椎那わたる
2024-12-09 13:35:43
13155文字
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【現代AU忘羨】MUSIC HOUR

海の家と忘羨、それから沢山の人たち。
???藍忘機×海の家店主兼ラジオDJ魏無羨。
タイトルはポルノグラフィティの大好きな夏のタイトルから。
ゆっくり更新予定です。


君が夢を願うから


 いつの間にか日は暮れて、夕陽が水平線に落ちていく。

 エンディング曲が流れ終わると、魏無羨は上機嫌でマイクと機材のスイッチを切った。初回放送はまずまずのリスナー数で、スマートフォンの画面をタップし表示されたSNS上では「#DJ羨羨復活」「#羨羨ラジオ」がトレンドに入っている。魏無羨はにんまりと笑い、画面を閉じてスマートフォンを卓上に置いた。ラジオブースのテーブルから移動し、冷蔵庫の扉を開いて天子笑の甕を取り出し、まだ未完成のカウンター席に座った。
「お疲れ様、俺」
 誰もいない隣の席に向かい、甕を掲げてそのまま口づける。冷えていても強い酒は魏無羨の喉を焼け付けさせるように流れ、口端から流れ出た雫を指先で拭った。すると同時に、入口の方で人の気配を感じる。
「魏嬰」
「その声は!」
 突如聞こえた自分を呼ぶ声に、魏無羨は実に嬉しそうに振り向いて入口を見遣る。今日は先日と違い、上下白のスーツに前髪を片側だけ整髪料で上げている髪型だ。少し離れていてもわかるくらい、丁寧な化粧まで施している。
藍湛?」
「うん」
「よく来たな!こっちに座りなよ。それにしてもおまえの仕事は『魔法使いあーりん』か?」
……なんの事だ」
「獣医、俳優、一流ホスト果たしてその正体は!ピカーっ!変身!」
「万事屋だが」
 さらっと返ってきた言葉に魏無羨は椅子から落ちそうになりつつ、なるほどね、と深く頷いた。
 しかしそれならばこんな場所にいる場合ではないだろうと、急に慌て始める。
おまえ、こんなとこに居ていいの?まだ仕事の最中じゃ
「仕事はこれからだ」
……で、出勤前に俺のとこに来たのか」
「うん。帰りでは、間に合わないから」
 手招きするも彼は長居できないと悟ったのだろう、魏無羨は自分が椅子から立ち上がり、藍忘機の隣に向かった。藍忘機が言うには、彼の家は予てからあらゆる代行業務や面倒事を請け負う家系なのだと言う。何でもこなし、そして本当に何でもできる万事屋。時には寝込んだモデルの代役、人手不足の動物病院での手伝い、はたまた探偵もお手上げの人探しまで。それが藍忘機の仕事らしい。今日は魏無羨の言うように、とあるホストクラブの看板ホストが転んで足を捻ってしまったので、急遽人数合わせで呼ばれたとのことだった。
「万事屋、ねぇそしたら、海の家のバイトも依頼できる?」
.君の店で?」
「そうそう。世間にはおまえの知らない仕事が山ほどあるんだよ。顔がいいお前にしか出来ないこととか、さ」
「考えておこう」
「報酬はまぁそこまで高くはないかも知れないけど。あれ?なんで耳赤いんだよ?もしかして照れてる?」
……そうではない」
 むすっとしながらも両耳を赤くしている藍忘機は何か考えながら、店内をぐるりと見渡した。初めて彼に会った時、ボロボロの掘っ立て小屋がまさかここまで綺麗になるとは思いもせず、思わず口元を綻ばせる。
「あれから、ひとりで直したのか?」
「まぁね。でも、俺のあしながお兄さんが居ないと無理だったな。こんな辺鄙な海の家に投資がしたいって人が居てさ、余程の変わり者だよ」
そうか」
 テーブルの上に並べられた収録機材や、無造作に置かれた小物類を一瞥して再び歩き出した。木造の小屋には不釣り合いな、磨かれたばかりの革靴が足音を立てる。やや狭い店内の来た道を戻り、扉の手前で藍忘機が振り向いた。
また、来てもいいだろうか」
「ああ!あんたなら、いつでもおいでよ!」
「ありがとう」
 魏無羨は大きく腕を振って来客を見送ろうとしたが、ラジオブースの卓上に置いてある小物の横に手を伸ばす。袋詰めされ積まれている丸い紙を一枚手に取り、再び彼に近づいた。

「藍湛、これ」
「ん?」
「俺が始めたばかりのラジオ!宣伝用に作ったんだけど、良かったら」

 藍忘機の手を取り、手のひらの上にそれを置く。ヘッドホンをつけたウサギのイラストと、番組名のロゴが入ったステッカーだった。
「これ、初版でレアなやつだからさ。記念に持って行ってくれ」
……謝謝」
 藍忘機は言葉だけで礼を告げ、足早に海の家から出る。手にしたステッカーは丁寧にジャケットの内ポケットに入れた。革靴で砂を踏むと汚れてしまうが、そんなことはどうでもよかった。
 心臓が忙しなく音を立て、漣のようにリズムを刻む。ただ、彼の顔を見に来たつもりだったのにまた土産を貰ってしまった。
 藍忘機は穏やかな潮風に、大きく溜めた息を混ぜた。

×   ×   ×

……あぁぁ~っ!」

 藍忘機が海の家を出ていく背中を見送り、魏無羨は糸が切れたようにへたり込んだ。そして頭を抱えている。どうせ彼に渡すのなら、ステッカーではなくハガキ当選者用のキーホルダーにしておけばよかったと今更ながらに後悔した。
 魏無羨は藍忘機が初回からリアルタイムで自分の番組を聞いていることなど知る由もなく、急に訪れたのも気まぐれだと思っていた。無料配布して旧来のファンにも新しいリスナーにも知ってもらいたいと、安易に作ってみたステッカーは魏無羨が自作したデザインである。自分で描いておいて最初は不安だったものの、完成品を目にしてすぐ気に入った。彼が尋ねてきたことに喜びが先行してしまいつい手にしたが、そこまで頭が回らなかった。
「次いつ来てくれるかな」
 あのステッカーをきっかけに、ラジオを知ってくれればいいと思った。今日は彼の職業が知れただけでも収穫だと思うことにしよう。そう自分に言い聞かせ、すっかり暗くなり始めた外の景色に視線を送る。相変わらず聞こえてくる波音は穏やかで、プライベートビーチであるのが勿体ないくらいだ。しかし無法者が入らないように目を光らせている管理人の立場上、誰彼構わず赦すわけにはいかない。
さてと、俺もお仕事お仕事」
 壁に打ち込んだ釘に引っ掛けてあった懐中電灯に手を伸ばし、扉の向こうに広がる薄闇を見つめる。見回りが終わったら、本格的に訪れる観光シーズンに向けての計画を練らねばならない。まだまだ、準備は山のようにあった。

「待ってろよ、恋するうさぎちゃんたち!」