botanin5
2024-11-14 03:00:29
14081文字
Public 薬さに♀(小説)
 

上手に焼けました

ハッピーエンド
薬研にヤキモチを妬いてほしいお話





「行ってしまったーーー!!!」
元気になってなによりだ」
「ちょっと、鶴丸!これのどこが、元気なの!?」

ごろごろと畳を転がる私を見つけると、呆れたように息を吐いた鶴丸が近くに腰を下ろした。
朝。じゃあ、行ってくる。と、とんでもなくあっさりと出立した薬研の背中を思い出す。泣くのを堪えた変な笑顔で「いってらっしゃい」と見送ったのだが、薬研は苦笑いして、私の頭に手を伸ばそうとして―――――結局、触れずに出て行った。

「あ、あ、頭、撫でてくれるのかなって、ちょっとドキッとしたのにーー!!」
「うんうん」
「止められると余計に傷つくんですけど!!!」
「よーし、俺が代わりに撫でてやるぞ~~」
「うわ、ちょ、鶴丸!痛い!痛いから!!」

がしがしと頭を撫でる腕を両手でつかむ。ぴたりと動きを止めた私を不審に思ったのか、なんだ?どうした?と鶴丸がこちらを覗きこんだので、ぎんっと睨みつけてやった。

「どうして、薬研に言ったの?」
「何のことだ?」
「演練!」
「ああ、極の薬研藤四郎に会った事か。なんだ。まずかったか?」
……わかんない」
「はは、なんだそりゃ」

だって、分からないのだ。
薬研の反応も、唇に触れた意味も、なぜ突然、修行へ出ると言い出したのかも。修行へ出てくれたことは、正直言って嬉しい。今の主おこがましいが、つまり私に合わせて強くなってきてくれるということだ。こんなに嬉しいことはない。でも、あまりに突然すぎやしないか。ついこの間「俺はまだいい」と言っていたのを聞いたばかりだ。何が、薬研を決意させたのか。

「わっかんない

再びぐずり始めたのは無視され、鶴丸は私の髪で三つ編みをして遊び始めた。


長い長い四日間だった。
ついに今日!薬研が帰ってくる!これまでの修行帰りの子たちと同じように、たくさんの料理で出迎えるため、前日の夜から準備でてんてこまいだった。薬研に会うのは少し怖い。でも、それ以上に、早く会いたい。彼は朝出て行ったわけだから、もうすぐ帰ってくるはずだ。思わず、門の前でそわそわしてしまう。まだかな、まだかな。あれ?薬研が出て行ったの何時だっけ?もう過ぎてない?あれ?

薬研藤四郎は、一時間経っても、二時間たっても、帰ってこなかった。


「そんなに落ち込むなあれだ、きっと土産でも選んでるんだろう」
「やげん、わたしのことなんて、もう嫌になっちゃったんだぁぁ!修行じゃなくて、ひっく、でて、出て行っちゃったんだ!」
「そんなわけないだろ。君、ちょっと落ち着けよ」
「うああああああ」
はぁ薬研はどこほっつき歩いているんだもう昼だぞ

薬研は私に呆れて出て行ってしまったんだ!!鶴丸にしがみついてわんわんと声が飛び出す。涙は止まる気配がない。薬研が帰還するはずの時間から、もう四時間は経っていた。もう、帰ってこないんだ!さらに小一時間、鶴丸の膝を借りて泣き続けたら、次第に疲れて、だんだん瞼が降りてきた。ようやく静かになった私の様子に、鶴丸がぐったりと後ろに手を付いたのが見えた。少し申し訳ないなと思いつつ、身体がだるくて、もうこのまま眠ってしまおうと目を閉じた。だって、この四日、まともに眠れなかったのだ。不安で、怖くて、でも少し期待して。何をしていても薬研のことを考えてしまって、心が休まる時なんて無かった。なのになのに……もういいや

「ん?なんだ、お前帰ってきてたのか!こりゃおどろいおい、待て、薬研!!」
「んぎゃ!?」

ゆっくりと落ちていこうとしていた意識が、突然腕を掴まれたことでぐるっと浮上する。意識だけでなく、身体もそのまま起こされて、訳も分からず目を開ければ、目の前に、ギュッと眉を寄せた薬研の顔があった。え、あれ、やげん……薬研!?

「や、やげん、帰ってきあ」

半分寝ていた頭で真っ直ぐ立てるはずもなく。ふらりと後ろに倒れ込みそうになったところで、薬研が掴んでいた私の腕を自分の方へ引き寄せる。そのまま流れるように膝に手が回されて、ふわっと体が浮いた。お、お姫様抱っこ!私いま、薬研にお姫様抱っこされてる!!ぎゅっと身体を縮こめたまま、思わず薬研を見上げる。うわ、すごくきれいな顎のラインサラサラの髪の毛が目の前にあ、それに、なんだかいい匂いする。突然もたらされた多くの情報に、脳は全く回転していない。ぽーっと見上げていれば、薬研はどかどかと部屋を出た。後ろから焦ったような鶴丸の声が聞こえて、ピタッと足が止まる。ふわっと薬研が後ろを振り向いた。あ、耳が見えた。可愛い。

「大将が世話になったな鶴丸。礼を言う。だが、あんたはここでお役御免だ。後は俺に任せてくれ」
「任せるって、おい!薬研!」

再び薬研が歩き出したことで振動が伝わってくる。薬研の心臓の音がとくとく聞こえてきて、耳を傾けていたところでだんだん冷静になってきた。あ、あれ?薬研、なんか怒ってない?さっきまでの「薬研が帰ってこないかもしれない!」という悲しみは、彼の衝撃的な登場によって吹っ飛んでしまっていた。薬研どうして怒ってるの?怒るべきなのって、私じゃない!?こんな時間まで何してたのって、怒ってもいいんじゃない!?思い出した怒りがふつふつと湧いてきた。運ばれてる場合じゃない!

「ちょっと、薬研!下ろして!聞きたいことが」
「黙ってろ」
「っ」

こ、こわ。初めて言われた強い言葉にショックを受けて動けなくなる。私を一瞥した薬研の目はぎらぎらとしていて、とても言い返す勇気なんて出ない。な、なんで怒ってるの。怒りたいのは私なのに。心配してたのに。不安だったのに。どうして。どうしてどうして。じんわりと涙が出てくる。ひとつこぼれてしまえば、後を追うようにぽろぽろと涙が落ちていく。私の涙に気づいた薬研は、一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに眉をきゅっと寄せて苛立たしげに近くの障子を足で開けると、どかどかと進んで私を降ろしながら奥へもつれ込んだ。壁に背中がぶつかる。薬研の手が肩を掴んでいる。しりもちをついて、足を挟むように座り込まれて動けない。薄暗い部屋、逆光で目の前にあるはずの表情がよく見えない。

この浮気もんが」
「や、げん?」
「強くなれば少しは俺を見るかと期待して帰ってみれば、鶴丸と逢引たぁ恐れ入ったな。だから修行に出るのが嫌だったんだ。四日も目を離してみろ、浮気性な大将がどこへ行っちまうかも知れねぇ。なぁ。あんたが言ったんだぜ。俺の事を好いてるって。可愛い顔を真っ赤にして、小さく震えて、そのやわっこい口でな。忘れるもんか。あの瞬間から、あんたは俺のもんになったんだ。」

薬研の手に力が入る。いた、と小さい声が漏れると、ふっと私の肩を掴んでいた手が離れた。うなだれるように、薬研が額を私の肩に乗せる。そのまま背中に腕が回されて、そっと抱きしめられた。今度は力なく、ゆるゆると話し始める。

「大将、たいしょう。あんたは俺のもんだろう。鶴丸に懐くな。歌仙に物を貰うな。いち兄に撫でられて嬉しそうに笑うな。あんたは俺にだけ笑えばいいし、俺が与えるもんだけ身につけてればいい、それに、俺しか触れちゃいけないんだ。なぁ。頼む。大将。頼むよ。俺以外を見ないでくれ」

ぐっと肩を頭で押される。薬研の息が、鎖骨にかかってくすぐったい。もう、さっきまで自分が何を考えていたのかなんて、忘れてしまった。そっと薬研の背中に腕を伸ばす。思いっきり体重をかけて、押し返しながら飛び込んだ。今度は二人で畳に倒れ込む。

「やげん、薬研、大好きだよ!好き。だいすき。薬研だけが好き。ずっと、私ばっかりが好きなんだと思ってた!」
「なに、言ってんだ。ふらふらしておいて」
「だって、薬研が全然ヤキモチ妬いてくれないから!好きって、言ってくれないから!」
好きだ大将。初めてあった時からずっと、ずっと好きだった。言えなかったんだ。言おうとすると、胸が熱くて、言葉がつっかえて悪かった。」
「良いの。いま、今言ってくれたから。うれしい!薬研、だいすき」

私はすっかり泣き虫になってしまったようだ。再びぽろぽろと涙がこぼれていく。でも、さっきとは違って、心の奥が温かい。うれしい。うれしい!押し倒している薬研にぎゅっと抱き着くと、そのままくるりと体が回転する。へ?涙でぼんやりとした視界が映すのは、薬研と、その奥にある天井。薬研はにっこり笑っている。あれ?さっきまでの幸せな空気どこ?

「で、大将。俺がヤキモチ妬かないからって、あんだけふらふらしてたのか?」
「あっその、えっと」
「俺が、妬いてないと、思ったのか」
「えっ、だって薬研、私が何言っても顔色ひとつ変えないしなんとも思ってないのかなって悔しくて」
「ほぉ」

すっと薬研の目が細められる。怖いけど、きれい。ドキドキする。修行を終えて、色気が増したんじゃないの。

「や、薬研、私が鯰尾とぶつかった時のこと覚えてる?」
あぁ。忘れるわけねぇだろ」
「あの時、鯰尾のほっぺにキスしちゃったのに、薬研は別になんともなさそうだったからその私の事、好きじゃないのかもしれないって思って
「んなわけ、あるか」
「ちょ、いたい」

左手で私の手首を掴んだ薬研が、ぐっと顔を寄せて私の目を覗き込む。薄暗い灰紫に、心臓がどくんと脈打つ。

「あん時は、鯰尾の腕を切り落さねぇように自分を押さえるの必死だったんだぜ?頬も、削ぎ落してやりたかった。」
「ひゃ、ちょっと、」
「まぁ、兄弟だし共に戦う仲間だからな。なんとか我慢したが

私の首元に顔を埋めた薬研は、そのまま耳に息を吹きかけるように話続ける。空いていた彼の右手が、そっとわき腹を撫で、親指が胸の下を膨らみに沿って辿っていく。

「気が狂うかと思った」
「うあ、」

そう耳元で低く告げると、強い力で私の胸を掴んだ。思わず肩が震える。すぐに手は離れて、頬に添えられる。少し身体を起こした薬研は、今度は鼻がくっつく距離で、笑った。

「修行に出る前も、ここにいる奴らのイチモツ全部ぶった切ってから行こうかって考えてたんだ。大将に悪さできねぇように」
あ、あはは

ま、手入れで治っちまうだろうから、諦めたがな。そうやって笑う薬研に冷や汗が出た。まじで、やりかねないわこれ。それにしても、薬研が今までそんなことを考えていたなんて、思いもよらなかった。顔に出ないにもほどがある。全くわからなかった。なんだ、私の事めっちゃ好きじゃんこの人。悩んでいたのが馬鹿みたいだ。すごく、すごく安心した。薬研は、私のことが好きなんだ。思わず笑みがこぼれる。

「薬研が、私の事ものすごーく好きって分かって安心した」
「そりゃあ良かった。なら、もう浮気する必要ねぇな」
「う、浮気ではないんだけど」
「似たようなもんだ」
「ごめんなさいもうしないよ」
「よろしい」

そろそろ話は終わりだろうと身体を起こす。薬研も私の上からどいてくれた。あ、今日は薬研の修行お疲れ様パーティーだ。前日から、みんなで腕によりをかけて用意した料理たちが待っている。悩み事もきれいさっぱり無くなって、お腹が空いてきた。朝からなにも食べていないのだ。

「薬研、そろそろ広間に行こう。みんな待ってると思うしご飯、たくさん用意したから。私も頑張って作ったの。食べてほしいな」
「ん。大将の手料理楽しみだ。その前に、もうちょっと時間くれ。すぐ済むから」
「なに?」

薬研はなにやらポーチをごそごそと漁っている。覗き込もうとすれば、まだだめだ、とニッと笑われた。

「よし、大将。ちと目ぇ瞑ってくれ」
なんで?」
「いいから」
「わかったよ

言われるがままに目を瞑る。すると、左手をとられたのが分かった。薬指をそっと硬い感触が辿る。
うそ、まさか!

「やげっむぐんーー!!」

思わず目を開くと同時に、後頭部に手が回って唇に柔らかいものが触れた。吸い付くそれに、頭が混乱する。瞳を閉じた薬研の顔が、目の前にある!自分の目を閉じるのも忘れて、されるがままで凝視していれば、ゆっくりと薬研が目を開けて、嬉しそうに細めた。最後にぺろっと下唇をつつかれて呆然としていると、再び私の左手を取った薬研が、今度は薬指に口づけた。そこに収まるのは、小さなアメジストがはめ込まれたシンプルな指輪。

「これ買いに行ってたら、帰るのに時間かかっちまった」
やげん、う、うれしい」
「んほら、泣くな」

だから帰りがこんなに遅かったのか。嬉しい。かなり不安になったけど、許してあげよう。薬研の指が再びこぼれた私の涙をぬぐう。一気に幸せが訪れて、どうにかなってしまいそう!
にこにこしていれば、薬研がふっと深呼吸した。出立前夜が思い出されて、思わず背筋が伸びる。じっと見つめれば、きらきらとした薬研の瞳に吸い込まれる。

俺は、正真正銘あんたの刀になって帰ってきた。大将。次はあんたの番だぜ」

そっと指を通して手が握りこまれる。顔が、あつい私いま、絶対真っ赤だ。繋がれた左手をぐいっと引き込まれて、薬研の膝に乗る形になる。空いている手が、逃がさないとでも言うように腰に回される。私を見下ろす薬研は、とても楽しそう。


「今夜、覚悟しとけよ。たーいしょ」


あぁ、勝負下着を、引っ張り出さなくちゃ!