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さもゆ
2024-11-15 21:13:35
12349文字
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BF
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【BF】アレ+英、小話集
59丁目、アレックス+英二の小話よっつです。
2019.6.7 たまごのお粥pixiv投稿作品
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仲良しね、お二人さん
げっ。
隣から思わずといったふうに漏れた一音は、不味さを多分に含んでいた。買い食いの最後のひとくち、チョコレートがコーティングされた甘いひとくちが、一瞬不穏な味に変化する。それをごくりと飲み込んで、英二は隣を訝しく見上げた。
「どうかした?」
不味いことになった。隣の彼が言わずして表現している。眉間のしわ、前を睨む目つき、慣れた護衛らしく自然な動作でこちらに伸ばされる手。
前を睨んだままのアレックスは、がしりと英二の腕を掴み引き寄せ、低く耳打ちした。
「あいつ、タトゥーの。リンクスと敵対してるチームの一人だ」
彼の視線を辿った先には、ポケットに突っ込んだ腕に刺青が彫られた、なるほどギャングっぽい男が歩いていた。行儀悪くスマホを見ている。
英二は少し背を伸ばした。
「こっちには気づいてないみたいだね。気づかれたら不味い?」
「わりと」
「ここでも殴り合いになる?」
「不良は街中だろうと不良だぜ」
「よし、じゃあ避けよう」
アレックスも同意見だったようで、二人揃って踵を返した。歩きつつ彼がフードを被る。それを見て、英二はあっと閃いた。むずむずと唇を擦り合わせる。このまま早歩きで男と距離を空けるのもいいが、どこかに隠れて、通り過ぎるのを待つのも平穏ではなかろうか。少なくとも、英二の持つ紙袋の中のドーナツが、シャッフルされる心配はなくなる。自分の服装をさっと確認し、まあ顔さえ見えなければいけるだろうと判断し、がしり、今度は英二が彼の腕を掴んだ。
「やってみたいことがあるんだ」
ちょっと上擦った声が出た。
「あ? ああ、せっかくのアメリカだからな、なんでもやってみりゃいいんじゃないか」
アレックスが適当に言う。齟齬が生じてるな、と思った。英二は構わず、にやっと悪く笑った。「ありがとう。さっそくやってみる」「は?」掴んだ腕をぐいぐい引っ張り、「おい、英二っ?」慌てる彼を狭い路地に押し込んだ。ビルと店の間の、二人入るなら密着せざるを得ない薄汚れた路地だ。打ってつけだった。英二も自分の体を捩じ込み、アレックスと壁に挟まれるよう身動ぐ。彼が両手を掲げた。
「おいおい、おい、まさかお前に殴られるわけじゃねえよな」
「え? はは、違うよ」
「ならなんでこんなとこに──」
ぐいっ。
英二は思い切りアレックスの耳横のフードをこちらに引っ張り寄せた。左手はドーナツを死守するため使えなかったので、右手だけでだ。突然の力にバランスを崩したアレックスは、左手を壁についた。英二がフードを握り込んだままなため、自然彼の膝は曲がり、目線が同じになる。
「なっ、」
「殴らない、殴らないよ」
しー、鼻先がぶつかりそうな距離、フードで覆うちょっとした秘密空間で、囁きかける。
「やってみたかったんだ、これ」
「何を」
「敵に追われててさ。男女が。とっさの機転で」英二は勿体ぶるように言った。「
……
はたから見たら、キスしてるカップルのように見せかけてやり過ごす、ってやつ」
驚き、不可解そうだったアレックスが、盛大に顔を顰める。どっと脱力した。何か言いたげに口を開け閉め、結局ほとんど飲み込んだのか、ひとつ溜め息を吐く。
「いいアイデアだな」
どう褒めたら良いか分からない、子供の下手くそな絵を褒める調子だった。英二はめげずに胸を張るも、あまりの狭さに張りきれず(何せ彼の胸に自分の胸を擦りつけることになってしまう。野鳥の求愛ダンスか?)、代わりにフード越しに彼の頬を軽く叩いた。
「悪いね。ブレスケアしてないや。チョコくさいかも」
「お子様女優だな」
「初めてなんだ、優しくしてね」
わざと甲高い声音を意識して言うと、げほっ、アレックスが噎せた。唇を噛み締めての咳に、ひゅーう紳士、とにやけてしまう。きみの息はたぶん、さっき食べてたドーナツから予測するに、レモンのにおいかな。
顔を逸らし喉奥で何度か唸ってから、ごつり。額をぶつけてきたものだから、英二はにやけていた目を上げた。グレーの瞳が呆れつつ、面白がるように青色を乗せている。
「それで? どう優しくされたいんだ、うちの女優さんは」
ひゅーう! 英二は実際に小さく口笛を吹いた。日本の、学生同士のふざけ合いじゃ、こうはいかない。場違いなことにわくわくしてしまう。英二は得意になって、腰を抱くんだよ、と指示した。二人とも面白がれる余裕を持っていたので、それは完全に路地裏のカップルに見えたに違いなかった。
そんな二人が、目的である刺青の男が通り過ぎたのに気づいたのは、しばらく経ってからである。
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