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koto
34920文字
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れめしし😈🦁
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れめししシリーズ小説
れめ→ししの短編3連作になります。
原作101話までの内容を含み、それ以降は原作軸とは異なる世界での話となります。原作と乖離する捏造部分がありますのでご注意ください
・雲裏の流星群(pixiv:2023.01.16.公開)
タッグマッチ戦後の整理がつかないままの獅子神に叶から連絡が入る。用件は流星群観測のお誘いで……。
101話時点での創作になりますので、102話以降とズレがあります
・embrace(pixiv:2023.02.28.公開)
獅子神宅で寝入ってしまった叶は、目覚めた深夜にとあるトラブルに見舞われる。そこで偶然目にしたものは?
・サヨナラの質量(pixiv:2023.02.28.公開)
※原作と外れた多くの捏造を伴います※
ある日、突然カラス銀行の賭場から叶の姿が消える。告げられた別れの理由と叶が獅子神に残したものとは
1
2
3
サヨナラの質量
伊藤班所属のギャンブラー、叶黎明が姿を消した。
そんな話がVIPの口に上り始めるようになったのは一ヶ月ほど前のことだろうか。事実、ハーフライフのステージで彼の姿が最後に目撃されたのはそれより更に前になる。初めのうちはただ単にゲームが組まれないだけだと思われていたが、それにしても姿が見えないと叶黎明の出番を心待ちにしていたVIPの一人が痺れを切らし問い合わせた。結果、全くもって予想外の回答が銀行側から返ってきたのだ。曰く、叶黎明は現在ハーフライフに籍を置いていない、と。状況を理解できないまま更に食い下がりワンヘッドに自動昇格したのかという問いを続けるが、その回答も否で。叶黎明の賭博口座残高がハーフライフの基準以下になっている事実が告げられ、それ以上の内容が伝えられることは無かった。
有象無象のギャンブラーの中でも叶黎明の才能は抜きん出ており、またその容姿やプレイスタイルから一部のVIPに留まらず他班の行員の目も引きやすくあった。VIPより内情に詳しい行員でも4リンクはおろか5スロットでも見かけないということしか分からず、叶黎明はいつの間にか忽然とその姿を消したように見えていた。
そうは言っても伊藤班でも重宝されているかに見えたギャンブラーだ。なんらかの事情で姿を消しており、その事情とやらは伊藤班員のみが知るのだろうと、他班行員の多くはそう考えていた。確かに、伊藤班は他班よりもこの件に関して情報を握っていた。だが、大方の予想に反して、その全てを知り得ているわけではなかった。
「天堂、どうなってるんだ一体」
5スロットから即日でランクを上げ、更に4リンクも順当に勝ち上がった天堂が挑むハーフライフ凱旋初戦の日。迎えの車に乗り込むと、開口一番、伊藤班行員の雪村が詰問じみた口調で問う。以前、真経津とのゲームにて進行役として顔を合わせた時と比べれば、その言葉遣いは随分とぞんざいになっている。天堂は顔色一つ変えずに雪村を見据えた。
「
…
どう、とは?」
「意味のない問答をするつもりはない。叶が何処に行ったか、何を企んでいるのか、知っているんだろう?」
雪村が天堂に確信めいてそう言うのにはわけがあった。
現在、叶黎明の賭博口座は5スロットで賭けすらできない程度の残高しかない。それはゲームで負けて賭け金を失ったからではなく、口座のほとんどの金を使ったからだ。正確に言えば送金した。送金先は、天堂弓彦が所有する宗教法人の口座だった。
「黎明か。私が知るはずもない。あの男も今までの罪を悔い改めたく神への献金を行ったのだろう。殊勝な心がけだ」
そんな風に嘯く天堂に雪村は隠すことなく舌打ちをする。
「よしんば知っていたとして、迷える子羊の懺悔を口外する者がどこにいよう」
どの口がそれを言うのかと雪村は思ったが、これ以上会話を続けたところで欲しい情報は得られないと悟るとそうそうに会話を切り上げた。雪村自身も情報を取られるわけにはいかない。天堂はただ小さく微笑みを浮かべるだけだった。
『ユミピコの教会まで来れるか?』
そんなメッセージが送られてきたのは、夜も更け獅子神がそろそろ寝支度をしようかと思った頃だった。メッセージの送り主とはここ暫く顔を合わせていないどころか、連絡も取り合っていなかった。たまたまタイミングが合わなかっただけと思っていたが、久しぶりに送られてきたたった一言のメッセージに獅子神は妙な胸騒ぎに襲われる。
『今行く』
メッセージの理由を尋ねたり、会っていなかった間の近況を聞くなんて悠長なことはせず、ただそれだけを返すとすぐに車のキーを手に取り家を出た。天堂の教会は一度場所を聞いたことがあったので、だいたいの場所は分かる。その近隣で教会を探せば一発だろう。
あのメッセージから平時とは違う様子を感じ取った獅子神だが、よくよく考えれば確たる根拠もなく、自分の早とちりかもしれないと少し冷静さを取り戻しながら車を走らせる。来てくれ、ではなく、来れるか?という言い方からは獅子神が今すぐ行かなくてはならないような切迫感は薄い。少なくとも獅子神の事情を考慮する余地はある。しかも指定されたのは天堂の教会なのだから、十中八九、その場には天堂が居るだろう。その上で自分に来て欲しい用事とはなんなのか。考えても答えは出なさそうではあったが、それでもある程度は予測しておきたくて獅子神は道中様々な可能性を考えるのだった。
ナビで検索した結果、車は正しく教会の前に着いた。夜だが、その門扉は開いており獅子神は少し迷った末にそのまま敷地内へ車を乗り入れる。端の方に車を寄せて停車し、運転席から降り立てば夜の教会はひっそりと静まり返っていた。建物の入口前まで近付くと、閉ざされたドアをそっと押す。しっかりとした、けれども想像よりは重くないそのドアを開けて中に入ると、そのまま後ろ手にそのドアをそっと閉める。窓からは月明かりが差し込んでいて、教会内は独特の雰囲気を漂わせていた。
外よりも更に深い静寂が耳に痛いくらいだ。祭壇横には長身の見知った男が一人立っていた。柔らかな光に照らされたその姿は場所もあいまってどこか浮世離れしたように獅子神の目に映る。その姿は人ならざるものの様にも見え、仮にそれを神々しいなどと言ってしまえば天堂は憤慨し、そう評された当人も存在しないよく分からないものに例えるんじゃなく、ただ俺を見ろと言うかなと獅子神は小さく笑った。
「こんばんは、敬一君。よく来てくれたな」
建物の造りのせいだろうか。叶の声の響きがいつもと違って獅子神の耳に届く。
「来るよ、そりゃな」
獅子神はゆっくりと一歩ずつ真っ直ぐにその距離を詰めていく。なぜだろうか。わけもなく、そこに居るはずの叶が実際はどこか遠くに居るような心地になり、獅子神はざわざわと心許なさを感じる。
「少し会ってなかったけど、忙しかったのか?」
「そうだな、ちょっと色々立て込んでたんだ」
叶は祭壇に寄りかかるように身を預けると、獅子神を真っ直ぐに見たまま会話を続ける。
「他の奴らはどうした?天堂は?」
叶と自分以外、建物の中には気配が感じられず獅子神は問いかけるが、他の面々に声をかけていようがいまいがそこまで気になってはいなかった。気になることが他にあったからだ。出会い頭、天気の話をするくらいの感覚で訊いた質問に叶もそれをわかった上で答えを返す。
「晨君も礼二君も呼んでない。ユミピコは別のとこでちょっと忙しくしてる」
そっか、と返しながら足を動かし続ける。久しぶりに顔が見られて、話ができて正直少し嬉しく思っている自覚は獅子神にもあった。
思い返すと真経津や村雨と違い、今まであまり二人で時間を過ごすことがなかった叶が、いつの間にかするりとその存在を近くしたのは空振りした流星群観測の時からだったろうか。自分を見て欲しいこの男は、それと同じくらいに相手を見ていて、獅子神の自覚の有無に関係なく、その足元が覚束なくなったタイミングで気負わず腕を引き上げてくれるような、そんな振る舞いを見せていた。
なぜ自分なのだろうと、出会ったときからこれまでの間、何度か抱いた疑問が都度その意味合いを少しずつ変えて獅子神の中に浮かんでは沈んでいく。身内を見返してどう贔屓目に見ても格が落ちる自分が叶の世界に存在を許されたことから始まり、名付けようのない時間の中で優しさに似たものを与えてくれたこと、そして今この瞬間にそんな表情を自分に向けることもだ。なぜ自分なのかと、そう思わずにはいられなかった。
足を進めるたびに距離は縮まり、もう、すぐ目の前には叶がいる。祭壇は階段一段分ほど高いステージのような場所にあり、ステンドグラスを背にした叶を少しだけ見上げるような姿勢で獅子神は立っていた。
「今日敬一君を呼んだのはサヨナラを言うためだ」
獅子神が聞き間違いかと耳を疑うくらいに、叶はなんでもないようにそんなことを言った。唐突な話に獅子神は戸惑い、そしてその言葉の意味に考えを巡らせる。
「そんな難しい顔するなよ。例え話とかじゃなくて、本当に別れの挨拶」
叶はにっこりと笑ってみせると尚も軽い口調でそう告げるので、獅子神はますます訳が分からなくなった。
「ワンヘッドにでも行くのか?」
きっとそういうことではないと分かってはいるものの、正解の糸口が欲しくて獅子神はそう口にする。
「仮にワンヘッドになったとして、敬一君にはオレがそんなことで今生の別れを伝えるため呼び出す奴に見えてるのか?負ける前提でお別れを言いに来ると?」
そんな事は微塵も思っていないことなどやはり叶には筒抜けで、獅子神は言葉を詰まらせる。必死に頭を働かせても叶が別れを告げる理由が思い当たらなくて、獅子神は途方に暮れた。
叶は重心を預けていた祭壇から身体を離すと、立ち尽くす獅子神に今度は自分から歩み寄る。
「ちょっと色々面倒なことになりそうなんだ。だから、姿を消す」
叶のこの話しぶりでは、面倒事の詳細もどこへ姿を消すのかも教えては貰えないのだと獅子神は察した。
久しぶりに会った相手が、今日この瞬間を最後に会えなくなるかもしれないとは想像もしなかった。お互い賭場に身を置く者であれば、ある日突然二度と会えなくなる可能性は頭の中にあったはずだ。それでも自分より格上の人間に囲まれていると、彼らが負けて命を落とす姿がどうしてもリアルに想像できず、獅子神は自身の認識の甘さを改めて思い知らされる。それと比べれば、この別れはまだ良い方なのだろう。きちんと顔を合わせて別れられるのだから。
「天堂は全部知ってるのか?」
「いや、ユミピコにはお願いしたいことだけしか話してない」
少なくとも、天堂は自分より情報を開示され叶の助けになっている事実に悔しさが募る。力が無ければ、手を貸す機会もやってこない現実を獅子神は嫌でも受け止めなければならなかった。
「そんな顔するなよ、敬一君。適材適所ってやつだ」
叶は聞き分けのない子供を前にしたような困った顔をして苦笑する。実際にそんな子供が目の前に居ても叶はシャットアウトするだろうから、こんな表情を浮かべることはないことを分かってはいたが、獅子神にはそれ以外形容のしようがないなかった。
「なんか、俺に出来ることはないのかよ」
叶は少し考えた後、まっすぐに獅子神を見据える。
「敬一君、前にさ星を観に行っただろ?」
「ああ
…
結局見えなかった時のか」
突然変わった話題に少し戸惑いながらも獅子神は頷く。叶に誘われて二人で行った流星群観測は曇り空で、流れ星を見ることはできなかった。
「あの時、オレが敬一君につけた注文、覚えてる?」
叶は更に数歩歩みを進めて、獅子神の目の前まで来る。簡単に踏み出せるほんの少しの段差が二人の間を隔てていた。
「俺が望んでるのはさ、敬一君が強くなることだよ」
それは今の力不足を指摘されているようで、獅子神は自分の不甲斐なさを痛感する。
「敬一君以外の誰を犠牲にしても、自分の命を守れるくらいに、な」
直面したくない事実であったが獅子神は目を逸らさずにじっと叶を見つめると、叶もまたその目でしっかりと見つめ返す。
「オレの世界の何処にも敬一君が存在しないなんて、そんなの許されないことなんだよ」
強くそう言い切る叶の言葉に獅子神は小さく息を飲んだ。
「手酷く騙されたって、自分の周り全部疑うような羽目になってもさ。なんでも良いから生きてろよ」
獅子神の瞳を見据える叶の目に少しだけ口惜しさが滲んだように見えたが、その理由は獅子神には分からない。それは気のせいかと思うくらいに一瞬ですぐに消え失せていた。
叶はふっと表情を和らげていつもより少し低い位置にある獅子神の頭に手を伸ばす。
「まあ、できれば笑っててくれる方がオレは嬉しいけどな」
そのまま宥めるように頭をぽんぽんと軽く撫でる叶に、獅子神は置いてけぼりにされた迷子のような気分に襲われるが、どうにかそんな情けない気持ちを振り払う。
「別に一生会えないのが確定してるわけじゃねーんだろ?」
「その通りだな。生きてれば、またいくらでも会えるさ」
その答えに獅子神は少し気持ちが軽くなる。それが嘘でも本当でも、叶の言う通り生きている限りその可能性はゼロではないのだから。頭の上から外した手を叶はそのまま獅子神の前に差し出す。なんの為の手か分からずにいると叶はその手を握ったり広げたりして見せた。
「なんだ?」
「握手」
「は??」
「お別れの握手でもしようかと思って」
「なんだそりゃ」
冗談みたいな提案に思わず表情を崩しながらも、獅子神はその手を握った。どこか儀式めいたものを感じながらも重ねた掌は熱くも冷たくもなく、自分と似通った温度を持っていた。少しだけ大きいその手は自分のものよりは薄く、しっかりと力の込められた長い指は自分のものよりは少し細かった。この手を離せば、もう多分暫くの別れになるんだろう。
「最期の別れはできたのか?」
先程獅子神が入ってきたドアの方から不意に静かだが通る声が二人の元まで届く。
「ユミピコー、最期じゃないってば」
そこには見るからに神父と分かるキャソックを身にまとった馴染みの人物が立っている。獅子神からは死角だったためか突如聞こえた声に驚くと繋いでいた手を離して後方を振り返っていた。
「死は平等に訪れる。今日別れた相手が明日の朝を迎えることが当たり前だと思うべきでは無いな」
「なんつーか、相変わらずだな」
天堂の言葉に獅子神は呆れたように声を上げた。叶は天堂がここに来た意味を分かっている。そろそろ時間なのだ。
「敬一君」
叶が声をかけると獅子神は天堂の方に向いていた意識を身体ごとこちらに向ける。
「そろそろ時間なんだ」
何の、とは言わなくても獅子神は心得たようで小さく頷く。
「俺のことあーだこーだ言ってくれんのもありがたいけどよ、そういうオマエこそちゃんと気ぃつけろよ」
怒ったように睨んでそう言うのは心配の裏返しだということを叶はもちろん分かっている。
「ああ。じゃあ、またな敬一君」
「
…
おう」
短くそう答え、踵を返して大股でズカズカと来た道を引き返していく姿を叶はその目に収める。天堂とすれ違いざまに一言二言交わすと獅子神はそのままドアの向こうへと消えていった。数分後には車のエンジン音とジャリッというタイヤが地面を噛む音が聞こえ、そのまま車が遠ざかっていくのが聞こえた。そうしてすっかりその気配が無くなると叶は先程まで獅子神が居た位置に降り、そのまま真っ直ぐ進み適当な椅子に腰を下ろした。
「獅子神君は気付かなかったようだな」
「ユミピコはオレが気取られるとでも思ってたわけ?」
「全く、必死だな」
「ほんとムカつく」
叶は忌々しい表情を浮かべるが、それは天堂の言葉へではなくこの事態の元凶へだった。
どこが線引きだったのかは叶には分からないが、ある日突然、叶はカラス銀行に処分対象として見なされたらしい。らしい、というのは確たるソースが無いためあくまで推量の域をでないが叶自身はそういうことだと思っている。それも、恐らくは伊藤班よりも上、もしくは銀行内の別部署からと。
それについて予兆のようなものを叶が感じ取ったのは担当行員の昼間の様子からだった。昼間自身は特に怪しい素振りもなくいつも通りにハーフライフの試合に同席していたのだが、その視線が叶に向けられる回数がいつもより多かった。いつもは試合の雲行きが怪しくなりそうなタイミング以外、その目線はほぼほぼ手の中にあるスマートフォンへ注がれている。銀行で試合を終えた後も隙あらばそんな状態である昼間が、その日に限ってはよく叶を見ていた。そして画面へ視線が注がれている際にも、その視線と指の動きはいつものモバイルゲームではなく恐らく伊藤への報告だろうことが叶には察せられた。
昼間はどんなに仲良くやっていようとも行員だ。だから他のギャンブラーとは違い銀行の意思に基づいた働きをする。どんなにサーカスの猛獣と親しくしていたところで、上から殺処分が下されればそれまでだ。それでも、昼間が直接的に何かに加担しているというよりは命じられたことを遂行しているという印象に近いと叶は感じていた。思えば数週間前からいつもより少しだけ頻度が高かった連絡も叶の行動パターンを蓄積する兼ね合いがあったのかもしれないと、今ならそんな風に思う。
いつものようにゲームを終えた会場からタクシーに乗り込み自宅兼テラリウムがあるマンション前まで到着した時だった。叶が建物の入り口付近まで近付くと物陰から飛び出してくる姿があった。
「金属バットでフルスイングかましてくる女とかイカレてるよな」
「似た者が引き寄せられ集うのだろう」
「まあ、身長差あったからクリティカルヒットには至らなかったけど」
不意打ちでの襲撃はさすがに無傷とはいかず叶の肩口には今もドス黒いアザが残っている。たまたまこの日は天堂にテラリウムの様子を見せる約束をしていた為、数分後には現場で鉢合わせる結果となったのだ。取り押さえて蓋を開けて見ればやはり相手はレイメイの熱狂的な観測者で、どうやら上手い具合に使われたらしい。叶の住まいも帰宅のタイミングも把握していたのは分かったが、それ以上は支離滅裂な言動から決定的な話は何も見えてこなかった。ただ、天堂曰くもう一人少し離れたところに様子を伺っている男がいたらしい。その男は天堂が現れるとその場の成り行きを眺めた後で姿を消していた。
「暴漢に襲われたところを助けに入り、病院に連れて行く素振りをした上で拉致でもと考えていたのかもしれないな」
どこの発案かは知らないが随分と杜撰な計画だなと呆れてしまう。それか、あれは警告だったのかもしれないなとも叶は思う。となるとやはりテラリウム関係が原因か。
「あ、そうだ。これ譲渡関係の書類とかその他もろもろ」
そう言って叶の手から天堂に渡されたのは、件のテラリウムが入っているあのマンションの書類一式だった。天堂はやれやれと息を吐きながらそれらの中身を確認した。
「それにしても
…
」
つまらなさそうに書類に目を通しながら天堂は思い出したように声を上げる。
「獅子神君、彼は本当に面白い。さきほど別れ際、私に黎明のことを頼むと言っていたぞ」
その言葉を聞いて、叶の頭の中に獅子神の帰り際の様子が浮かぶ。何か話しているなと思ってはいたが、その獅子神らしさに叶の口元は綻ぶ。
本当に世界はよくもまあ、あんな男を生み出し叶の前に用意したものだなと感心してしまう。己の無力さを他人やタイミングのせいにする凡夫は山ほどいるが、獅子神はその怒りの矛先を純粋に自分の内に向ける。無力さに怒り、打ちひしがれながら、それでもせめてもの思いで天堂に叶の無事を託した。そんな獅子神をどうやったら慈しまずにいられるのだろう。本当に困ってしまうくらいに愛しいなと思う。
手配していた車が外に停る音が聞こえてくる。もう、本当に時間だった。
「じゃあな、ユミピコ。またいつかどこかで」
そう言い残すと叶は手ぶらの身一つで迎えの車に乗るべく建物の外へと向かう。開かれたままの出入口をくぐり、その扉を閉めるとそこから先は誰も叶の行方を知ることは無かった。
叶が別れを告げてから季節が一つ移り変わろうとしていた。姿を消したことについて真経津や村雨はそういうこともある、といった風情でそこまで取り乱しはしていなかった。あの二人も恐らくきちんと分かっているのだなと獅子神は思った。いつかは必ず別れがくることも、それが望んだ形とタイミングで訪れはしないということも。会いたい人間にいつも会えるとは限らない、という言葉が脳裏に浮かぶ。いや、会いたくなった時に全員生きてるとは限らない、だったか?どちらにせよ、そういうことなんだろうと獅子神はその言葉を身に染みて感じていた。
結局、その場に直面しなくては知っている言葉も活かせない想像力の乏しさに嫌気がさすが、それでも日々少しずつそういった様々なアドバイスを意識して過ごしていくしか自分を変えることはできないのだろう。もどかしくはあるが、一歩ずつ積み重ねること以外にできることはないのだから。
不思議なもので叶と会えなくなってからの方が、以前よりその存在を近くに感じる場面が増えていた。それは会いたいと恋しく思うような遠くの存在へ向ける類のものではなく、もっと内側の話だ。賭場でゲームに挑むとき、何を第一優先にすべきなのか。情に流されてそんなことを見失いそうになったとき、道しるべのように小さく灯るあかりのように叶が残した「生きろ」という言葉が照らしてくれた。
何を選ぶにしても、結局のところ自分の命一つ守れないのであれば何もできない。賭場のテーブルにおいては、誰を何を犠牲にしても生きなくてはいけないと、それが今のところ仮初めの信条として獅子神の中に刻まれている。どんな強さを選んでも変わらず好きだと、そんなことを冗談めいて言っていたことを叶はまだ覚えているだろうか。
獅子神は自身が選んだ臆病さを徹底的に強さへと変える過渡にあった。気弱な殺人者は既に致死にいたっているにも関わらずその怯えから何度も何度も執拗にそのナイフを振り下ろす。もっと身近な例で言えば、虫嫌いの人間が害虫と出くわした際には、その必要が無くても安心のために床が滴るくらいにまで殺虫剤を吹きかける。その後は一縷の可能性のみでまだ他に潜んではいないかと家中をひっくり返し安心を得ようとするかもしれない。ハーフライフで獅子神がやっているのはそういうことだった。傍から見ればスマートさのかけらもないプレイスタイルかもしれないが、常に警戒を怠らず相手の一挙一動に過敏に眼と神経を向ける。ビビりだの臆病者だの言われようが関係ない。事実、獅子神は怖いのだ。ゲームに負けること以上に死ぬことが。だから、獅子神は常に警戒する。相手のギャンブラーだけではなく、銀行側が用意したゲームそのものにさえも。獅子神を死に至らしめるのは対戦相手だけではないのだ。
今日のゲームに関して、担当行員の梅野から連絡があったのは一週間ほど前だった。特殊な試合に出てもらえないだろうかと相談にきた梅野から聞いた話は確かに特殊だった。
「非常に稀なケースではありますが、この度、他行との親善交流戦が執り行われることとなり、その代表として獅子神様が選ばれました」
親善交流戦、という初めて聞くワードに獅子神は首を傾げる。
「なんで俺なんだ?もっと強いギャンブラーなんて山ほど居んだろ」
獅子神の疑問はもっともで、銀行代表と銘打つのであればそれこそラダー上位の人間がふさわしい。だが、梅野は小さく首を横に振る。
「今回は親善交流戦、つまり命を取り合うようなものではありません。そのため、レベルとしてはハーフライフでなおかつ危険人物とみなされる類の方は選出から外れています」
そこまで聞くと、獅子神はなんとなく察しがつく。自分の身内だけでも有害指定を受けてそうな奴らばかりだ。というよりも、異常さが滲み出ていないギャンブラーを探す方が難しいのではないかとも思う。
「これはデモンストレーションに近いものとお考えいただいていいでしょう。銀行はそれぞれに顧客を抱えていますがメイン銀行はどこの法人・個人も一つです。たいていはメインバンクが主催する賭場にご来場されることが普通です。ただ、やはり他行の賭場も気になるようで、ごく稀にこうした機会が設けられる。今回対戦の申し出があった銀行が当行と親善交流戦を行うのは初めてになります。詳細は伏せられていますがカラス銀行のそれとは少々毛色が異なり、具体的に言うと死に至るケースは稀です。そして今回ゲームを用意するのはあちらの銀行です」
要するに死ぬ危険性は少ないと言いたいのだろう。それでもゼロではないがそんなものはいつも出入りしている場所では常だ。獅子神はカラス銀行での賭場しか知らず純粋な興味もあり、梅野の要請を受けることとした。
獅子神を乗せた車はいつもの様にカラス銀行横のホテルにつけられる。ゲームルールと司会は向こうが、会場はカラス銀行が用意するらしい。梅野に説明を受けた以上に、恐らくは銀行同士での画策がいろいろあるのだろうが一先ずは自身のことを優先に考えることを獅子神は今一度認識する。全てを疑って、危険なもの全てから目を逸らさない。獅子神は用意された会場のドアを押し開けた。
中に入るといつもより少し大きな部屋に相変わらずの観客たちが観覧席から優雅に物見をしている。少し違うのはその後ろに大きなモニターがあり、そこにはオンライン会議のように何人もの観客たちが画面上を区切ってそれぞれ映し出されていた。どうやら、向こうの観客は今回オンラインでの観覧らしい。敵地であるカラス銀行にお得意様をのこのこ連れて行った挙句に手練手管で取り込まれるのを防ぐためなのかもしれないなという考えが獅子神の頭に浮かぶ。銀行同士も色々と抱えるものがあるのだろう。
少しすると会場内に動きがある。それは対戦相手の到着を報せるアナウンスだった。獅子神が背にするのと対称に位置する扉がゆっくり開かれると、そこから姿を見せたのはいわゆる女子アナのような万人受けしがちな服装に身を包んだ女性とその後ろを歩く人物の姿だった。前を歩く女性と比べるとその長身は際立っていて、恐らく男だろうことは観客たちの予想に難くなかった。はっきりと断定できない理由はその人物の服装にあった。前を歩く女性行員のパステルカラーの服装とは対称的に、全身を覆う黒いマキシ丈のイブニングパーカーは裾広がりの独特のシルエットで身体のラインを全く拾わない。フード部分は目深に被られており顔も口元が見え隠れするだけだ。海外のランウェイでも歩いていそうな出で立ちに、それがどんな人物なのかヒソヒソと囁き合う声で会場内はざわめき始めた。
対して獅子神はその人物が会場内に一歩足を踏み入れた瞬間から息を呑む。傍らに立っていた梅野は、雰囲気に呑まれたのかと自身のギャンブラーを一瞥するがどうやら少し違うようだった。
「それでは、まずは両者本日の対戦前に互いに健闘を誓って握手をしていただきましょう」
他行が務める司会進行役に促されるようにギャンブラー二人はそれぞれステージの中央へと歩み寄る。相変わらず顔のほとんどが見えない対戦相手は、かろうじて見え隠れしている口元がニンマリと弧を描いていた。
間近に立つと手が差し出される。獅子神の口の中はカラカラに乾いていた。差し出された手に自分のものを重ねると軽く握り返される。頭の中がグワングワンと揺れ眩暈が起こりそうだ。不意に握った手を軽く引かれ、獅子神はバランスを崩し前のめりになる。それを支える素振りをしながら目の前の相手は近付いた獅子神の耳元で囁く。
「大正解」
その後に更に言葉を続けた後で、握っていた手を離すと踵を返して自分の席へと戻っていく。獅子神もまたそれに倣って梅野の待つ自陣へと歩みを進めた。先ほどの動揺から気持ちを引き戻した獅子神は険しい顔をしている。
「何かされましたか?」
獅子神の挙動と先ほどの一部始終に梅野は確認するように声をかけるが、獅子神は首を横に振る。すぐに振り返ると、その眼で獅子神は対戦相手を見つめる。その一挙一動をことごとく見逃さないように。怖いもの全てをその目に焼きつけるように。
「対戦前に、当社のご案内をお客様へ簡単にさせていただきます。当社ではギャンブラーをプレイヤーとして考えており、彼らは企業様のお抱えになっているパターンと銀行側が抱え企業様の要請に応じて試合の為に派遣という形で一時的に貸し出すパターンがございます。詳しくはまた後ほどご説明させていただくので割愛いたしますが、お伝えしたい点としましては銀行側が抱えるギャンブラーに関してはその身の安全に配慮をしております。ゲーム中はさておき、それ以外の場面で不慮の事故に遭遇しないとも限りません。そのため、多くの場合はその姿を極力特定されない恰好をすることがほとんどです。その姿を見られるのは銀行側に既定の手順で申し込みをしたお客様のみとなります」
そんな案内に、会場内の観客席からは不満げな声が上がる。それはそうだろうと獅子神は思う。向こうの銀行の客層がどんなものか獅子神は知らないが、少なくともここの客たちはゲーム中もしくはその後のペナルティに於いてギャンブラーが悶絶する様を楽しみの一つにしていると知っているからだ。
「皆様のご不満はごもっともだと思います。親善交流戦として当社は胸を借りている身ですので、郷に入っては郷に従え。こちらのお客様のご要望にお応えする必要があるでしょう。そのため、今回はこちらのギャンブラーもカラス銀行様のギャンブラー同様に顔を見せたうえでの対戦とさせていただきます」
観客席からは、なにをもったいぶっているんだなどの醒めた文句も上がっている。
「長々と申し訳ありません。ただ多少の期待はいただいてもいいかもしれません。それでは
…
」
司会が対戦相手に促すように声をかけると、その人物は観客席側に身体を向け目深に被っていたフードを後方へ下ろした。
「え
…
」
「ちょっと、待てよ、あれって」
「誰だよ?」
「あれ叶だろう?」
「キャ
―
ッッ!嘘ッ?!レイメイー!!」
「マジか!あいつ死んだんじゃねーのか?」
「私はオークション落ちしたって聞いたわよ?」
露になった顔に、一瞬の間を開けると途端に観客席がどよめき始める。一時期失踪が一部で話題となっていたギャンブラーをこんな形で目にするとは思ってもみなかったのだろう。客の昂揚は熱気を伴い会場内に渦巻いているようだった。この展開には梅野も驚いているようで、どうやら対戦相手についての情報は梅野も聞かされていなかったことが分かった。
歓声で沸き立つ会場の中心にいるにも関わらず、獅子神の頭にはそれが分厚い膜越しのもののようにどこか遠くに届いていた。獅子神の意識の全ては、その熱を一身に浴びている目の前の男に注がれている。あんなにも会いたいと望んでいた相手が目の前に居るというのに、歓びは一欠けらも生まれない。
「敬一君。一瞬も目を離さず、ちゃんとオレを見ろよ」
先ほどかけられた言葉が獅子神の頭の中に刻まれている。サヨナラのはじまりを報せるようにゲームのスタートを告げる音が重く響いた。
<after that>
目覚めると焦点のあった先に広がっていたのは見慣れたくもないが見慣れてしまった天井で、そこが会場の医務室であることを獅子神は理解した。徐々にはっきりとしていく頭でこんな状態になる前のことを思い出そうとして獅子神はハッとする。思わず勢いに任せて飛び起きそうになった瞬間、右手をぎゅっと握られ驚き顔を向けるとそこには先ほどの対戦相手だった叶がパイプ椅子に座って獅子神を見下ろしていた。
「敬一君、急に起き上がらない方がいいぞ?」
恐らくマヌケな顔を晒している自覚は獅子神にもあった。それでも、何の気負いもなくそこに居て当たり前のように声をかける姿に、陳腐な表現だが夢なのかもしれないと思ってしまったのだ。
「もう体温も戻ったみたいだし、平気だって」
獅子神は叶の言葉に自分が何故こうなったのかを思い出した。他行との親善交流戦の対戦相手がまさかの叶であったことに驚きを隠せなかったものの、獅子神はゲームスタートと共に気持ちを切り替えると、今まで培ってきた警戒心を露にしゲームに挑んだ。
ゲームの形態はオブジェクト選択型の読み合い合戦。以前、叶と真経津がやったものと大筋は似通っていた。このゲームが発表された瞬間、会場の何人かの人間は十中八九、叶の圧勝でゲームが終わると予想していた。獅子神自身もその内の一人であった。あの真経津が反則を持ち出さなければ勝てなかったというのだ。そういった読み合いのゲームに於いて純粋な力量は真経津よりも叶が上なのだろう。だが、そんな予想に反して勝負は拮抗した展開を見せていた。獅子神はその展開すらも叶が仕掛けた罠かもしれないと注意深く気を張り巡らせていた。全神経を集中させて叶の挙動を見つめ、そうして気付いた。
「叶、オマエ、目どうしたんだよ」
獅子神が気付いたのは叶の視線と反応だった。獅子神でも気付くほどのオブジェクトの微細な汚れや色の違いを叶は時折見落としているような素振りをしていた。それすらも何かの企みかとも思ったが、そうではないと終盤になってようやく気付いたのだ。
今回のペナルティは低体温症が引き起こす寒冷障害を狙ったものだった。ミスをするたびに低温の液体が静脈内に一定量投与され、また座っている卓を囲った空間の温度も下げられる。これにより体温が少しずつ下げられ低体温症が引き起こされる。軽い症状では早々死なないが、症状が進むと徐々に動作が緩慢になり、反応速度が遅くなる。思考がぼんやりとして判断力も損なわれていき、重度になると心肺の停止が引き起こされる。ゲーム中のペナルティがより叶の事実に気付くのを遅らせる原因にもなっていた。
「今日はちゃんと気付けたんだな」
そう言うと叶は嬉しそうに満足げに笑う。
「何笑ってんだよ
…
オマエちゃんと見えてないんだろ?」
怒ったような不安げな表情で獅子神は叶を詰問する。そんな獅子神を落ち着かせるように叶は説明をし始める。
「敬一君が気付いた通り、今、オレあんまちゃんと見えてないんだよ。正確に言うと左目の視野がちょっと狭くなってて、あと色がよく分かんないんだ」
予想はしていたものの、叶の言葉に獅子神は思わず言葉を失う。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。原因は目じゃなくてこっち」
そう言って叶はトントンと自身の後頭部を指して見せた。
「脳の後頭葉って部分があって、そこに良性の腫瘍ができちゃってんだよね。そうなると見るための経路が塞がれちゃって視力にいろいろ問題が出てきちゃうみたいでさ」
「脳に腫瘍って
…
オマエ
…
それ治んのか?」
「ああ、手術で取っちゃえば問題ないみたいだ。ただ場所の関係とオレの事情ですぐには手術できなくてさ。今は医者の順番待ちしながら経過観察してるってとこ」
事も無げにそう教える叶に獅子神は依然として心配そうな表情を浮かべている。
「まあ、本当に平気だからそんな顔しなくてもいいぞ。敬一君のフルカラーの顔が随分と見られていないのは残念だけど」
そんな軽口を叩く様子に獅子神は思わず毒気を抜かれてしまう。本当に叶がここに居るんだなと、そのことが想像以上の安堵感を獅子神にもたらしていた。
「オマエ今までどうしてたんだよ。ずっとあの銀行でギャンブルやってたのか?」
「久々に会うと質問攻めだな敬一君は。まあ、ずっとオレの事、気になってたんだろうから仕方ないけど」
そう前置いてから叶は、姿を消す前に何者かに襲われそれがカラス銀行絡みの可能性があったこと、身の安全を図るためにすぐに姿をくらます必要があったこと、叶贔屓のVIP客が前々から銀行の移籍話を何度か持ち掛けておりそれに乗ったこと、襲撃の際の負傷で念の為にした精密検査で脳の腫瘍が分かったことなどを獅子神に説明した。
叶が籍を置いている銀行は三大メガバンクに追随する業界四番手の銀行らしく最近その勢いを増しているらしい。その銀行ではギャンブラーは見世物という立ち位置ではなく、銀行顧客の代理としてギャンブルをするという。銀行が抱える顧客同士が都市計画の新規参入や入札権などを賭け、お抱えのギャンブラー同士を戦わせて雌雄を決する。銀行側はあくまでも中立的な立場として賭け事が成立するように手配する役割を担っている。
「まあ、今流行りのサスティナビリティってやつ?色々面倒だしほいほいギャンブラー使い捨てるのは時代遅れですよっていうスタンスみたい。銀行同士も独自色を出してお得意様の取り合いしてるってわけだ」
そこまで聞いて獅子神はまだまだ自分の知らない世界があるんだなと感心した。
「盤外戦術でオレをやりこめようとしたんだ。なら、盤外戦術でやり返されても文句は言えないよな」
そう言って満足そうに叶は笑う。後日獅子神が聞いた話では、あのゲームを見ていた何名かは銀行を移したらしい。
「なあ、敬一君?」
叶はまだずっと手を握ったままで話を続けている。名前を呼ばれ獅子神が叶の目を見つめ返すと、それは嬉しそうに細められた。
「ただいま」
叶の言葉に獅子神は面食らうが、その言葉が確かに叶が帰ってきたことを示していて。そこまで長くはない期間だったにも関わらず、終わりの分からない日々で感じた叶の不在を思い返すと、獅子神は胸がギュッと締め付けられ泣きたいような気持ちになった。
「おかえり」
そう言って、今日はこのまま叶が姿を消してしまわないように家に連れ帰って、それから不在の間の話をたくさんしようと、そう勝手に心に決めた。また始まった、いつか迎えるサヨナラの日までの期間をどう過ごそうかと考えながら。
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マシュマロ
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