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さもゆ
2024-12-10 02:53:32
30710文字
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【悟チチ】誰にも渡さねえ
時系列はふわっと力の大会後しばらくくらい。能力とか捏造とかご都合とか。ゆるして。
2023.1.21 たべものpixiv投稿作品
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ぷつり、と。見えない糸が一本、途切れたような感覚だった。
血管とか縁とか気とか、普段目に見えないのに確かな重要性を持っている大切な、それもきっと一番大切な糸だ。
とにかく悟空はそういう急激な喪失感に駆られ、一瞬、動きが鈍った。
ベジータの蹴りが腹に直撃し凄まじい勢いで後方に吹っ飛ぶ。
ビルス星の頑丈な木々をいくつも薙ぎ倒し、やがて墜落は止まった。それを見ていたベジータは眉を跳ね上げた。いまの攻撃は避けられぬものではなかったはずだし、ああも無様に落ちていくものではないはずだ。
「なに余所見してやがる、カカロット!」
集中力が足りていないんじゃないのか、空中から続けて落とされた言葉に悟空は仰向けに倒れたまま何か言い返そうとした。
ところが悟空の口は思惑とは関係なく「チチ」と呟いた。
束の間その黒い瞳を呆然とさせたものの、次に瞬いたときには明確な意思を宿して「チチィイイ!」と叫んでいた。咆哮とともに気が膨れ上がり森を歪ませ地面を抉る。剥き出しになった岩肌のなか、悟空は額に指を当て、そして消えた。重力に惑っていた倒木が音を立てて悟空のいなくなった地面に落ちる。
粉塵から距離を取っていたベジータはなるほどなと腕を組み、地球の方角へ気を向けた。どうやら、あいつの妻に何かあったらしい。
「どうかしたんですか、悟空さんは」
二人の修行を見守っていたウイスが飄々と隣にやってくるのを横目に、ベジータはさあな、と答えた。「野郎の妻の名前を叫んで消えやがった。何かはあったんだろう」
「ほう」ウイスは面白がるように瞳を和らげベジータを見る。「あなたたちサイヤ人は、本当に家族を大事にしておられるんですねえ。中々に興味深いですよ」
ベジータはふんと鼻で笑った。別に、そういうわけじゃあない、と反論するのも面倒だった。
別にサイヤ人が家族を大事にしているわけではない。
俺とあいつがそうなったってだけだ。
※
ほぼ切れていた弱々しい糸を手繰り寄せる無茶な瞬間移動をした悟空は、床に足裏をつけた途端、がくりと膝を折った。目の前には同じく床に蹲っている悟天の背中がある。
突如背後に膨大な気を感じた悟天は、されどその気が自分の頼れる父親のものだと悟って涙ながらに振り向いた。「おとうさん!」
悟空は体勢を立て直し大股で歩み寄ると「何があった、悟天」と次男坊が抱えているらしいチチを覗き込んだ。台所の前で、チチは悟天の小さな腕のなか、静かに眠っているようだった。だが、気が感じられない。
気とは生きとし生けるものすべてに備わっている謂わば生命エネルギーだ。チチの気はそりゃサイヤ人の自分たちや現役の武闘家たちに比べたら小さなものだが、それでも、悟空は彼女の気を読み間違えるなんてことはなかった。若いころならいざ知らず、神の気をも纏えるようになった今では、言ってはいないが世界のどこにいても嫁の気を探り当てそばに行くことができる、そう確信していた。
なのにその気が感じられないということは、死んでいるということだ。
家が軋んだ。
気の制御など、とっくにできていると思っていたがそうでもないらしい。悟天が咄嗟に母親を抱きしめ、息苦しくなるような圧に耐えようと構えるも、その様を見た悟空は必死に荒れ狂うものをコントロールしようと意識した。爆発しそうだった気が徐々に治まっていく。
「お、お父さん」
「大丈夫だ、悟天」とは言ったものの悟空は瞳の奥で炎の熱さを灯していた。「チチは?」
「わ、わかんない。外で遊んでたら、音がして、見に来たら倒れてて。そしたら、そ、そしたら」
おかあさんの気が、感じられなくなっちゃった、悟天はぐすっと洟を垂らして言う。
「心臓は。動いてるんか」
悟空の問いに、幼い息子はぎゅっと母親を抱えて首を振る。「う、うごいて
……
」ない、は泣き声によって音になっていなかった。
悟空の体から気が迸り、空気を震わせ、家中の窓ガラスを砕け散らせた。
誰がチチを?
頭のなかはその考えが占め、いいや誰でもいい、誰が相手だろうとぶっ倒してやる、と手綱を失ったその脳内に、しかし語りかける者がいる。
――
孫!
激情で危うく聞き逃しそうだった呼びかけは、いつでも頼りになる仲間の声である。
「ピッコロ!」
――
凄い気だぞ。何があった?
「分かんねえ。チチが息してねえんだ。おめえ仙豆持ってっか?」
ピッコロは沈黙した。答えあぐねているわけではなく、説明を求めるより、少ない会話で状況を察そうとしているふうだった。ややあって問いかけてくる。
――
怪我か? 外傷は?
「ちげえ。いや
……
、そうか、分かんねえ! でも見たとこ怪我してねえんだ。血のにおいもしねえ」
――
馬鹿者! ピッコロは怒鳴った。
――
とっとと病院に連れていけッ、病気だったらどうにもできんぞ!
悟空はハッとして悟天と目を合わせた。濡れそぼった瞳を恐怖と不安で揺らめかせている。悟空は自分を殴りたくなった。どうしてそんな簡単なことすら思いつけないのだろう? まずは、病院だ。当たり前だ。チチはただの人間なのだから。
経験上、何某かの敵襲でも受けたのかと思ったが、ただの病気なら決して“ただの”じゃ済まないことももう知ってしまっている。一刻も早く人間の医者に診てもらうべきだろう。
「わりい、ピッコロ。そうか。そうだな。ちょっくら病院行ってくる」
――
ああ。悟飯と一緒にそっちへ向かうから、大人しくしていろよ
「分かった」
悟天、ちょっとばかし母ちゃんを預けてくれるか、悟空は言い、泣きながら頷く悟天からチチを預かり抱え直す。意識のない体はぐったりとしていて、体温も低くなっていた。悟空の体温に触れても熱くなることがなく、そればかりかどんどん冷たくなっていく。鼓動の音はせず、血潮の流れも感じない。本当に心臓が止まっている。
再び止めどない激情に支配されそうになったのを、道着の裾を掴んだ悟天によって引き戻される。
「ぼくも行く」
「
……
ああ。かなり飛ばすかんな、しっかり掴まってろよ」
「うん!」
きっと今ならこの宇宙で誰よりも速く飛べるだろう。
悟天を背負い、チチを横抱きにし、そうして武空術で飛び立とうとしたところで、悟空は鋭利な硝子でも踏んづけたかのように飛びずさった。一拍後、家の外で轟音が響いた。
音だけでなく衝撃波とともに家中を揺らし、既に砕け散っていた窓硝子や粉塵が吹き荒んでいく。背負っていた悟天をチチごと抱きしめそれらから庇った悟空は、砂埃が落ち着くのも待たずに立ち上がる。けほけほ、悟天は咳をし、ぱらぱらと硝子等の破片が落ちていく広い背中を見上げる。
「おとうさん」
「ちょっとだけ待ってろ」
悟天は自分が怖がっているのを自覚していたが、このときばかりは母親の異変に対してだけでなく父親の異変に対して怯えてしまったのを本能的に理解し、また泣きたくなった。お父さんはぼくたちを傷つけたりしない。悪者なんかじゃない。なのにどうして時々こんなふうに怖いと思っちゃうんだろう?
悟空はそれを知ってか知らずか微かに笑うと息子の頭を撫でてから家を出て行く。
外に出た悟空は、家の前、砂煙を上げている陥没した大地に向かって「わりいけどよ」と声を上げた。「いま取り込み中なんだ。せっかく来てくれたみてえだけんど、またにしてくれっか」
快晴が割るように砂塵が晴れていく。
大地に立つ人物は、慣れない地球の重力を一瞬訝しんだようだが、すぐにものにしたのだろう、危うげなく地を踏みしめ腕を組んだ。
「悪いがそれはできない、孫悟空」
相変わらず、有無を言わせぬ重低音だ。
宇宙のもとではなく青空の下で見る姿はなるほど地球で言うところの正義のヒーローじみた存在感だったが、いまこの状況で悟空の足を止める者はすべて正義とは程遠いものだった。では悪かと言うとそうでもなく、そんなことはどうでも良くて、ただただ邪魔者、ぶち壊さなければ気が収まらない壁のようなものだった。
悟空が今までぶち当たった壁のなかで一番分厚く、そして一番真新しい壁であるジレンは、瞬きもせずに口だけを動かして言った。
「俺はお前の奥方に用があって来た。宇宙を跨いだことはベルモッド
――
こちらの破壊神や天使の許可を得ている。不当に訪れたわけではない。だから今から言う俺の言葉を大人しく聞け」
悟空は黙っていることによって続きを促した。
隣の宇宙ならまだ分かる、だが第十一宇宙の人間がこの第七宇宙に突如やって来た理由はどうにも想像できない。これが今でなければ彼の来訪を理由はどうあれ心から喜び、一戦手合わせ願っただろうが、今だけはそれどころじゃないのだ。チチに用だと? 悟空の気が再び張り詰めパオズ山を騒がせる。
一斉に飛び立った鳥や怪鳥の群れに見向きもせず、ジレンは悟空と視線を合わせ続ける。
「我々第十一宇宙が指名手配している罪人がお前の奥方の精神世界に逃げ込んだ。これはこちらの落ち度だ、陳謝する。
……
重ねて申し訳ないが罪人を捕らえるのに協力願いたい」
協力、という言葉には僅かに感情が乗っているふうに聞こえたが、次いで発した声音には容赦がなかった。
「そのためにはお前の奥方を殺さなければならないが」
視線が隕石となりぶつかり合うことはなかったが、それくらいの威力はある爆発が起こった。
悟空が背を向けていた孫家の家屋はさすが無傷だったが、近くの木々は簡単に折れた。ほぼほぼ地震の振動を伴い、更に陥没した大地に立つジレンは、悟空の拳を受け止めた体勢のまま「俺の話を大人しく聞けと言ったはずだ」と眦をきつくする。悟空はスーパーサイヤ人にもゴッドにもなっていなかったが、その瞳には純粋すぎる剣呑さを宿していた。「仕方ねえだろ、条件反射っちゅうやつだ」そう言って攻撃を解き、ジレンの目の前に立つ。
「勘違いしてねえぞ。オラはおめーがチチを殺しに来たとは思ってねえ。そういうやつじゃねえかんな、おめえはよ」
「ならば人の話は最後まで聞け」
「分かってるんだけんどよ。もうちっとさ、こう、こっちの気を荒ぶらせない言い方できねーんか? オラ今ダメなんだよ、楽しく戦えねえ」
戦いに楽しさなどない、ジレンはそう言わなかった。
つい癖で言おうとはしたが、それより隠そうともしない気配がそばに降り立ち、悟空とジレンの意識をそちらに誘う方が早かったのだ。
ジレンとは対照的、地球の真昼の空が似合わない夜色の男がそこにはいた。
第六宇宙最強の殺し屋ヒットである。
彼はいつも通りコートのポケットに両手を突っ込み、些か億劫そうに背を丸め静かに立っていた。
ジレンと悟空の視線を受け止め、「一足遅かったか」と殊更、気怠げに言う。
「ヒット」
悟空は驚きもせず、誰かから頼まれてひとを殺す殺し屋である彼を真っ直ぐ見つめた。「オラの正面から来たってことは、今日は殺しに来たってわけじゃねえんだな?」
「ああ。お前のことはな」
「オラいま頭が冴えてんだ」
悟空は冷静だった。
「ジレンからさっき聞いたぜ、おめえの狙いもチチの精神世界にいるっちゅー悪者なんだろ。暗殺の依頼でもあったんか? まあ何にせよ、いいぜ」
冷静に、二人をまとめて叩きのめせる力が自分にあるかどうかを考えていた。
「チチに髪の毛一本でも触れてみろよ、オラどうなるか分かんねえけどな」
無くても構わない、と思った。
二人を叩きのめせる力が無いなら無いで、仕方ない。ただあいつを守るために戦えればいい、それだけで構わない。悟空は身構える。話を聞く余裕はあったが、一分の隙もなく、背後の家を残してほかを戦場にする覚悟はできていた。
その気迫を大気ごと感じ取っている外宇宙の二人はそのつもりもないのにやはり身構えていた。実際は、話をしに来ただけだ。悟空もそれを分かっている。けれど気というものはどうしようもなく、それを操る者にとっては何よりも雄弁だった。“害為す者は近づくな”
一体誰が近づけるというのだろう?
いつだって内側にいる者だ。
上空から速度を誇る気が近づいてきている。
それも、二人分。
悟空はすぐに分かり、顔を上げる。
見上げた先、必死の形相で飛んでくる息子、悟飯の姿がある。そのすぐ後ろをピッコロも飛んでいる。
「父さん!」
叫んだ悟飯は父親の前に立ちはだかる外宇宙の二人を見た瞬間、莫大な気を迸らせたが、すぐに家の様子に気がついたのか「悟天ッ!」と泣いているだろう弟の名を叫びながら家の中へ飛び込んで行った。
ピッコロは悟空のそばに降り立つや否や緊迫した状況を物ともせず「病院へ行くだけなのに何モタモタしてやがる」と叱責し、「お前らどうしようもないな。事情は知らんが、急患を優先しろ。それともお前らの宇宙じゃそれが常識か?」と悟空だけでなく二人に向かって鼻を鳴らした。
言われたジレンとヒットはそれぞれおもむろに構えを解き、ヒットは過去悟空を暗殺しに来た前科を考え今回はそのために来たのではないことを証明せんばかりに両手の平を掲げて見せ、ジレンは本気で戦う意思がないことを示すため陥没した地面に胡坐をかいて見せた。
「医者にかかっても無駄だ」
ジレンの言葉にピッコロはぴくりと目を眇める。そしてすぐに「だろうな」と眉間に皺を刻んだ。「この面子が揃っておいて幸運なことが起こるとは思えん。これから何が起こる?」
「いま孫悟空の奥方の精神世界には我々第十一宇宙が捕り逃した罪人が巣くっている。何かが起こるとしたらそいつが捕縛されるだけだ」
「捕縛?」聞いていたヒットは落ち着き払った目でジレンを見た。「殺される、に訂正することだ。そいつは俺の
暗殺対象
ターゲット
なもんでな」
「第六宇宙の殺し屋が我々の問題に介入するな。これは俺の仕事だ」
「生憎、そいつは俺たちの宇宙でも好き勝手やっているんだ。俺が仕事をこなしても構わんだろう」
「おい待て貴様ら。精神世界だと? そんなとこにいる相手を一体どうやって」
ピッコロの最もな疑問に、未だ気を張り詰めさせている悟空に先ほど言ったことと同じことをジレンは口にした。「奥方を殺さねばならないが」
再度の衝撃波によって飛んで来たのは孫家の玄関扉だった。
ジレンはそれを首を傾けるだけで避ける。
蝶番が弾け飛び壁に亀裂が走った開けた玄関前、動かぬ母親を抱え瞳を充血させた
――
あれは泣き腫らしたわけでも炎でもないだろう、まるで血の色だ、とピッコロは思った
――
悟飯と、既に髪色を金に変えている悟天が立っていた。
「このひとは僕らの母親なんです」
悟飯は暴れそうになる気を押さえようと、緩慢に瞬きをして言った。
不思議なことに、次に開けたときには瞳は翡翠に変わる。
「もし母さんを傷つけると言うのなら、僕たち兄弟が相手です。
……
絶対に許さない」
膨れ上がっていく気をこのままどこまでいくか見ていたい気持ちに若干駆られたものの、ジレンは、呆れて口を開くしかなかった。
「ひとの話は最後まで聞くものだ、孫一族。習わなかったのか」
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