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amarey
2024-12-14 01:34:24
12484文字
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one day
ムリナール叔父さん、誕生日おめでとう。
遅刻してごめんね。
たくさんの人にお祝いされても素直に喜べない話。
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4
『おめでとう』
何度その言葉を聞いただろうか。
嬉しくもあり擽ったさもあり、ときには煩わしくすら感じたこともあった。
それでも変わらずに幾度も向けられた太陽のような優しく眩い兄の言葉と、寄り添う明るく朗らかな義姉の笑み。二人の間に尊い存在が増え、それがどれだけ嬉しかったことか。
……
だと言うのに。
行ってしまう。遠退いてしまう。
追い掛けようとした時に気が付く。自らの腕に赤子のマリアを抱え、幼いマーガレットの手を握っていることに。
まるで見習いの頃の幼い自分に戻ったように錯覚する。それほどに何もできない、何もできずにただ消えゆく太陽達を見つめていた。
――
スニッツ! ヨランタ!
例えば声を掛けたら戻るだろうか。例えばマーガレットとマリアを連れて駆け寄り頼み込めばその足を止めてくれるだろうか。
例えば私が相応しいと、私が行くべきだと駄々を捏ねれば何かが変わるのだろうか。
結果として何事も変化は起きず、見送るしかできない私は子供でもなく、国に仕えることはなくとも国に生きる人々を尊ぶ騎士として生きると決めたはずの成人であり、ただ何もできずに立ち尽くす人間なだけだった。
何度も苛まれ、未だ苛まれ続けている無力感を強く感じながら、ムリナール・ニアールは与えられた自室のベッドの上で目を覚ました。
仮眠として疲労感から横になると遭遇した過去。いまも変わらず都度得ている感情達。
男は再び瞼を閉じ、深々と息を吐いた。
+++
訓練室。
その利用申請書が机上に置かれていた。まだ承認印は押されていない。執務室へ来る途中、利用希望者にタイミング良く出会い、渡されたもの。
それをドクターはペンも持たずにふぅんと眺めていた。
『可能ならば終日利用したい。他の利用希望者が出た場合は立ち退くので勝手に割り込ませろ』
外勤はおろか、内勤もする気はないらしく、この元会社勤めの男は黒のコートとスーツではなく珍しく訓練着を身に付けていた。
「終日、ねぇ」
ムリナールとはほんの少しの言葉しか交わしていない。しかしそれでも普段よりも潜む棘があることがわかった。言い換えれば不機嫌さ、もしくは不安定さとも言える。
特にそれらに触れることなくドクターは書面を受け取り、許可を出した。
「ムリナール、あなたの言う終日って言うのは
……
明け方から日を跨ぐまでの時間を指すのかい?」
書面の日付と利用時間を見つめてドクターがそう呟いていると、本日秘書を務めるクランタの女性が遅れて入室してきた。
「おや、ドクター。今朝は随分とお早いですね?」
眼鏡を直し、見間違いではないことを確認してデーシュットはそう問い掛けた。
+++
『艦は予定通り運行中。あなたの離艦ポイントへの到達は明朝を予定している』
申請書を手渡した際、問いもいないのにドクターはそう告げた。そして他には何を言うでもなく、和やかに書面を受け取った。
他者の訓練室利用予定の有無も何も言わず、ムリナールの要望に『わかった』と答えた。
「相手は一人だ、これを好機と考えろ! しかし相手をみくびるべきではないことは確かだ。それは未熟なお前達にも理解できることだろう! あちらの広範囲アーツは
訓練室
ここ
での使用を禁止されている。だがそれだけが脅威でないことは先日お前達に見せた作戦記録からも予測できるな?」
ムリナールの対峙する先で檄を飛ばすドーベルマン。そして戦闘指揮を取るもう一人の教官。
金髪碧眼のクランタ。
もとより勝ち気な瞳と眉はいま、常よりも厳しく
訓練室
せんじょう
を見つめ、オペレーター達へ指示を出している。
――
指揮官の真似事か?
そちらへ一度視線を向けるとその指摘を感じ取ったのか、ゾフィアは何かを口にした。声は聞こえずともそれが「うるさいわね」と言ったことが口の動きと表情からよくわかった。
軍備拡充とはよく言ったもので結局のところは寄せ集め、そう評価したくなる集いだった。
「だめよ! 様子を見てるばかりじゃあ
……
!」
武器を手にして近寄ることのない相手に対し、長剣を腰に仕舞ったままムリナールは床を蹴り即座に詰めた。そこにいた複数人を押し除けて一人を卒倒させた際、見習いオペレーター達の間にざわめきが隠されることはなかった。
見習い達の動揺を宥めようと再び声を上げようとした途端、それは間近から聞こえた。
「お前を潰せば終わりか?」
ゾフィアが普段、遠縁の男から向けられるのはどちらかと言えば興味・関心の無さ、そして少なくない心配。しかし相反したそれらは形を顰め、いま眼前に在るのは見知った騎士の見知らぬ獰猛さだった。
「おっと」
迫るムリナールを阻むように般若の面が現れてそれが長剣を受け止めた。
「駄目ですよ。急いては事を仕損じる、と言うじゃないですか。もう少々お相手願いますよ、ムリナール殿」
やんわりとした口調とは対照的に掲げた般若はびくりともせず、ホシグマはムリナールの長剣を押し返した。その鬼の影からゾフィアがすかさずしなる鞭刃を向けると、クランタの男は止む無し、二人から数歩距離を取った。
するとホシグマはふふっと笑った。
「いやぁ、昨日足を滑って挫くなんて大失態を見せたお嬢様に泣く泣く頼まれて来てみたらこんな事になるなんて思いもしませんでしたよ」
「
……
前半のソレ、わざわざ口にする必要あった?」
「あっはっは」
声を上げて快活に笑う割にホシグマに隙はなく、ムリナールは既に二人から離れて改めて全体を眺めた。
「それに思いもしなかったのは私達もよ」
「ああ。しかし好機だ。幸運とも言える」
重装に阻まれ速攻を仕掛けることを止めたムリナールは長剣を構え直し、訓練生を率いるゾフィアを睨み付ける。
正面から相手取ることを選択したと理解したドーベルマンは再び訓練生達に告げた。
「お前達。相対する者が単騎だとしてもどれだけの難易度かを経験しろ。この経験は累積され全て我々の力になり、そして今後まだ増えるであろう同胞達への教えにもつながる。痛みを身体に刻むことを恐れるな、これは訓練だ! だからと舐めて掛かれば学ぶものなく痛みを得るのみだ。覚悟して挑め!」
来るならば早くしろ、と長身のクランタは瞳で訴え、しかし胸中の騒めきは俄かに薄らいだようにも感じていた。
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