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河童の皿箱
2024-11-27 10:13:42
5774文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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世を観し水
娑楽斎と娑楽斎(?)が遊び歩くだけ
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さて、ところ変わって龍が飛び去った先。月がビルのさらに高くで輝く、活気と下町情緒の溢れる商店街は、世間を席巻する芸術家たちの影響を受けに受け、軒先ぶら下がる提灯には妖しい光が揺らめいていた。町ゆく人々もめかし込んで、その間をかんからからから、楽し気な龍がげたを鳴らして歩けば、どうしたものかと困った浮世絵師。下駄の音の後をゆっくり、ゆっくりと追いかけていた。
「おい、娑楽斎! 見てくれよ!」。龍の足取りはふらふらり、あっちいってこっちいって、店の前に出る商品を眺めていた。龍が初めに目にしたのは耳飾り、それもとても大きなリングピアス。「あぁ、良いなぁ!」。艶めく銀色は近くの光の色を如実に映し出し、龍はうっとり眺めていて、散歩だけにとどまらぬ雰囲気に、浮世絵師は腹をくくっては財布を取り出した。
さらにご機嫌な龍の足取り。その耳には、今しがた買ったばかりの巨大な輪。歩けば歩けばちらちら揺れて、普段自分がしないようなアクセサリーを身に着けた自分の姿に、浮世絵師はやはり、妙な感覚を覚えた。「おい」と。絵師が龍を呼び止めて、近くの裏路地に入れば、「その。さすがに、俺に似すぎだ」と。龍は顎を覆っては、「ふむ、確かに」。「それなら、俺を描いてくれよ。いつもみたいにちょちょいとさ!」。絵師の腰に差された小さな筆を指さしては、そこらの石段に腰かけて目を閉じた。絵師は言われるがままに筆をとっては、龍の髪に筆を走らせた。
自らの青い髪に対して、龍の髪はそれに描いたとおりに紫に塗り、毛先は青白く。中ほどに赤や黄色やをかき混ぜた。ざっくばらんにした自分の長さと違って、計算しつくした長さの鬣を
……
逆立たせると目立つかと、首に沿わせた。けれど短いと自分と大差ないかと思い、気持ち、長めにしてみるか。絵師が龍の髪をいじる間、龍は今にも鼻歌を歌いだしそうなほどであった。顔は
……
どうにもいじる気は起きなかったが、朱ぐらいは引いてやろう。隈取ほどではないけれど、目元に朱を差し、親指でかすませてやれば、「ほい、いっちょ上がりだ」。立ち上がった龍が近くのガラスを覗き込めば、子供の様にはね、それはもう、大層喜んだ。幼いような、そうでもないような自分の姿に、絵師はまた奇妙な気持ちになりながらも、けれど喜んでくれるのなら、まあいいかと結んだ。しかし、こうしていていいのだろうか。
先ゆく着物の裾に、流水の渦と、それに乗せられた桜の花弁がひらひら揺れる。ひとり祭り気分の下駄が、かんらかりん。龍は絵師の腕を引っ張っては、あちこち見て回って、次に龍がここだと立ち止まったのは、扇子屋であった。扇子は先ほどよりいくつか見て回ったが、どうにも龍が納得するものがなく、「お前に描いてもらっちゃおっかなぁ」なんて冗談を口にしていたが、開いて、閉じて、開いて、閉じてを繰り返し、そして声を上げた。絵師が「決まったか?」と見に行ってみれば、龍が気に入ったのは絵師が着せた着物によく似た扇子。
「
……
って、お前それ
…
」。そう、龍が手にした扇子は、かつての仕事で絵師が描いたものだった。可憐な能楽師をイメージした鱗紋のものだけは、そうであると大々的に売り出されては即日完売し、他のものはそこまで推されずまあまあ売れ残ってしまったやつ。依頼者の意図が表沙汰になったとき、絵師にとってはまあ仕方がないかと思いつつもちょいとばかし引っかかっていた企画のものだが、龍は巷の評価などお構いなしにお会計。さっそく通りでぱっと開いて、暑くもないけどはたはたり。よくよく見れば、ピアスだってあの龍に描いてやったものにそっくりだ。なんだか自分の熱烈なファンを連れ歩いているような気がしてこっ恥ずかしくなってきたが、龍はなおも、絵師とのひと時を心から楽しんでいた。
それからも、龍はあれだこれだと絵師にねだっては、まあ洒落るのはいいことだと絵師は龍に買い与えてやった。自分が愛用している化粧品メーカーの最新シリーズ、そういえば切れていたなと思い出した靴クリーム。古本屋で幸運にも見つけた大昔の書物。だいぶ使い古していた風呂敷も新しいものに変えてみたり。龍が欲しがるそれらは、気づけば絵師のものになっていて。絵師はふと、自らはここまでずぼらだっただろうかと疑問を抱いた。思い返せば、演目を作るぞと息巻いてから、あまり自分にかまってやらなかった、ような。先ゆく同じ顔の龍は、何かを探し、吟味して、買うたびに、生活の中で減ってそのままだった自分のものが補充されて行って、けれど「まだまだ」と。
ふと、絵師は龍に尋ねた。「俺は、こうしていていいんだろうか」と。とうとう財布を絵師から奪い取った龍は、「何を馬鹿なことを」と一蹴しては、そこらで買った豪奢なソフトクリームをひとつ、絵師に差しだした。「こんな時だからこそ、遊ぶんだよ」と。
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