「
………………
」
デーシュットのはきはきとした物言いにムリナールは閉口していた。横では悪友が堪えきれなかったらしく咽せ出し、黒騎士は「あら」とぼやく。それを耳にして余計に眉間に力が入り、思わず声色低く、短く問い掛けた。
「ドクター」
「私はそんなこと言ってない」
掴まれた首元を解放されてドクターは第一声に弁明を唱えた。しかしクランタの男は疑わしくドクターを睨み付けている。
「デーシュット、君ほんとそういうとこだぞ!」
「え、違うのですか? ですが状況証拠はそうと物語るものが多く証人として複数のオペレーターが
……
」
「ほらほらほら! 一言どころか二言三言と多いんだ!」
疲労からかドクターの言葉を噛み砕けずにいるデーシュットは「何かおかしなことを言ったかなぁ」と不思議そうに首を傾げていた。
そしてムリナールは口元を真横に強く引いたまま、短く告げた。
「
……
それでは失礼する」
「あ、ムリナール! 今日このまま離艦したらダメだからね!? いなくなったら私がマリア達に怒られる!」
「終いか? ならバーに案内してくれよ。ついでに酒付き合ってくれ」
「断る」
「トーランドはバーに行く前に手続きしないと艦の廊下にも寝かせないからね?」
「ほほぉ、熱いお誘いだねぇ」
訓練室を離れる際、連なるように続くサルカズからの軽口に、ドクターは白い目を向けた。それを見てムリナールは薄く唇を歪め、長剣を腰に仕舞い艦内へと歩き始めた。
「不器用な
男
ひと
」
ドクターの側に立つキャプリニーの騎士が呟いた。
「
……
いつかまっすぐに。お祝いの言葉が受け取れる日が来ると良いわね」
その言葉が少し先を歩くクランタの男に聞こえていることを期待したのか、どちらでも良いのか。ドクターに同意を求めて口にしたのか。
「君にもそんな経験があるのかな、黒騎士様」
興味本位に問い掛けたドクターに、デーゲンブレヒャーは肩をすくめて返すだけだった。
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