riririnf
2024-12-07 11:50:03
25900文字
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岩の舞台で踊る、踊る

ヌヴィフリ逃亡書いてみた③
捏造過多。鍾離先生が出張ります。ヌヴィレットの出番は少なめです。


 久しぶりに訪れた璃月は相変わらず賑やかで、そして少し肌寒かった。明確な四季が存在するこの国は、七国の中でも気温の移り変わりが激しくて、来る度に異なる姿を見せてくれる。
 温暖な国、暑い国、寒い国、様々な国を渡り歩いた身からすれば、どの国にもそれぞれのよさがあり、変わる景色も変わらぬ景色もそれぞれ尊く美しく、決して優劣をつけられるものではないけれど、と、テイワット中を巡る旅人は思う。
 それはきっと、同じ道のりを乗り越え、長く苦楽を共にしてきた旅の仲間、パイモンとて同じだろう。プンプンと頭から湯気を出す今の彼女に同意を求めたところで、まともな答えが返ってこないことは分かっているが。
 何故パイモンがそんな状態に陥っているのか。答えはもうすぐ分かる。目的地は、もう目の前だ。
「おい、鍾離!お前どういうつもりだ!?」
 バァン!とはた迷惑な大きな音を立てて、パイモンは往生堂の扉を開けた。堂主胡桃がこの場にいたら、仕返しに怪談の一つでもされてしまいそうな程の荒っぽさだ。
 幸いにも胡桃は不在にしていたようで、職場で一人のんびりと茶を啜っていたパイモンの怒りの矛先──鍾離は、特に驚きもせず、悠然と煩すぎる客人を出迎えた。
「旅人、パイモン、久しいな。息災だったか?」
「息災だったか?……じゃないぞ!オイラの質問に答えろ!」
「パイモン、それじゃ伝わらない」
 ちゃんと最初から話さないと、と前半鍾離の声真似をしながら息巻くパイモンを窘める。
「なんだよ!お前が言い出したんだろ!鍾離がフリーナを匿ってるって!」
 お前ももっと怒れ!とパイモンの怒りがこちらに飛び火した。まあまあ、と適当に宥めながら、旅人は鍾離に向き直る。
「今、パイモンが言った通り。鍾離先生は、どうしてフリーナを匿ってるの?」
「匿うとは、どういう意味だ?」
 分かっているくせに、鍾離はわざとらしく首を傾げた。
「私もパイモンも、フリーナに会えないの。璃月に来てからこの四日間、一度も」
 旅人は三年前にフリーナが璃月に移住したことを知っている。偶然にも、丁度その頃璃月に立ち寄っており、凝光に『フォンテーヌの元水神が移住してきたようだ』と知らされたからだ。
 何故、と話を聞いた瞬間は本当に驚いた。初めての相談相手だと頼られることも何度かあったのに、この件に関しては何も言ってこなかった。各地を渡り歩いていて、ひとところに留まらないから、単に話す機会がなかっただけかもしれないが。
 だが、自己の全てを犠牲にしてでも守り抜いたフォンテーヌから離れる程だ。余程の事情があったのだと思われたし、水神の役を降りた本来のフリーナは、目立つことを厭う性格のようだったから、「元水神がこの地を選んだ目的は何かしら?食事に誘ってもよいと思う?」と探りを入れてくる凝光に、『事情は分からないが、そっとしておいてやってくれ。彼女はこの地を害すようなことはしないから』と当時頼んでおいた。
 その後フリーナを探し出して話をしてみたりもしたけれど、彼女は「なんとなくさ。キミ達だって、世界を見てみるべきだと言っていただろう?」と決して口を割らなかった。
 それでも、当時はちゃんと会えたのだ。それからも璃月に来る度に、フリーナに会って様子を確かめるようにしていた。なのに今は、会えない。
「璃月は広い。中々縁に恵まれないこともあるだろう」
 鍾離の言うことはもっともだ。けれど自身に限っては、それは無い。旅人は自身が特別な存在だと知っている。
 自分が会おうと思えば、大抵の人物には必ず会える。一度縁を結んだものなら尚更。理屈などない。そういうものなのだ。……双子の兄が、特別なだけだ。
 とにかく──そうでなければ、テイワット中、あらゆる勢力に人脈を広げることなど出来やしない。
 故に旅人は確信を持って鍾離を問い詰める。
「先生とフリーナが一緒に歩いているところを見たって人がいる」
「ああ、確かに会ったな」
「一日だけじゃない。この四日間、毎日誰かしらが二人一緒のところを見てる」
 鍾離もフリーナも目立つから、目撃情報が集まりやすいのだ。
「同じ街に住んでいるんだ。そういうこともあるだろう」
「まだ、とぼけるのか!」
 のほほんと再び茶を啜った鍾離に、キー!とパイモンが空中で地団駄を踏む。
「じゃあ、これはどうだ!?二日目以降、フリーナはずっと同じ髪飾りを付けてるらしいな!誰かさんを思い浮かべるような色のやつを!」
「ああ、よく似合っていた」
 まだ粘る。これはもう、間違いなく遊んでいる。旅人は溜息をついた。このままでは埒が明かない。そろそろ引導を渡してやらなければ。
「ある人が、その髪飾りから仙力を感じたって言ってたの。でもそれは、彼女の師匠── 閑雲の作じゃないって」
 師匠が作るような意匠ではないと、そう聞いた。
「閑雲の弟子……、申鶴か。彼女は仙人ではない筈だが、そこまで分かるとは。流石、閑雲は教育が上手い」
 そこで楽しげに笑う鍾離は、とても“らしい”とは思うけれど、そろそろ付き合っていられない。
「鍾離、先生?」
 最後通牒とばかりに腰に両手を当てて睨みつけると、鍾離は茶飲みを置いて、ハハッと笑い声を上げた。
「悪かった。お前達に会うのも久し振りだから、つい悪ノリが過ぎてしまったな」
「ホントだぞ!もっと反省しろ!」
 ……悪ノリ?
 鍾離とパイモンの掛け合いを眺めながら、旅人は思案する。存外にお茶目な彼ではあるが、それでも引き際は心得ている。悪ノリなんて、鍾離らしくない。
 あの鍾離が、いつもの“らしさ”を崩す程の何かがあった?それは一体?それは…………
…………鍾離先生、ヌヴィレットに会ったんだね?」
 水の元素龍。七神すら凌駕する力を持つとされる、全ての権能を取り戻した龍の王。
 旅人の脳裏に、かつての海灯祭でヌヴィレットを避けていた鍾離の姿が浮かぶ。百戦錬磨の最古の神を乱す程の存在など、他に思い浮かばない。
「──ああ、会ったな」
 旅人の予想を鍾離は肯定した。浮かべる笑みから察することが出来ない程に、その内情は複雑そうだ。
 けれど、それこそ海灯祭を思い返せば、彼はその気になれば徹底的にヌヴィレットに会わないことも出来るのだ。だとすれば、その邂逅は間違いなく意図的だ。
「え!?そうなのか!?でも、それなら話が早いな。オイラ達、そいつとフリーナを会わせてやりたくて、璃月まで連れてきたんだ」
「やはり、彼を連れてきたのはお前達だったか」
 旅人はパイモンと共に事情を説明した。三年前からフォンテーヌに雨が降り続き、殆ど止まなくなったこと。タイミングからして、原因は明らかにフリーナが璃月に移住したことであると思われるのに、フリーナもヌヴィレットも、頑なに口を割らないこと。
 三年経っても変わらない様子に痺れを切らし、ヌヴィレットを長い時間をかけて口説き落として、けれどフリーナがいることは隠して、なんとか璃月まで連れてきたことを。
「ヌヴィレットはすっごく忙しくて、あとプネウムシアっていうエネルギーをフォンテーヌ全体に供給してるから、そう長く国を離れられないんだ。期間は八日間……、あと四日しかない!」
 そう、あと四日。移動も考慮すると、正確には最終日の午前中まで、といったところか。それだけしかないのに、もう半分もの期間を無駄にしてしまっている。
「事情は理解したが、それはフリーナ殿も承知のことか?」
「いや……、二人とも、変なところで頑固だからさ。先にオイラ達がフリーナに話を通して、それから二人を会わせる予定だったんだ」
 “あの”ヌヴィレットが璃月まで来て、更に何時ぞやのような半日のみの休暇ではなく、長期滞在するとなれば、そしてそのように旅人達が骨を折ったと知れば、フリーナも無視は出来ないと、そう踏んだのだ。フリーナは大変な気遣い屋で、かつて「水の娘」の公演の際、言い過ぎたと気にしてこっそり追いかけて来た程なのだから。
 少々強引で乱暴な策ではあるものの、それくらいしなければ、三年続く膠着は動かせないと思われたし、勝算は充分あった……筈だった。
「でも着いて早々、ヌヴィレットは思い詰めた様子で宿に引き篭っちゃったんだ。こっちもフリーナに全然会えないしで、すっごく困ってたんだよ」
 この四日間、ヌヴィレットは宿から出てこない。「既に休暇を申請し、宿も七泊八日で取ってしまっているため、早々に帰ることはしないが、私はこの地を歩かない方がよいだろう」と、そう言って。
 『そろそろプネウムシアエネルギーの国外稼働の実験も必要だろう。自然水巡りも出来る。璃月案内は任せろ』とあの手この手で説得し、やっと根負けしてくれたヌヴィレットは、それでもそうと決まれば、それなりに前向きだった筈なのに。
 ヌヴィレットと璃月に着いたその日、冒険者協会から緊急の呼び出しがあり、少しの間ヌヴィレットと別れて行動した時間がある。鍾離と邂逅したとすれば、まず間違いなくその時だろう。ヌヴィレットのただならぬ様子から考えるに、もしかしたらフリーナもその場にいたのかもしれない。
 旅人は顔を顰めた。なんてタイミングの悪さなのだろう。おかげで全ての段取りが狂い、悪い方悪い方へと向かっている気がする。
「双方にとって、騙し討ちのような形になってしまった訳だな」
「う……、それは認めるけど……、でも、見ていられなかったんだ。ヌヴィレットも、フリーナもさ……
 分かりやすく雨を降らせているヌヴィレットと比べると、フリーナは表面上変わらないようにも見えるが、それでもどこか覇気がない。五百年に渡る役から解放されて、自由を満喫する姿を見ていたからこそ、分かるのだ。
「このまま何もせず見ているだけなんて出来ない。だから、フリーナに会わせて欲しい」
 旅人は鍾離に願う。お節介でも強引でも、なんだっていい。二人の友人のために出来ることをする。それが旅人とパイモンの流儀である。
「それは俺が決めることではない」
 しかし、鍾離の返答は無情だった。
「お前!いい加減にしろよ!」
 案の定、パイモンは激怒した。
「フォンテーヌの人達だって、滅多に雨がやまないもんだから、困ってるんだ!璃月も同じ目に遭ってもいいのかよ!?」
 パイモンとしては、頑固な鍾離に浴びせる言葉が尽きてしまっての、苦し紛れの発言だっただろう。
「──では、フォンテーヌの民の為に、フリーナ殿を龍の供物とするか?」
 しかし、対する鍾離の苦言は鋭すぎた。
「それは……っ」
 パイモンが、ひゅ、っと息を詰まらせる。
 フォンテーヌの為に、フリーナを犠牲にすること。それは魔神フォカロルスによって仕組まれた五百年間の歌劇を思い起こさせる。そしてそうとは知らず、フリーナを徹底的に追い詰め、断罪してしまったあの日を、思い出す。
 あの運命の審判は、変えられない予言に対抗するためのもので、全てが必要な道のりで、各々が求められた役割を果たしただけで、言ってみれば、誰も悪くない。……悪くない、けれど。だからこそ、つらい。
 だから旅人とパイモンの小さなささくれは、ずっと癒えないままであるし、引っ掛ければ、それなりに痛い。
「そう心配せずとも、璃月は岩の元素力に満ちている。フォンテーヌにおいて彼の影響が強いのは、彼の支配下である水元素力が満ちているからだ。だから、璃月で彼が雨を降らせることはない」
「そ、そうなのか……?」
 先までの鋭さから一転、にこりと穏やかに微笑む鍾離に、パイモンが息を吐く。
 緊張からの緩和。それにより、パイモンからはもう先までの勢いが消えている。きっと全て、鍾離の計算通り。
 旅人は目を細めた。本当に、“らしく”ない。
「どうしてそこまで、フリーナの肩を持つの?」
 鍾離はフリーナを「正義の神」として高く評価していた。そして彼は意志が強くて、自己の責務を果たす人間が好きだから、「神」としても「人」としても、フリーナは鍾離にとって、大変に好ましい存在だということは理解出来る。
 それにしたって、今回の方法はあまりに乱暴で、横暴過ぎる。博識で思慮深く、しかし決して自らの意見を押し付けず、決めるのはその人だという姿勢を貫く鍾離“らしく”ない。対して、鍾離の回答は。

「恋人に味方するのは当然のことだろう?」
「は?」

 鍾離の爆弾発言に反応した、間抜けな声はパイモンだ。
「え?え?ええええええええ!?」
 次いで轟く、素っ頓狂な叫び声も、パイモンだ。
「そんなに驚くことか?」
「驚くだろ!!お前ら、いつの間にそんな仲になったんだ!?」
「四日前だ」
「最近過ぎる!!!」
 パニックを起こしているパイモンに、そうじゃないでしょ、と声をかける。四日前といえば。
「ヌヴィレットと会った後に、恋人になったってこと?」
 あ……!とパイモンが口を手で覆った。
「そういうことになるな」
「何のために?」
 そんなタイミングで都合よく恋人だなんて、愛だの恋だのと、そんな訳がないだろう。
「髪飾りを渡す為だ」
 幸い鍾離は下手な言い繕いはして来なかった。しかし、疑問は増える。
「フリーナが最近つけてるって言う、あの?」
 パイモン曰く、“誰かさんを思い浮かべるような色のやつ”。
「そうだ。あれは俺が術を込めて作った。術の名は、『奇門遁甲』。方位の吉凶を読む占術で、フリーナ殿の望む方向を示してくれる」
「望む方向?」
「ああ。今のフリーナ殿は、彼と、彼を思い起こさせる全てを避けたいと考えているようだ。だから、会えない。そういう方位を無意識に選ぶようになっているんだ」
 要するにヌヴィレットはおろか、ヌヴィレットを連れて来た旅人とパイモンまでも対象になってしまっているということだ。仙人の術とは本当に便利で都合の良いものらしい。
「そのこと、フリーナは知ってるの?」
「髪飾りに術が掛けられていることは伝えたが、具体的なことは言っていない。だが術はフリーナ殿の希望を越えてまでは働かない。今の結果は、間違いなく彼女が望む通りのものだ」
……髪飾りを渡すだけなら、恋人になる必要はなかったんじゃないの?」
「恋人でもないのに、身に付けるものなど受け取ると思うか?彼女は慎重で思慮深く、賢い女性だ。そしてそういう質の人間にとり、無償の奉仕は、いずれ重荷に変わる。だからこそ等価交換……つまりは公平であることが重要なんだ」
 一応、筋は通っているようには感じる。旅人は更に質問を重ねた。
「ヌヴィレットに会って大丈夫だったの?」
 大丈夫ではないから、海灯祭で避けたのではなかったか。
「無論、対策は取っている。そう長く接しなければ問題ないだろう。此処が璃月という俺の領域でなければ、こう上手くはいかなかっただろうが」
 今までの言い渋りが嘘のように、鍾離はすらすらと答えてくれた。他に何か聞きたいことはあるか?とボーナスタイムまでくれる始末だ。この鷹揚さ、やっと彼らしさが戻ってきたか。
 ならば、この機を逃す訳にはいかない。一つ、はっきりさせておかなければならないことがある。
……今のこの結果は、フリーナの望んだ通りって言ってたけれど、鍾離先生は、それがフリーナにとって幸せな結果だと思う?」
 鍾離は目を細めた。どうやら思い当たる節があるらしい。この様子なら、ちゃんと話が通じそうだ。
「フリーナはとても強い人だから、例えどんなに苦しい道だって、選んでしまえる。その結果、自分が不幸になったとしても」
 だから五百年にも渡る苦痛に独りで耐えて、世界丸ごとフォンテーヌを救うなんて偉業を果たしてみせた。
「フリーナの意志を尊重するっていうのは、とても聞こえがいいけれど、フリーナにとっての最良とは言えないかもしれない。──こんなやり方、鍾離先生らしくない」
 鍾離の顔から、初めて笑みが消えた。ふむ、と静かに立ち上がる。途端長身を見上げる形になり、彼の威圧感が増す。隣のパイモンが喉を鳴らす音が耳に届いた。
「旅人、お前の言うことは正しい。俺もずっと、フリーナ殿の幸せとはなんだろうかと考えていた。彼とフリーナ殿との邂逅に立ち会う時まで、ずっとな」
 鍾離の視線が僅かに逸れた。当時を思い返しているのだろう。
「彼と会ったフリーナ殿は酷く取り乱し、とても見ていられなかった。そして彼は、そんな彼女と向き合う覚悟がないようだった。──そんな男と共にあることは、本当にフリーナ殿にとっての幸せか?」
 旅人は目を見開いた。情報量の多さと、その言葉の重みにだ。
 やはりヌヴィレットとフリーナは既に会ってしまっていて、しかしフリーナは不意の邂逅に耐えられない程の何かを、ヌヴィレットに対して抱えてしまっていて、そして鍾離は旅人も知らないその事情を把握している。
 二人の禍根は想像よりも根が深く、鍾離が“らしく”もなく介入しなければならないと判断する程のもので。
「無論、全てを判断するには早計だとも思う。だから、こうして色々と種を撒き、様子を見ているんだ。お前達も幾つか収穫しただろう?」
 鍾離が、ふ、と表情を和らげ、白い羽のような飾りが揺れる。彼の指摘通り、この四日間でフリーナの動向を人脈の許す限りに聞きまくった旅人は、彼の撒いた種の結果を幾つも手に入れている。
 曰く『鍾離先生と銀髪の美しい女性が共に歩いていた』『二人はいい仲なのかもしれない』『美男美女で、よくお似合いだ』など。
 フリーナの時を止めていた呪いは解かれ、彼女は著しい成長を遂げていた。最後に会った時──あれは半年程前だったか──フリーナの身体は女性らしく丸みを帯びていて、同性の旅人ですら時たまドキリとするくらいの、そこはかとない色香までもを纏っていた。
 昔のままのフリーナならば、鍾離の隣に立っていても、“兄妹のような”とも例えられたかもしれないが、今そんな評価をするものはいないだろう。二人が並ぶ姿はまさしく“男と女”としか形容出来ないものだ。
 それらをもし、ヌヴィレットが耳にしたら。その時彼は何を思い、何をしようとするのだろうか────。
……分かったよ、鍾離先生」
 旅人は理解した。要するに鍾離の行動は、あの時と同じなのだ。神の座を降りようとした際に、己の死を偽装して、璃月に住まう人間も仙人も、ファデュイでさえも、その全てを巻き込んで試しの場を設けた、あの時と。
 結果が綺麗に纏まったからよいものの、岩王帝君との突然の別れは多くの人々を悲しませたし、旅人も随分と翻弄された。
 神の視点とは、時に無情な程に大局的で傲慢だ。最古の神である彼もまた然り。
 理解してしまえば、今回の一連の行動は、あまりに“岩神モラクス”らしかった。
「──行こう、パイモン」
「え?いいのか?」
 往生堂を出ようとする旅人に、未だ事情を把握しきれていないパイモンがハテナを飛ばす。
「うん。こうなったら鍾離先生はテコでも動かないだろうから」
 それこそ堅牢な岩の如く。旅人達が何を言ったところで、試しの姿勢を崩すことはない。
「だから、私達が動かなきゃ」
 残された時間はあと四日。三年続く禍根を解くには、あまりに短い。もう一日だって無駄には出来ない。
「ああ、期待している。フリーナ殿は「正義」を貫き、己が責務を果たした。成した成果に相応しい報酬が与えられて然るべきだ」
 扉に手をかけた旅人に声が掛けられる。もう背を向けてしまったから、声音で判断するしかないが、それは間違いなく鍾離の真たる願いだろう。その為に宿敵の前に身を晒しまでしたのだから。
 ……仕方がないなぁ。
 旅人は、ふう、と溜息をつく。揃いも揃って、手間のかかる人達ばっかりだ。
 けれど、みんな旅人にとって、等しく大切な友人だ。
 自分は見届ける者。だが、黙って劇を見ているだけの観客でもない。口も手も出す権利があるし、実際そうしてきた。そうやってテイワット中の大小様々な事件を、いくつも解決してきたのだ。
 その全てがハッピーエンドになった訳では無いけれど、それでも、今回は。
 旅人は扉を押して、往生堂を後にした。