さもゆ
2024-12-10 00:38:59
5888文字
Public 狂戦士
 

ベルセルクまとめ

前半二つは泣きかけながら書きました。
1…旧鷹の団、ガッツ入団前のグリフィスとキャスカ。
2…旧鷹の団、キャスカ入団後のキャスカとジュドー。
3…海馬号、セルピコの「らしくない」
4…海馬号、パックの「向いてない」

2020.12.28 たまごのお粥pixiv投稿作品

黄金時代、ガッツ入団前。キャスカとグリフィスと、まつ毛。

まつ毛




「キャスカ。言いたいことがあるんだ、いいか?」
「どうしたの、グリフィス。改まって……
「驚くなよ。実はな、……朝からずっと目の中にまつ毛が入ってるんだ」
 その数秒間、キャスカはそばに雷が落ちたかと思った。
 雷というものは衝撃が大きく、戦場での指揮や発破が聞こえなくなる大層厄介な自然現象だ。つまり、グリフィスの言葉を聞き終えた数秒、周囲のざわめきや酔っ払いの寝言、少し離れた焚き火の周りで行われているコルカスの自慢話などが聞こえなくなった。パチ、座っているキャスカとグリフィスの前でも火が爆ぜる。
 段々と周囲の音が耳に戻ってくる。夜のとばりが下りきった傍らの森で梟がほぅと鳴き始めた。
 キャスカもほぅ、と感嘆とも戸惑いとも、笑いともつかぬ息を吐き出した。
「ええと、そう……まつ毛が……朝から」
「そう。朝から」火に照らされた白い頬を、やんわりと歪める。「これはまつ毛が入っているなと思ったんだ。けどそのままいつか取れるだろうと思って、日中の戦に参加した」
「グリフィス……めちゃくちゃ剣で斬ってたよな、相手方を、たくさん。いつも通りに」
「ああ。目がゴロゴロするなあって思いながら」
……んふっ」
「笑ったな? おい堪えるなよ、結構痛いんだ、これが」
「くくっ、ふ、あっはっは! 何だグリフィス、いつもみたいに素早く斬り捨ててる間中、ずっと目にまつ毛入れてたの? あんな澄ました顔をして! 本当に? 今も?」
「入ってるだろ、見てくれよ」
 グリフィスがつられて笑いを滲ませながら、右目の下瞼を引っ張って見せる。キャスカは焚き火の明かりが影にならないよう、注意深くそれを覗き込んだ。貴族の持つ硝子玉よりよっぽど強く美しい瞳に傷がついていないことにホッとしつつ、「どれ?」と首を傾げた。「うーん、まつ毛も白いからよく分かんないよ……あ、あっ! あった! ほんとに入ってる!」キャスカは身を引っ込めて盛大に笑った。「信じらんない、あのグリフィスが!」思いのほかはしゃいだ声が出たキャスカに、鷹の団団長は分かりやすく拗ねて唇を尖らしてくる。「なんだよ、俺だってまつ毛くらい入るぞ。澄まし顔でいるの大変だったんだから」「あはは!」あんまりにもおかしい。真面目な顔で、真剣な声で、何を言い出すのかと思えば!
 ひとしきり笑い転げたあと、右目を眇めたグリフィスが「ひどいぞキャスカ」と軽く詰ってきた。「お前だって、目が大きいんだ。まつ毛入ったら痛いだろ」
「はー……そりゃね」目尻に滲んだ涙を拭う。黒目が大きいとはよく言われることだ。「もう、痛いんだったら早く取りなよ。水持ってこようか?」
「水で取れるか? 指突っ込んだ方が早いだろ。けど、生憎、鏡がな……そうだキャスカ」グリフィスが名案とばかりに言った。「お前取ってくれ。指先でちょいと引っ掻くだけだ。簡単だろ?」
「冗談じゃない」キャスカは驚いて声を上げる。「人の目玉に指突っ込むなんて。しかも我らが団長の! 傷つけたらと思うと恐ろしいよ」
「俺の副官として敵をあんなに斬り捨てていったのに? それこそ冗談だろ。な、頼むよ」
 キャスカは言葉が詰まった。どころか喉の更に奥、胸の奥深いところがグッと隆起するのを感じた。飛び跳ねたいような、逆に地に埋まってしまいたいような、奇妙な感覚に支配される。
 まさかそのまま奇行に走るわけにもいかず、また了承するわけにもいかず、一拍置いてからじとりとグリフィスを睨み上げて言った。「……やだよ。頼むなら私より手の小さいリッケルトか、手先の器用なジュドーにして」
「リッケルトはあそこで寝てる。ジュドーよりお前の手の方が細い」
 またキャスカはグッと押し黙り、我儘を言う子どものような男を見つめた。火に照らされた色素のない髪はまさしく炎の色を纏い、瞳も同様、しかし右目だけは細まってその輝きを隠している。あんまりだ。
 あんまり、その様が頼りなさげに見えたものだから。
 それこそが策略かもしれなかったけれど。
 キャスカは胸の内側全てを曝け出すような溜め息を吐いてから、仕方なく、分かったよと腰を上げた。