botanin5
2024-11-14 03:05:27
10862文字
Public 薬さに♀(小説)
 

手のひら療法

ハッピーエンド
鯰尾→審神者っぽく見える描写が含まれます。
後半に向けて甘くなっていっている(はず)です。






そのまま、鯰尾に手を引かれて部屋を出た。冷たい廊下は足から身体を責め立てる。薬研に嫌われてしまっていた。悲しい苦しいという思いが渦巻く反面、告白しなくてよかったと冷静に考える自分がいる。

鯰尾は、私に口づけてはいなかった。
頬に添えた手の親指を私の唇に沿わせて、彼はそれ越しに唇を触れさせた。しかし、薬研から見れば私たちは口づけたように見えただろう。薬研は何も言わなかった。

これからどうしたらいいのだろうか。薬研は、もっと強い審神者の本丸へ行きたいのかもしれない。それが彼の意思ならば、止めることはできないだろう。気持ちが落ち着いてから、一度しっかり話をしなくては。その時は、ちゃんとこの本丸の審神者として、感情に惑わされないようにしなくては。でも、薬研がここを出て行ってしまったら、寂しい。止まっていた涙が再びじわじわと溢れてきて、繋がれていない手で拭う。すごく頭が痛かった。私の前を歩く鯰尾には、ぐずぐずと鼻をすする音は聞こえてしまっているだろう。

黙ってひたすら鯰尾についていけば、台所に辿りついた。そこでは燭台切光忠が夕食のための仕込みをしていて、とんとんと包丁の鳴る音に合わせて揺れる背中をぼんやりと眺める。

「燭台切さぁ~ん!何か食べるものありませんか?」
「つまみ食いに来たのかな、鯰尾くん。……あれ、主、目元が腫れてる。どうしたんだい?」
「主が疲れたー!って泣きながら暴れたので、何か甘いものでもないかなぁと思って来ちゃいました!」
「え、主が?」
「なっ、暴れてないから!」

適当なことを言う鯰尾に少しだけ感謝しながら拗ねたフリをしていると、何かあったかなぁと光忠が冷蔵庫を漁ってくれる。作り置きのブラウニーがあったようで、お皿に並べて出してくれた。ついでにオレンジジュースまで入れてもらってしまい、本丸のシェフには頭が上がらない。おやつをお腹に入れたら少し気持ちが落ち着いた。仕込みを終えた光忠が台所を出て行ったことで、再び鯰尾と二人きりになる。

「鯰尾
「はぁーい、なんですか?」
「私、どうしたらいいのかな」

そーですねぇ、と言いながらオレンジジュースを飲む鯰尾は何を考えているのかよく分からない。

「鯰尾って私のこと好きだったの?」
「ぶっあのですね、主のことはまぁ好きだけど。さっきのは薬研を煽るためにやっただけで、俺は別に主と恋人同士になりたいとまでは思ってませんよ」
「だよね、今までそんな素振りなかったから、そうだと思った。てか、あれじゃ薬研を煽ることにならないよ。薬研、私のこと嫌いなんだよ?意味ない」
主は分かってないですねぇ」

ブラウニーを口に離り込みながら、鯰尾は呆れたような目でこちらを見る。今はその呆れたような目は精神的にきついものがある。私も食べようとブラウニーに手を伸ばす。しっとりとした濃厚な甘さが舌に乗った。美味しい。


再び鯰尾と共に執務室へ戻ると、そこにはもう薬研の姿はなかった。薬研が座っていた場所に目をやると、心臓がずくんと重みをもつ。あぁ、頭も重い。体までだるくなった気がする。手早く残りの書類を済ませると、夕食は遠慮してさっさと入浴を済ませてしまった。一人で布団に潜り込むと、再び考えてしまうのは薬研のことばかりである。



それから三日ほど、薬研と顔を合わせない日が続いて、ご飯は全然喉を通らなかった。宣言通りに近侍をこなしてくれる鯰尾が、一生懸命笑わそうとしてくれるのが嬉しいけれど苦しくて、自分が情けなくて、夜になると泣いてばかりだった。
明日は薬研と話をしてみよう。鏡で笑う練習をして、布団に収まる湯たんぽを抱きしめて目を閉じた。


朝が来てみれば、今までで一番頭が重く、起き上がることができなかった。いつもだったらもう朝食に向かっている時間だ。体が動かなくて、布団に身を沈めて大人しくしていると、鯰尾が様子を見に来てくれた。私の様子に驚いた彼は、障子を開け離って廊下に飛び出すと、すぐにこんのすけを呼んだ。

「霊力が少し弱っているようです。貧血のようなものでしょうか。主さま、最近しっかりお食事をなさっていますか?それに、なにか心配事でもあるのでは」
「あーあ、心当たりありまくりじゃないですか」
「うごめん」

居たたまれなくなって布団にもぞもぞと潜る。こんのすけは「安静にしてくださいね。食事はしっかりとってください。ではこれで」と言ってぽんっと姿を消した。薬とか、くれないんですね。恨めしげにこんのすけが消えた場所を睨んでいると、額に鯰尾の手が触れて、ふっと頭が軽くなった。

「どうですか?」
「少し楽になった。鯰尾こんなこともできるんだすごいね」
「俺たちは霊力の塊みたいなもんですからね~!たぶん、みんなできると思いますよ」
「そっかあのさ、眠るまでこのまま手を置いててもらってもいい?」
「もちろんです!」

身体も少し楽になって、もうちょっと眠ろうと目を閉じた。