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ぷの
2024-11-22 11:07:41
10628文字
Public
レイチュリ ※ベ限
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今日はなんの日
日付小話まとめ。
P1 - 11月11日 ポッキーの日
P2 - 11月22日 いい夫婦の日
P3 - 3月14日 ホワイトデー(2025/3/14追加)
P4 - 5月10日 メイドの日(2025/5/12追加)
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【3月14日】
アベンチュリンが初めてレイシオにバレンタインチョコをあげた年、レイシオはホワイトデーを知らなかった。イベント事に興味がなさそうだと感じていたとおりである。
バレンタインデーはレイシオの故郷にもあるようだけれど、ごく親しい相手に花を贈るものらしい。チョコレートを贈る習慣については首を傾げていた。義理チョコや友チョコに至っては、商魂逞しいと呆れ顔をされた。それでもアベンチュリンのチョコレートを受け取ってくれた。理解できなくとも蔑ろにはしないところがレイシオの良いところである。
そんなレイシオでもホワイトデーの名前くらいは聞いたことがあるだろうと思っていたのに、知らないと言う。街の看板などを意識して見ているとは思えないので、記憶に残らないだろう。CMがかかるようなテレビチャンネルを見るとも思えない。となると、見聞きすることはないのかもしれない。
「そうだ、スターピースショッピングセンターからメルマガが来てないかい?」
一度でも個人情報を登録したならガブリと食いついて離さず、機関銃のようにメルマガを撃ってくる、我らカンパニーが有するECサイトだ。季節ごとどころか毎日のように何かしら名分を見つけ、あれが流行りだこれがお得だと紹介してくる。レイシオに限らずどんな人間も、あのしつこい追撃から逃れることはできない。しかし、レイシオは一枚上手だった。
「利用したことがない」
「嘘だろ!?」
生まれたときから信用ポイント経済圏にいながら、スターピースショッピングセンターを使ったことのない人間がいたとは
……
!
「君、買い物はどうしてるの?」
「基本的に目で見て買う。もしくは、詳しい者に手配を頼む」
「なるほど
……
」
端末一つでいろんな店にアクセスできることが売りのECサイトはお呼びじゃないのだ。派手に使ってもおいそれとはなくならない財産があるレイシオにとって、割引などアピールにならないどころか煩わしいだけだろう。
レイシオなら、呼んだら店の方から商品を持って足を運びそうである。カンパニーにも外商をやっているところがいくつかあるから、今度紹介してみようか。いや、今顧客ではないということは、とっくに売り込んで敗退したと見るのが妥当か。
様々な文化をごった煮にしたピアポイントの街中では、ホワイトデーを含め各種イベントが盛んである。が、大学を中心にした学園都市になっているここでは、どんなイベントのときも浮わついた空気は薄い。アベンチュリンはすっかりカンパニーに染められて、イベント事が身近にあるのが当たり前になっていたかもしれない。今後は改めよう。
今回はせっかく来たので、流行りに疎いレイシオにホワイトデーをのなんたるかをレクチャーした。
「それで今日は、わざわざバレンタインデーのお返しを催促しに来たわけか」
「教授から飴玉を貰えないかと思ってね。そのためなら、わざわざ来る価値がある」
アベンチュリンは本日休暇である。約束より早く大学までやって来て研究室に顔を出し、軽く挨拶だけして講義に出掛けるレイシオを見送った。それから、彼の体が空くまでフラフラとあちこちを見学しながら待っていた。すでにとっぷりと日が暮れて、帰りの心配をする時間になっている。アベンチュリンがどうしても今日がいいと言ったためにこんな時間になったのであって、レイシオの意地悪ではない。レイシオが意地悪ではないとは言わないが。
時間をくれたといっても、レイシオは暇じゃない。用件を手短に済ませよう。アベンチュリンは、用意してきた欲しいものリストをバーチャルスクリーンに表示して差し出した。一瞥して「ふん」の一言であしらわれるかと身構えていたけれど、レイシオはそれを見て、顎に手を当てて考え始めた。
「チョコレート一つが随分と高くついたな」
「あのチョコレートはあくまで見本。僕が育てた人工カカオの生産拠点を紹介してあげたんだよ、気付いてただろ?」
「そうだな、良い贈り物だった」
アベンチュリンはにっこり笑った。考えて贈った物の価値を認められるのは嬉しいものである。
「食料問題の解決でも、食品や薬品の開発でも、誰かに紹介して取引に使うでも、好きにしていいよ。教授からの依頼は優先するよう言ってある」
「僕を顧客にしたいだけでは?」
「お互いに幸せになれるならいいじゃないか」
「お互いに幸せなら、見返りは必要ないだろう」
レイシオはデスクに置いた端末を指先でトントンと叩いた。アベンチュリンはこてんと首を傾げて目を細めた。
「良い贈り物だと思ったなら感謝の気持ちが芽生えたはずだ。欲しいものをこちらから伝えて、お返しを考える時間を省いてあげてるのさ。効率がいいだろ?」
「厚かましい」
「お褒めの言葉をどうも」
バーチャルスクリーンの上を美しい指が滑る。それをデスクを挟んだ向かいから頬杖をついて眺める。相変わらず伏せた睫毛が長くて綺麗だ。レイシオの目がアベンチュリンの書いたものをなぞり、頭の中でそれを咀嚼する。レイシオの関心を引いて、ギュンギュンとエネルギーが回復していくのがわかる。今アベンチュリンは、とても正しい休暇の使い方をしている。ホワイトデーのお返しの本命は叶った。あとのことはおまけだ。
「全部却下」
「わーお、厳しいなあ。最後のは簡単だと思うけど」
「ここに飴はない」
「僕が用意してないわけがない」
「自分で持ってきたものに意味があるのか?」
「『飴を食べさせて』って書いただろ。欲しいのは飴じゃないからね」
ポケットから取り出した個包装の飴を手のひらに乗せて差し出す。取り上げられた飴はレイシオのデスクの引き出しに放り込まれた。これじゃ何個出してもレイシオのおやつが増えるだけで終わる。
「ちえっ、ケチ」
なんとでも言え、という顔をしてレイシオは椅子から立ち上がった。高いところからアベンチュリンの顎を掴んで上向かせる。
「口を開け」
「えっ」
思わず声が漏れた。軽く開いた口に指を差し込まれそうになって、慌てて顎を開いた。そこにペンライトの光が突っ込まれた。
「やはり喉が腫れている。風邪か?」
「昨日たくさん大声を出したから、かな?」
ドキドキと心臓がうるさい。そりゃあ期待したよ、でもそんなわけなかったよね、レイシオだもの。顔に触られてるだけでも結構な事件だ。
咳き込んだわけでもないのに喉の不調に気付かれたのは少し嬉しかった。アベンチュリンの話を聞き流しているようでいて、案外耳を傾けてくれているということだ。少なくとも、声が耳に馴染むくらいには。
「もう一度口を開けて、目を閉じろ」
「あ、うん」
返事より先に瞼が従った。おずおずと口を開く。今度は何かな。好意を自覚してから、レイシオから貰えるものはなんでもご褒美になる。ペンライトの光でも、喉の奥を覗き見る冷めた眼差しでも。ただ、気にかけてもらえるのは嬉しいけど、あんまり口の中をまじまじと見られるのは恥ずかしい。白衣を着ていても、眼鏡をしていても、ペンライトを構えていても、レイシオはレイシオであって、ただのお医者さまとは思えない。
パリ、と小さな音がした。舌の上に何かが乗せられて、頬と顎に触れた指に促されて口を閉じた。スーッとした香りが鼻に抜ける。
「目を開けろ。噛まずに舐めるように」
開けた視界に飛び込んできたのは、未開封の箱だった。『喉の痛み・はれに効く』という謳い文句と、実物大の丸いトローチの写真。アベンチュリンの前に箱を置いて、レイシオは再び椅子に座った。
「これがお返し? ストックしてる物で間に合わせるなんて、お手軽すぎないかい」
「不満なら、次回は欲しいものを具体的に書くことだ。その喉くらい正直であれば、君の求めるものを正確に汲み取れるだろう」
「来年はよく練ってくるよ」
「お大事に。明日は仕事だろう、早く帰れ」
手振りで退室を促された。その目はもうアベンチュリンを見ていない。トローチをありがたくいただいて、部屋を出た。あっさりしたものだ。
帰り道を歩きながら箱を眺める。ふと気付いて、街灯の下に行って立ち止まり、小さな文字で書かれた内容を熟読する。口の中のトローチがひんやりと香った。その成分は、箱に書かれていない。
仕事中は毒味の邪魔になるから、味や香りの強いものをなるべく口にしない。そう話したのはいつのことだったか。交わした挨拶だけで声がおかしいことを見抜いて、空き時間に薬局でこれを買ってきたんだろうか。自分用のものはメントールが入っているから、わざわざアベンチュリンのために目で確認して。
こんなに慎重だったことはないくらい、歯を当てないように細心の注意を払ってトローチを舐めきった。欠けさせず、割らず、言いつけを守りきれたら、何かいいことが起こるような気がしたのだ。
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