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椎那わたる
2024-12-09 13:35:43
13155文字
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【現代AU忘羨】MUSIC HOUR
海の家と忘羨、それから沢山の人たち。
???藍忘機×海の家店主兼ラジオDJ魏無羨。
タイトルはポルノグラフィティの大好きな夏のタイトルから。
ゆっくり更新予定です。
1
2
3
儚い恋の先端部
波打ち際にやってきた小さい蟹たちが、伴侶を探すため横歩きで行進している。その光景をぼんやりと見つめながら、魏無羨は気もそぞろに砂浜の掃除を行っていた。
季節は夏、それももうすぐ海の家がオープンとなる時期。
海開きを前に、魏無羨が切り盛りする予定の海の家も次第に内装が豪華になっていった。ラジオブースと客席の距離を広めに取り、客席を当初の数よりも少しだけ増やした。プライベートビーチと言うだけあり、一日の客数は予め聶懐桑から連絡を貰うことになっている。観光資源ではあるが大規模な団体利用を考えておらず、あくまで小規模な『隠れ家』のような展開を予想しての座席数とした。
営業許可の手続きや必要な免許などをあらかた網羅し、今日は海の家プレオープンとして、この一帯のプライベートビーチを所有するオーナーの聶懐桑が招待する客だけで、小規模なパーティをする予定となっていた。その中には魏無羨の海の家に資金援助を惜しまない「あしながおにいさん」も来るとあり、魏無羨の手さばきにも余念が無い。
「ふんふふふんふふふふふーんふーん」
上機嫌に鼻歌まで出る始末である。
両手にビニール袋を持っており、その中身は乾いた流木や漂着ごみに分けられている。足取りはまっすぐ、海の家に向かっていた。乾いた流木は肉焼きコンロの燃料に、ごみは収集業者が取りに来るため一度海の家へ置いて、またごみ拾いを再開することにしていた。
「どんな人なんだろうなぁ~
…
余っ程俺のことかこの海の家が好きな奴なんだろな」
どんな相手だろうと感謝しているし、惜しみないハグを返してやろうと思っている。無論、犬連れでない限り
…
ではあるが。
ふと海の家へと繋がっている砂利道の先に、何かが接近するのが見えた。道路とプライベートビーチを隔てているフェンスの向こうに、ゴミ収集車が来ていることに気付く。
「えっ?回収早くないか?とりあえずある分だけでも
…
」
魏無羨は慌てて片手に持った流木袋を傍らに置いた。既に集めて満タンになり、海の家に立て掛けていた漂着ごみの袋に持ち替えてフェンスの傍に向かう。
「お疲れさまです!収集時間より早くないですか?」
「ええ、急遽人員が変わりましたので
…
」
帽子を目深に被り、マスクを装着した作業員が魏無羨からごみの入った袋をふたつ受け取り、無機質にそう言った。その声に聞き覚えがある魏無羨は、作業員の顔を覗き込もうとするが華麗に躱され、その顔を見れないでいる。
「あの!帽子取ってくださいよ!」
「ダメです」
「えー
……
」
「
……
職務中ですから」
マスクを装着したまま相手が言うや否や、魏無羨は何としてでも帽子の下を確認したいと思った。
「お兄さん、もしかして恥ずかしいの?」
「な、何を」
「俺がこーんな可愛いからって、照れなくてもいいのに♡」
魏無羨はきゅるん♡と効果音が出てきそうな笑顔を振り撒き、両手でハートを作って『ラブ注入(?)』すると、作業員は小さい声で呻き声を上げてよろめいた。しかし受け取った漂着ゴミの袋からは、手を離そうとしない。
「あ、かなり効いた感じ?」
「
…
そんなことされても駄目です
…
ハァ
…
今は仕事中
…
クッ
…
」
「なんでそんな悔しそうなの」
愉快になってきた魏無羨はにやにやと笑いながら、その場に屈み込んで作業員をじっと見上げた。何故か苦しそうにしているが、決してマスクを外さない彼にプロ意識を感じてしまう。
「
……
ま、あんたがそこまで言うなら良いけどさ。バレバレだよ、藍湛」
「
……
」
「俺が気づかないとでも?」
明らかに狼狽えてはいるが、表情は1ミリとも変わらないように見える。魏無羨は立ち上がり、お仕事頑張って!と言いながら作業着の上から軽くハグすると、作業着を纏った藍忘機はその場に硬直してしまった。
「あははっ!そんな硬くならなくてもいいのに」
「
……
無理だろう」
「どんな姿になっても、俺はおまえだって当ててやるからな?万事屋のお兄さん」
魏無羨は満面の笑みを浮かべ、名残惜しそうに藍忘機から離れる。会う度に姿が変われど、藍忘機だと分かる勘が冴え渡るようになった。そして自分が他人に対して離れ難いと思うなど、幼少期に駄々をこね義理の姉から離れなかった時以来だった。彼に対して抱いている感情は友情を超えたものだと薄々感じてはいたが、その正体は未だに分からないでいる。
「仕事の邪魔をして悪かったよ。会えて嬉しかった」
「私もだ。プレオープン準備、頑張って欲しい。魏嬰」
ごみの袋を片手に収集車に乗り込み、エンジンを掛けるとハザードランプを2回点灯させてゴミ回収車が発進する。魏無羨が手をひらひら振って見送ると、不意に魏無羨は首を傾げた。
「あれ?藍湛にプレオープンのこと言ったっけ」
× × ×
海岸清掃を終え、魏無羨は満足気な表情で海の家に戻る。来客に合わせて内装を整えた後、テラスに設置したバーベキューコンロに乾いた流木を折って入れ、着火剤と紙屑で火種にし火起こしを始めた。実際に食材を焼くのは木炭を入れてからになるが、火が良い具合になるまで時間が掛かる。それまでは網の消毒や鉄板の手入れを兼ね、焚き火のように炎が上がると魏無羨は満足そうに笑った。
プレオープンのパーティに来るのは大体二十人ほどと聞いており、来客名簿は聶懐桑がこれから持ってくる手筈になっていた。それまでどのような人々が来るのかまるで分からないが、飲み物も料理もふんだんに用意してある。楽しいお披露目になることは間違いないだろう。
「よーし、燃えろ燃えろ!良い火になって美味い肉を焼いてくれよ」
焚き火に話しかけるように細かい枝や流木、木炭を入れていき、徐々に火を移していく。新品の網は炎を受け、肉がくっついてしまわないように塗った油が音を立てて焼けていく。中くらいの炭に火がついた頃、魏無羨のスマートフォンがけたたましい着信音を鳴らした。
炭トングをカチカチ鳴らしながらスマートフォンを取りに行き、魏無羨が通話に出る。相手は聶懐桑だが、少々声のトーンが暗い。
「おう。どうしたー?」
『魏兄、落ち着いて聞いてください
……
今日のプレオープン、来場する人がかなり減ってしまって』
「えぇ?なんでまた急に
……
」
『まさか同日に温グループがパーティをぶつけてくるなんて
…
どうやら皆さんそちらに向かったようです。欠席謝罪の電話が次々と
…
』
「うーん
…
またわざとらしいよな。まぁ、相手がアレじゃ勝てないか
…
」
聶懐桑の気落ちした声の原因が分かり、魏無羨は苦笑いしたのち小さくため息をついた。各地にテーマパークやレジャー施設を所有・運営する温一族が経営するグループ会社の大きさは、聶懐桑の兄、聶明玦が経営しているゲーム会社の清河が太刀打ちできる規模ではなかった。聶明玦はゲーム開発・販売部門を担うクリエイターであり、代表取締役を兼ねている若き実業家である。聶懐桑はそのうち、地元の土地や建物を管理する管財部門のリーダーで、土地を所有していても生かさねば利益を生まない難しさがあった。協賛者の資金援助あってのリゾート開発よりも、莫大な資金と権力を持ちふんだんに注ぎ込める温グループに肩入れするのは、投資家やスポンサー企業には止むを得ない事情ではある。しかし当日になって急遽、というのは些か失礼ではないかと魏無羨は思った。
「
……
で、結局誰が来るんだ?」
「海の家を支える藍
…
いえ、とある起業家と私だけです」
「たった3人か!」
「でも、魏兄はよく知ってる人ですよ。それにきっと、あの方はそれを望んでる気がします
…
誰よりも海の家オープンを楽しみにしてますし」
「むむ
…
そう言われると益々気になるな」
「それは後ほどわかりますって。では、これから支度があるのでこの辺りで
……
」
「ああ、分かった」
魏無羨は通話終了の表示をタップし、深く息を吐いた。ラジオの放送ブースにある、お気に入りの椅子に座る。たんまりと用意した食材は暫く冷凍庫や冷蔵庫で待機してもらうことになるだろう。3人であれば飲み物とフランクフルトを2本ずつと焼きそばに、バーベキュー用の肉は1人前あれば事足りそうだと頭の中で計算する。
「あの
…
」
「ビールサーバーの電源は落として、瓶に切り替えるか
…
入れてなくて良かったな」
「あっ、あの!本日、ご挨拶に
……
」
「うぅん?」
テラスの向こうからか細い声が聞こえ、魏無羨は声のする方向へ視線を向けた。立ち上がり、屋内から出て突然の来訪者を見遣る。
そこには半袖のシャツに綿の膝丈パンツを穿いたやや貧相な体つきをした青年と、やや離れた場所に海を眺める後ろ姿の人影が見えた。日傘を差しているシルエットから察するに、女性のようだ。
「ぼ
…
私は、聶さんに了承いただいて今年から海岸診療所を開設する、夷陵診療所の温琼林と言います。向こうにいるのは所長の温情です
…
」
「温?あんたら、温グループの差し金か」
魏無羨が怪訝な顔をすると察していたのか、温琼林と名乗る青年は実に申し訳なさそうに目を伏せた後、首を左右に振った。
「いえいえ!あの人たちは遠縁でしかなくて
…
私たちは夷陵に小さい病院を営んでいます。今年、このプライベートビーチに人を呼ぶから診療所を設けて欲しい、と聶さんから打診がありました」
「あなたが温グループを恨む気持ちは分かるわ。温晁のやつ、ここがプレオープンすると聞いて、わざと今日資金配りパーティを開いたから
…
本当に嫌な奴よね。
…
ごめんなさい」
「急に来たな」
温琼林の横に並んだ女性は目鼻立ちのくっきりした、髪の長い美しい顔立ちをしていた。肌の露出が少ない赤いワンピースに白い日傘と、濃い服装が印象に残る。見た目とは裏腹に、気が強そうな言葉に魏無羨は苦笑いするしかない。
「まぁ、事情は分かったよ。あんたらがあの温グループとは違うってのも分かったし、診療所ができるなら万が一客が倒れた時に助かる。これからよろしくな、温情に
…
」
「あっ、私のことは温寧でいいです」
「オーケー、温寧な。俺は海の家の家主、魏無羨だ。好きに呼んでくれ」
魏無羨が片手を差し出すと、温情ではなく温琼林が両手を伸ばして握る。温琼林の手や指も細く、箸を握ったら震えて落としてしまいそうに見えたが、意外に握力はありそうだと少し安心した。
「あっ、せっかくだし何か食べていかないか?急に人が来なくなって、食材が余っているんだ」
「
……
そうね
…
でも、これから聶懐桑と
…
もう一人、来るのでしょう?何だか、悪いわ」
「えぇ?」
どうやらこの海の家のスポンサーは、かなりの大物らしい。自分だけ知らないことに少しばかりムッとしつつ、魏無羨は炭火がいい頃合いになったコンロに木炭を追加して、網を載せ棒付きのウインナーを並べた。冷蔵庫から肉プレートを取り出しすぐに2人に向き合って、肉焼きトングをカチカチ言わせながらにこやかに笑った。
「大丈夫だよ。俺のスポンサーなら心の広いやさしい人だから。会ったことはないけど」
「
……
本当に?」
温寧が両目を瞬かせ、何を言っているのだろうと言わんばかりに首を傾げる。
「ああ。いつも聶兄経由で資金を貰うから、俺は『あしながおにいさん』って呼んでるよ」
「確かに脚は長いけど
…
」
「えっ?」
「えっ?」
魏無羨と温寧が目を合わせキョトンとしている様子に、温情は口元に手を当て肩を震わせて何かを必死に堪えていた。どうやら話が噛み合っていないようで、その原因が分からない魏無羨は腕を組み青空を見上げる。
「
……
まぁ、今日会えるから大丈夫だろ」
「はー
……
そうね。今しがた来たみたいよ、その『あしながおにいさん』が」
温情が深呼吸し目尻に涙を浮かべ、ぎょっとした温寧にハンカチを手渡されつつビーチの入口を指さした。
魏無羨が慌ててテラスから降りると、そこには確かに白いスーツで正装した姿の青年が立っていた。スラリとしたモデル体型、長い脚とビーチにはそぐわない革靴を履いている。
「プレオープン、おめでとう」
両手に色とりどりの花束を抱えて。
「
……
藍湛!」
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