不破
2024-11-30 02:11:09
4617文字
Public 空戦
 

#23


「アムステルダムはひとまず問題ないでしょうね。敵軍が再度攻撃を開始する頃にはこちらの増援が到着するわ」

 メルゼブルク軍第2航空師団、本部大隊ポラリス。その談話室から望むケーニヒスベルクの夜景。立ち並ぶ高層ビルの側面、人気のモデルの映像を写して輝く大型モニターや、ゆっくりと点滅する航空障害灯の輝き。夜空へ飛び立って行く輸送艇の姿を背景に、ジェンソンがデスクの向こう側で言った。
対ウィンズレットの前線となっているアムステルダムの戦況を確認していたらしく、端末に表示された報告書に承認のサインを記入し、光学モニターを左へスライドさせて消し去り、コーヒーの入ったマグカップを手に取るジェンソンを横目に、ルカはアイスブルーの目を細めた。

「シャウラとカノープスの後詰めにはアルタイルが向かうそうです。拠点の防衛が確立してからなら、制圧中隊の防衛成功率は86%を下回ることはありません」

 と、背の低いテーブルを挟んだ向かいのソファーに腰掛け、複数の光学モニターを展開したホワイトが補足する。参謀本部のフォーマルハウト隊で開発が進められていたアンドロイドである彼女は様々なデータベースを記憶しているようだ。敵の情報とこちらの戦力を比較したのだろう。
 アムステルダムでは敵の大隊が2隊確認されており、戦力を追加投入する動きは今のところ確認されていない。シャウラとカノープスは少数だが精鋭揃いと聞く。その精鋭が敵の出鼻を挫いたのなら、制圧を得意とするアルタイルならば長く持ち堪えられるだろう。

『数の差は防衛設備で埋められると思うよ』

 平坦な、音声を機械で作ったような声が続き、ホワイトの言葉を更に補足した。
 ホワイトの隣に腰掛けているモミジ・ナガツカという彼女は、艾を水に透かしたような色の目を細め、テーブルの上のスフレケーキをフォークで口へ運ぶ。

「そうね。モミジちゃんの言う通り、都市機能を利用すれば防衛は容易でしょう。持久戦になれば基本的に都市を有する防衛側に有利に運ぶわ」

 飛空艇で敵の都市まで攻め込むよりも、自国の都市を防衛拠点として構えている方が有利に戦うことが出来る。当然ではあるのだが、敵もその常識を知っている。だからこそ、対策が考案され、実践される。
 ここにいる全員が全員それを理解はしているだろうが、どういった対抗策を講じてくるか予想は出来ても現実はわからない。それを考慮せずに大丈夫とは言い切れないと思うのだが、気楽過ぎやしないだろうか。

「ロンドンからアムステルダムへは高速艇であれば1時間程度です。増援を出すのであれば、既に増援が到着している可能性が高いですが、現時点で敵の増援を確認したとの情報はありません」

「つまり……増援はないってか」

「はい。可能性としては、迂回してくる別働隊を警戒すべきかと」

 ホワイトが淡々と告げる内容に嘆息し、スフレケーキを頬張りながら――ほぼ無表情に見えるが――満足げな表情を浮かべているモミジとジェンソンを交互に見るも、助け舟はなかった。