おたる
2024-12-08 16:09:44
3396文字
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大海原荒れて魚二匹

怪異×アトと巻き込まれカジキ なんかよくわからない感じになった 改ページ機能を使ってみたかっただけのやつ
最終ページには怪異のちょっとした説明が載っています

「ねぇ。そこのあなた」

 人の居ない商店街で女の声がする。きょろきょろと辺りをを見回すが、それらしい姿は見当たらない。幻聴にしてはいやにはっきり聞こえたそれに、疲れているのだろうかとかぶりを振れば、「そこのあなたよ。大きなひれのきれいなあなた。どうかこちらにいらっしゃいな。私はここから動けないの」と再び声がする。

「ひだりよ、左。あなたからみて」

 どうやら幻聴の類ではないらしい。言われた通りに左を向けばそこは古き良き構えの魚屋で、店頭の生け簀には一匹の魚が泳いでいる。

「テメェか、オレを呼んだのは」
「ああ、やっと見てくれたわね。素敵なあなた。いちどあなたの顔を見たかったの」

 もっとよく見せて頂戴、と魚は縦じまのついた体をくるりと翻してから、じいとオレを見つめてくる。物珍しそうなその視線がなんだか不愉快でひとつ睨みを効かせると、瞼のないはずの魚は目を細めたような気がした。

「なんだって急に話かけてきたんだよ」

まったくもって不可解だ。今まで海や川と水辺に潜ることは多々あれど、魚が話かけてくるなんてことはただの一度だってなかった。それなのにどうして今、急にその声が聞こえるようになったのか。そして何故オレは大した驚きもなくそれを受け入れているのか。自分のことながら不思議で仕方がない。

「あなたは海の中では有名だもの、だって」

 話は水音に遮られた。生け簀の上から降りてきた手はその魚をむんずと掴み、そのまま無遠慮に引き上げる。ぽかんと口を開けながらその行く先を見ると、からっとした笑顔の男が魚片手に話かける。

「いらっしゃい!アンタ、昔不忍池で戦ってた超人だよな!熱心に生け簀なんて見ちまって、そんなにウチの魚は美味そうに見えたのか?」
 店主は快活にそう言うとずんずんと店の奥に入り、数分後、ビニールの袋をオレに手渡してきた。

「イシダイだ、客が来なくて暫く観賞用になっちまってたからなぁ、折角なら有名人に食べてもらった方が良い。お代はいいから持って行ってくれよ」

 袋の中には均等に薄切りされた、物言わぬ刺身が入っていた。店主へおざなりに礼を言い魔界へ帰ると、すぐそこにカーメンが居たので押し付けてオレは自分の部屋へと戻った。