Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2024-11-24 22:37:17
8593文字
Public
遊戯王:短め(2024年度)
Clear cache
Export ePub
オルペウス/ひとりぼっちのオーケストラ/自鳴琴
ニンギルス(エンリルギルス)とワゴンが駄弁るだけ
1
2
3
浜辺の砂にくるくるり、妖精の足跡を追いかけて、小さな子供がぱたぱたり。遠く遠くのオーケストリオン、応える雅な音色を聞いて、妖精は踊り、歌う。からから、ころころ、黄金の胴のシリンダーが回っては、口からこぼれる自鳴琴。砂を抉った機械の足跡、泡立つ波がぱちぱち、しゅわしゅわ。そんな愉快を拾い上げて、小さな小さな隊列は、遠くで鳴り響く盛大な、壮大な、厳粛な旋律のもとへ、急げ急げ。
ふと、先頭を行く妖精は立ち止った。ぼんやり顔の能楽師が「どうしたの?」と尋ねれば、妖精は閉じたような目をちらっと向けて、指先をもじもじ。もしかして、と顔を見合わす3人の能楽師たち。けれどふふふと微笑んで、妖精の背をトンと押しては、ぐいぐい引っ張る。「ほらほら、行きましょう!」、にっこり顔が妖精を励ますけれど、妖精はやっぱり、もじもじ、もじもじ。そうしている間に、目的地の旋律は、ぴたりと止まった。
「どうしたんだろう?」、勇まし顔がじぃっと大岩へと目を向けると、何やら話している男2人。妖精の主たる騎士と、能楽師の連れたる雅楽師が、あれほど夢中になって没頭していた音を止めて、見るにどうにも困り顔。「先、行ってる」と勇まし顔と妖精を残して、2人は風に振袖をはためかせ、走っていった。けれども、妖精はもじもじするばかり。声の代わりに音色をもつ妖精の言葉は、ぼんやり顔なら理解できると思うのにと、勇まし顔は肩を落とした。
「ねえ、こんなに素敵な歌声なのに、その。聞かせたく
…
ない?」、なんて。ちょっと意地悪だったかなと勇まし顔があとで思っても、妖精は首を横に振った。やはり、ほんの少しの勇気が足りないのか、どうなのか。「とりあえず、行こう」。勇まし顔がまた妖精の手を引けば、今度こそ、妖精は前を見て歩き始める。しゃくしゃく、さくさく。波が寄せては、しゅわしゅわり。泡がはじけて、ぱちぱちぱち。のんびり歩く間にも、海辺を支配していたのは、波と風の音だけ。
ようやくたどり着いた大岩に、立つ騎士、対する雅楽師と、その話を聞いていた能楽師たち。「軽快な音楽がわからないんだって」。「機械たちにインポートしている楽譜だと、思ったような曲がないんですって」。なるほど、だから演奏が止まっていたのかと、合点のいった勇まし顔と、やはり未だ決心のつかぬ様子の妖精。「すまないな。遺っていた楽譜は多分、傑作ぞろいなんだろう。どれも素晴らしいものなのだが、どれも
……
軽快とは言えない」、「いえいえ、気持ちは痛いほどわかりますよ。遺らなかった旋律は、いったいどんなものだったのだろうと」。騎士の引きつれるオーケストラの楽器ロボット、雅楽師の扱う雅楽の楽器たち。静寂の中で、今か今かと待ってはいるが、どうにも方向性が定まらず。
「ね。さっきの歌、もう1回聞かせてほしいな」。勇まし顔がもう一度、妖精にリクエスト。指先をへそのあたりでもじもじさせたが、騎士のほうをじぃっと見ては、胴のシリンダーを回し始めた。
からりんからりん、ころころりん。妖精は与えられた声で、軽快に歌い始める。口から零れるその旋律に、騎士はハッと目を見張った。「お前、その曲
……
」。雅楽師はその祭りを思わせる音色に、「あぁ、これは」、と。ふぅ、と息を吐き、微笑んだ騎士が、再び指揮の手を楽器たちに見せた。
からからころりん、からころりん。妖精はまた、ステップを踏む。能楽師たちが、その足跡を追っては、着物の袖をひらり、ひらり。騎士が旋律をとらえて指揮をとれば、軽妙ながらも壮大で、雅楽師がさらに乗れば、ぴぃひゃら、ひゅるり。
それは決して、楽器たちを作り上げた騎士の目指した、完全な音楽ではなかった。妖精の黄金の歌声を、騎士がたどたどしく追って、雅楽師が好き勝手に彩っては、能楽師たちもまた思うがままに。けれどそれは、決して不完全な音楽などではなく。騎士の瞼の裏にあったのは、世界の片隅、森の奥。小さな村の、ある日の出来事。すっかりすり切れた指先と、痛みを訴える指で押さえた弦。悪戦苦闘の末にみた、友と妹の喜ぶ姿。
あの日、生きた日の、小さな日常の音色だった。
1
2
3
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内