さもゆ
2024-12-10 00:38:59
5888文字
Public 狂戦士
 

ベルセルクまとめ

前半二つは泣きかけながら書きました。
1…旧鷹の団、ガッツ入団前のグリフィスとキャスカ。
2…旧鷹の団、キャスカ入団後のキャスカとジュドー。
3…海馬号、セルピコの「らしくない」
4…海馬号、パックの「向いてない」

2020.12.28 たまごのお粥pixiv投稿作品

 
黄金時代、キャスカ入団後しばらく。キャスカとジュドー。

髪の毛




「ウワッ」
 ジュドーは後ろを通りがかりざま、誰の後ろを通ったのかを数歩進んで気づき、そう声を上げた。いくら色んな人間が集い始めた鷹の団といえど、細い体格に小柄な背、褐色の肌を間違えるはずがない。
 数か月前、グリフィスが剣を授けたキャスカだ、その背が天幕の前、ジュドーの声を聞いて、くるりと振り返った。
 釣り目がちの大きな瞳がぱちりと瞬き、それから照れくさそうにうなじを擦った。
「やっぱり、変かな……
 少年とも違う、けれど微かに研ぎ澄まされた剣の輝きを秘めるようになった声が、自分で切ったんだ、と言う。
 彼女の、ずっと束ねられていた長い髪は首のあたりでバッサリなくなっていた。癖のある毛先があちこち跳ね、そよりと風に揺れている。揃っていないざんばらの髪は、入団したころと比べても、かなり痛んでいるのが分かった。もったいない、ジュドーは素直に思った。綺麗な黒髪だったのに。
「どうして急に?」
……邪魔くさくて」
 答え、彼女は体格に見合った腰の剣に指を添える。本音だろうが、それだけではないのが分かる。男所帯に女ひとり、こちらが想像もできない思いを抱えていたってなんら不思議ではない。剣の扱いをグリフィスや皆から叩き込まれている少女を観察していたジュドーは、きっとそれを一番よく感じ取っていた。
 キャスカは女であることを疎んじている。
 女であることを捨てようとしている。
 無理もない。下衆な貴族に買われ、早々に襲われかけたのだ、女というだけでこの世界は生きづらいふうにできている。「長い髪の女」というだけでその髪を引きずり組み敷く輩とて少なくはないだろう。鷹の団はグリフィスによって少年たちの統率が取れているが、ほかのむさ苦しい大人どもの傭兵団なら彼女は一日とて「キャスカ」として生きられないのではないかとすら思う。
 ジュドーにとってキャスカは、この戦場で生き抜く術を素直に飲み込み、吟味し、自分にとって何が一番容易いか、逆に困難か、今は必死に見極めているふうに映っていた。つまり、この少年じみてきた少女は大変頑張っているということだ。頑張り屋の、負けず嫌い。自分たちの団長、グリフィスの助けになろうと必死で。
 そうして髪を切ったんだろう。どんどん鷹の団のキャスカという存在になっていっている。実際、彼女は剣の腕がいい。そのうち一、二を争う腕前になるかもしれない。
「はは」そうなる彼女を、こうして最初から見ていくことができるのは、正直わくわくした。何せ自分は「一番」になる存在に惹かれるたちなのだ。
「ジュドー?」
「いや。キャスカ。その髪じゃグリフィスの隣に立った時に目立つぜ。絹糸と雑巾て感じ」
「ぞ、……い、いい。髪の綺麗さは、剣には関係ない。それに、あの人の隣なら、誰だって……
「そーじゃないって。毛先、ざんばらすぎ。整えてやるよ。結構器用なんだぜ? 俺に任せな」
「ほんと?」
 黒目がちの大きな瞳が瞬いたところを見るに、本人も出来栄えのひどさを自覚していたんだろう。
「じゃあ、お願いする」
 恥ずかしそうに、嬉しそうに褐色の肌いっぱいに、はにかむ様子は、不揃いの髪だとしてもうっかり見惚れそうなほど純真そのものだった。
 剣の稽古で歯を食い縛った顔や悔しそうな顔、怪我人を見る辛そうな顔ばかり見守ってきたジュドーは面食らって「うん」と言った。
 笑った顔がかわいい。キャスカのその表情を引き出せた鷹の団は、きっとこれから益々、大きく強くなるだろう。ジュドーはそんな漠然とした予感を胸に、取り繕うように笑みを零し、彼女の髪を切り揃えることにした。