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河童の皿箱
2024-11-27 10:13:42
5774文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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世を観し水
娑楽斎と娑楽斎(?)が遊び歩くだけ
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龍が満足いくまで遊び歩いた2人。絵師の腕にはもうこれ以上は持てないほどに目いっぱいの、自分のもので溢れかえっていた。そしてあれだけ買い歩いたのに、龍のものはピアスと扇子のふたつぽっち。もう夜も随分深くなって、「最後に行きたいところがあるんだ」と。もはや何も言うまいよと龍の足取りを追えば、そこにあったのは古びた井戸であった。
喧騒は遠く、近くを通るものもない、静かな隠れ家。絵師は誰もいないよなと、いったん荷物を置く。龍は井戸のそばまで寄っては、扇子をぱっと開いて笑った。「なあ、覚えてるか?」。「あぁ、覚えてるさ」。
ここは、龍の輪郭を始めに思いついた場所だ。
龍は井桁に腰を掛けては、足を組む。微笑む口もとは扇子にすいと隠されて、闇夜に光る黄金の瞳が絵師を見つめれば、すっと細められては、夜風の涼しさを堪能する。「俺は、お前が生まれるよりもずっと昔からここにいた」と。絵師は、ただ、呆然と立ち、龍の言葉に耳を傾ける。
「でもさ、諸行無常だ」。「俺は忘れ去られて、力を失ってさ」。「濁った水に溺れていた」。龍はぽつり、ぽつりと言葉を並べながら、けれど落ち着きなく、立ち上がって、またふらふらり。眉尻を下げては、思い出を語る。
「お前に描かれ、人々の前に顕現したあの日、俺はまさに、天にも昇るかのような気持ちだった」。「いや、それよりも前か。お前が俺の試作をしてた時もだ」。「いいや、まだまだ前」。「お前が、ここにいる俺に気づいてくれた時」。「俺はお前にすくわれた」。「やっと息ができたんだ。娑婆の空気はこんなにうまかったのか、って」。「だから、さ」。龍はまた、そっと絵師にすり寄っては、小さく囁いた。
「おれを誇りに思ってくれ。俺をとらえて、でも、俺にはとらわれないで。おれを愛しておくれよ。マスター」
はぁ、全く。絵師は自分の肩の力どころか、全身の力が抜けていくのを感じ取った。「お前なぁ」。首元でくつくつ笑う滑稽な龍に、絵師は笑った。「お前、そのためにわざわざ俺の姿を模したのかよ」、と。ぷくくくくと笑いをこらえられぬ龍の頭を、胸元に寄せてやった。「
……
心配、かけたな」と。「お前はいつも自分のことは後回しにする」。「悪かったって」。絵師がぐりぐり龍の頭を撫でてやれば、まあ自分の顔なものだからやはり奇妙な気にはなるけれど、それよりも、龍が目を細めて喜ぶことの喜びが勝るようになっていった。
「さ、あいつらとの約束だ。そろそろ帰らねぇと。
……
でもまあ、せっかくここに来たんだし。ちょいと
……
実家? に寄らせてくれ」。ようやく絵師から離れた龍は、井戸のふたをあけ放ち、その井桁と下駄の鳴りに扇子を開いた。いったい何をするつもりなのかと絵師は焦ったが、時すでに遅し。「娑楽斎、今日は楽しかったぜ。また遊ぼうな?」なんて笑っては、龍は井戸に真っ逆さま。慌てて駆けよれば、井戸の底より、パシャリ響いた水音に、はあ、と。大きなため息を漏らした。
直後、ごうと大きな咆哮が鳴り響いては、井戸の底より現れ出たのは、鮮烈で、美しき龍の姿。青空よりも深く、海よりも明るく、太陽よりも輝き、月よりも煌めく。かつて自らがとらえたその輪郭は、喧騒と深き夜の闇を切り裂いて、また絵師の首元をぐいと咥え、鬣の上にのせて大荷物を手に飛び立てば、その姿を目撃した街の人々は再び、驚嘆の渦に巻き込まれていった。
世を観し水の深きに棲む龍と、娑婆は楽しき斎とはここよと断じる絵師の、奇ッ怪な夜の出来事は、これにて一件落着。
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