さもゆ
2024-12-06 16:01:55
7442文字
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【ステクラ】ツイログ

どれも付き合ってません!

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品

結社を設立したばかりのころ。

だからこその均衡




 彼は私の友人です、従者ではありません。
 クラウスの口が馬鹿正直にそう言うよりも、この大切な社交場においては俺の口が滑らかに打算を働く方が早かった。
「その言い方では、まるで、主を馬鹿にされたようで腹が立ちます。私が生まれに関わらず優れていることをお見せすれば、いまの言葉、取り消して頂けますか?」
 ──自分にしては随分穏やかな声音と言葉遣いができるようになったものだ、と思う。
 先ほど、目の前にいるライブラのスポンサー候補の男が言ったことは、全て正しい。
“ラインヘルツと言えば世界屈指の名家。秘密結社のボスなどは面白いが、なぜ貴族がそのような平民出の男を副官にし、一等傍に?”
 出現したばかりの異界にも造詣の深いこの男にとっては、少し調べれば、ライブラの副官が貧民窟で生まれ育った見せかけのスーツ人間だと知れるだろう。しかし調べをつけているのは男だけではなく、もちろんこちらも彼の身分差別主義の性分を調べ知った上でスポンサーをねだっているのだから、それは俺にしては予想の範囲内だった。つまり、全てはこちらの手の内だ。
 設立したばかりの組織においてこの場がどれほど重要か、世界の均衡を保つことに命を懸けるクラウスは充分そのことを分かっているだろうに、しかし、男の言いようにやはり赤毛に隠れた眉をひそめたようだった。直情的で清廉、ともすればすぐに推して参るボスが何かを言い、何かをする前に、副官は組織にとって有利にことを進めなければならない。そうしなければ、組織は成り立たない。
 僅かに闘気を漲らせたクラウスを軽く押しのけ、俺はおよそスラム街で人の頭を躊躇いもなくかち割った子ども時代からは想像できない笑みを浮かべ、丁寧に言った。
「あなたは、剣の腕が立つと聞き及んでいます。……どうか僕と決闘を。クラウスの傍にいる者として、ただの無能を傍に置くボスではないことを、知って頂きたい」
 
 ※

……納得がいかない」
 優秀な執事の運転する静かな車内に、むすりと不機嫌な声が落ちた。
 性格や価値観には難ありだが、特に犯罪も犯しておらず大金を隠し持っているスポンサーを、無事に獲得し終えたにしては、あんまり嬉しくなさそうな態度だ。「何が納得いかないんだ?」反対に弾んだ声で訊くと、隣で大人しくシートベルトに収まっているクラウスは、じとりと眼鏡の奥の瞳を向けてきた。睨まれている心地になる。
「きみは、わざと負けただろう、スティーブン」
 事実、睨んでいるのだろう。綺麗な緑の瞳は不服をありありと宿らせている。
「そんなことないさ」そういう目で見られるとあらゆることに絆されてしまいそうで、違和感なく目線を逸らしながら肩を竦める。「あのお方は本当に強かったよ。いい勝負だったろ? あと一歩で勝てそうだったけれど、まあ、足技じゃないしな」
「きみはわざと負けた」
「そんなことないって」
「わざとああなるように仕向けたのだ。私に見合う男であると、先方が諍いなく認められるように」
「クラウス」
「納得がいかない」
……クラーウス」
「分かっている。きみがいなければ、今回の後ろ盾は得られなかっただろう」クラウスは少しも逸らすことなく僕を見つめ続け、言った。「けれども。……でも、きみは私の友人だ。……友人を馬鹿にされて、黙っていられることは、もうない。分かってくれたまえ」
 しばしその瞳を見つめ、俺はふと微笑んで見せた。
……僕、育ちが良くないけれど」
「スティーブン」
「きみの金品を強奪しようなんて考えたこともなかったよ。むしろ、お前を守りたいし、お前の隣に立っても恥ずかしくない男になりたい」
 友人だからな。
 言うと、クラウスはようやく機嫌を直したようで、それは私もだと言葉を返した。「スティーブン。きみの友人として、誇れる存在でありたい」
 お前より誇れる存在なんてこの世にいないよ。
 さすがに、そうは、返さなかったけれど。僕は曖昧に笑ってありがとうと言った。本当は、ごめんと言いたかった気がする。
 俺はどうしたって、彼の誇りにはなれない。
 それを、誰よりも分かってしまっているので。