さもゆ
2024-12-10 01:39:35
39244文字
Public BBB
 

【スティレオ】レオナルドと冷たい恋人

※人間ではないモブが出てくる
※そのモブがレくんとちょっとイチャイチャする
※スティレオは既にお付き合いをしているが、キス止まり
※スティレオハピエン

2021.8.17 たまごのお粥pixiv投稿作品



「牛乳パック? 朝起きたらいなくなってました。やー、不思議っす。あのおばーさんのとこに戻ってくれてたら、いーんすけど」

 スクーターに乗っての通勤最中、なぜか血法でハンドルを掴み後ろに乗って来たザップさん(危うく事故りかけたものの、そこは天才、また血法によって事なきを得た。けど走行中の無理な乗車はマジで勘弁願いたい)にそう声を張り上げた際、ここ一番の冷や汗が背中を伝い落ちていったが、後ろのザップさんには動揺を悟られなかった、と思う。
「あ、そー?」
 と自分から訊いたくせに興味なさそうな声が飛んでくる。
「何でもいいけどよ、なんかあったら、ゼッタイ、おまえスターフェイズさんに言えよ」
「わ、分かってますよ! この目で見た怪しいものは、何でも報告します!」
「分かってないね……
 何が。
 たぶんまたあの馬鹿にしたような顔つきをしている言い方に、むっと唇を尖らせた。何なんだ、昨日から。むっつり黙り込んだまま信号を曲がる。大通りを逸れて、細い路地を通り抜ければ、アムギーネに続くドアのある古本屋がある。ほぼ廃墟寸前の店の脇にスクーターを停め、ヘルメットを脱いだ。そこでようやくザップさんの顔を見た。
「うわ」
 昨日は左頬だけだったのに、右頬まで赤い手形がついている。
「アリアンナさんも怒らせたんすか」
 だから歓楽街のアムギーネを使わずに、目敏く見つけた俺の後ろに乗り込んだんだろう。
 ザップさんは肩を竦めた。
「いんや。これはハシーの」
 一晩でどんだけ浮気してるんだ。く、くずだ。
「ザップさん。そういうのラヴァハラって言うんすよ」
 したり顔で言ったら、頭を叩かれた。痛い。







「た、ただいま……

 ドアを開ける間際にもソニックが飛び込んでこないことを見るに、俺の家のなかに得体の知れない生き物がいることを察しているのか、単純に俺の愚痴っぽい惚気を聞きたくないからか、それとも普通に別の場所へ遊びに行っているのか、とにかくどれをとってもしばらくは俺ん家に遊びに来ないかもしれない、それでも音速で滑り込んでくるかもしれないと、ちょっと周りを見渡してからドアを注意深く閉めた。やっぱりソニックはやって来なかった。
 
 外の光を白く反射している霧が、窓から部屋のなかを仄明るく染め上げている。電気をつけ、もう一度「ただいま」と言った。俺のほかに人影はない。

 しかし部屋の中央にあるくたびれたテーブル上の牛乳パックから、もぞりと暗闇が姿を現した。ひし形の開いた口から、もぐらのように顔を――この場合、二つの目玉を――覗かせる。俺はたぶん、自分でもかなり、期待していたんだろう、少なからずの落胆を抱えながら足を進めた。

「もとの姿に、戻ったの」

 今朝、出勤する直前まで、僕はスティーブンさんの姿をしたあの二つ目の生き物に抱きしめられていた。
 抵抗は最初の弱々しいものだけで、だって抵抗しなければいけないことをされたわけじゃなかったし、悪意も敵意も感じなかったから。ただ皮膚の内側まで侵食して骨の髄まで染み込んでくるような寒さに耐えていれば良かった。あの生き物は、どうやら、ひどく冷たい。火傷をするような一瞬の冷たさではなく、降りしきる雪のように、緩慢に温度を奪ってくる冷たさだ。
 でも顔を上げればそれはスティーブンさんの顔だったから、僕は寒さを堪えて抱きしめられていた。スティーブンさんの姿じゃなかったら、すぐに突き放していただろう。

 落胆って、なんだよ。
 ベッドの上にリュックを置いて、時間差で自分に突っ込む。落ち込んだのか、ぼく? 目玉ちゃんがスティーブンさんの姿をしてなかったから? なんで。
 
 そんなのは、今朝、ザップさんに牛乳パックはいなくなっていたと嘘を吐いたときから、明白だ。

「う、」

 たちまち罪悪感に襲われた。日中、ライブラの仕事中、僕は一切この生き物について話をしなかった。隠したかったからだ。後ろめたいと思ったからだ。幻覚でも、魔法でも、偽物のスティーブンさんにハグされて、う、嬉しいって思ってしまったことを。どんなに寒くても、体が冷えても、時間になって家を出て行くことに、躊躇ってしまったのを。

「こ、これって、う、うわ、うわき」

 自分の言葉が信じられなくてベッドに頭から突っ込んだ。うそだ。うわきじゃない。だってたとえば恋人が犬猫に構ってても、それは浮気じゃないだろ、あの目玉ちゃんは人間じゃない、友だち……でもまだないと思うし、ひとから預けられたペットみたいなもんだ、絶対決して断じて浮気なんかじゃ。

「スティーブンさん、怒るかな……

 一連のことを報告しなかったことを、怒るかな。

 でも報告しようにも、別の部屋で大事な仕事をしている副官に、どう報告すりゃいいってんだ。明らかに邪魔だろ。無用な報告だろ。無害な目玉ちゃんが家にいます、って、そんなのすぐに言うことでもないだろ……

 心の中が言い訳で埋まり始めたことには気づかず、更には部屋の電気がちかちかと明滅していることにも気づかなかった。顔を上げたときには、変わらない部屋のなか、そばに、スティーブンさんが佇んでいた。

 二度目ともなれば、そんなに驚かなかった。そういうものだと、早々に受け入れたからかもしれない。分からないものは、分からないし、そういうものは、そういうものだ。自分が納得できない事象でなければ、それがどんなに不思議なことでも、そのまま受け入れてしまうのが僕の癖だった。

 スティーブンさんの姿をした目玉ちゃんを見上げ、いつまでも佇まれては落ち着かないと身を起こして隣を空ける。「す、座ったら、……どうですか」上司の姿をしている生き物との、正しい接し方が分からない。

 彼はにっこり笑って頷くと、音もなく俺の隣に座って、そして俺を抱きしめた。ひょえっ、喉から悲鳴が飛び出る。ゆっくり、ゆっくり、寒くなってくる。風邪で高熱が出たときのように、熱い骨肉の境目に吹雪が吹き荒れ、背筋が震える。
「お、おまえのばーちゃんが、いやお前のばーちゃんかどうかは知らないけど、辻のお婆さんが、寂しかったら、目が合うって、言ってた」
 ぎゅう、きつく抱きしめられる。
「つまり、おれは、寂しい」
 自分に分からせるように言って、腑に落ちる。まさしくそれだ。“寂しい”。

 今日はスティーブンさんと会えなかった。まだ七日のうち二日しか経ってないってのに、もう我慢が効かなくなっている。
 ほんとはもっといちゃいちゃしたいし、声も、一日に一回は聞きたいし、せめて元気に働いてる姿を見て安心したい。
 自分が恋人に対して、ここまで甘えたになるなんて、知らなかった。

 知らなかったから、どう対処すればいいかも、分からないんだ。

「スティーブンさんといちゃいちゃしたい……

 ぐす、鼻を啜ると益々背中に回る腕に力がこもった。ひえんとまた情けない悲鳴が漏れ出る。なんだこの生き物は。やさしい。感動のまま自分からも抱きついてめそついた。「も、もっと……」小さな小さな声だったのに、聞き届けて、更にぎゅっと抱え込んでもらえる。息苦しくなって、でも全く別の理由で泣きそうになった。

 スティーブンさんは、もっとって言っても、もっとしてくれない。

 一度きつくハグしてくれたと思ったら、すぐに離してしまう。

 この生き物は、やさしい。うれしい。かわいい。
「お前のこと、なんて呼ぼう……
 
 当初の警戒心は、すっかりなくなっていた。







 次の日、寝てる間は牛乳パックに戻って、また朝になるとスティーブンさんの姿になって隣にいてくれる目玉ちゃんを、惜しみながら家を出た。

 なぜか今朝も運転中に危険な乗り込みをしてきたザップさんとライブラに向かい、ミーティングにもいないスティーブンさんのことを考えては何事もなく三時までしょぼくれていたところを、ギルベルトさんがおそらく、気を利かせてくれたんだろう。三時のおやつにしましょう、とトレイに乗った色とりどりのクッキーと、四人分の珈琲を手渡してくれた。四人分。別室で作業をしている、スティーブンさんチームの精鋭は、たったの三人。ということは。
「レオナルドさん、差し入れをお持ちいただけますかな」
 俺は分かりやすくパッと立ち上がって、元気よくはいと答えた。

 

 ワゴンで来るべきだった。
 両手にトレイを持っては、部屋の扉をノックできない。
 バイトで培った飲み物に対する絶対的なバランス力を信用したがあまり、持って来たあとのことを考えていなかった。声を上げたら届くだろうか。でもこの部屋、確か集中作業部屋で、外からの音を選んで遮断する術式がかけられていたような……。け、蹴る? そんな、自分の部屋でもないのにお行儀が悪い。

 見事に立ち往生していると、ドアが内から開けられた。常々瞳の色によく似合うと思っている、ダークブルーのワイシャツが視界いっぱいに広がり、弾かれたように顔を上げる。
「スティーブンさん!」
 かくしてドアを開けてくれたのはネクタイもジャケットも着けていないスティーブンさんだった。この仕事に取り掛かってまだ三日目だからか、見て分かるほどは疲弊した様子のない姿に、劇的に安心する。「差し入れ持ってきました!」言うと、スティーブンさんは肩でドアを止め、得心してまず珈琲カップの乗ったトレイを受け取った。
「いつまで経っても入って来ないから、何かと思った。こういうわけか。ありがとう」
「へへへ、う、うるさかったですか?」
 ライブラのひとたちは、音のない気配をそう形容することがある。俺には一生かかっても分からない感覚だなと思う。
「いいや、幼気なもんだったよ」
 ほら、全然分かんない感覚だ。
 スティーブンさんと一緒にいると、度々この全然分からない感覚を味わうし、結構な頻度でそれが怖いと思うこともあるけど、へっちゃらと言えばへっちゃらだった。分からないものは分からないし、怖いものは怖い。だってそういうスティーブンさんを好きになったんだ。
 ゆるゆる、頬が緩みっぱなしになってしまう。やっぱり本物のスティーブンさんがいい。もっとお喋りしたいし、顔を見ていたい。あわよくば、キスも、したい。たったの数日、まともに会っていないだけで、こんなにも欲深になってしまう。
 だらしないという自覚のある表情でスティーブンさんを見上げていると、ふと垂れ目が弧を描いて、薄い唇の口端も上がった。微笑まれている。即座に、背筋が伸びた。緊張でだ。スティーブンさんと恋人になってからは、よくこの微笑みを向けられるから慣れてきたけど、ただの上司と部下だったころは、微笑み=お叱りの方程式が成り立っていたので、ライブラで微笑まれると肝が冷えてしまう。二人きりのときなら、素直に、好きなひとに微笑まれていると嬉しくなって擦り寄るくらいには分別がついている。しかし今は職場内だ。クッキーの乗ったトレイを持ったまま直立不動になった俺に、スティーブンさんは片手を伸ばした。

 人差し指の背が、すりり、と僕の頬をこすった。

 途端に、ふにゃ、と背筋から力が抜ける。あ、これ、恋人としての触れ合いだぁ、脳みそがそう判断する。職場で、珍しい。

 すりすり、頬をこすっていた指が、耳を辿って、うなじに回る。あ、と火花が弾けた。首を上向かせられ、屈んだスティーブンさんにキスをされた。そう理解したときには、もう唇が離れていってしまう。
 ぱち、ぱち、目の奥で熱が灯る。じんわり、暖炉であぶられてるみたいに全身が熱くなる。
「すてぃーぶんさん」
 頭がふわふわして、きゅうって胸が切なくなった。キスを、された。スティーブンさんから!
「も、」もっとって、言ったら、断られる? 「も、もういっかい、だけ……」きす、言い切る前に唇に柔らかな感触が降ってきた。「んぅ」ぎゅっと目を瞑る。スティーブンさんに見られているのが分かる。僕はキスのとき瞼を、義眼の力の全てを閉じ込めるように瞑るけど、スティーブンさんは弧を描いた瞳でずっと僕のことをまるで観察するように見つめてくる。見なくても、そう感じる。俺はそれが恥ずかしくって、益々閉じたまつ毛を震わせるしかない。

 くっつけるだけだった口が、ちょっと、おれの唇を食んだ。

「んぅ……っ」
 
 びく、と腰が跳ねる。トレイを持つ手が震えた。これが珈琲だったら、零れていたかもしれない。

「ぁ……」 
 
 食まれた唇に、濡れた感触があった。これ、これ、スティーブンさんの、舌、だ。
 気づいた瞬間、目の奥で弾けた火花を消そうとしたのか、涙が滲んできた。どうしよう、という気持ちでいっぱいになる。どうしたらいいか、わからない。どうなっちゃうのか、わかんない。だって舐められたことなんかない。

「ひぅ」

 くすん、下手くそな呼吸がすすり泣きじみたものとして鼻から出たとき、ぱっとキスがやんだ。瞼を開け、ぼうっとしてスティーブンさんを見上げると、彼はなぜかばつが悪そうな顔で、更には苦笑を浮かべて見せた。それからまだ震えている手が持つクッキーのトレイを、素早く受け取る。

「珈琲、冷めちまうな。ありがたく頂くよ。きみも戻って、休憩してこい」

 肩で止めていたから、そう言ったスティーブンさんが身を引くと、あっという間に目の前で支えをなくしたドアがバタンと閉じた。

 へ、と声が漏れる。俺の分の珈琲も持って行ってしまったことに、彼は気づいていないんだろうか。そうでなくとも、もしかして、もしかしなくとも、だって、今、いま――

 ――さ、避けられた?






「じゃーん! ねーねー見てこれ、綺麗だろ? クッキー缶貰ってきた! おまえの部屋に、どうかと思ってさ。これからはどっちでも好きなとこに入りなよ」

 帰宅早々、牛乳パックに駆け寄ってリュックから取り出したクッキー缶を掲げてみせる。底もあって、確実に牛乳パックよりは広くて、しかも紺色の蓋に金で星模様が装われたきれいな丸缶。貰ってきて本当に良かったと思う。オンボロなこの部屋には似合わないけど、色合いがスティーブンさんに似ているし、何よりクッキーの甘い残り香つき。手元にあるだけで空間が華やぐ。

 牛乳パックの横に置き、蓋を開けてやると、そろりと口から出てきた目玉ちゃんはぱちぱち二つの目玉を瞬かせると、恐る恐る、口から滑り出てきた。もぞもぞ、広がったり縮んだりしながら丸缶に近づき、毛を逆立てた猫のようにその中に納まる。少しの間そうやってもぞついていたかと思えば、溶けるように丸缶いっぱいに広がった。目玉が暗い水溜まりのなかを気持ちよさそうに揺蕩っている。どうやら気に入ってくれたようだ。かわいい。

「いいにおいするだろ? クッキーもすっげー美味かったんだ。ギルベルトさんの珈琲も相変わらず至福の一杯だったし、午後からもちょっと小競り合いがあったくらいで、比較的平和だった」

 返事はなくとも、話し相手がいるとついついその日あったことを喋ってしまう。

「そんでさ、今日はスティーブンさんとも話せた! ちょっとだけだけど。キスもしてもらっちゃったんだぜ、いーだろ」

 ベッドにリュックを抱えて転がり込む。あのキス、思い返してもすごくドキドキした。職場でなんて、ほとんどしたことないし、そも俺が言わなくてもスティーブンさんからってのが珍しいし、もう一回とねだったら本当にもう一回してくれたのが嬉しかった。あれ、もっと、って言っていたら、もっとしてくれたんだろうか。どうだろう。ううう、枕に顔を押しつけて唸る。

「もっとしたかった……

 あれは、たぶん、駄目だったんだ。
 何がかは分からないけど、何かは確実に駄目だったんだ。
 だから急に離されてしまったし、休憩も一緒にできなかった。

「スティーブンさんのことが分かんないよう」

 やっぱり、いちゃつきたいっていう一回り以上も年下の恋人を、面倒に思ったり、するのかな。

「うぐ」

 心臓が痛い。浮かれ過ぎている自覚がある。スティーブンさんと両想いになって、恋人になって、地に足が着いていない感覚がちゃんとある。初めての恋人だからって、もうずっと。
 あのひとは俺よりうんと大人の男だから、こんな気持ち、味わいきったあとなんだろう。俺と付き合っていて、ひとつも、新しい味なんてしないに違いない。俺なんてもう包み紙に戻される寸前のガムだ。あとはもうポイって捨てられるだけ。

「ネガティブが止まんねえ……

 振られたら、どうしよう。あの優し気な顔か、それとも厳しい顔つきで、やっぱり無理だったって言われたら。
 みっともなく泣く自信が、ある。

 既に想像してめそめそと齧りついているベッドが、不意に軋みを上げた。バッと体を起こす。が、覆い被されたことによって再び体はベッドに沈んだ。
「すてぃ、」
 呼びそうになって、慌てて口を噤む。違う。スティーブンさんじゃない。
……目玉ちゃん。目玉くん。目玉さん」
 クッキー缶の蓋と同じ色の瞳が、ぱちりと瞬いた。
「お、おれ、そんな、さみしくないよ」
 そんなのは嘘だった。ぎゅう、と抱きしめられる。ぐえ、と重さで唸った。目玉のときは重さなんて感じないのに、この姿になったら本物のように重さを感じる。……スティーブンさんの重さ、どれくらいか知らないけれど。
 体がしんしんと冷え込んでくる。咄嗟に毛布を掴もうと身じろいだら、その手を掴まれて動けなくなった。
……あの、」
 そうして、ちゅう、と唇が雪の冷たさを拾った。

 一瞬、何をされたか分からなかった。感覚と、視認したものが、あまりに異なっていたからだ。スティーブンさんの唇は確かに冷やっこいが、こんな、虚ろな冷たさではない。きちんと血の通った冷たさなんだ。だから二度、三度と、スティーブンさんの容姿をした口が俺の口にくっついても、キスをされている、という感覚は薄かった。

 髪と同じ色のまつ毛は、短く、多い。こめかみから口許までを裂く傷痕が痛々しい。凛々しい眉が下がって、目尻に笑い皺ができて、あ、スティーブンさんておれにキスしてるとき、こんな顔しておれのこと見てるのかなとか考えて、ようやく、彼の胸を思いきり押した。

「だっ、だ、っだ、めッだめだろそれは!!」

 これは完全にアウトだろ! 続けて叫ぼうとした口にまた口で擦り寄られる。ひっ、上擦った悲鳴の鳴り損ないが喉奥でつぶれる。反射的に瞑ろうとしてしまった瞼を開き切るが、いっそ瞑った方が良かったんだろう、スティーブンさんの顔にキスをされている、と認識してしまうと、どうにも、抵抗心がどんどん消えていった。

 触れ合う唇から雪が融けていって全身をかじかませてくる。

 そのうち眠気まで出てきて、居心地の良い寒さのなか、ゆっくり、瞼を下ろした。