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藤咲
2024-11-14 16:40:06
8633文字
Public
創作企画
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汚染区域428
Twitter企画:汚染区域428(@428_osen)のまとめ
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『炎の悪魔』(ウルズ)
ウルズの自己紹介SS。グロ表現があるので苦手な方はご注意ください。
『家族を守る力が欲しい。』
男の藁にもすがるような呼び掛けにその悪魔が応じたのは、前の契約者がちょうど燃え尽きてしまったからに他ならない。額に冷や汗を浮かべ、頬の痩けた顔を恐怖で引き攣らせている男と、後ろで震えているのはおそらく番の女と子供。それはとうに見飽きた光景であり悪魔にとっては正直あまりそそられるものではなかった。それでも少しくらいは退屈しのぎになるだろう。そう思って、悪魔は契約を交わし、力を与えた。人間も悪魔も、天使をも焼き尽くす漆黒の炎を。
しかし契約から程なくして目の前で子を天使に殺されてからというもの、男は期待外れの粗悪な玩具に成り下がった。毎日飽きもせず番と口汚く罵り合っては『死にたくない』と廃墟同然の家に篭る日々。力を使いたがらない契約者に、悪魔はどうしようもなく退屈していた。しかし堪えかねていたのは男も同じだったようだ。その日は朝から女の姿が見えず、男は呼び出した悪魔を激しく問い詰めていた。
『お前はあの時もここにいたんだろう!俺の子供をどうして守ってくれなかったんだ!?お前も共に戦っていたらうちの子は死ななかった!』
「契約で言ったはずじゃ。我は力を与えるだけで戦いはせぬと。」
『っ、でも!悪魔は契約者を守るんじゃないのか!?』
「お前の勝手な思い込みじゃろう。お前やお前の子がどうなろうと我の知ったことではない。」
『この
…
っ』
「たかが薪の分際で自分の弱さを我のせいにするとはのう。串刺しにされたお前の子も情けのうて死にきれぬやも
…
。」
『黙れ!』
騒ぎ立てていた男は、懐から銀色のナイフを取り出し、悪魔に向ける。しかしその切っ先は力無く震え、崩れ落ちそうな足は1歩も動かない。真新しい布が巻かれた柄を両手で強く握り締め肩で息をする男を前にしながら、悪魔は理解していた。その銀のナイフが“本物”であることも、そんなものを握ったところでこの臆病な男に悪魔など殺せやしないことも。
悪魔は嘆息する。目の前にいる標的に、武器を振るうこともできないとは。あの時と変わらない。本当に、馬鹿で、哀れで、救いようのない生き物。
「
…
本当に、つまらぬ玩具よな。」
『ち、近寄るな!』
悪魔が1歩、距離を詰める。後ずさろうとした男の足が縺れ、とうとう床に崩れ落ちた。さらにもう1歩、足を踏み出そうとしたその瞬間。
『そこの悪魔、止まりなさい!』
『なっ
…
お前!来るなって言っただろ!』
『殺すなら私を殺しなさい!その代わり主人の命は取らないと約束して!』
臆病な男の前に立ち塞がる女。どこから聞いていたのかは知らないが、女は自分の命と引き換えに男を助けろと言う。情に流されやすい同族が相手であったならどうにかなったのだろうが、生憎この悪魔はその手の三文芝居を好まない質であった。本当に、何もかも、面倒臭い。未だに何事か喚いている女に、悪魔が掌を向ける。次の瞬間、甲高い絶叫が部屋を切り裂いた。
『あああああぁぁーーー!!』
『お、おい、どうした!?』
『嫌、いや、はやく、はやく消して
…
!』
『お前、妻に何をした!』
「自分を殺せと言ったのはこの女じゃろう。」
事も無げに言う悪魔の目の前で、女の足にまとわりついた黒い炎は瞬く間にふくらはぎを伝い、太股、腰、そして腹から胸へと燃え広がり、白い肌が赤黒く焼け爛れていく。炎を消そうとした掌にも燃え移り、真っ赤に腫れ上がった女の両手は動く度に爛れた皮膚の内側からぐちぐちと音がする。肉が腐り落ちた足では身体を支えきれず、ぐちゃり、と粘着質な音と共に身体が床に叩きつけられた。組織が腐敗する甘い臭いと骨が焦げる臭いが混ざり合い、部屋に充満している。炎に包まれた女の身体を、男の腕が抱き寄せた。
『どうして
…
こんな
……
』
茫然とする男の腕の中で、女は既に事切れていた。下半身は熟れた果実のようにぐずぐずに溶けて床に流れ落ち、ひび割れた骨の欠片が浮いている。辛うじて原型を留めている上半身も内臓だったものが泥のように溶け落ちて肋骨の中が空洞になっていた。肩を震わせて女を抱き締める男の目に、理性の光は残っていなかった。悪魔の口角が吊り上がる。女は、男の命は取るなと言った。しかしそれでは男を救うことはできない。悪魔自ら手を下さずとも、男が自分で選ぶように導いてやるだけで良いのだから。
「美しいのう。」
『うつく
…
しい
…
』
「ああ。漆黒の炎に身を委ね、己の命を燃やし尽くす。何とも美しく安らかな最期だとは思わぬか。」
『ああ
…
とても、美しい
…
』
耳元で、悪魔が囁く。母が子に語りかけるように、優しく、穏やかに。聞いてはならないと耳を塞いでくれる存在は、もうこの世にはいない。
『ずっと
…
考えていた
…
お前が炎に包まれた姿はどんなに美しいだろうかと
…
遠ざけようとしてもお前は首を縦には振らなかった
……
面倒なことはせず早々に燃やしておくべきだったんだ
…
』
「そうじゃな。だが、そろそろ燃え付きてしまう。」
『ああ
…
そうだな
…
』
「なに、残念がることはない。この炎は命あるものを薪として燃え続ける。」
『そうか
…
ならば
…
』
「この女と同じように、悪魔の炎にその身を委ねるのじゃ。やり方は知っているじゃろう?」
悪魔が男から離れると同時に男の両手から吹き出た黒い炎はたちまち男の身体を包み込み、舐めるようにあちこちを腐らせていく。水ぶくれが潰れ、ずるりと剥けた皮膚の内側から黄土色の組織がどろどろと流れ出す。肉が腐り落ち露になった肋骨がぼろぼろに砕ける。
『は
…
はは!ははははは!!』
自らを悪魔の炎で焼いた男は、歓喜に目を爛々と光らせ、笑っていた。顔まで達した炎で顎が剥がれ落ち、溶け出た眼球が涙のように零れ落ちてなお、最期まで笑っていた。もっとも表情の区別がつく状態ではなかったから、笑っているように見えただけかもしれないが。西陽が照らし出す惨状とも言うべき光景を、悪魔は顔色一つ変えずに眺めていた。男を包む炎は夜を待たずに消えるだろう。灰すら残さず、その生命の全てを燃やし尽くして。男が燃え尽きるのを待たずに、悪魔の姿は溶けるように消えた。
「つまらぬな、まったく。」
夕陽で赤く染まった廃墟の町に、溜め息だけを残して。
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