Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
残りの夜が来た
Public
OOO
Clear cache
ジュリエットの亡霊
映司とアンク
初出・同人誌(個人)「ジュリエットの亡霊」2021
書き込み感想もらえて嬉しかった
1
2
3
1
俺が滞在している村は『出る』ことで有名らしい。
知る人ぞ知る、というよりもだいぶ有名なスポットらしいから、もしかしたらご存知の方もいるかもしれない。しかし俺はそういうのにはとんと疎かったので、この何もない村に首をかしげるくらい路駐が多く、そして夜になるころにはそれらがすべて消えてしまうことだけを不思議に思っていた。不思議には思っていたが、メダル関連と思われる遺跡の発掘調査中に崩落事故が続き、またそのために思い通りに進まなくなってしまったプロジェクトに焦りを覚えていたこともあり、その疑問を解決しようと思ったのはたまたま、帰国する前に聞いておこうかな、という程度の気持ちだった。一時帰国を翌日に控えていたのだ。
雪の積もった針葉樹とたくさんの車を眺めながら、俺は「そういえばここ、何かあるんですか?」と運転席の現地スタッフに尋ねた。
「何かって?」
「路駐がすごいじゃないですか、昼間」
彼はびっくりした顔でこちらを見て「観光客ですよ」と言った。よほどのことだったらしく彼の握るハンドルが大きくぶれた。彼は雪道に慣れているのだろうが、俺はそうでもないので怖い。「あ、前向いてください」
「火野さん知らないんですか?」
「観光客のこと? 知らなかったです。何があるんですか?」
「聞いてないんですか? 鴻上さんからも?」
宿命づけられているかのようにまだメダルを求める鴻上さんと(先日明らかになったがどうやら四十年後も精力的にお求めらしい)、アンクを蘇らせたい俺の利害が一致し、俺たちの協力体制は現在も続いている。俺は鴻上研究所に雇われていて、この村に滞在しているのはその仕事のためだった。今俺の疑問に目をひん剥いている彼も、今回のプロジェクトの一員だ。
だからというか、だがというか、俺が知っているのは仕事に関わることだけで、そもそも鴻上さんは俺に対して説明が異常に少ない。今回もその例に漏れなかったみたいだ。俺のほうが特に求めないというのもあるけれど。
「聞いてません」
「宿の人間からも? 他のスタッフとかは?」
「聞いてませんね」
「
……
火野さんお忙しかったですもんねえ」
回りくどい確認を経て急に同情的になった彼
―
現地の名前の発音が難しくていつも言い直しをさせられていたから簡単に、Cさん、Cさんとしよう。Cさんから聞いたのが、その『出る』という話だった。「出る」
「はい」
「遺跡とか? あ、レアメタルも出るんでしたっけ」
「レアメタル見にこないでしょ。出るのは幽霊です」
「
……
はあ」
俺の反応はCさんに火をつけたらしい。彼は声を顰めて演出を加え始めた。
「私たちが泊まってる宿の近くに湖があるでしょう、ずっと霧のかかってる」
「ありますね。窓から見えます」
舞台はその湖らしい。
しかしあそこはそんなに大きくないし、Cさんの言う通りずっと霧がかかっていて、湖面もよく見えない。馬鹿にしているわけではないが大挙して押し寄せるほどのスポットとは思えなかった。しかも、ここは交通の便がものすごく悪い。だから皆車なのだろうが。
「冬にあんな濃い霧がかかるっておかしいと思いません?」
「気温が低いからじゃないんですか? 水との温度差で」
「それマイナス二十度くらいのときですよね? ここはそんなに寒くないです」
「うーん、そうか」
「そうなんです。盆地でもないし、ここ」
「温泉湧いてるとか」
「いえ、温泉は湧いてないし、なんなら湖の表面は冬の間凍ってます。でも霧がかかるんですよ、事件が起こってからずっと」
その事件とやらが起きたのは約四十年前。意外と最近のことだ。外国の幽霊といわれたから、安易に何百年も彷徨っているものを想像してしまっていたのだが。
「まあ背景は似たようなものかもしれません。レアメタルとか遺跡とかたまたま立て続けに新しい産業ができたので今でこそそんなことはないんですけど、結構最近までこの辺には、なんていうか、昔ながらの雰囲気が残っていたみたいで。伝統的にいがみ合う二つの家というのがありましてね。火野さんシェイクスピアは」
「えーと、ごくごく一般的な範囲で
……
」
得意分野ではない。有名なタイトルをいくつか思い浮かべて引用に備えていると、Cさんは俺の考えを読んだかのようにはははと笑った。
「大丈夫です。ロミオとジュリエットみたいな二人がいて、ということが言いたかっただけなんで。名前もロミオとジュリエットにしましょうか。いやオフィーリアかな? でも駆け落ちだから」
「俺全然詳しくないので、どっちでもいいですよ」
「じゃあロミオとジュリエットで。駆け落ちした二人がともに命を絶とうとしたのがこの冬の湖らしいんですが、不運にも、幸運にもかな、とにかくどういうわけか、ロミオのほうだけ助かってしまったんです。結局救助されたロミオは宿で自殺しましたが、いつまで経っても、ジュリエットの遺体は上がってきませんでした。それからずっと湖には霧がかかっているんです。
……
ジュリエットの亡霊の仕業と言われてます」
「霧かあ。慎ましいですね」
若干拍子抜けして相槌を打ったのだが、話は終わりではないらしい。Cさんはそれがですね、と畳み掛けてくる。
「あの辺では結構な頻度で男性が水難事故に遭うんですよ、現在進行形で。ジュリエットがロミオを湖に引きずり込んでいると言われてまして。今でも畔までは簡単に降りられないようになってます」
「
……
ああ、だからみんな車停めて上から見てるんだ」
「そうです。ちなみに男が自殺した宿の部屋では首を掻っ切った時の血しぶきが壁に浮かび上がるとか、その部屋に泊まるとジュリエットに憑りつかれて湖に引き込まれる、とかいう話もあるんですよ。
……
プラシーボかもしれないですが、私敏感というか、そういうのを呼びやすい体質みたいで、もう毎晩寒気がして仕方なくて
……
火野さんは? 寒気しません?」
首を振ったが、知ってしまった今晩からはどうだろうとぼんやり考える。現在進行形と聞いては無邪気に面白がれる話ではない。
「そうですか、羨ましい限りです。
……
で、今はその部屋には泊まれないから、やっぱり夜は帰るしかないですよね。昼間の路駐はそういうことでしょう。日帰りミステリーツアーです」
「そっか。ありがとうございます」
答えながら、俺は少しだけ引っかかりを覚えた。
今は泊まれないという言葉を俺は、宿として営業していないということだと受け取った。しかしCさんはなんで寒気を訴えたのだろう。そしてなんで俺にまで確認を。
もしかして。
「
……
そこは今も宿として営業してるんですか? 観光施設とかにせず」
「宿側はこのことを否定してるんで
……
え、火野さん、本当に聞いてないんですか」
鈍感な俺にCさんが決定打をくれた。
「私たちの滞在しているところですよ、その宿。で、火野さんの部屋がその、ロミオが自殺した部屋です。一番人気の」
一番人気の部屋に戻った俺は即座にタブレットを立ち上げた。メッセンジャーの在席アイコンはすぐにエプロン姿の上機嫌な鴻上さんに変わる。
「鴻上さん!!」
『素敵な事実にたどり着いたかね』
初めに言ったけれど、俺はそういうのにとんと疎い。疎くいられるのはそういう現象に遭遇したことがなかったからだし、まあ、グリードがいるなら幽霊だっているだろう。血しぶきくらい上がるだろう。ただ、いきなり見たらびっくりするだろう。ひとこと言ってくれたっていいではないか。
という非難の意を込めた声を出したつもりだ。モニター越しでも伝わるように表情も大袈裟に作ったつもりだが、鴻上さんには全く通じなかった、というか意に介されなかった。
『幽霊は苦手かね? その部屋はわたしからのサプライズプレゼントのつもりだったのだが。予約に苦労したよ』
「苦手かどうかはわかんないですけど、たぶんびっくりするんで
……
」
『サプライズだからね』
俺はがっくり頭を落とした。「ありがとうございます」
『今回のプロジェクトは難航しているようだね。崩落とは』
「
……
はい、幸い皆さん無事ですが」
『明日は一時帰国のつもりだったが、君にはそのままほかのプロジェクトに移ってもらうかもしれない』
「そうですか」
トーンの落ちた俺の声を吹き飛ばすように泡だて器の音が聞こえる。空気を含んでみるみる体積を増す生クリームで角を作り、それを注意深く観察しながら、だが、と鴻上さんは言った。『帰国の前に幽霊にでも会えたら素敵じゃないか。不思議な話も火のないところには生まれないものだ』
真綿で首を絞められるように少しずつ焦り始めている俺を見透かしているような口ぶりだった。サプライズプレゼントという言葉に裏はないのかもしれない。
遅くとも四十年後にはアンクは復活している。それが確からしいと知った直後、俺はだいぶ浮かれていたと思う。難しいことはあまり考えていなかった。未来が約束されたような気になっていた。だがそれから数年経っても復活の兆しは一向にあらわれない。
四十年後があと三十何年後になって、俺は少しずつ焦り始めていた。もし何か一つでも間違えばアンクのいる未来にたどり着けないのではないかとか、そんなどうしようもない懸念すら覚えていた。
未来に怯えるのはたぶん愚かだ。俺にできるのは今考えうる最善を尽くすことだと、俺の意思は毎朝月並みなところに落ち着き、しかしある晩には突然渦を巻いて俺を激流に沈めた。そのたびに後悔するのだ。あの時俺はアンクの手も一緒に掴めたんじゃないかとか、そういうことを。
今日もその晩みたいだった。
疑心暗鬼と恐怖の渦に飲み込まれるのは全然楽しくないが、この夢を見ると一つだけ良いことがある。アンクの姿が見られるのだ。
いい加減この未練の持ち方はよくないのではとぼんやり思いながらも、俺は歪む視界の中にアンクの姿を探した。この夢の結末はいつも同じで、あいつは俺の手を離すし、俺もあいつの手を離してしまうのだが。
それにしても今日の夢はやけに冷たい。凍っているみたいだ。
いや実際凍ってるな、と俺はぼんやり思った。見上げる水面が揺れていないし、小さい気泡が星座みたいに固まってキラキラ輝いている。
―
上じゃない、下に行かなきゃ。下に行かないと。
―
先にいかせちゃってごめん。待たせてごめん、
「オイ映司!」
今行くから。
「馬鹿、そっちじゃねえ!」
水の中なのになんで声が届くんだろうと思った瞬間、目を覚ました俺は肺の空気を全て水中に吐き出してしまった。水中に。
「
―
っ!?」
夢じゃない。俺は溺れている。
水面は遥か上方にあった。重くなった衣類が全身に絡みついてくるうえに、冷えて感覚をなくした手足を意のままに動かせない。内臓が口から飛び出しそうな寒気にもがいていると、いつも離れるはずの手が、強い力で俺を引っ張り上げた。「重いんだよ馬鹿」と、聞きなれた罵声を吐きながら。
なんだこの夢。
いや、夢じゃないんだっけ? どっちだ?
氷の割れ目から顔を出すと途端に歯が鳴った。湖を凍らせる外気は当然氷点下だ。「しっかりしろ」と俺にかかる声も震えているが、こちらはまず舌が固まってしまって彼を案ずる言葉が出てこない。呼びたいのに、名前。
息を吸うと水しぶきが肺に飛び込んでくる。むせながら過呼吸みたいな荒い息を繰り返していると、また意識がぼんやりしてきた。今度は寒くすらなくなってきたから、やっぱり夢なんじゃないか、一体何なんだ、と考える頭の遠くのほうで、舌打ちの音がチッと響いた。
変な話を聞かされたから変な夢を見たではないか。
トリガーがそこにあるとしか思えない夢を、寝起きの頭で天井を眺めながらしばらく反芻した。リアルすぎてなんだかまだ全身だるいし、それこそ冷たい水を浴びた後のように皮膚の表面がヒリヒリ燃えているが、ベッドはきちんと人肌と同じに温まっている。やっぱり夢だ。怪談との合わせ技で変則的になってたけど。
怪談を知ったとたんに夢にも影響が出たのは少し面白かった。そもそも怪談というのはそういう構造なのかもしれない。つまり知識や情報が先にあって、それが知覚に影響するみたいな「やっと起きたか、のんきにぐーすか寝やがって」
まだ起きてなかったみたいだ。
覚醒しているのかそうじゃないのかわからない夢はなんだか妙に焦る。嫌だなあと思いながら声をした方を見ると、なぜか全くわからないが、Cさんが横たわっていた。至近距離で、小馬鹿にしたように俺の顔を眺めながら。
「ったく、狭いし寝言がうるせえし
……
だいたい映司お前、重いんだよ!」
「
……
」
少なくとも俺の知る限りCさんはこんな口調ではない。俺にも他のスタッフにも丁寧な英語だ。確かに母国語の訛りは少しあるけれどそれは俺だって同じことで、こんな、なんか、乱暴で偉そうなどこかのグリードみたいな話し方をすることはない。断じてない。しかも日本語だし。
俺は目を閉じた。「おい寝んな」
「ちゃんと起きないと」
「だから寝んな!」
「うわあ!?」
蹴り飛ばされてベッドから落ちる。Cさんは当然の如く服を着ているが、俺はパンツだけを身に着けている。
「えっなんで!? もう全部なんで!?」
とっさに後ろに手を回して一応形式上念のため確認事項を確認しようとした俺を、Cさんは再び蹴とばした。尻もちをついた俺をベッドの上から見下ろしながら、片膝を立て肘を引っかける。なんだかすごく見慣れたしぐさで。
「無駄な心配すんな馬鹿。お前がガタガタ震えてるから体温分けてやったんだろうが、感謝しろ」
「いやするだろ
……
あ、すみません、Cさんは無事ですか」
「
……
さあな」
「
……
さあなってほんとうにそういう冗談はよくない、ていうか、Cさ、
……
あなた、」
俺は立ち上がりあたりを見渡した。俺の衣類は、夢を引きずったようにびしょびしょに濡れた状態で、部屋の隅に打ち捨てられている。ところどころ裏返って変な風に絡まっているそれからポケットの位置を探し出し、手を突っ込むが、ない。逆もない。焦燥している手はうまく動かず、三割以上絡まったままの衣類をまとめて持ち上げて、乱暴に振った。
……
ない。
「探しもんはこれか」
「
……
!」
言葉通り、俺が探していた割れたタカメダルはCさんの手の中にあった。
彼はそれを放り投げ、手の中に収めてみせる。あまりにも手慣れた仕草で。
「
……
お前、」
俺は半分飛び掛かるように彼の肩を掴み、顔を覗き込んだ。
顔そのものはCさんだ。髪型とかそういったところも特に変化はない。ないけど、でも、これは、
「アンク
……
?」
首を少し傾げた彼は、邪悪な形に顔を歪めてにたりと笑った。
「久しぶりだなァ、映司」
「
……
っ、」
言葉を聞いた途端、頭より身体が先に動く。
が、自分が抱き着こうとしていることに行為の寸前ギリギリで気づいて、俺は腕を突っ張った。反動で彼の頭ががくんと後ろに折れる。
「いて、映司お前っ、粗末に」
「本当に!? 本当にアンク?」
「そうだ」
「本当に? ていうかなんでCさんに擬態してるんだよ」
「しつこいぞお前。それに擬態じゃなくて、こいつ本人の身体だ。だから、あんまり、揺らすなおい」
無意識に身体をゆすっていたみたいだ。前後にがくがく揺れ続ける頭に気づき、俺は慌てて腕を離した。
「ごめん。
……
お前、人の身体使うのやめろよ、」
「
……
」
久々の説教がびっくりするくらい懐かしくて、俺は、たぶんアンクも、思わず動きを止めてしまった。それをごまかすように咳払いをして、「また一部分だけ復活したとか?」と尋ねる。
「どっちにしてもだめだけど、すっごい違和感
……
」
「
……
復活は、してない。どの部分も」
今は憑いてるだけだ。
というCさんの声に重なって、もう一つ聞きなれた声がした。同時に頭ががくりと落ちて、Cさんは身体ごとこちらにもたれかかってくる。気を失った人のような重さのそれをとっさに支えると、首筋のあたりからすうと何かが浮かび上がってきた。
《これで満足か》
極彩色と黒い鱗、鍵爪に指輪。
間違いなくアンクの腕だったが、なんだかシルエットがぼんやり心もとない。いや、シルエットというか、全体的に透過度が高い。後ろが透けている。まるでそう、
幽霊みたいだった。
「で、出た
……
」
《幽霊みたいに言うな》
「どう見ても幽霊みたいだけど、
……
っアンク!!」
と伸ばした俺の手はアンクを素通りして壁に激突し、Cさんの身体は頭から床に落ちた。あああと叫んだ声で別の部屋から人が集まってくる気配がする。
この状況下で裸であることはなかなかまずい。慌てて服を着こむ俺を文字通り見下ろしながら、アンクはふわふわと漂っている。目を離したすきに消えてしまったらどうしようという考えがちらついて、俺は何度もそちらに視線をやった。
取り急ぎCさんには意識を取り戻す前に部屋に戻ってもらい(アンクに責任をもって遂行してもらった)、毛布にくるまって洗った服を乾かしながら、俺はようやく最大の疑問をアンクにぶつけた。
「出てこられるならなんで今まで黙ってたんだよ」
だいぶ拗ねたような口ぶりになってしまったことに自分でもびっくりしたが、アンクは意に介していない様子でぐるりと身を翻し、俺の眉間を指さした。
《俺はずっといた。お前が気づかなかっただけだ》
「え、俺のせい?」
《そうだ、この鈍感め》
おっしゃる通り、俺は霊とかそういうのにとんと疎かった。このアンクを霊と同じに扱うのならばだが。
それにしても、なぜ急にこうやって意思疎通ができるようになったのだろう。幽霊が出るって聞いたから? 変な夢を見たから? Cさんを介して会話したから? と考えているうちに、ふと別の疑問が浮かんだ。
「そういえばアンク、人に憑りついたことなかったの?」
《あ?》
「さっき憑りついてただろ、Cさんに。でも今まではやらなかったんだな。なんで?」
《やろうと思わなかったからだ。それ以外あるか。
……
それに、人の身体使うなっつったのはお前だろ》
「いやそうだけど
……
じゃあさっきはなんで、」
俺が言い終える前にアンクはこちらの頭を掴みに来て、そのまますうと通過した。「わ、なんか変な感じ」
《変な感じ、じゃねえ! なんでも何も、馬鹿がいきなり溺れてるから憑りついて助けに行ってやったんだ! 感謝しろ!》
アンクはぷんすか怒っていたが、俺の口から漏れたのはありがとうよりも先に、「やっぱりあれ、夢じゃないんだ」
《
……
映司お前、いつまで寝ぼけてんだ》
俺はCさんの言葉を反芻した。
―
結構な頻度で男性が行方不明になるので、ジュリエットの亡霊が引きずり込んでいると言われてまして。
「
……
ジュリエットの亡霊」
聞いたときはまさかと思っていた。幽霊なんて見たことがなかったからだ。しかしまさにそんなようなものが目の前に浮かんでいる以上、そして自分がそのまさかの体験をしてしまった以上、Cさんの話を単なる怪談とか都市伝説とは思えなくなってしまった。
俺は何か、
……
霊なのか人為的な何かなのかはわからないがとにかく、怪談の原因になっている『ジュリエットの亡霊』に引きずられて、湖に向かったたんじゃないだろうか。今まで引きずり込まれた人たちと同じように。
時計を見ると深夜二時。関係各所の所在地とそれぞれの時差を計算する。明日の帰国は、何とか
……
しよう。
「アンク、お前も手伝ってくれるよな」
《あ? 何を》
「ほっといたらまた誰かが湖に落ちる。なんとかしなきゃ」
《
……
お前、相変わらずだな》
呆れ声を聞いて漏れそうになる形容しがたい感情を何とか堪えて「あれ、ずっといたんじゃなかったの?」ととぼけると、アンクはただ鼻を鳴らした。
1
2
3
広告非表示プランのご案内