Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
しろくまたたくはくしゅんさん
2024-11-17 20:09:00
14159文字
Public
Clear cache
Read【ヌヴィフリ】
Dearの続きです。
PDF版ができたら支部にもあげる
1
2
3
4
5
6
「──レッ──、ま
……
ヌヴィレット様?」
は、と息を吸い込む。
ここは執務室だ。窓から差し込む闇から、終業時刻はとうに過ぎているとわかる。
「セド、ナ?」
「はい。私です。居眠りをされるなんて珍しい
……
お疲れのようですし、今日はもうお休みになってください」
ぽふ、ぽふん、と机の向こうからセドナがやって来た。
「そちらはお手紙ですか?」
「、ああ
…………
」
視線を机に戻す。封筒を見て、めまいと耳鳴りに襲われる。手元の手紙が何枚にも分かれて見え、やがてひとつになった。
「確かに、疲れているのかもしれないな」
「やっぱり! そちらを読み終わったら、すぐに休んでくださいね!」
了承し、セドナの頭を撫でる。ぽぽん、ぽぷん、と去っていく足音を聞きながら、私は執務室を見渡した。
懐かしい雰囲気だ、と感じた。ただ理由もわからずそう思ったのだ。疲労感はある。審判を終え、こうして机に向かって書類を捌いていた。窓の外では雨が降っているが、これはわざとである。彼女もこの雨の中では長くは待たないだろう。────彼女?
手に持っていた封筒はすでに、封が開いている。中身を取り出し、広げた。
『親愛なるヌヴィレット』────その書き出しに、またもや既視感を覚える。何度も見てきた書体が重なり、乱れ、そして、またひとつに戻っていく。ヒトは老いると目のかすみに悩まされるというが、まさかこの症状がそうなのであろうか?
首を振り、そして、短いメッセージを読むと席を立ち、駆けだす。引いた椅子を元に戻さず、セドナから駆けられた声に耳も傾けず、パレ・メルモニアの扉を開く。時間は夜。冷たい雨が降っていた。駆けだしてから一度も止めていなかった足が止まる。濡れることを躊躇した訳ではない。この冷たい雨の中、彼女がまだいるのか不安と焦燥を覚えたのだ。
外に飛び出し、裏手へと走った。暗い雨の降る中、数名の警備が目を見開き、私の名を呼んだ。手で制し何かあったわけではないことだけを伝え、階段を上り、裏手の山や湖が見える場所へ────その姿をとらえると堪え切れず叫んだ。
「フリーナ!」
驚いたように細い肩を跳ねさせ、そして振り返る彼女の姿。久しぶりだ、と頭の片隅で思った。いや、彼女とは二週間前、道端で会い軽く挨拶を交わしたはずだ。だが、とても。とても久しく感じた。走っている足音が遠くに聞こえ、彼女までの距離がどこまでもあるように思えた。
「────ヌヴィレット?」
寒さに震え、か細い声。呼吸を整えると、すぐに上着を脱ぎ、彼女にかぶせた。どこかの誰かが息を呑み、去っていく足音を聞きつつも腕を伸ばし彼女を腕の中に納める。
「え、? っええ?? ヌヴィレット
……
?」
小さい。神の座を去り時が進み始めた彼女の体はいくらか成長したが、腕に納めればこんなにも小さいのだ。混乱している彼女はしばらくもぞもぞとしていたが、納まりの良いところを見つけると動かなくなった。
「会いたかった」
不安や焦燥感がほどけ、安堵の気持ちが行き渡ると、その言葉が出た。そうだ、私は君に会いたかった。ずっとずっと、ひとりさ迷い歩いた徒労感が今ようやく報われたのだ、と。
「ど、どうしたのさヌヴィレット! 変なモノでも飲んだのかい⁉」
温まったのか、フリーナの声に元気と張りが戻る。構わず抱きしめ続け、彼女の存在を感じた。なぜこんなにも恋しがっているのか己でもわからないが。ずっと、こうしたかったのだという欲求があり、こうして叶えれば鎮まると思っていたが、あとからあとから欲求が湧いてくるのでなかなか離せない。
「こんな雨の中、どうして待っていたのだ」
「キミがわざと降らせているのに、帰る理由があるのかい?」
そうとわかっているのであれば、罰の悪い顔を見せざるを得ない。少し離れ、手に元素力を籠め集約させ、握りつぶせば雨が止んだ。ついでに、彼女を濡らしていた水滴もすべて拭い去る。
「
……
ありがとう」
体が乾いたものの、寒さはまだ残っているのだろう。くしゅん、とフリーナが可愛らしいくしゃみをひとつ。抱きしめようとすれば、手のひらを前に出され拒否される。
「すまない、待たせてしまった」
「雨まで降らせて僕を帰らせようとしていたのに、一体どういう心の変化があったのさ?」
怒っていいものを、彼女は慈悲深くも私に理由を尋ねた。
「────
……
夢を、見たから」
君が私ではない誰かと連れ添い、子どもが生まれ、幸せに過ごし、一生を終える────はっきりとは思い出せないが、そのような夢だ。不安や焦燥感を煽られるまま、こうして手紙に書かれた待ち合わせ場所に走ってやって来た。
何故だろう。彼女からの手紙の受け取り内容を読み、私は待ち合わせ場所に行かないと決めたはずだ。人をやりそう伝え、それでも去ろうとしない彼女を帰らせるために雨を降らせた。だがしかし、今はこうして彼女と顔を合わせている。
考えが百八十度変わった私を見て、フリーナは肩を揺らし、くすくすと笑った後、「それじゃあ、夢に感謝しないとだ」とずれた背広の裾を内側に寄せ直す。
「あのね、ヌヴィレット。僕が今日ここにキミを呼んだ理由は──
……
告白をしたかったからなんだ」
顔がやや伏せられる。血色の戻ってきた頬の赤みにまつ毛の陰が重なった。
「最近僕のことを避けていただろう? だから、こうやって呼び出して、はっきり気持ちを伝えようと思って────コホン、!」
色違いの水の瞳がこちらへ向けられる。
「大好きだよ、ヌヴィレット」
まっすぐに飛び込んできた気持ちに貫かれるように、膝から崩れ落ちる。フリーナが私に好意を寄せていることは知っていた。しかし、私では彼女を幸せにできない。ヒトとヒトの営みに混じる事はできぬと。そう考え、会わないことを決めたのだ。
だが今は違う。
夢の中の自分を膝蹴り捨て置き、己の心に真を問うてみれば答えはそこにあった。目の前にある彼女の手の甲を恭しく手に取り、急に崩れ落ちた私を見て驚くフリーナの丸い瞳を見上げ、告げる。
「私もだ。愛している──結婚してほしい」
彼女の二つの雫がせわしなく動き、回り、渦となる。
「あ、あれ??? あ、愛
……
? な、なんて言ったんだい、今
……
?」
予想通りの答えが得られなかったためか、彼女は聞こえた言葉を疑う。
「私は君を愛している。結婚して欲しい。いや、その前に恋仲になるべきか
……
?」
「ひえ、っ」
フリーナが慌てた様子で離れようとするので、彼女の手首まで指を伸ばし、防止を図った。
「う、うう、嘘、うそだッ! 公平無私なキミが、僕に求婚するなんて!? そういえばさっきも僕に抱き着いてきたし、キミ、今日なんだか様子がおかしいよ!」
「それは、君のことが愛おしくて恋しくなってついそうしてしまった。不快だったのならすまない」
「嫌じゃない! びっくりはしたけれど! あっ、せ、政略結婚──きっとそうだ! 僕と結婚することでキミになにかしらのメリットがあるんだ、そうだろう!?」
彼女の想像力の高さと自己否定の深さは一種の呪いだ。
「そうだな。愛する者と住まいや寝食を共にし、毎日愛を囁けるという素晴らしいメリットがある」
「う、うゔ~~~!??」
彼女の頬が健康的な範疇を超え、耳まで真っ赤に染まった。気持ちが容量からあふれ出すとそうなるというが、そうさせたのが私なのだということに優越感を覚える。
「フリーナ」
彼女の手の甲に口づける。肌に唇を寄せることなど初めての経験だった。だが、これが毎日になるのだという希望が、私の心を躍らせる。
「嘘偽りなく、私は君のことを愛している」
改めて告げれば、彼女の瞳はようやく私の顔を見た。ほほ笑みかければ色が滲み、ようやくふにゃりと笑う。
「
……
うん
…………
」
腕を広げれば、ゆっくりと彼女の体が傾く。下から抱き留め、互いの頬を擦り合った。幸福に浸り、晴れ渡ってきた空の星のひとつひとつに感謝するほどには、舞い上がっていた。
彼女の瞳からこぼれた雫をなぞるように口づけ、それから見つめ合って、愛する気持ちを込めて彼女の名を囁いた。きっと、彼女の耳にしか届かなかっただろう。
はじめての口づけは、もっとも甘美な水の味がした。
「冷えた体をすぐに温めなくては」「大丈夫だよ──くしゅん!」「それ見たことか、今日は遅いし風呂に入りそのまま泊っていくといい」とパレ・メルモニアへフリーナをエスコートする最中、ふと思考がこんな答えを出した。
「私と結婚するメリットだが、もう一つあった」
「そんなイジワル言わなくても、もうわかってるよヌヴィレットの気持ちは。ちなみに、どんなものだい?」
「毎日顔を合わせるのだから、手紙を何百通と書かなくてもいい」
フリーナは「手紙?」と呆けてから、「ふふ、ふふふ。なんで手紙なんだい?」と笑った。私もなぜこれが彼女にとって有益だと考えたのかわからないが、彼女に伝えておかなくてはと思ったのだ。
「でもちょっと待って、今回一番のお手柄はこの子なんだから」
上着のポケットから今日の呼び出しの手紙を見つける。彼女は「ありがとう」とつぶやき、今後もう二度と使われることのない『親愛なるヌヴィレット』の書き出しをなぞった。
おわり
1
2
3
4
5
6
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内